「教師としてのオールマイトはどんな感じですか?」
海兎がいつも通り雄英に登校すると何やら校門の前でマスコミが集まっていた。
今やオールマイトが雄英高校の教師になった事は全国に知れ渡り、大きな話題となっている。
ネットでは日夜、オールマイトの近いうちの引退が囁かれたり、後継者探しが目的ではないかと様々な噂が飛び交っている。
そんな中、できればオールマイトに、それが無理でも生徒から少しでも話を聞こうと登校時間を狙って集まっているのだろう。
海兎もマスコミの一人にカメラを向けられ、コメントを求められていた。
「ええと……No.1ヒーローに授業を見てもらえるなんて光栄です……?」
とりあえず無難な答えを口にするが質より量なのかそれだけで満足そうに次の生徒に向かって行った。
海兎もまた捕まっては面倒なのでそそくさと校舎へと入っていった。
午前の授業が終了し、昼休憩。私は透と一緒に食堂に来ていた。
朝のHRでは相澤先生から学級委員長を決めるよう指示を受け、私はみどりんに票を入れておいた。
自分でやりたい気持ちもなかった訳ではないが、彼なら私よりも上手くやるだろうと思って入れたのだが、殆どが自分に入れる中、私以外にも彼に票を入れる人がいたらしく、彼が4票を獲得し、学級委員長に決定した。
本人は自分なんかがと恐縮していたが、みどりんなら大丈夫だろう。
すると私の前でご飯を食べていた透が私の昼食を見て問いかけてきた。
「ねえ、海兎?それ何なの?」
「ん?何って、人参丼のこと?」
「それ、美味しいの?」
「ムッ、美味しいに決まってるでしょ」
透は怪訝な表情をしているが、なぜこの料理の素晴らしさが伝わらないのだろうか?
並々盛ったご飯の上に薄くスライスした人参を敷き、周りには人参スティックが花が咲くかのように並べられている。そして中心にはメインの皮を剥いただけの人参が鎮座している。ソースも人参をすりおろしたものを使っている。醤油風味、ニンニク風味などなどバリエーション豊かだ。さらに――」
「わあー!?待って待って!?分かったから!よく分かったから!途中から声に出てるから!?」
しまった。人参愛を語るあまり、途中から声に出してしまったらしい。でもこの人参丼の魅力が伝わったようなので良しとしよう。
「透も食べてみるといいよ!他には人参のお刺身とか人参のステーキもオススメ!」
「人参メニュー、他にもあるんだ……」
そんなことを話しながら昼食を満喫していると、突然校舎内にサイレンが鳴り響いた。周りの生徒も何事かと辺りを見回していると、スピーカーから放送が流れ出した。
『セキリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』
「はあ!?どういうことだよ!?もしかして
「えっ!?はは、早く避難しないと!!」
「おい!?押すなって!」
「うっせえ!!早く行けよ!!」
放送を聞いた生徒たちは一瞬呆けるもすぐに状況を理解し、パニックに陥る。
一人、また一人とパニックはどんどん伝染していき、多くの生徒たちが出口に殺到している。このままでは怪我人が出てしまうのも時間の問題だろう。
「ちょっ!?このままじゃ不味くない!?」
慌てる透を余所に私は耳を澄まして、周辺の索敵を行う。
――おいどけ!早くしろ!
――屋外ってどこに行けばいいの!?
――雄英に侵入って馬鹿だろ!?
――職員室ってのはここか?
――少しだけでいいんです!
――オールマイトから一言だけ!
――オールマイトなら非番です!
すると、本来なら校舎内からするはずのない声が聞こえてきた。これはもしかして朝のマスコミではないだろうか?
……え?もしかしてオールマイトからのコメント欲しさに侵入してきたの?なんて迷惑な……。
「……どうやらマスコミが侵入してきただけみたいだね」
「ええ……それ本当……?」
透に伝えると安堵しつつも呆れていた。気持ちは分かる。
しかし、危険がないと分かったが未だに周りの生徒は混乱状態だ。近くの生徒に侵入者の正体がマスコミだと伝えても、簡単には収まりそうにない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、視界の端を何かが高速で通過していった。
「大丈ー夫!!ただのマスコミです!何もパニックになることはありません。大丈ー夫!!ここは雄英!!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」
飛んできたのは飯田だったようだ。EXITの文字盤の上に張り付いており、まるで非常口そのものになっている。何故非常口?と一瞬思うも、周りの視線を十分集めており、ひとまずこれで混乱は収束するだろう。
「おおー!飯田君目立ってるねー!」
「だね!あの発想はなかったなー」
何はともあれ、これで一件落着だろう。マスコミの人たちは完全に不法侵入なので
――職員室ってのはここか?
「……あれ?」
一安心していた海兎だがふと思い出したことがあった。
周辺の索敵をしていた時、聞こえてきた会話だ。最初こそマスコミの声に意識を持っていかれたが、あの状況での会話としてはおかしくないだろうか?屋外への避難が告げられている中、何故職員室へ行く必要が?偶然近くにいて指示を受けようとしたにしては違和感がある。
この落ち着き様、まるで
「ちょっ!海兎!?」
透の困惑する声を背にしながら食堂を飛び出す。人が多いためあまりスピードを出せないのがもどかしい。私の考えが正しいなら、既にこの雄英に
――おい、まだか黒霧。
――待ってください、死柄木弔。もう少しで済みます。
――モタモタしてるとクズどもが戻って来るぞ?
――大丈夫です。彼らは未だにマスコミの対応に追われているはずです。
……確定だ。走りながらも音を拾っていたのだが、今の言葉で私の考えが正しい事になってしまった。
なんとか人で溢れかえっていた食堂を抜けて、職員室に向かうが、その途中見知った人物と鉢合わせた。
「ッ!?相澤先生!マイク先生!」
「月下?そんなに慌ててどうした」
「Hey!ラピッドガール!もしかしてさっきの放送のことか!それなら安心しろ!どうやら侵入したのはマスコミらしくてな。今からイレイザーとちょっくら行ってくるから――」
「マスコミは囮です!!侵入者は二人!今は職員室にいます!!」
私は簡潔に情報を伝える。二人は一瞬目を見開くがそこはプロ。すぐに職員室に向けて駆け出した。私も二人のあとに続く。
「他には何か聞こえたか?」
「
「ナイスなお便りだ!にしてもどうやって侵入したんだ!?」
「バカどもの考えなんて知るか。捕まえて聞き出しゃ良い」
「そりゃそうだ!」
私が聞いた情報を共有しながら職員室に走る。このまま行けば、逃げられる前に捕まえられるだろう。しかし、事はそう簡単ではないことを私はすぐに思い知ることになる。
――良し。終わりました、死柄木弔。
――ならさっさと帰るぞ。
「なっ!?」
驚きのあまり思わず声が出てしまった。
ゲート――もしかしてヴィランの一人の個性は――!?
「月下!何が聞こえた!?」
「どうやら用事が済んだようです!それでゲートを開けと!」
「おいおい、まさかっ!?」
「【ワープ】系の個性か!!」
ガラッ!!!
先頭を走っていた相澤が職員室の扉を力任せに開けるが、既にそこには誰もいなかった。いや、微かに黒いモヤのようなものは見えたがすぐに空気に溶けるように消えてしまった。
「クソッ!」
「間に合わなかったか!?」
「私たちが着く寸前に音が消えました。一歩間に合わなかったようです。すみません。私がもっと早く気付いていれば……」
「いやいや、気付いただけでも十分だぜ!」
「ああ、実際俺たちだけだと発覚はもっと後だったろう。お前はよくやったよ」
マイク先生と相澤先生はそう言ってくれるがやはりもう少し早く行動していれば間に合ったんじゃないかと、どうしても悔やまれる。
「月下。後は俺とマイクに任せて、お前は戻れ。それと今回の件は他の生徒には内密で頼む」
天下の雄英高校に
私は相澤先生に了承の言葉を返し、二人に任せて食堂に戻る。
それにしても、白昼堂々侵入してくるとは……。よほど自分たちに自信があるのか、それともただの馬鹿か。どちらにしても雄英に侵入し、逃走を成功させていることに変わりはない。
……いや、きっと大丈夫だ。
そんなことを考えながら、私は足を進めていく。
しかし、このときの私の考えは甘いと言わざるを得ないだろう。不穏な影が近付いて来ていることに気付きつつもオールマイトがいればなんとかなると楽観視していた。
しかし、研ぎ澄まされた悪意はときにオールマイトすら喰らわんとすることを私は考えもしなかった……。
ちなみに食堂に着いた直後に透から何故いきなり飛び出したんだと問い詰められ、正直に言うわけにもいかず、言い訳に困ってしまう未来も私は考えもしなかった……。
海兎の聴力ですが、常に広範囲が聞こえているわけではありません。常人よりは遥かに優れていますが、遠距離は集中する必要があります。