あの派手な銃撃戦から数日経ったが、それからの日々は平和なものだ。ヨーロッパ内を移動して──国境間の移動が陸路でできるEU万歳──誰かに会ったり商談したりと中々忙しい。前世でも国から息の掛かった武器商人の警護は恐ろしく暇だったのを思い出す。まあ、別任務の下ごしらえをしていたから休暇ではなかったが。
ココと一緒にヨーロッパ中を飛び回っている自分だが、実は未だ試用期間なのだ。入隊するにはもう一個儀式があるらしいのだが、必要なものが揃ってないとかで先延ばしになっている。変な儀式じゃなきゃいいんだが……こう、上司は大分変わっているので保証がないのが……。
~~
東欧の早朝、あるホテルの最上階。護衛部隊に宛がわれた一室の角で、毛布に丸まったヨナが座り込んで眠っていた。毛布の中ではミーシャ(ヨナ命名のぬいぐるみ)を抱いてスヤスヤと寝息を立てており、傍から見れば少年兵とは分からない可愛らしさがあった。(尚、交代の為起こしに来た全員がその可愛さに心打たれた模様)
「お~い、起きろヨナ坊」
しかし、起こされるや否や素早く立ち上がりながら左手にナイフを抜き、右手でハンドガンを腰骨の少し上で構える彼には可愛らしさはなく、前線に身を置き過ぎた獰猛さと凶暴性丸出しだが。
「巡回の時間だよ、交代してくれ。レームのおっさんと組むんだ」
そう、同僚のアールは言いながら向けられたナイフの切っ先を逸らす。
「ちゃんと寝てるか? 外は寒いぞ、 暖かくしとけよ?」
超ねみぃ、とブツブツ言いながらアールは隣の部屋へ消えていった。
まだまだこの悪癖が抜けないのが悲しくなる。どうも他人に起こされるのが苦手で、声なり触られたりしたら相手へ襲い掛かってしまうのだ。それは前世で退役してからも一切抜けなかった。寝る際には武器や武器になるものは常に置いていたし、眠っている際でも物音がするとすぐに覚醒して銃を取り出してしまう。今生で初めて交代したときは気を張りすぎたせいで交代しに来たルツ──同僚の狙撃手──に襲い掛かってしまい、臀部をナイフで軽く切りつけてしまったことがあった。あの時はココを含め皆がゲラゲラ笑っていたが、自分としてはもう少しで同僚を殺しそうになってショックだった。自分に染み付いたモノがこれ程恐ろしいとは思いもしなかった。
まだまだ彼らには心を許していない、ということか……、切り替えが出来ないことがプロらしくないな、と内心舌打ちをしながらハイパワーとナイフをホルスターに仕舞い、ミーシャを毛布に包んでからジャケットを羽織って廊下へと出た。
~~
廊下ではレームがMP5を首からスリングでぶら下げて待っていた。中々の愛煙家で常にタバコを吸っている。何時も飄々とした印象だが、年若いココをからかいながらも諭すことから大分信頼を寄せているようだ。
「おはよう」
「はよ」
短いが挨拶を交わすと、合わせるわけでもなく同時に歩きだして周りを警戒する。子供が短機関銃を持った大柄な男性と歩いているという何ともいえない状況がしばらくたったが――
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
「ん~?、君から質問とは珍しいね」
「レームは何時からココと仕事を?」
「丁度ココが君位の頃さ。その時はこまっしゃくれたクソガキでよ。彼女の親父さんの命令がなきゃ護衛したくなかったね」
中々な言い分だ。
「ふ~ん……。人員とかはその頃から?」
「全員じゃあない。俺やワイリとマオとバルメはガキの時分からで、他はその後からスカウトしたり色々よ。……、何かあったのか?」
「皆西側の人間でしょ?てっきり何処かの大国にコネがあると思ってた」
「……まあ確かに西側が多いな。でもココは紐付きじゃあない。そんな風にうちのボスは見えたかね?ヨナ君」
「そうじゃないけど、何となくね……」
「まあ、子供はややこしい政治だの何だのは考えなくていいんだよ。俺達は俺達の務めを果たすだけさ」
「そうだね」
ぽつぽつと雑談をしながらも目線は廊下の向こう側や非常階段、エレベーターホールを走査する。この廊下の長さなら少し覗いた頭を撃つことなぞ造作はない。それはレームも同じだ。銃を保持する癖や言葉の訛りから鑑みてあのデルタ分遣隊だろう。前世で国際犯罪の重要参考人―アメリカ・ユーラシア両大陸で人身売買及び旧ソ連の武器庫から大量の武器を盗んで全世界で売り捌いたアメリカ人―を追跡したことがあった。デルタ隊員の一人と私で参考人をヨーロッパのある酒場で待ち伏せをして拉致したのだが、デルタの彼が拳銃だけで3人の護衛全員を瞬く間に射殺して私の仕事を少なくしたことを覚えている。
CIAとSVRがそいつを共同で尋問したら大規模なテロ計画に行き着き、余りにも規模が大きかったので多国籍タスクフォースでテロ屋共を3年かけて絶滅―すべて非公式作戦で関係者全員の殺害命令が出た―する羽目になったのは全くの余談だ。
閑話休題
「レームは、何でココと仕事をしているの?」
「面白いから」
「……、ココが?」
「そりゃそうだ。俺は商売の事は分からんよ。他の連中はそれぞれ理由があるんじゃね?君にもきっとココの護衛につく理由が出来てくるだろうが、それにはココをもっと知る必要がある。それはココがとても優秀な――」
突然ココの部屋のドアが開いた。話を止め、瞬時に警戒態勢に入った我々の目の前にゆらり、とココが現れた。
シャツを一枚だけ羽織り、パンツ一枚で。明らかに寝ぼけている。
「……、優秀な……、何だっけ?」
あまりにもな光景に絶句するレーム。
「トイレは中だぜ、ココ」
レームが部屋を指さすと、何かもごもご言いながら部屋へ帰っていった。
「……。あの姿でも優秀なの?」
「……。自信無くなるねぇ・・・」
続く
もっと早く書けるようにしないと・・・。