「良し、揃ったな。これから個性把握テストを行う。」
「ええ!?入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る余裕ないよ。」
相澤の一言でグラウンドに集まった生徒たちは突然の展開に仰天する。周りが戸惑いの声を上げている中、海兎は思った。
めっちゃ嘘じゃん。グラウンドに移動している間も今も体育館の方から生徒や教師の声が聞こえて来るが、その殆どが何故A組がいないんだ?という声である。「相澤くーーん!?」という叫び声も聞こえる。相澤先生、後で怒られるんじゃ?
「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。お前たちも中学の頃からやっているだろう?個性禁止の体力テスト。実技試験成績のトップは爆豪だったな。中学の時のソフトボール投げ何mだった?」
「67m」
そういえば私次席だったんだっけ?トップって誰だろう?と声がした方に顔を向けるとまさかのさっき騒いでた人だった。
「じゃあ、個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何しても良い。」
人は見かけによらないんだなと感心している間に爆豪はボールを受け取り、円の中に立つ。そのまま大きく振りかぶり、「死ねぇ!!」と叫びながら投げた。
前言撤回、やっぱり見かけ通りかもしれない。
言動はともかく、爆豪の投げたボールは大きな爆発音とともに、一瞬で見えなくなる速度で吹き飛んでいった。
しばらくすると相澤先生が手に持っていた端末を全員に見せる。そこには『705m』と表示されていた。
「705mって、マジか!?」
「個性思いっきり使って良いんだ!?流石ヒーロー科!」
「なんだこれ!すげー面白そう!」
それを見たクラスメイトたちから嬉々とした声が上がる。
「…面白そう…か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごすつもりでいるのかい?…よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう。」
「「「はああああああ!?」」」
まさかの相澤先生の言葉に生徒たちが絶叫した。
「生徒の如何は俺たちの自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ。」
なんだか入学初日からとんでもないことになってしまった。
ちなみに、髪を掻き上げ、ニヤリと笑う相澤先生を見て、もし寝袋から覗いたときにあの顔をしてたら間違いなく通報してたと思う海兎であった。
第一種目 50m走
私の個性【雷兎】は雷の発動型と兎の異形型の個性が合わさった複合型の個性だ。それ故に単純な身体能力はかなり高いと自負している。
現在のトップは飯田の3.04秒だ。彼の個性は傍目から見ても速度に特化したものだろう。だが最高速度は分からないがこの距離においては私のほうが上だろう。
50m走 2秒98
「はっや!?」
「スピードには自信があったのだが……」
第二種目 握力
これに関しては全く自信がない。身体能力に自信があると言ったばかりだが、実を言うと腕力や握力に関しては普通だ。
これはかなり下になるかなーと思っていると、一人の女生徒が目に入った。彼女は物を創る個性なのか、なんと万力を創り出し、とんでもない記録を出した。それはもはや“握”力ではないんじゃ?と思ったが、相澤先生は特に止めることもなかった。
それを見ていたら、ピン!と閃いたことがあった。あれがありならいけるんじゃ?
握力 9999kg
「「「はああああああああ!?」」」
「いやいやいや!?おかしいだろ!?」
「どんな個性なんだ?」
かなり大騒ぎになってしまったが、私がやったことは至極簡単だ。握力測定器に電気を流しただけだ。
最近はデジタル式のものが主流になってきていて荷重を電気信号に変換して表示している。その電気信号の代わりに直接私の電気を流してみた。
正直、そこまで仕組みに詳しいわけではないし、ぶっつけ本番だったが、うまくいったようだ。9999kgから数字が戻らなくなってしまったが、見なかったことにしよう。
第三種目 立ち幅跳び
跳躍は私の得意分野だ。その場に体を沈み込ませ、一気に飛び上がる。
「うおおおお!?めっちゃ跳んだぞ!?」
「どこまで行くんだあれ!?……ってあれ?」
「……向こうの壁越えちまったな」
立ち幅跳び 計測不能(記録を越える者がいなく、相澤先生が計測を面倒くさがったため)
第四種目 反復横跳び
これも立ち幅跳び同様に好記録を出せると思っていたのだが、回数をこなしていくうちに地面がどんどん削れていって後半は普通にやるのも難しくなってしまった。
「反復横跳びで穴ができたんだが。」
「さっきまでとは違う意味ですごいな。」
反復横跳び 60回
第五種目 ソフトボール投げ
ここではなんとお茶子が無限という驚きの記録を出した。試験の時も見たが、どうやら彼女は触れたものを浮かせる個性らしい。
空に浮かぶってどんな感じだろう?ちょっと浮かせてもらいたいかも。っと次は私の番か。
ボールを受け取り、円の中に立つ。さっきも言ったが私の腕力は普通の人並みだ。故にこのまま投げても大した記録は出ないだろう。
ならば投げなければいい。簡単に言えばボールを遠くに飛ばせばいいだけだ。
その場でボールを高く投げ、右足を後ろに引く。落ちてくるタイミングに合わせて、体を一回転させて遠心力を加え、思いっきり……蹴る!!
蹴られたボールは風を切り裂きながら空へと消えていった。
しばらくすると相澤先生が持っている端末をこちらに見せてきた。
ソフトボール投げ 1018.6m
思ったより飛んだ。
「1000m超えたぞ!?」
「あの子さっきからぶっちぎりじゃない!?」
「純粋な増強系の個性といったところか?」
周りの生徒からの声を聞きながらも私はずっと気になっている事がある。
正直、50m走が終わった辺りから感じていたのだが、実技試験トップの彼……爆豪だったか?その彼がこちらを殺しにかかって来そうな目で睨んでくるのだ。
私何かしたかな?と思うも、まだまともに話したこともないから全く心当たりがない。
そんなことを思っている間に次はみどりんの番のようだ。彼はここまで目立った成績を残していない。このままでは確実に最下位になってしまうだろう。
しばらく俯いて何かを考えていたようだったが、覚悟を決めたかの顔をし、思いっきりボールを投げた。
しかし、その記録は46mと今まで同様、平凡な記録だった。
「な……今確かに使おうって……」
目を見開いて絶句しているみどりんを、髪を掻き上げた相澤先生が”視ていた”。
「個性を消した。つくづくあの試験は合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう。」
「消した…!あのゴーグル…そうか!視ただけで人の個性を抹消する個性!抹消ヒーロー・イレイザーヘッド!!」
個性を消す個性!?そんなヒーローがいるんだ。これまで見た感じからメディアとか嫌いそうだし、それでかな?
相澤先生がみどりんに近づき、何か話している。
普通は聞こえない距離だが私には聞こえる。「また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりか?」など聞こえてくる。
なるほど。要するにみどりんは個性を制御できていなくて、反動で体を壊してしまうんだろう。思い返せば0ポイントの仮想敵をぶっ飛ばしたときも、右腕と両足がボロボロになってた。
ともあれ、このままでは例え個性で好記録を出したところで相澤先生は認めないだろう。正真正銘、絶体絶命だ。
でも私はみどりんならなんとか乗り越えるんじゃないかと思っていた。確かに相澤先生の言葉は正しい。一人を助ける度に動けなくなっているようではヒーローは務まらないだろう。
それでもあの時、一歩踏み出せた少年がここで終わるとは思えなかった。
「SMASH!!!」
ほら、やっぱり。個性を使った。でも、腕は無傷だ。変色して腫れ上がった指を見るに指にだけ個性を発動させたのだろう。
「先生……! まだ……動けます!」
そのまま拳を握り、相澤先生にアピールする。確かに戦闘不能にはなってない。相澤先生も思わず目を見開き、そしてニヤリと笑った。
「どーいうことだ!ワケを言え!デクてめぇ!」
その時、いきなり怒鳴り声が響き渡った。思わずそちらを見るとと爆豪が目を吊り上げて、みどりんに襲いかかった。
が、一瞬で相澤先生に捕縛された。
「指、大丈夫?みどりん?」
「あ、月下さん。うん、これくらい全然平気だよ。」
「そっか。でも念の為、後でリカバリーガールのところに行ってきたほうがいいよ?」
そんな会話をしながら私は思う。やっぱりみどりんはすごい。
第6種目 持久走
第7種目 長座体前屈
最終種目 上体起こし
これらの種目は持久走は飯田と一位争いを繰り広げ、残りの2種目は特に個性は使わず、普通にこなしていった。
そして全種目が終了し、全員が集まるが、みどりんの顔は暗い。そんな表情に気付いているはずだが、相澤先生は淡々と結果を発表する。
結論から言うと最下位の除籍は生徒の最大限を引き出すための嘘だったらしく、みどりんは安堵やらショックやらでよくわからない顔になっていた。
相澤先生の嘘には驚いたが、せっかく同じクラスになったんだから、一人も欠けることなく済んだのは素直に嬉しい。
良かった。
個性把握テスト 最終結果
一位 月下 海兎
二位 八百万 百
三位 轟 焦凍
海兎の個性把握テストの順位を最初は2位もしくは3位辺りにしようと思ってましたが、身体能力の上がる増強系だとあの種目で負けるほうが難しいと気付き、1位にしました。