試験から一週間後、今日は雄英からの結果が通達される日だ。海兎は待ちきれずにマンションの前で通知が来るのを待っていて、その様子を管理人さんが微笑ましそうに見つめていた。
「まだかな〜まだかな〜」
「ふふっ、焦らなくてももうすぐ来るわよ。」
体を揺らしながら待っていると一台の郵便バイクがマンションの敷地内に入ってきた。
「大輔さん!手紙!私に手紙来てない?月下海兎宛に!!」
この男の名は南大輔。郵便局に勤める37歳の男で、海兎の隣の部屋に住んでいる。海兎が引っ越してきてから管理人さんと同様に海兎のことをよく気にかけていたため、海兎も今ではかなり懐いている。
「おわあ!待て待て!落ち着け!えーと、月下月下......お、あったぞ。ってここで開けんのかい!?」
いきなり海兎に捕まり、目を白黒させていたが、確かに彼女宛に郵便物があったのでそれを海兎に渡すが、海兎は受け取り次第すぐに開け始めた。
「気持ちは分かるが、せめて部屋で開けろよ。」
「海兎ちゃんだものしょうがないわ。それにあなたも気になってるでしょ?」
「それは......まあ、一応は。」
海兎は貰った包みを開けるとその中から数枚の紙と掌に収まるほどの大きさの機械のようなものが出てきた。
「何これ?」
「それは投影機だな。最近は手紙代わりに送る人も少なくないな。」
「へぇ〜そんなのあるんだ。ここを押せば良いのかな?」
大輔の言葉を聞いた海兎は投影機を地面に置いて恐らく再生ボタンだと思われる箇所を押した。
『私が投影された!!』
その瞬間、この場にいる誰もが知っている、いや日本中が知っているNo.1ヒーロー・オールマイトが投影された。
『オールマイト!?』
「あらっ!」
まさかのNo.1ヒーローの登場に三人は驚きの声を上げる。
『初めまして!月下海兎くん!私はオールマイトだ!何故、私が投影されたのかって?ハハハ!それは私がこの春から雄英に教師として勤めるからさ!さあ、早速君の合否を発表しよう!』
画面が暗くなり、ダララララとドラムロールが鳴り響く。筆記の自己採点も問題なかったし、実技もそれなりに自信はあるが、いざとなると緊張で思わず拳を握りしめてしまう。そんなことを考えているうちにダンッと最後のドラムがなった。
『おめでとう!合格だ!筆記試験は問題なし!実技試験は76ポイント!トップにはわずかに届かなかったが文句なしの次席合格さ!』
「やったー!!」
「おいおい、マジか!!」
「流石、海兎ちゃんね!」
両手を突き上げて喜びを露わにする海兎を二人が祝福する。
「すごいわ海兎ちゃん。誰にでもできることじゃない。よく頑張ったわね。」
「その通りだ。よく頑張ったな。海兎。」
頭を優しく撫でてくれる管理人さんに、そして隣で自分のことのように喜んでくれる大輔に思わず赤面する。こんな自分にも家族のように接してくれる二人に心が暖かくなる。
そんなことを思っていると画面のオールマイトの咳払いが聞こえ、まだ映像の途中だったと三人とも映像に視線を戻す。
『先の実技試験!受験生に与えられるポイントは、説明にあった仮想敵ポイントはだけではない!実は審査制の救助活動ポイントも存在していた!月下海兎くん!敵ポイント30点、救助ポイント46点、合計76点!文句なしの合格だよ。月下少女!改めておめでとう!雄英で待っているぞ!』
そこでメッセージは途切れた。しかしその後も三人の後半は全く冷める様子がない。
「本当におめでとう。今日の夕食はうちにおいでなさい。お祝いしましょう。」
「え、良いの!管理人さん!」
「もちろん。大輔くんもよかったらどう?」
「そうですね。二人が良ければご一緒させてもらいます。」
その日は管理人さんと大輔さんにたくさんお祝いしてもらった。こんなにも喜んでくれる二人のためにもこれからも頑張ろう。そして、いつの日かすごいヒーローになればきっと……
雄英高校入学式当日。
いつも通り管理人さんに見送られながらマンションを出た海兎は、現在1ーAと書かれた教室の前に立っていた。
「扉、でっか……」
恐らく体の大きい異形型のための作りだろう。この扉の先にこれから切磋琢磨するクラスメイトがいるのだろう。ドキドキしながら手を掛けて、いざ入ろうと扉をスライドさせ――
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者の方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ、テメー!どこ中だよ端役が!」
ものすごい言い争いが聞こえてきた。いきなりの展開に固まっていると、後ろから「あっ!君は!」と声が聞こえ、海兎が振り返ると見覚えのあるモジャモジャの緑髪の少年がいた。
「あっ!良かった。合格してたんだね!」
「う、うん。あのときは迷惑かけて本当にごめんなさい!」
「別に気にしなくていいよ。私、月下海兎。これからよろしくね!」
「僕は緑谷出久。こちらこそよろしく、月下さん」
「うん!よろしく、みどりん!」
「みどりん!?」
いきなりのあだ名呼びにフリーズしている緑谷だったが、これは海兎なりの敬意の現れである。試験の最中、海兎は本気ではあったが全力だったかと言われれば答えはNOだろう。しかも少女が危機的状況になった際も全力を出すのを一瞬だが躊躇ってしまった。しかし少年は海兎が躊躇った一歩を迷うことなく踏み込んだ。そのことから自分とは違う何かを感じ取ったのだろう。
そんなことを考えていると「あ、ウサミミと地味目の!」と声が聞こえてきた。そちらに視線を向けると受験会場で会った丸顔の少女が立っていた。
「良かった!二人共合格できたんだ!あ、私は麗日お茶子だよ!」
「私、月下海兎。よろしくね!」
挨拶を交わす二人だが緑谷が何の反応もないため不思議に思い、視線を向けると未だにフリーズ状態から帰ってきていなかった。顔の前で手を振っているお茶子を見て、自分も手を貸そうとした海兎だが、ふと教壇の後ろに何かあることに気付く。
その場をお茶子に任せ、その何かに近づいてみると、それは寝袋でしかも誰か入っているようだ。なんでこんなところに寝袋が?と思いながらも中を覗いてみると、男と目があった。黒い服、無精髭、ボサボサの髪。
……不審者だ。
海兎は携帯を取り出し、どこかに電話をしようと番号を打ち込む。しかし通話ボタンを押す前にその男に携帯を取られてしまった。
「待て。不審者じゃないから。」
「不審者じゃ……ない?」
「心底不思議そうな顔をするな。多少自覚はあるが。」
そう言うと男は携帯を海兎に返し、寝袋から顔を出す。そして騒いでいる他の生徒を視界に入れて眉間にシワを寄せる。
――お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ?
教室に響く男の声。いきなり聞こえた不機嫌な声に教室にいる全員の視線が集まり、その怪しい風貌に目を見開く。わかる。私も思わず通報しようとしたから。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね……担任の相澤消太だ。よろしくね。」
まさかの担任だった。担任が不審者だった?と小さくつぶやくと聞こえていたのか睨まれたので慌てて口を抑える。
「早速だが体操服着てグラウンドに出ろ。」
戸惑う生徒たちに簡潔に用事を伝えて相澤先生は出ていってしまった。
話を聞いた生徒たちも困惑していたが、各々体操服を持ってグラウンドに向かう。
こうして慌ただしくも海兎の高校生活がスタートした。
3話を書き終えてから思ったことがあります。会話が多すぎるなと。他の方々は情景描写や主人公の思考をうまく組み合わせててすごいなと思いました。