雷兎のヒーローアカデミア   作:羽織の夢

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海賊船

(ここは……?)

 

 ふと気がつくと、海兎は自分が見たこともない場所にいることに気付いた。

 どうやらどこかの部屋の中にいるようだが、僅かに部屋全体が揺れている。

 

(……もしかして……船?……これって夢?)

 

 夢を見るのはもちろん初めてではないが、基本的に海兎は夢を見ることはあっても、それが夢だと気付いたことは無かった。だが今回に限っては何故かこれが夢だとすぐに断言できた。

 

(なんだろう?見たこと無い筈なのに、なぜか懐かしいような……)

 

 そのまま、引き寄せられるように扉に向かい、外に出る。そして目の前に広がる光景に目を奪われた。

 海兎の予想通り、そこは大きな船の上だった。今の時代には珍しいエンジンで動くのではなく帆で風を受けて進む帆船のようだ。

 だが、海兎が目を奪われたのはそこではなく、視界一面に広がる大海原だ。

 何の障害物もなく地平線まで海が続いている。こんな光景、現実では中々見る機会はないだろう。

 ふと振り返り、この船の原動力である大きな帆を見上げる。今も風を受けて、大きく反っている帆には大きな頭蓋骨に骨をクロスさせたようなマークが描かれていた。

 海兎も学校の歴史の教科書でしか見たことは無いが、知識として知っている。この船はきっと……。

 

(海賊船……。でも何で麦わら帽子?)

 

 本来なら相手を威圧させる目的の物の筈なのだが、海兎はそのマークから忌避感や恐怖などは感じず、どちらかと言うとちょっと可愛いとさえ思っていた。

 というのも、その骸骨が麦わら帽子を被っていたのである。海賊旗はその海賊団によって様々なマークがあったことくらいは知っているが、海兎の中の海賊のイメージと目の前のマークがどうにも一致しない。

 

「おーい!島が見えたぞー!!」

 

 すると突然上空から男の声が響き渡った。

 マストの更に上、そこには監視台だろうか、小さな小屋のような建物があり、一人の青年が身を乗り出している。

 その声に反応するように船内から続々と船員が出てくる。

 

 刀を三本帯刀し、腹巻きをした隻眼の剣士。

 オレンジ色の髪と左腕のタトゥーが特徴の美女。

 鼻の長いモジャモジャ頭の男。

 タバコを咥え、眉毛が独特な男。

 タヌキ?のようなよく分からない生物。

 モデルのような高身長のミステリアスな美女。

 鋼鉄の体にアロハシャツを着るパンツ一丁の変態。

 ギターを持った、なぜかアフロの骸骨。

 魚のような特徴を持つ、青い肌の大男。

 

 自分の想像する海賊とは全く印象が違う個性的な面々に戸惑っていると、マストの上から青年が甲板に飛び降りてきた。

 前を開けた赤いシャツに短パン、サンダルの青年。そして、頭に被った麦わら帽子。

 

(あの麦わら帽子ってもしかしてマークにある……)

 

 海賊が掲げるマーク──ジョリー・ロジャーはその海賊の特徴を表すらしい。なら、彼はきっとこの船の……。

 麦わら帽子を被った青年はそのまま私の方を見ると、笑顔でこちらに手を差し出した。

 

「行くぞ、■■■■■!!」

 

 彼が何と言ったのかは分からなかった。それでも太陽のような笑みを浮かべる青年に、私もつられるように手を伸ばし──

 

 

 

 

 

「夢……か」

 

 気が付いたら自室のベットの上にいた。

 ……妙にリアルな夢だった。まるで実際に体験したかのような……。しかし、先程まではっきりと見えていた筈なのに、今では彼らの顔は霞がかったように思い出すことが出来ない。

 

「あなた達は……誰?」

 

 誰かに聞かせる訳でもなく、海兎は一人、小さく呟く。

 もちろん返事が返ってくることなどなく、何気なしに部屋を見回していると、ある一点で視線が止まる。

 そこには海兎のお気に入りのデフォルトされた兎が特徴の時計が掛けられていた。時計の短針はまもなく8に到達しようとしている。

 ちなみに海兎の住むマンションは雄英まで電車で駅2つ離れたところにあり、普通に行くなら30分程掛かる。いつもなら余裕を持って7時30分には家を出ているのだが……。

 朝のHRは8時30分から始まる。つまりは──

 

「遅刻だあああァァァァァァァ!!」

 

 職場体験後、初日から波乱の朝を迎えていた。

 

 

 

 

 

 職場体験が終わり、久しぶりに学校に登校した1ーAの生徒たちは思い思いにお互いの現場の体験を語り合っていた。

 中でも話題の中心は、やはりヒーロー殺しと対峙した緑谷たちだった。

 保須市襲撃事件はすぐにメディアによって全国にニュースで報道された。

 特にステインの逮捕直前の様子は近くに偶然いた一般人によって動画がネットに投稿、拡散されており、多くの人に衝撃を与えた。

 しかも厄介なことにステインの発言を擁護する声も出てきている。

 事件から随分経った今でも、ステイン擁護派と否定派で争いは続いているらしい。その証拠に……、

 

「でもさぁ、確かに怖えけどさ。動画見た?アレ見ると、一本気っつーか、執念っつーか、かっこよくね?とか思っちゃわね?」

 

 上鳴のようにヒーローを目指す子供であっても、ステインの生き様に影響を受けてしまうことは珍しくない。

 しかし、今この場で、ステインによって家族が傷付けられた飯田がいる前で言って良い発言ではない。

 

「か、上鳴くん……!」

 

「あ!?わ、悪い飯田!」

 

 緑谷に慌てようで自身の失言に気付いたのだろう。上鳴はすぐに飯田に謝罪した。

 

「いや、気にする必要はない。確かに信念のある男ではあった。だが、奴は正しい信念を持ちつつも、殺人という間違った手段を選んだ。そこだけは絶対に間違っているんだ。俺の様な者をこれ以上出さない為にも、改めてヒーローの道を目指すと誓おう!」

 

 飯田は堂々とクラスメイトに向けて宣言する。

 その瞳からは以前までの迷いは感じられない。一度は間違えてしまったが、もう二度と彼が道を外れることは無いだろう。

 その様子に緑谷も安堵の表情を浮かべる。

 すると、側で話を聞いていた切島が思い出したかのように切り出す。

 

「そういや、ヒーロー殺しといえば、月下どうしたんだ?まだ来てないけど……」

 

「言われてみれば……。もうそろそろHR始まっちまうぞ?」

 

「葉隠さんは何か聞いていませんの?」

 

「ううん、昨日、普通にメールしてたけど、特に何も……」

 

「じゃあ、事件の怪我でとかではないんだよね?」

 

「ああ、それは間違いねぇ。俺達と違って入院もしてねぇしな」

 

 普段ならもう教室に来ていてもおかしくない時間だが、未だに姿を見せない海兎に疑問を抱く1−Aの生徒たち。

 轟が言うには前のような大怪我を負ったという訳でもなく、仲の良い葉隠も何も聞いてないらしい。

 

「海兎、どうしたんだろ?」

 

 

 

 

 

 同時刻──雄英高校・校舎廊下──

 

「……で、お前は遅刻しそうだったからあんな爆走してた訳か」

 

「そ、その通りです……」

 

 海兎は現在、1−Aに向かう廊下にて一人、相澤と対面していた。……正座にて。

 寝坊したことに気付き、全力で走ってきた海兎。苦労の甲斐もあってか、何とかHRには間に合いそうではあった。

 だが、海兎は最後に2つのミスを犯した。

 1つ目は校舎に入った時点で歩いても間に合う時間だったにも関わらず、時間を確認せず、走り続けたこと。

 2つ目はその現場を相澤に目撃されたことだった。

 突然、後ろから「オイ」っと声を掛けられ、振り向かずとも、その声の主が誰か気付いた海兎は一気に顔を青褪めさせた。

 ギギギッと油の切れたロボットのようにゆっくりと振り返れば、そこには明らかに不機嫌な様子を隠すことなくこちらを睨みつける相澤の姿があった。

 海兎は相澤が何かを言う前にゆっくりとその場に正座をした。

 自身の勘がもう逃げられないことを悟っていた。

 

「……はぁ、いちいち廊下を走るななんて言わせんな。時間にはゆとりを持って行動しろ。合理性に欠ける」

 

「は、はい……すみませんでした」

 

 朝から相澤に注意を受けることになり、ショボーンとする海兎だったが、結果的に遅刻は免れて、安堵からホッと息を吐き出す。

 そのまま立ち上がって教室に向かおうとした海兎だったが「ところで」と相澤が話しかけてきたことで、再び視線を戻す。

 

「お前、かなりのスピードで走ってたが、まさかあれで雄英まで来た訳じゃねぇよな?」

 

「ッ!?」

 

 言外に校区の外で個性使ってないだろうな、と告げてくる相澤にビクッと肩を震わせる海兎。

 実は海兎のような異形型の個性は常に個性を発動しているようなものなので、発動型や変形型と違って、個性に対する規制が緩い。

 例えば、もし街中で犯罪が発生したとしよう。

 事件を発見したのが偶然発動型の個性を使っていた人物の場合、早期発見に貢献したことを褒められつつも、個性の使用には多少の注意を受けるだろう。

 しかし、もしこれが異形型だった場合、注意を受けることはない。なぜなら個性を発動している=通常の状態なのだから。

 だが、何事にも限度はある。いくら通常だからといって、常人を遥かに超える速度で走ったり、跳んだりするのはマズイだろう。

 

「……おい、まさかお前」

 

「……」

 

「……言え」

 

「……ほんのちょっと……ヒイッ!?」

 

 相澤の圧に耐えきれずに恐る恐る海兎が白状すると、収まりかけていた怒りが再度溢れ出した。

 

「今日中に原稿用紙に反省文を書いて提出しろ」

 

「今日中!?せめて明日!明日までに!」

 

 原稿用紙は通常400字ある。それを今日中に埋めろという相澤に何とか期日を明日まで延ばして欲しいと懇願する。

 

「何を言ってる。俺は原稿用紙1枚書けとは言ってないだろう」

 

「え、そ、それじゃ──」

 

「5枚だ」

 

「……」

 

 海兎はあまりの衝撃にその場に崩れ落ちた。




葉隠「あれ、海兎!?遅かったね、どうしたの?」
海兎「う、うん……ちょっとね……」
葉隠「その原稿用紙は?」
海兎「これはその……ん?」
爆豪(7:3)「……」
海兎「……」
爆豪(7:3)「んだこら」
海兎「ごめん、今は笑えない」
爆豪「誰が笑えっつった!!ぶっ殺すぞ!!」BOOM!!
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