異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第144話 くっころ男騎士とパレード

 しばらくの間、パレードは順調に続いた。一見ズラズラとならんで歩いているだけのように見える行進だが、隊列を維持したり歩幅を合わせたりと、気を付けるべきことはいくらでもある。特に僕は騎馬なので、隣にいるフランセット殿下とぴったりシンクロするように馬を操る必要があった。これがなかなか神経を使う。

 とはいえ、ドンパチするよりは余程気が楽というのも確かだ。こっそりと周囲をうかがうだけの余裕もある。視線を前に向けると、露払い役の従士たちが大通りにあふれた民衆をかき分けて部隊が行進するスペースを作っている。

 

「……」

 

 周囲は王都民たちでごった返している。自爆テロを喰らったら、一巻の終わりだな。そんな思考が脳裏をかすめる。実際、敵の暗殺部隊らしき連中を密かに撃退した……などという報告も上がっているので、この懸念は杞憂ではないだろう。

 剣と魔法の世界とは言え、火薬を用意すること自体は大して難しいものでもないからな。それに、火薬を使わずとも魔法を使えば大爆発くらい簡単に起こせるし。……警戒すべきは爆弾より魔法使いか。うーん、胃がキリキリしてきたな。

 

「おい、殿下の隣の人……男じゃないか?」

 

「ああ、聞いたことがある。王都唯一の男騎士、アルベール・ブロンダン卿!」

 

「うっそ、男騎士って実在するの? (エロ)本限定の存在かと思ってたわ」

 

 歓声に混じって、そんな声も聞こえてくる。殿下の真横に居るせいか、悪目立ちしてるみたいだな、僕。どうもむず痒く感じちゃうな、こういうのは。兜をしっかり被って、一般兵たちの隊列に混ざっていればこんなことにはならなかったのに……。

 とはいえ、民衆の話題のタネになるのは悪い事ばかりではない。平民たちの不安を解消するのも、このパレードの目的のひとつだからな。

 

「あれだけ兵隊さんがいるんだ、戦争はすぐ終わりそうだな」

 

「フランセット殿下自らが御出陣なされるんだ、なんとでもなるさ」

 

 実際、パレードを眺めている民衆のほとんどは好意的な反応をしている。フランセット殿下が先頭に立っている、というのが良いのだろう。やはり、こういう状況では王族の知名度を生かすのが一番だ。

 

「……」

 

 ゆっくりと息を吐いて、軍楽隊が奏でる行進曲に耳を傾ける。一定のリズムで地面を踏みしめる軍靴の音が耳に心地よい。

やはり、パレード行進は良い。気分が高揚する。行進するだけなら、部下は誰も死なないしな。ずーっとこれだけやって軍人生活を終えたいくらいだ。

 訓練! パレード! 訓練! パレード! その繰り返し。まったく素敵な生活だね。まあ、国民からは穀潰しだの税金の無駄遣いだの批判されそうだが。……でも、軍人なんて仕事は無駄飯喰らいなくらいがちょうどいいのさ。それだけ平和って事だからな。

 

「殿下、偵察隊がこちらに向けて進軍してくる部隊を発見しました。第二連隊の連隊旗を掲げているようです」

 

 しかし、どうやらそう都合よくはいかないようだ。伝令がコソコソと近づいてきて、周囲に聞こえない程度の声でそう報告する。フランセット殿下の眉間に微かな皺が寄った。

 

「これだけ戦力を揃えたのに、向かってくるか」

 

 実際のところ、僕も殿下も戦わずに済むことを期待していた。使える兵員をすべて投入してズラリと並べて見せたのは、グーディメル侯爵を威圧するためだからな。

 『敵にこれだけの戦力があるんだから、戦いを挑むのは無謀だ』……侯爵がそう判断してくれるのではないかと期待してたんだが、どうもそういう訳にはいかないようだ。敵ながら、無茶をする。

 

「おそらく、戦闘隊形に移る前に一撃を加えて離脱する作戦でしょう。十中八九、目標は殿下ではないかと」

 

 一応副官に任じられているので、私見を述べる。もっとも、フランセット殿下は聡明だ。僕が口に出さずとも、この程度のことは理解しているだろう。

 

「だろうな。君たちを反乱軍だと断じるには、余の存在があまりにも邪魔だ」

 

 軽く笑ってから、フランセット殿下は表情を引き締めた。従士を呼び寄せて兜や馬上槍を受け取りつつ、鋭い声で命じる。

 

「市民たちを避難させるんだ。ただし、慎重にな。混乱に陥ってしまえば、かえって被害が大きくなる」

 

「はっ!」

 

 命令を受けた騎士たちが散り、大通りの両端で騒いでいる平民たちのほうへ向かっていった。もちろん、戦闘が発生する事態も想定済みだから、市民たちを避難させるための計画も事前に準備してある。

 

「余を確保することが目標だというのなら、敵は戦力を集中しての一点突破以外の作戦は取れないはずだ。戦場はそう広範囲にはならない。市民の避難も限定的なもので大丈夫だろう」

 

「しかし、避難に従わない市民も居そうですね」

 

 ちらりと沿道の方に目をやりつつ、僕は言った。行進曲や軍靴の音で興奮したのか、市民たちは熱狂している。戦場見物や、下手をすれば勝手に参戦する者すら出てきそうな雰囲気だった。

 

「多少の被害はやむを得ない」

 

 フランセット殿下は断定的な口調でそう切り捨てた。

 

「無論、出来るだけのことはやる。しかし、肝心なのは全体の被害を抑えることだ。市民の避難に集中しすぎて、敵に好き勝手動かれる方がよほど不味い事になる」

 

「……ええ、その通りです」

 

 そう言われてしまうと、僕は頷くしかない。……もっとも、この作戦を立てたのは僕だからな。僕だって、殿下とは同じ穴のムジナだ。

 シンプルに敵を殲滅したいだけなら、強引な手段を使ってでも戦場から市民たちを排除し、そこで決戦を挑むというプランもあった。その作戦を採用しなかったのは、敵兵に戦闘を躊躇させるためだ。

 敵兵とは言っても、そのほとんどは王都で生まれ育った連中だ。自分の故郷を焼きたいとは思わないだろう。群れを成す市民を見れば、戦闘前に降伏してくれるのではないか……そういう打算があった。

 

「……さて、余の腕の見せ所だな。うまく兵士たちを説得できればいいが」

 

 そのためには、殿下に頑張ってもらう必要がある。彼女が「パレードに参加せよ」と命じることで、敵に戦わずに済む選択肢を提示することが出来るのだ。

 

「殿下なら出来ますよ」

 

 ここまでくれば、僕に出来ることはない。僕がそう言うと、殿下は小さく笑って「無責任だなあ、君は」と肩をすくめた。


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