プロローグ
~時は西暦30xx年…とある日に突如として宇宙から降り注いだ特別な力が秘められた魔鋼秘石によって人類はまるで魔法の如き化学力を手にした。がそれらの秘石の中でも特に強大な力が秘められた15の魔鋼秘石や世界の覇権を巡り戦争はより激化の一途を辿っていっていた~
~中央中立国家「エレト」の街~
「お届け物です」
「おう!忙しそうだなあんちゃん」
「それ程まではないですよ…」
俺の名は工神・エインス・十九夜、国籍は日本だがとある事情によって七年前からこの国に移住してこざるを得なかったしがない学生だ。
家族を養う為に配達員のバイトに日々精進していた。
「そういや、あのべっぴん姉ちゃんの調子はどうなんだい?」
「アリサ義姉さんですか?最近は悪化する事は無いんですが…」
「そうか…こんな時代になっても治せねえ病はあってしまうもんだなあ…」
アリサ義姉さんはこの国に移住する際に俺達兄妹を引き取ってくれたエインス家の一員である。
だけど義姉さんは三年前から原因不明の病に罹ってしまいそのせいで下半身不随となってしまい今も尚その病と戦っている。
こんな技術的に発展した現在でも全くといっていい程に完治の見込みが無いのだ。
科学魔法医学に無知でしかない俺は家計を養うしかない。
「っと次の配達の期限が迫っているのでこれで!」
「おうよ!またな!」
雑貨屋のおっちゃんと別れ俺は仕事の続きにへと励んだ。
「今日の仕事完了っと!さっさと報告して義姉さんの見舞いに行かなきゃな」
ノルマ分の仕事を終え帰路に着こうとしていたその時だった。
「き、君!」
「ん?!」
エレトの警備団の科学魔装騎士の恰好をした中年の男性に呼び止められる。
俺は作業用の科学魔装機から降りて対応した。
「どうかコイツを…しかるべき場所へと…」
「しかるべき場所ですか?」
その男性は懐から何かを包んだ小包を俺に差し出してきた。
どうやら緊急の届け物らしいな。
「ああ、どうかエレトの科学魔装研究所迄へと無事に…こふっ!?…」
「おいおっさん!?…ああもう!」
それだけ告げるとおっさんは吐血し気絶してしまった。
どうやら何者かに狙われたみたいだ。
急いで回復魔法をかけてやりおっさんを安全な場所へとひとまずは安置し託された荷物を受け取った。
「この俺が責任持ってお届けしてやるからよ…」
そうおっさんに告げて再び作業用機体に乗り込んで指定された場所へと急行しようとしていたその時だった。
ドーン!
「!?」
突如として街中で響いてはならない筈の轟音が鳴り響いてくる。
「クソッ!?もしかしなくても皇国軍の連中か!」
極一部の不穏な国が統合されて樹立された超軍事国家であるゼイント皇国、その科学魔装機軍が中立国家であるにこの国にお構いなしに攻め入って来たのだ。
「連中の目的はコイツで間違い無いだろうな…」
皇国軍の目的がまず間違い無くおっさんに託された荷物である事は明白だろうと推察した俺はどうにかやり過ごす…いや連中はそんな生温い連中じゃない!このままだと他の一般人らも巻き込む可能性が非常に高い!
奴等を可能な限り街から引き離さないと危険だ。
この最低限な武装も皆無な機体でよ!
「お探しのモンってのはコイツかな?」
「『ん~?』」
俺はコクピットから顔を出して皇国軍に連中を注目させる。
「『隊長、アレから例のブツのエネルギー反応を確かに確認しやした!』」
「『そうか…オイ小僧、ソイツを大人しく渡しな!さもなきゃ…』」
「悪いが俺はアンタら皇国軍を一切信用なんかしてないんでね!コイツが欲しいなら俺を捕まえてみな!」
「『なっ!?…』」
隊員から目的の物が入っていると確認した隊長は言ってくるが俺は逆に奴等を挑発した。
真逆この期に及んで逆らわれるとは思っていなかったのか驚いた隙に俺は急いで機体を再起動させて全力でスロットルを吹かして離脱した。
「『はっ!?…何をぼさっとしている!あのクソガキを追え!包囲するのだ!』」
「「『は、はっ!』」」
皇国軍部隊は慌てて俺を追ってくる。
「ここいらが限界かな…」
街から離れて少し過ぎた地点で機体のあちこちにとうとうガタがき始めてしまい動作が重くなっていく。
「『よくも手間取らせてくれたな!ジャップのクソガキ!』」
「それはコッチの台詞だぜ!この機体レンタルなんだよ!」
「『はっ!そんなオンボロマシンで我々に勝てると思っているのか!者共かかれえい!』」
「「『はっ!』」」
部隊長の命令で皇国軍の量産科学魔装機である「ゲルフ」が襲いかかってきた。
「『ジワジワと痛めつけてやるのだ!』」
「くうっ!?…」
ゲルフ数機に殴りかかれられて機体が悲鳴を上げる。
だがこの機体では反撃可能な術は皆無だ。
「こんな物の為に!…アリサ義姉さん、琉璃香…ゴメン…」
ゲルフの猛攻で装甲が軋まされていく中、俺は家族を思いながらおもわず小包を下に叩きつけた。
すると元々軽く封の紐が解けていたのか叩きつけた衝撃が加わった事によって小包が完全に解けて中の小箱が出てきた。
俺は箱を手に取る。
「うっ!?…」
ドクン!
その箱を開けようとした瞬間、何故か心臓辺りが一瞬だけ苦しくなる。
その鼓動と同時小箱が勢い良く弾け飛んでその更なる中身が露わとなった。
「コイツは魔鋼秘石?…だけどこんな高純度の秘石は家でも目にした事ない…」
あらゆる科学魔法の原動力となる魔鋼秘石、白き輝きを放つ物体が目の前に浮かんでいた。
だけど魔力は注いでいない筈…不思議に思いソレを手に取ろうとしてみると…
「!?」
先程よりも更に強い輝きを放ち出す。
「コイツは!…何がなんだかよく分からないがやってやる!いくぞ!<エグザルド>!」
明らかに作業用なんかではない仕様のコクピットに変化し俺は混乱するがすぐに気を取り直しこの科学魔装機の名を叫んで起動した。
それと同時に外では
「『た、隊長!…』」
「『な、なんだと!?…この輝きはまさしく伝説の魔鋼秘石が持つもの!…真逆あんなガキ如きにその内の一つの力を扱う資格が有るとでもいうのか!?』」
俺を包囲していた皇国軍部隊は外に漏れ出た輝きを目にして焦り出す。
「『た、隊長!アレを!』」
「『今度は何だ!?…』」
他の隊員が更なる異変に気が付き部隊長はそれを見ると言葉を失った。
つい先程迄戦闘用ではなかった筈の科学魔装機がまるで塗り替えられていくかの如く全く別の機体へと変化していったのだ。
「『た、只のオンボロマシンが見た事も無い新型に変化しただと!?…』」
「『隊長いかがなされますか?』」
「『くっ!…予定外ではあるが総員急ぎ魔力を充填し戦闘態勢を執れ!なあに相手はズブのド素人だ!例え未確認の新型機であろうとも我々皇国軍部隊に敵う筈がない!』」
「『はっ!!』」
「『まずは俺様から斬りつけてやるよお!!』」
皇国軍部隊の副隊長だろうか、バスターソードを装備したゲルフがエグザルドに向かって得物を振り下ろしてくる。
「来るか!だったら!…」
対する俺は持てる魔力を機体に充填させ右腕で受け止めた。
「『何ッ!?…並の機体なら一刀両断出来る俺様の剣を腕一本で!?なんつう装甲してやがる!』」
「『リガ下がれ!今度は私が仕掛ける!』」
今度は部隊長がリガと呼ばれた副隊長を後退させて仕掛けてくる。
「『マジックファウスト三連撃!コイツでどうだ!』」
「!」
指揮官ゲルフが小型マジックボムを連続で投擲してくる。
マトモに喰らえばいくら装甲が分厚くてもダメージは免れないな…だったら!
俺は端末を操作し回避行動をとった。
「『どうだ!いくら強固な装甲だろうとこの連撃を喰らっては無事ではすみまい!後は奴を捕縛するだ…』」
「『た、隊長!…』」
「『ん?…』」
完全に己の勝利を確信していた部隊長は高笑いを上げるが部下の声ですぐに現実に引き戻される。
「『い、いない!?…』」
爆炎が晴れた先に居た筈の目標の姿が見当たらず部隊長は困惑の声を上げる。
そうエグザルドは上空に滞空していたのだ。
「『隊長!上だ!奴は空に居る!』」
「『なんだと!?…』」
リガが真っ先に気が付き警告する。
「『な、ならば奴が地上に降りてきた瞬間を狙うまでよ!そう長く滞空していられはしない筈!総員構え!』」
ゲルフ部隊が今か今かとエグザルドが降下してくる瞬間を待ち構えている。
「無駄なんだけどな…そんな見え見えの手にひっかかる馬鹿はいないぜ」
俺は上空で溜息をつく。
ゲルフには機体単独の航空能力は一切備わっていないので追っては来れないだろう。
このまま飛んで逃げても良いのだが皇国に報告でもされると面倒極まりない。
最低でも指揮官機だけでもこの場で仕留めておく必要性があるな。
後は継戦能力だけ奪ってお帰り願おう。
「よっと!」
そう考えた俺はエグザルドを急降下させる。
「『来たぞ!穿て!』」
チャンスと見た指揮官機の合図で一斉に構えられていたランスを穿とうとしたその時だった。
「エグザルド!もう一つの姿を今此処に!<スカーレットファイターモード>!」
俺はエグザルドを戦闘機へと変形させて再び上空へと舞い上がった。
「『なっ!?…』」
「『しまっ!?…うわああー!?…』」
「『ぬうう!?』」
真逆再び急上昇するとは流石に予想外であったか振りぬかれていた槍は前方に居た味方の機体に当たってしまい何機かが戦闘不能に陥った。
「『そんな馬鹿な!?可変機だと!?』」
「『ありえねえ…皇国でも未だ開発が遅れているというのに!…』」
なんとか唯一踏ん張り止どまる事が出来た指揮官機達は驚愕していた。
「そろそろ俺は帰りたいんでね!次で一気に決める!」
変形させたエグザルドの両翼のフィンを開き赤く輝かせる。
「魔力全開!いけえー!【スカーレット・ストライク】!!」
「『し、しまっ!?…』」
「『リガ!』」
指揮官機よりも腕の立つヤバイ奴、確かリガとかいったか。
奴のゲルフ目掛けて傾けた右翼部を突撃させようとした。
だが咄嗟に指揮官機が庇い身代わりとなった。
「『ぐわあ!?ぜ、ゼイント皇国に栄光あれえええええー!……』」
「『隊長ぅー!?』」
指揮官ゲルフは紅き翼に切り裂かれ爆散する。
「だったらもう一回だ!」
今度は左翼を向け突撃する。
「『しまった!?』」
「『リガ副隊長ー!』」
「『お、お前等!?…』」
「『副隊長は早くお逃げ下さい!あの新型機の事を一刻も早く上層部に御報告を!』」
「『くっ!?…すまない!…』」
また邪魔が入りリガを倒す事は出来ず代わりに一般兵機の集団が身代わりとなる。
「仕方無いか!…」
俺は両翼の出力刃を停止させる。
リガの身代わりとなった一般ゲルフの集団は装甲が多少熱で焦げる程度で済んだ。
「『た、助かったのか?…』」
「はーい、これ以上痛い目に遭いたくなかったらスロットルから手を放して上げるんだな」
変形を解いた俺はエグザルドを地上に降ろし携行マジックライフルを突き付ける。
「投降する…」
一般兵達の投降を確認し俺は即座にエレトの警備士団に通報して彼等は留置所へと連行されていった。
中立国家への突然の侵攻行為だ。
エレトの法できっちり裁かれる事だろう。
それにしても…
「これからどうすりゃ良いんだ?…」
未知の科学魔装機となった機体を見て俺は頭を抱えたのだった。