「や!二人共、調子はどう?」
「あ、月下さん、お見舞いに来てくれたの?」
保須市の事件から一夜明け、海兎たち四人は保須総合病院にいた。
あれからステインを拘束し、事態が収束を見せ始めると、海兎たち雄英生はすぐに病院に運ばれた。海兎に関してはその場の治療で済んだが、他の三人は、中でも飯田の怪我はひどく、そのまま入院することになった。
海兎はミルコに許可を貰い、三人のお見舞いに来ていた。
「怪我は大丈夫?」
「ああ。……というかお前も肩斬られてたろ?大丈夫なのか?」
「ん?うん、もう今朝にはほとんど傷も塞がってたよ」
「……早すぎねえか?」
「昔から怪我の治り早いんだよね」
「刀傷が一晩で治るのは早すぎんだろ」
そんなことは無いだろう、とみどりんと飯田の方を見るが、二人共轟に同感なのか苦笑いをしたまま流されてしまった。
「そうだ、月下さんはもう聞いた?今回の事件の処置について」
「うん、ミルコからもう聞いてるよ」
なんとか話を変えようと緑谷が自身もついさっき知ったことを聞こうとすると、海兎も同じ話を聞いていたのか、詳細を聞くまでもなく肯定する。
病院で処置を受けた後、ミルコの元に戻ると、そこには頭が犬の人間がミルコと何かを話していた。
彼の名前は
そこからは海兎も今回のステインと雄英生の交戦についての規約違反についての話を聞かされることになった。
何度も言うが、海兎たちはヒーロー資格を持っていない為、ヴィランとの交戦は許可されていない。四人だけでステインを捕らえるという偉業が世間に伝われば間違いなく称賛されることになるだろう。
しかし、同時に称賛だけでなく彼らを非難する声も多数上がるだろう。もちろん正式な処罰もしなくてはならない。
だが、海兎たちが応戦したことで救われた命があることも事実。何よりも前途ある若者が世間の悪意に晒されることを良しとしない面構から一つの案を提示された。
それはステインを捕らえた功績をミルコとエンデヴァーによるものにすることだ。
そうすることで、海兎たちを処罰する必要はなくなる。……が、同時に彼らの功績を無かったことにしてしまうことにもなる。
その話を聞いた海兎は迷わずその案を了承した。元々、功績欲しさにステインと対峙した訳ではないし、緑谷たちなら同じ選択をするだろうと思ったからだ。
「その様子だとお前も条件を飲んだみたいだな」
「うん。別に功績が欲しかった訳じゃないし、皆が無事で良かったよ」
「月下くん、本当にすまな──」
海兎の言葉に飯田が体を起こし、改めて謝罪しようとしたが、目敏く察知した海兎が笑顔で「蹴るよ?」と告げたことで苦笑しながらも体をベットに戻す。
「さて、皆の顔は見れたし、私はそろそろ行くね。下にミルコ待たせてるし」
「うん、お見舞いありがとう月下さん」
「職場体験頑張ってくれ」
あまり長い間ミルコを待たせるのも悪いと、緑谷たちに別れの挨拶をして病室を後にする。そのままエントランスに向かい、ミルコと合流する。
「おう、もういいのか?」
「はい、お待たせしました。もう大丈夫です」
それを聞くと「じゃ、行くか」と入り口に歩き出すミルコ。海兎は小走りで追いかけ、ミルコの隣に並ぶ。
「ミルコ、今回はご迷惑かけてすみませんでした」
「ん?さっきもそれ聞いたぞ」
「でもやっぱり申し訳なくて……」
今回は処罰なしとなったが、もし海兎が処罰を受けることになれば、それは海兎の責任者でもあるミルコにも責任が追求されることになっただろう。自分のせいで尊敬するミルコに迷惑が掛かってしまったかもしれないと考えると謝っても謝りきれない。
「だから──痛っ!?」
再度頭を下げようとした海兎だったが、突然額に痛みを感じて思わず額を抑えながら顔を上げると、そこには呆れた顔をしたミルコの姿があった。
「全く……。気にしてねぇって何度も言ってんだろ?あの時お前を向かわせたのは私の判断だ。それで問題があったのならそれは私のミスだ。お前のせいじゃねえ」
「……でも」
「お前、自分はダチが謝ろうとしてたのを無理やり止めてたじゃねえか」
「き、聞いてたんですか!?」
「私はちょっとばかし耳がいいからな」
「……ふふっ」
ニヤッと笑いながら自分の耳を指差すミルコにつられるように海兎も笑みを浮かべる。
「オシッ!そんじゃ行くか!」
「はい!」
世間を騒がせたヒーロー殺しは捕まった。それでも今この瞬間も多数のヴィランが現れ続ける。病院を出た二人の兎は足早に街中へと飛び込んでいった。
時の流れは早いもので、長かったと思われた職業体験も残すところ後一日となっていた。
保須市襲撃事件から四日間はとにかく保須市を走り回っていた。ステインや脳無のようなネームド
ステインは自らのかざす理想の実現のため、多数のヒーローを襲撃したが、あまり世間に認知されていないだけで、ヴィラン相手にもヒーローと同じ、いやそれ以上の損害を出していた。
故に、ステインが出没した地区からはヴィランによる事件が低下するという何とも言えない事態になっていた。
そんな状況でステイン逮捕のニュースが流れる事により、保須市を離れていたヴィランの多くが保須市に流れ込んできたのだ。
現地のヒーローだけではとても対処しきれなかった数だが、ミルコやエンデヴァーを始めとする多くのヒーローがステイン確保の為に保須市入りをしていた為、何とか対処が間に合い、ようやく落ち着きを取り戻しつつある。
海兎はミルコと共にビルの上から保須市の町並みを見下ろしていた。
「昨日までと比べると今日は全然平和ですね」
「まあ、昨日までの方が珍しい方だけどな。チッ、まさかヒーロー殺し逮捕のしわ寄せがこんなところで来るとはな」
「方法は正しいとは言えないですけど、結果的にステインの行動がヴィランの抑制に繋がってたなんて……」
「世も末ってか?」
「ですね〜」
ステインの行動が正しかったとは思えない。だが、それによって実際に犯罪率の低下を起こしていたことを考えると何とも言えない気持ちになる。
「そういや海兎、お前結局この一週間アレ使わなかったじゃねえか」
「アレ?」
「ほら、雄英体育祭で何か変身してたろ?」
「ああ、アレって変身のことですか」
ミルコの言う通り、海兎は職場体験中に一度も変身能力を使わなかった。何となくそのことに疑問を持ったミルコが海兎に尋ねると、バツの悪い顔をしながらも海兎は答える。
「アレって使うだけで凄い疲れるんですよ。雄英体育祭でもそのせいで決勝戦を棄権することになって」
「ああ、それで棄権してたのか。そこまで大した怪我じゃ無いのにおかしいとは思ってたんだが……」
海兎の言葉に納得の表情を浮かべていたミルコが突然黙って海兎をじっと見つめ始める。
「えっと、どうしたんですか?」
「……ヨシ!海兎、今日は変身して着いてこい!」
「はい!?無理ですよ!?絶対途中で倒れますって!?」
「最悪倒れてもいいぞ。こういうのは使わねえと成長しねえしな。ほら、やってみろ」
「で、でも……!」
「やらねえなら、今日はガッツリ
「ううッ……!」
ニヤッとしながらどちらが良いか問いかけてくるミルコに腰が引ける海兎。
正しく前門の虎後門の狼な状況に冷や汗が止まらない。海兎は泣いた。
その日、保須市に獣の雄叫びが鳴り響いた。
偶然その声を聞いた市民は驚愕しながらも全員同じ感想を抱いたという。
──力強い雄叫びだった筈なのにどこか悲壮感が漂う雄叫びだった、と。
結論:誰だって首は怖い。
ステイン逮捕後のヴィランの動向。
ステインはスピンオフ作品で過去に