異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第117話 くっころ男騎士と騎兵突撃

 迫撃砲は、極めて優秀な兵器だ。砲弾を砲口から『落とす』だけで撃発できるため、従来の大砲に比べて圧倒的に発射速度が速い。さらに反動をすべて地面に受け流す構造であるため、発砲しても照準がずれないというメリットがある。

 僕たちが持ち込んだ迫撃砲の発射速度は、最大で一分間に二十発以上(ただし持続射撃の場合は一分に十発未満)。これが、六門ある。そして、ガレア王国軍では一個中隊の定数は百二十名と決まっている。……つまり迫撃砲部隊が本気になれば、一分あれば敵兵一人に付き一発の六〇ミリ榴弾を配達することが可能だということだ。

 

「迫撃砲、全力射撃!」

 

 用意してもらった軍馬に跨りつつ、僕は叫んだ。まもなく、大気を引き裂くような飛翔音とともに砲弾の嵐が敵横隊に叩きつけられる。『次より効力射』という言葉は嘘ではなかった。初弾はいきなり敵部隊のド真ん中に着弾し、続く射撃もそれに近い位置に落ちていく。

 迫撃砲弾は六〇ミリという小さなものだから、一発一発は大した威力ではない。しかし、それがすさまじい勢いで大量に叩きつけられるのだからたまったものではない。鼓膜を突き破りそうな連続した炸裂音が響き、砲声に慣らしてあるはずの軍馬がうろたえるほどだ。

 とうぜん、棒立ちの状態でそんな攻撃を叩きつけられた敵ライフル兵中隊は、目を背けたくなるような悲惨な目にあっていた。バラバラになった人間がおもちゃのように吹き飛び、死んでいく。肩を寄せ合うような密集陣だから、味方が邪魔になって逃げることすらできない。敵隊列は、熱湯をかけられた砂糖の塊のように溶けていった。

 

「ぴゃああ……」

 

 その凄惨な有様を目にしたカリーナが悲鳴を漏らす。……子供にはこんな光景を見せたくなかったな。でも、火力で一方的に叩きのめすやり方が一番味方の損耗が少ないんだ。辺境伯から預かった騎士たちを、これ以上殺すわけにはいかない。

 

「前衛は、隊長が戦闘続行可能だと判断した小隊のみ突撃準備! それ以外は下がれ!」

 

 当たり前だが、こんな状況で射撃を続ける敵兵はいなかった。今のうちに、部隊の配置転換を行っておく。射撃で敵の隊列を崩し、突撃でとどめを刺す。戦術の常道だ。

 前衛部隊は敵の猛射を浴び、ひどい有様になっている。できれば、全部隊を下げたいくらいだった。しかし、彼女らは反撃もできないままここまで耐えたのだ。敵にやり返してやりたい気持ちは強いだろう。まだ戦闘力を残している部隊に関しては、フラストレーション解消を兼ねて暴れてもらおう。

 

「迫撃砲、打ち方やめ!」

 

 準備が整ったところを見計らい、射撃停止を命令する。すでに、敵隊列があった(・・・)場所は、戦場というより死体置き場といったほうが正しそうな有様になっている。ここまでくれば、もはや突撃をかける必要もない。だが、それでも僕たちには進むべき理由があった。信号員が「砲撃終了!」と叫ぶ声を聞き、僕はサーベルを振り上げた。

 

「これより敵の封鎖を突破し、王城前広場へ突撃を敢行する。総員、我に続け!」

 

 猛烈なまでの鬨の声があがる。僕はその声に背中を押されるようにして、馬の腹を蹴った。ボロボロになった馬車群をすり抜けつつ、味方騎兵と共に前に出る。わずかに生き残った敵銃兵がなんとか立ち上がり、迎撃しようとする。だが、一発二発の銃弾では突撃の奔流をとめることはできない。

 

「進めーっ!」

 

 敵兵の死体を踏みしめ、前進を続ける。折り重なった戦死者の隙間から、立派な房飾りがついた兜を被った女が這い出して来るのが見えた。隊長か何かだろうか? 生かして返すわけにはいかない。すれ違いざま、サーベルを使ってその首を叩き落した。

 血の池地獄と化した大通りを抜け、僕たちは王城前広場へと急いだ。広場への入り口は敵兵によって封鎖されていたが、バリケードなどがないのは確認済みだ。構わず、敵兵の集団へと突っ込む。パンパンと銃声が聞こえた。カービン騎兵たちが乗馬したまま射撃を始めたのだ。

 

「ウワーッ!」

 

「逃げろ! わたしたちまで吹き飛ばされるぞ!」

 

 反乱軍の兵士たちは、泡を食って逃げ出し始める。ライフル兵中隊のたどった悲惨な最後は、彼女らのほうからも見えただろう。敵と勇壮に戦っていた部隊が、突然大量爆死したのだ。恐慌を起こすなという方が無理がある。

 ベテランの下士官たちが慌てて兵を統制しようとしていたが、もう遅い。先鋒を務める槍騎兵たちが、その長大な馬上槍を敵兵にお見舞いする。あちこちから悲鳴が上がり始めた。こうなればもう、歩兵部隊で騎兵を止めるのは不可能だ。

 

「ワハハハハッ! 痛快ですねえ! やはり突撃こそ騎兵の華。待ちに待った瞬間ってヤツですよ」

 

 馬に跨ったトウコ氏が傍により、戦闘の高揚を露わにした声で言う。……この人、前衛で敵の滅多打ちに耐えてたはずなんだがな。いつの間に馬を用意したのか知らないが、ずいぶんと元気そうだ……流石竜人(ドラゴニュート)、流石精鋭辺境伯軍といったところか。尋常なバイタリティじゃないな。

 それはさておき、敵はすでに壊乱をはじめている。砲声、銃声、そして悲鳴。あらゆる戦場音楽が、僕たちの味方に付いていた。反乱軍兵を追い回す騎兵の姿に、無事な部隊の兵士すら恐怖を覚えて持ち場から逃げ出しつつある。

 実際のところ、騎馬突撃といっても騎兵中隊の全員が参加できたわけではない。反転攻勢は突然だった。前衛部隊のほとんどは軍馬を用意する暇がなかったため、まだ大通りの馬車陣地にとどまっているはずだ。そのため突撃に参加できたのは少数の後衛部隊のみ。簡単に敵陣を突破できたのは、派手な砲撃を見たせいで敵がビビっていたからだ。

 

「耐えるだけの時間は終わりだ! 食い散らかすぞ!」

 

 こんな小部隊では、敵陣に突っ込んだところですぐに反撃を受けてやられてしまうだろう。そんなことは分かっているが、僕は笑みを顔にはりつけそう叫んでいた。その理由はただ一つ。背後から聞こえてくる、うるさいくらいの鬨の声だった。我々の突撃に呼応し、増援が現れたのである。

 増援の数は、三個歩兵大隊。そう、味方歩兵部隊がやっと到着したのだった。味方部隊接近の報告を受けた僕は、その場で突撃を決心していた。騎馬突撃で突破口をあけ、そのまま敵の本陣である王城前広場に主力部隊とともになだれ込もうという作戦である。その作戦は、見事に成功しつつあった。


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