異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

107 / 700
第107話 くっころ男騎士と砲撃

 その後、僕たちは同様の道路封鎖を二つ突破することになった。王都の中心部へ近づくに従い、敵の抵抗も強くなる。しかし、敵主力であるパレア第三連隊の攻撃正面は、あくまで王城だ。その背後を突くような形で機動している僕たちに対しては、どうしても本腰を入れた対応はできない。その結果、僕たちは一時間もしないうちに目的地であるアデライド邸へとたどり着くことが出来た。

 アデライド宰相の屋敷は王都でも屈指の大きさを誇り、その建築様式も荘厳……悪く言えば成金趣味な代物だ。普通、貴族の屋敷は襲撃に備えて堀やらなにやらを備えているものだが、この屋敷にあるのは石造りの塀だけだ。アデライド宰相は戦場に出ることがない宮廷貴族なので、そのあたりの意識が薄いのだろう。

 

「撃て!」

 

 アデライド宰相は、オレアン公から見れば最大の敵の一人だ。貴族街を制圧した以上、敵からすればアデライド邸も必ず押さえておきたい場所の一つだろう。案の定、屋敷にたどり着いた僕たちを出迎えたのは顔なじみの門番ではなく、重武装の敵兵だった。

 僕の号令に従い、敵兵に一斉射撃が加えられる。流石に敵もここには精鋭を配置していたようで、命中弾のほとんどは魔装甲冑(エンチャントアーマー)に弾かれてしまった。しかし、その程度は予想済み。こちらには手練れの騎士が何人もいる。

 

「突撃!」

 

 撃たれたショックで動けずにいる敵兵へ、剣や槍を構えた騎士たちが突っ込んでいった。あっという間に敵兵は叩きのめされ、地面に押し倒される。どうやら、生け捕りにするつもりのようだ。ぼろ雑巾のようにされた敵兵たちは、ロープでグルグル巻きにされ引っ立てられていった。

 

「正門は完全に封鎖されているな……」

 

 下馬したスオラハティ辺境伯が困ったような声で言う。馬車のまま屋敷に入ることができるよう設計されたアデライド邸の巨大な正門は、鉄板で補強された頑丈な扉によって閉鎖されている。敵は屋敷に立てこもる腹積もりなのだろう。

 

「どうするの? 流石に人力で突破は難しいだろうし……街路樹を使って破城槌でも作る?」

 

「目の付け所は良い」

 

 カリーナの言葉に、僕は頷いた。いくらアデライド宰相が戦に備えていないといっても、流石にそこは国内有数の大貴族。その本邸を守る正門は、ちょっとした城門くらいの堅牢さはあるだろう。人力で破壊するくらいなら、攻城兵器を使った方が賢明だろう。

 

「しかし、それでは時間がかかりすぎる。……破城槌なんかより手っ取り早い道具を、僕たちは持ってきてるだろ?」

 

 ニヤリと笑い、僕は後方の部隊に向けて手を振った。すると、馬四頭にけん引された小さな大砲が前に出てくる。試作品の八六ミリ騎兵砲だ。小型軽量の大砲ではあるが、ライフル砲身とドングリ型の砲弾を採用した最新式である。特にドングリ型砲弾は従来の球形砲弾に比べ、同じ口径でも倍以上の砲弾重量を誇る。その威力は見た目ほど低くはない。

 今回、僕はこれを戦場に四門もちこんでいる。そのうちの三門は、アデライド邸前の大通りの制圧へ振り向けていた。この大通りは王城前広場へ直接つながる重要な道路であり、ここを制圧・封鎖しないことには敵がいくらでも増援を流し込んでくる。

 敵の布陣している王城前広場まで、ここから三百メートルほど。もう目と鼻の先だ。こちらの前衛部隊は、とうに敵主力と交戦を開始していた。狭い市街地戦、なおかつ敵の主力は王城の守備兵が引き付けている状況とはいえ、戦力差はなかなかのものだ。可能な限り迅速にアデライド邸を奪還し、火力支援を開始する必要があった。

 

「こ、ここはアデライドの屋敷だぞ!? 大砲を撃ち込むのか……?」

 

「違う派閥のよくわからない大貴族の屋敷に撃ち込むよりは後処理がしやすいと思うので……だいじょうぶ、見てくださいこのカワイイ大砲を。ちっちゃいでしょ? ちょっと派手なドアノッカーみたいなもんです」

 

 実際、騎兵砲はデフォルメされたような可愛らしい見た目をしている。小さな二輪式の台車に搭載されていることもあって、大砲に詳しくない者が見ればオモチャか模型の類だと思うかもしれない。

 そんな話をしている間に、騎兵砲は連結されていた台車から切り離され、アデライド邸の正面に砲口を向けて据え付けられた。この砲は納品されたばかりで砲兵たちも取り扱いには慣れていないはずだが、そうとは思えないスムーズな手際だった。

 

「た、たしかにコレくらいなら大丈夫かもしれないが……うう、四の五の言っている場合ではないか。アデライドに謝るときは、アルも一緒に来るんだぞ。わかったな!?」

 

「ええ、もちろん」

 

 一緒に謝ってはくれるわけか。本当に辺境伯様は人が良い。苦笑しつつ、砲兵隊に命じて騎兵砲に弾を込めさせる。この大砲も先込め式なので、装填手順自体はディーゼル伯爵家との戦闘に使った急造砲と似たようなものだ。

 発射薬を砲口から流し込み、次にドングリ型砲弾の先端に装着されたピンを引っこ抜く。そして砲弾の側面につけられた複数の突起を、砲身の六角形ライフリングに噛み合わせるようにして押し込むのだ。

 

「突撃準備!」

 

 大砲を装填しているうちに、騎士たちに突入の準備をさせておく。砲撃の余波に巻き込まれないよう十分に距離を取らせてから、僕はそう命令した。騎兵銃を持った騎士たちは急いで再装填作業を行い、他の騎士は剣や槍を構えた。僕も鞘からサーベルを抜こうとしたが、それを辺境伯が止める。

 

「アルは前線の方へ行ってくれ。こちらも大事だが、大通りが再制圧されたら我々は孤立してしまう。第三連隊の連隊長はなかなかの切れ者らしいからな、アルに直接指揮してもらった方が良い」

 

「……わかりました」

 

 確かに辺境伯の言う通りだった。屋内戦闘では銃や砲の出る幕はあまりない。僕の指揮官としての持ち味は、火力の扱い方に精通していることだ。ならば、屋外戦闘のほうを任せてもらうのが適材適所というものだろう。

 僕は頷き、突撃の邪魔にならないようカリーナたちと共に隊列から離れた。辺境伯がにこりと笑って手を振り、兜のバイザーを降ろす。

 

「発射準備完了」

 

「撃てっ!」

 

 砲手が砲尾から伸びている紐を引っ張ると、破滅的な破裂音と共に騎兵砲が火を噴いた。発射された砲弾は正門に命中すると、爆発を起こした。これもまた新兵器の一つ、榴弾だ。薄い鉄板を張っているとはいえ、正面扉は所詮木製だ。大砲の直撃にはとても耐えられない。四方八方に木片がまき散らされ、僕の甲冑を叩いた。砲煙が晴れると、見るも無残な姿になった正門が露わになる。

 

「これのどこがドアノッカーだ! まったく……とーつげーき!」

 

 スオラハティ辺境伯がそう叫ぶと、ラッパ手が景気のいい音色を奏で始める。騎士たちがワッと鬨の声を上げ、正門へと突っ込んでいった。……さて、僕も自分の仕事に戻らねば。連隊規模の敵を相手に、この大通りを制圧・維持するわけか。こっちもこっちで、かなり骨の折れる任務だな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。