雷兎のヒーローアカデミア   作:羽織の夢

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狂気に塗れた信念

「……良し、とりあえずこのナイフで最後かな」

 

「恐らくな。……つーかこんな量の刃物、よく隠し持ってたな」

 

「ほんとにねぇ……ッいててて」

 

「肩、大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫。見た目程深くは斬られてないから」

 

 あの後、ステインが完全に意識を失ってるのを確認し、轟が偶然見つけたロープを使ってステインを縛り上げていた。

 その間に身に着けている刃物を回収していったのだが、あまりの数の多さに途中から辟易としていた。

 

「皆、今回はすまなかった。本当になんて言ったらいいか──」

 

「ていっ!」

 

「痛っ!」

 

 ステインを縛り終え、ひと段落ついたところに神妙な顔つきで三人に向かって頭を下げる飯田だったが、その言葉を遮るように海兎が飯田の脛を軽く蹴る。

 

「言ったでしょ?後で蹴るって。はい、これでチャラ!もうこの話お終い!」

 

「い、いやしかし……痛っ!と、轟くん!?」

 

 海兎は器用に耳を折りたたんで、これ以上は受け付けませんとばかりの態度を示すが、とてもそんなことだけで納得出来る飯田ではない。

 しかし、飯田が海兎に言葉を返そうとすると、再び脛に痛みを感じ、思わずそちらに顔を向けると、そこには表情一つ変えずにこちらを見る轟の姿があった。

 

「これでチャラなんだろ?」

 

「き、君まで……」

 

「ハハハ、じゃあ僕も」

 

 すると、そんな光景を見ていた緑谷も飯田に近づき、軽く肩に拳を当てる。

 

「緑谷くん……」

 

「飯田くんは真面目だから、きっと自分を許せないだろうけどさ。友達を助けることを迷惑だなんて思わないよ」

 

「……しかし」

 

「それでも納得出来ないなら、もし、僕たちがピンチになったら、今度は飯田くんが僕たちを助けてよ」

 

「緑谷くん……ああ、必ず!」

 

「うん!じゃ、行こっか。ステインも警察に引き渡さないといけないし」

 

 飯田も緑谷の言葉でようやく納得し、海兎とステインを引きずる轟の後に続く。彼らの側にはステインに襲われていたプロヒーロー、ネイティブの姿もあった。

その顔はお世辞にも明るいとは言えない。

 

「すまない……。結局プロの俺が最後まで足を引っ張りっぱなしだったな」

 

 雄英生の四人と違って、彼はプロのヒーローだ。本来なら彼らを助けなければいけない立場なのに、終始お荷物だったことが彼の心に深い傷を負わせていた。

 

「仕方ないですよ。一対一じゃ誰だってやられてました」

 

「私も事前に個性を聞いてたから対応出来ただけで、突然鉢合わせたらあっという間にやられちゃいますよ」

 

「……凄いな、君たちは」

 

 仮に事前に情報を掴んでいたとして、彼らと同じ歳の頃にあれだけ動けただろうか。いや、今ですらもしかしたら……。

 年齢も経験も自分の方が上な筈なのに、ネイティブには彼らの背中がとても大きく見えた。

 すると話が一旦落ち着いた頃合いを見計らったように緑谷が突然大きな声を上げる。

 

「あっ、そうだ!ゴタゴタしてたから聞き忘れてた!月下さん、どうしてあの時動けたの!?」

 

「ああ、そういや聞いてなかったな。確かに血を舐められた筈だが……」

 

 あの時、確かに海兎は肩を斬られ、血を舐められた筈だ。その証拠に海兎は空中で突然硬直し、着地態勢をとらないまま落下して来た。

 あの時は全員肝を冷やしたものだが、結果として海兎は自分で着地し、今も何事もなく歩いている。

 そのことを当然疑問に思っていたネイティブを含めた四人は海兎に目を向ける。

 全員の視線を受けた海兎は、しばらく上を向いて悩む素振りを見せるが、すぐに顔を戻して口を開いた。

 

「さぁ」

 

「「「……さぁ?」」」

 

 首を傾げながらそう告げる海兎に緑谷たちも同じように首を傾げる。

 

「いや、私もよく分かんなくて……。血を舐められた時、確かに体が動かなくなったんだけど、地面にぶつかる直前になんか動けるようになったんだよね」

 

「そうなのかい?てっきり僕との試合の時と同じで電気信号を弄ったのかと……」

 

「ううん、前にも言ったけど、アレはある程度予測してないと出来ないし……」

 

 海兎の電気信号を操る技術。ステインの個性による拘束力がどこまであるのかは分からないが、確かに体の自由が効かないだけで個性の使用が出来るのなら、動ける可能性は十分にある。

 実際、飯田は海兎のその技術を知っているからこそ、いち早く追撃の態勢に入ることが出来た。

 しかし、海兎はあの瞬間に自分が斬られるなど予測していなかった。何よりもあの一瞬の油断も出来ない戦闘の中で複雑な電気コントロールをする暇など無かった。

 

「どう言うことだ?緑谷たちとの差があり過ぎる」

 

「女性には効果が薄いとか?それとも月下くんが異形型の個性だからとか……」

 

「いや、ヒーロー殺しのあの反応を見るに、そんな単純な理由じゃ無いと思う」

 

「確かに……」

 

 あの時、ステインはすぐに動き出した海兎を見て酷く動揺していた。それこそ自分に迫る飯田の存在に気付くのが遅れる程に。

 本人も気付くことが出来なかった程の複雑な条件ならともかく、女性だとか異形型だとか、そんな安直な弱点だったら、ステイン自身が把握していない筈がない。

 ステインは間違いなく犯罪者だが、その身に宿す執念は本物だった。そんな男が自分の個性の弱点を把握していない?──あり得ない。

 結局、あれやこれやと可能性を口に出したが、本人にも分からないなら意味が無いかと、とりあえず頭の片隅に置いておくことにした。

 

「何でお前がここにいる!座ってろって言っただろ!」

 

「グ、グラントリノ!?ごめんなさい!」

 

 表通りに出たところで年配のご老人が緑谷の前に現れた。緑谷との会話を聞くにどうやら緑谷のお世話になっているプロヒーローらしい。

 

「グラントリノ?聞いたこと無いヒーロー名だね?」

 

「俺も知らねぇ」

 

「ふむ、しかしあのご年齢でヒーロー活動をしているとは素晴らしいご老人だ」

 

 海兎たちが思い思いの感想を言い合っている間もグラントリノの説教に緑谷の背中がどんどん小さくなる。

 それに続いてどんどん現地のヒーローが集まってきた。

 縛り上げられたヒーロー殺しの姿に驚きの声を上げるも、傷だらけの緑谷たちの姿を見て、治療が先かと思い、指示を出そうとしたその時だった。

 

「まあ、よく分からんが、無事なら良かった。とりあえず、後は警察やヒーローに任せて、お前ら全員病院に──ッ!?伏せろッ!!」

 

 突然、グラントリノが叫んだ。

 しかし、その言葉の意味を理解する前に、その場にいる全員の側を風を纏った何かが通り過ぎた。

 すぐにそちらに目を向けると、そこには体から血を流し、全身傷だらけながらもしっかりと翼で飛行する脳無がものすごいスピードで遠ざかっている。

 しかし、その場にいる全員が注目したのは脳無本体ではなく、その足に捕まった存在だ。

 

「みどりん!?」

 

「緑谷くん!?」

 

 何故か脳無は緑谷を掴み、そのまま空に羽ばたいていく。

 

(しまった!完全に油断してた!)

 

 海兎の耳の良さならグラントリノよりも速く脳無の接近に気付けた筈だが、ステインとの戦いが終わった安心感で気が抜けていた。

 このまま追いかけたとしても、空を飛ぶ相手から緑谷を奪い返すのは非常に困難だろう。

 

(なら、変身して──)

 

 変身状態なら跳躍じゃ届かないところまで飛ばれても対応出来るし、何より速い。

 すかさず能力を発動しようとした海兎だったが、すぐ隣を一人の人物が通り過ぎた。

 

「──なッ!?」

 

 集まっていたヒーローの一人かと思ったが、その姿を捉えた海兎が驚きの声を上げる。

 

「偽物が蔓延るこの社会も、いたずらに力を振りまく犯罪者も……粛清対象だ……。ハア、全ては正しき社会の為に……!」

 

 その人物──ステインは一人の女性ヒーローの頬についた脳無の血を舐め取る。

 すると、空を飛んでいた脳無の動きが停止し、落下してくる脳無の頭に躊躇なくナイフを突き刺した。

 そのまま落下する緑谷を抱えると、ナイフを引き抜きながら危なげなく着地する。

 そんな光景にヒーローたちは困惑する。

 

「子供を助けた……?」

 

「馬鹿!人質とったんだよ!」

 

 ようやく状況を理解してきたヒーローたちは困惑しながらも戦闘態勢をとるが、人質がいる手前下手な動きは出来ない。そんな状況に歯痒い思いをしていると、新たに増援のヒーローが現れた。

 

「あんたのせいで遅れたろうが!!」

 

「人のせいにするな!!──むっ!?」

 

 声のする方にその場の全員が視線を向けるとそこにはNo.7ヒーロー・ミルコとNo.2ヒーロー・エンデヴァーの姿があった。

 

「ミルコ!?」

 

「エンデヴァーさんも!!」

 

 この緊迫した状況の中でのトップヒーロー二人の到着に周りのヒーローたちが安心から笑みが溢れる。

 状況はなおも悪いままだが、この二人がいればきっと……。そんな思いが現場のヒーローたちの脳裏によぎる。

 

「ヒーロー殺しか!!」

 

 ミルコとエンデヴァーは目の前のヒーロー殺しを視界に収めるとすぐさま臨戦体制に入る。

 

「……ミルコ?エンデヴァー?」

 

 しかし、ステインは増援に駆けつけたミルコとエンデヴァーに気付くと、ゆっくりとこちらに近づいてくる。人質とも取れる緑谷には目もくれずに。

 

「ッ偽物共……!」

 

 その瞬間、ステインからとてつもない殺気が放たれる。

 ミルコやエンデヴァーすら後ずさる程の濃厚な殺気にその場にいる誰もが動けない。

 

「正さねば、誰かが血に染まらなくては……!英雄(ヒーロー)を取り戻さねば!来い、偽物共ぉ!!俺を殺して良いのは本物の英雄(オールマイト)だけだ!!」

 

 ステインの叫びが響き渡る。

 その声にヒーローたちは体を恐怖で震わせ、一歩も動くことが出来ない。中には腰を抜かす者までいる。

 

(怖い……)

 

 もちろん海兎たち雄英生も同じようにステインの殺気の波にさらされていた。中でも海兎の体の震えは四人の中でも一際酷い。

 死の恐怖を感じたのはこれが初めてではない。雄英高校襲撃の際に一人で脳無と対峙し、実際に死にかけた。

 その時に比べれば、何人ものプロヒーローがいるこの状況は戦力的にも、心情的にも幾分か余裕ある──筈である。

 だが、実際は脳無との命がけの戦いが可愛く思えるほどの殺気を感じる。

 額を汗が伝って、顎から落ちる。いっそこのまま意識を無くしたほうが楽なのではないかとさえ思い始めた頃、ようやく気付く。

 

「ッ!?……気を、失ってる……?」

 

 海兎の呟きを皮切に周りのヒーローたちも徐々に異変に気付く。

 ステインは立ったまま、白目を向いて気絶していた。

 しばらく呆然とその場に立ち尽くしていたが、我に返ったエンデヴァーの指示で周りのヒーローが次々と殺到していく。

 こうして保須市での一連の事件は収束へと向かっていった。 




今回ステインはミルコもエンデヴァー同様偽物扱いしましたが、実際はどうなるでしょう?
原作では「自分を殺して良いのはオールマイトだけだ」と言っていることは周知の事実だと思うのですが、つまり、オールマイト以外のトップヒーローは本物と認めていないということでしょうか。それともまだ会ってなくて判断していないだけ?
緑谷達はあくまでヒーローを目指す卵として認められたとかかな。
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