異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第14話 くっころ騎士の説得

 男に代官などできるわけがない。まあ、言われるだろうなと予想していた発言だった。男は家庭に属するべしというのは、この世界ではごく一般的な価値観だ。そんな風潮の中でいきなり男が自分の上役になったら、そりゃあ反感を覚えるやつだっているだろう。

 

「男は貧弱、ねえ」

 

 一番の問題は女しかいない種族、つまり亜人たちが明らかに僕たち只人(ヒューム)より露骨に高性能な生き物だという部分だ。この国の支配層である竜人(ドラゴニュート)は体格に優れ筋力も極めて高いし、エルフは魔法を扱う能力、つまりは魔力に優れている。

 その点、どうも只人(ヒューム)はぱっとしない、身体は貧弱だし、魔力をまったくもっていない者も多い。それでも、商人や技術者として大成する只人(ヒューム)はそれなりに居るのだが……なにしろ亜人たちの性質上、社会は女系中心にならざるを得ないからな。男はなかなかに肩身が狭いんだよ。

 

「そうさ。そもそも、どうやって男が騎士になったんだ? 上官に竿でも売ったか?」

 

 下卑た笑みを浮かべてそんなことを言う参事。竿竹屋かな? 内心ちょっとウケたが、僕の後ろで「……すぞ」などと呟いているソニアが非常に怖い。刃傷沙汰になる前に、どうにか場を治める必要があるな。

 

「確かめてみるか?」

 

 だから僕は、あえて挑発的な笑みを浮かべて言い返した。情けのない対応をすれば、それこそナメられっぱなしになってしまう。封建主義全盛のこの世界においては、もっとも貴族に求められる要素は武力なんだよ。それを示してやれば、向こうも表立って文句は言いづらくなる。

 ま、こういう感覚は感情的なものだから、内心では納得できないかもしれないけどね。多少の陰口くらいは我慢するほかないだろ。

 

「ようするに、男の騎士は弱いからいけない。そういうことだろう?」

 

「……そうさ。アンタなんかが戦場に出ても、蛮族につかまって『くっ殺せ!』とか言いつつ犯されるのがせいぜいだろうさ」

 

 くっころならすでにオークを相手に発言済みだ。残念ながら……もとい、幸いにも犯される前に助けてもらったけどね。

 そういう意味では、確かにこの女のいう事には一理ある。人質さえ取られなければ、とか、あるいはそもそも分断さえされなければ……とも思うが、そもそもあの作戦で指揮を執っていたのは僕だからな。すべての責任は、自分自身に返ってくる。

 

「本当にそうなるかどうか、試してみればいいさ」

 

 そう言って僕は、ソニアにちらりと視線を向けた、彼女はコクリと頷き、背負っていた二本の棒を差し出してくる。それは、打ち合いの訓練に使う木剣だった。刃にあたる部分には分厚いフェルト布が巻かれ、衝撃を減らす工夫がされている。

 

「くちでどうこう言っても、納得してもらえる話じゃないだろ? だったら、きちんとした方法で実力を証明するまでだ」

 

 ソニアから受け取った木剣のうちの一本を参事に差し出す。彼女は困惑したように、それと僕の顔を交互に眺めた。

 

「い、いや、アタシはたんなる職人だからな……それに、代官殿にケガをさせたりすれば、面倒なことになる」

 

 自分から喧嘩を売って来たくせに、なに日和ってるんだよ!! 正直結構腹が立つが、ここでそれを態度に出せば指揮官失格だ。士官たるもの、そう部下の前で感情を露わにしてはいけない。ニッコリ笑って、「それは残念」と言い返す。

 

「しかし、僕の実力が不明なうちは、あなた方の不安も払拭されないだろう。今後のことを考えれば、僕がどれだけ戦えるのかを一度くらい確認してもらった方が良いとおもうんだが。もちろん、その結果こちらがどんな損害を負ったとしても、そちらにその責任を求める気はない」

 

 僕が舐められたままだと、僕自身はもちろん部下たちも動きづらくなる。町の有力者である参事たちに僕の騎士としての力量を認めてもらうのは、どうしても必要な過程だと最初から考えていた。だからこそ、わざわざ木剣を持ってきたわけだが……。

 

「それはその通りだな。そういえばランドン殿は先日、腕の良い用心棒を雇ったと自慢していたではないか。力試しならば、そちらにやって貰えばよかろう」

 

 参事の一人が愉快そうな表情でそんなことを言う。ランドンというのは、どうやら僕にイチャモンをつけてきた参事のことのようだ。

 

「確かにそうだな。腕利きとはいえ用心棒ごときに敗れたとあっては、騎士としてはあまりにも力不足だろう。試金石とするのは、ちょうどいいかもしれないな」

 

 自分が戦わなくてよいとなったとたん、ランドン参事は元気になった。なんて現金なヤツだ……。

 

「ここまでナメられたら、もうこれは決闘案件ですよアル様。木剣なんてヌルいことを言わず、真剣でやっちゃいましょう」

 

「代官就任そうそう刃傷沙汰は不味すぎる。抑えてくれ」

 

 耳元でボソリと物騒なことを呟くソニアを、僕は引きつった表情で止めた。そして表情を何とか笑顔に整え、ランドン参事に向き直る。

 

「用心棒だろうがなんだろうが、相手になろう。しかしこちらが勝ったのなら、ちゃんと僕を代官として認めるように」

 

「いいだろう」

 

 ランドン参事はニヤリと笑って頷いた。……しかし自分で仕掛けておいて何だけど、戦闘力を示すことが代官として認められる条件になるだなんて、ほんとうにこっちの世界は物騒だな。いや、蛮族だのモンスターだのが跋扈している場所なのだから、それも仕方ないんだろうが……。

 


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