「さて、今回の訓練のベストは月下少女だ!分かる人いるかい?」
「はい!それは終始、海兎さんが戦況をコントロールしていたからですわ」
オールマイトからの問いかけに即座に手を挙げたのは八百万だ。そのまま、海兎を含め、4人の評価を話し始める
海兎――二人に奇襲を仕掛け、先手を取りつつ、常に有利な状況を作り続けた。
作戦もそうだが、二人を相手に圧倒した戦闘能力は素晴らしい。
葉隠――障子に探知されるというミスはあったものの、根気よく耐え続け、一瞬の油断を見逃さなかったのは流石だった。後は、個人での戦闘手段があれば完璧である。
轟――開幕でビルごと凍結させたのは良かったが、それで終わったと決めつけ、油断し、その隙を突かれてしまった。
ヒーローならばヴィランを確保するまでは常に全力で事に当たるべきだろう。
障子――常に個性によって索敵していた点は評価できるが、轟がやられたことに動揺し、葉隠の存在を忘れてしまったのは減点。
どんな状況でも常に冷静であるべきだ。
「――とまあ、概ねこのような感じになります」
「うん!完璧な講評ありがとう!完璧すぎて私の言うことないね!」
笑顔で親指を立てるオールマイトだが、自分の言うことがまたなくなってしまったと、若干落ち込んでいるのは誰にも気づかれていない。
「それにしても月下強くね!?ただでさえ身体能力凄えのに雷まで使えるとか!!」
「俺と被ってる……」
「ウチも耳には自信あるけどあそこまで活かせるかって言われるとね……」
クラスメイトが手放しに海兎を褒めてくるが、上鳴と耳郎だけは少々複雑だ。
だが、二人の反応も尤もだろう。自分たちと同じような能力を持ちつつ、自分たちに出来ないことができる海兎。嫉妬しないという方が無理な話だろう。
しかし、そこはヒーロー科。すぐにその気持ちを自分の訓練へのやる気に変える
「うん!ではこの調子で次の第3試合を始めようか!」
その後は特に怪我人も出ることなく初めての戦闘訓練は無事終了した。
「お疲れさん!緑谷少年以外は大きな怪我も無し!しかし真摯に取り組んだ!初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を聞かせねば。皆は着替えて教室にお戻り!」
オールマイトは簡潔に全体の評価を述べ、足早に去っていった。
あまりの速さに誰も口を挟むことができず、しばらくポカーンとしていたが、このままいてもしょうがないと各々教室に戻って行った。
「なあ、放課後は皆で訓練の反省会しねぇか?」
「あ、それいいじゃん!やろうやろう!」
「お、いいな。参加するぜ」
「あ、俺も」
下校時間となり、皆が帰宅準備をする中、切島が反省会をしないかと呼び掛ける。それに対し、多くの生徒が参加を表明し、結果クラスのほぼ全員が参加することになった。
「おーい、爆豪。お前はどうする?」
「……」
黙っていた爆豪に切島が声を掛けるも一言も喋らず、そのまま黙って出ていってしまった。
訓練が終わってからずっとあの調子だが、それだけ緑谷に負けたのが響いたのだろうか。
「おいって!……帰っちまった。まぁいいか、轟はどうすんだ?」
「……すまない、用事があるんだ。帰らせてくれ」
「そうか、引き止めて悪ぃな。じゃあ、また明日な」
続いて轟も用事があると帰って行った。
爆豪ほどではないが彼も訓練後から何か考え込んでいるような様子だった。
「葉隠と月下はどうする?」
「もち参加するよー!海兎も参加するでしょ?」
「もちろん、私も参加するよ!」
切島が私にも声を掛けてくれたのですぐに了承する。純粋に訓練の反省をしたいというのもあるが、皆と交流できる機会だ。逃すのは損でしかないだろう。
「にしても、第二戦は特にやばかったな!」
「分かる!海兎凄かったよね。男子二人に引くどころか逆に押してたもん」
「確かに。武術にはそれなりに精通しているけど、俺も月下さん相手だと自信ないな」
「分かるぜ。あの胸であの跳ねっぷり。男なら負けてもしょうがねえさ。」
約一名おかしな発言はあったが、殆どが海兎を褒める発言であり、思わず顔が緩んでしまう。
すると『ところで』と蛙吹が会話に入ってくる。
「海兎ちゃん、聞きたいことがあるんだけど?」
「梅雨ちゃん?なになに、何でも聞いてよ」
「あなたの個性って何なのかしら?てっきり増強系の異形型と思っていたんだけどそれだけじゃないみたいね。」
なるほど、確かに私は頭の上のウサミミが目立つからそういう異形型と思われることが多い。特にラビットヒーロー・ミルコの影響もあるだろう。
「半分正解だね!私の個性は【雷兎】。異形型と発動型を併せ持つ複合型の個性なの」
私の言葉に『おおー』と皆が感嘆の声をあげる。
「それ凄えよな!ミルコが雷使えるようになった感じだろ?正直俺の立つ瀬がねえぜ……」
「確かに。俺も耳を複製して索敵は出来るが、明らかに索敵範囲では負けていた」
「ウチは索敵できても、戦闘手段がね……」
海兎の話を聞き、上鳴、障子、耳郎がそれぞれ【雷兎】の万能性に舌を巻く。
そんな話を聞いていた時、海兎はふと気になっていたことを思い出し、障子に聞いてみる。
「そういえば、なんで轟は炎を使って来なかったの?」
「炎?轟って氷の個性じゃないの?」
揃って首を傾げている皆に、氷漬けになった下半身を轟が左手から炎を出して溶かしてくれたことを伝えると驚きを露わにしていた。
「マジ!?氷に炎とかヤバくね!てゆーか、轟がエンデヴァーの息子ってのもマジかもな」
「ねー!氷だから違うのかなって思ったけど」
エンデヴァーの息子が雄英に入学することはそれなりに噂になっており、かくいう海兎もちょっと気になっていた。
しかし、それを聞いていた障子が話を遮るように会話に入る。
「そのことだが、本人にはエンデヴァーの話はしないほうが良いだろう。お互いの個性の説明をしているときに少し話に上がったが、どうも奴はエンデヴァーを嫌悪しているようだった。その影響なのかは知らんが、戦闘では炎は使わないとも言っていた」
「そうなのか?トップヒーローが親って凄えと思うけど……」
「ケロ、親がトップヒーローだからこその悩みもあると思うの。詮索は良くないわ」
梅雨ちゃんの言葉で確かにと皆が納得し、轟の前でエンデヴァーの話題は厳禁に決まった。
そんなことを話していると教室の扉がガラッと開き、ギプスで腕を固定させた緑谷が入ってきた。
「みどりん!良かった、腕もう大丈夫なの?」
「あ、う、うん。リカバリーガールに見てもらって、あとは安静にしてれば大丈夫だって」
そんな事を言うみどりんの顔を覗き込んでみるとまだ万全ではないが、確かに訓練直後よりも良くなっている気がする。
というかだんだん顔が赤くなってきたが、もしかして熱だろうか?
「そそ、そんなことより皆で何してるの!?てっきりもう帰ってるのかと……」
「あ、うん。今皆で今日の戦闘訓練の反省会してるの。みどりんも一緒にどう?」
そう言うと、みどりんは目の色を変えて食いついてくる。
「反省会!?う、うん!良かったら僕も……ってあれ?かっちゃんは?」
「かっちゃん?……あ!もしかして爆豪のこと?それなら誘ったんだけど黙って帰っちゃたよ」
かっちゃん。一瞬分からなかったが、戦闘訓練でみどりんが爆豪のことをそう呼んでいたことを思い出す。それにしてもかっちゃんか……。二人が幼馴染なのは聞いたが、ここまで対極な二人も珍しいだろう。
「ええっ!?帰っちゃったの!?ごめん!!僕、かっちゃんに用事があって!!僕も帰るね!!」
爆豪がいないことに気付いたみどりんは慌てて、荷物をまとめて教室を飛び出して行った。
その様子をポカーンとして見つめていたが、教室から顔だけを出して『また、明日ねー!』と手を振ると慌てつつも手を振り返してくれた。
緑谷の姿が見えなくなったのを確認してから海兎が顔を戻すと、先程はまでガヤガヤしていた皆が全員自分の方をガン見しており、思わず、肩をビクッとして固まる。
「えっと……どうしたの?」
「月下と緑谷って前から知り合いなのか?」
切島からそんなことを聞かれたので、入試の時が初対面と答えると、三奈と透が目をキラキラさせながら近づいてきた。
「えー!なになに!?それにしては仲良くない?」
「だよねー!もしかして緑谷のこと好きだったり!?」
「……?みどりんのことは好きだよ?」
「「キャー!!」」
「二人共落ち着いて。多分二人が想像してるのとは意味が違うわ」
何故二人ともそんなにテンションが上がっているのだろうか?ともあれ、ただ騒いでいるだけで教室に残っていたら相澤先生に怒られてしまうだろう。雑談もそこそこに海兎たちは反省会を始めるのだった。
書いて初めて知る日常回の難しさを……