異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第150話 くっころ男騎士と同士討ち

「敵の規模と兵種は?」

 

 敵接近の報告を上げた伝令兵を呼び寄せ、僕は質問を投げた。この世界には国際法や戦争法などはないが、それでも戦争を行うにあたっての最低限のルールはある。敵部隊は旗印を掲げていないという話だったが、これは明白にルール違反だった。

 そんなルール違反上等の連中が接近しているんだから、警戒心が沸かないはずがない。どんな汚い手段を使ってくるのか分かったもんじゃないからな。

 

「規模は一個中隊程度、兵種は重騎兵と軽騎兵が半々の模様です」

 

「重騎兵と軽騎兵の混成部隊? 妙だな……」

 

 同じ騎兵でも、重装騎兵と軽騎兵では役割が全く違う。前者は攻撃を主軸としたバリバリの戦闘兵科だし、後者は偵察や追撃といった補助的な役割をこなす兵科だ。

 とうぜん、この二者を混ぜて運用するケースはあまりない。重装騎兵が求められる場面では軽騎兵の防御力・攻撃力は弱すぎるし、軽騎兵が求められる場面では重装騎兵は鈍重かつスタミナが足りないからな。

 

「間違いない、グーディメル侯爵だ」

 

 従者に預けていた馬上槍を受け取りつつ、オレアン公が断言した。

 

「侯爵家は左前だ。マトモな重騎兵なぞ揃えられん。足りない分を、傭兵で補ったのだろう」

 

「なるほど。……仕掛けてきますかね?」

 

 僕は味方騎兵隊の隊長の方をちらりと見ながら聞いた。戦力的には、こちらが優越している。まともにぶつかり合えば、九割がたこちらの勝利で終わるだろう。敵もそれは理解しているだろうから、無謀な攻撃はしてこないのではないだろうか?

 

「あの没落侯爵は、悪知恵だけは働くからな。おそらく何かの策があるはずだ」

 

「……なるほど」

 

「貴殿、今悪知恵が働くのはお前も一緒だろう、とか思わなかっただろうな?」

 

「まさかまさか」

 

 もちろん、思ったよ。

 

「公爵様、城伯殿、いかがしましょう?」

 

 騎兵隊長が困ったような表情で聞いてきた。彼女らは第二連隊から降ってきた部隊だから、指揮系統があいまいなまま味方に編入されている。誰の指示を聞けばいいのか迷っているのだろう。

 実戦を前にした状況で、これは不味い。僕は即座にオレアン公の方を見た。彼女は今かなり不味い立場に置かれているが、それでも貴族としての階位は一番高いからな。こういう時は、シンプルに一番肩書が偉い人に任せるに限る。

 

「とりあえず、周辺警戒を厳としつつ臨戦態勢のまま待機。これは敵の陽動かもしれない。いきなり手を出すのは不味いだろう」

 

 オレアン公の出した命令は、僕が頭の中で考えていた内容とほぼ同じものだった。政府中枢で陰謀をこねているイメージの強い彼女だが、意外なことに戦場での判断は冷静かつ堅実だな。

 

「はっ!」

 

 騎兵隊長は威勢のいい声で返答し、矢継ぎ早に部下たちに指示を出し始める。それを見つつ、僕は自分の部下二人を呼び寄せた。

 

「カリーナ、実戦で銃を扱うのは初めてだろう。大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫。練習では、ある程度当たるようになってきたし……」

 

 自信なさげな様子で、カリーナは自分の騎兵銃を握り締めた。僕やジョゼットは試作型の後装ライフルを使っているが、彼女が持っているのは従来型の前装式ライフルだ。

 銃口から弾丸を込める前装銃は発射速度がひどく緩慢で、火力が低い。とはいえ、カリーナが訓練で使っていた銃は従来型のものだからな。新兵にいきなり新兵器を渡したら、扱いを間違えてしまう危険がある。旧式でも、扱いなれた武器を使ってもらった方が良いだろうという判断だ。

 

「当てようなんて思わなくていい。敵のいる方向にぶっ放せばいいんだ」

 

 ニヤリと笑って、ジョゼットが言う。幸いにも、僕たちが居る大通りには民間人はあまりいない。フランセット殿下たちの居る大通りで起きた騒ぎを聞いて、逃げ散ってしまったのだろう。ここでなら、安心して銃を使うことができる。

 

「鉄砲など、雑兵の武器だと思っていたのだがな」

 

 どこか寂しそうな様子で、オレアン公が言う。彼女らの世代から見れば、銃など邪道な兵器だろう。連射力では弓に劣り、運用性ではクロスボウに劣り、火力では魔法に劣る。あまりにも存在意義が薄い。

 

「槍ではなく、鉄砲を使う騎兵か。使い物になるのか?」

 

「正面からの戦いでは、槍騎兵のほうが強いのは間違いありません」

 

 誤魔化しても仕方ないので、僕は正直に答えた。いかにも古色蒼然として見える槍騎兵だが、その攻撃力はかなりのものだ。

 

「しかし、突撃専門の槍騎兵と比べれば様々な任務に使えますからね。そういう意味では、使い勝手は良い。……とはいえ、まあ、三騎ごときでは大した意味はありませんが」

 

 この場には百人以上の騎兵が居るが、その中で火器を装備しているのは僕たち三人だけだ。この程度の数では、大勢に影響はない。

 辺境伯の部隊を借りることができていたら、それなりの数のカービン騎兵も確保できたんだがな。今の僕は王太子殿下の配下として動いているのだから、こればっかりは仕方がないだろう。

 

「……なるほどな」

 

 頷いてから、オレアン公は視線を前方に戻した。よく見れば、敵部隊は目視できる距離まで近づいていた。監視部隊の言うように、確かにその部隊は何の旗も掲げていないようだ。

 

「敵部隊、動きを止めました」

 

 望遠鏡を覗き込みながら、見張り役の騎士が報告する。彼我の距離は、まだ一キロメートルは離れていた。

 

「攻撃準備にしては、随分と離れた場所で停止したな」

 

「やはり、別方向からも攻撃を仕掛けてくる腹積もりでしょう」

 

 オレアン公の言葉に、僕はそう答えた。先ほどの戦いでも、グーディメル侯爵は側道から遊撃部隊を突っ込ませる戦法を使っている。今回も同じ手を狙っているのだろうか?

 

「側面防御を厚くした方がよさそうだな」

 

「そうですね」

 

 頷きつつ、僕は内心ため息を吐いた。カービン騎兵とは言わないが、ライフル歩兵が手元にいればかなり楽だっただろうに。大した防具を装備していない軽騎兵が相手なら、ライフルの一斉射で攻撃を粉砕することだって可能だ。

 まあ、そうはいってもこちらは精鋭の重装騎兵部隊だ。しかも、足かせになる民間人も居ない。少々の攪乱攻撃なら、落ち着いて対処すれば跳ね返せる――

 

「後方の監視部隊が攻撃を受けています!」

 

 そこまで考えたところで、突然そんな報告が飛び込んできた。

 

「後ろから? ふむ、敵の規模は」

 

 落ち着いた様子で、オレアン公が聞き返した。バックアタックは恐ろしいが、当然その対策も打ってある。小規模部隊に後ろを取られたくらいなら、問題は無いのである。

 

「極めて大! 相手は、いえ、()は、第二連隊の旗を掲げています!」

 

 だが、そんな余裕ぶった考えは伝令兵の言葉で一気に吹っ飛んだ。第二連隊が、無警告で攻撃を仕掛けてきた? 意味が解らない。こちらの部隊は、第二連隊所属の騎兵隊だ。相手からすれば、味方のはずだぞ!?

 

「それは本当なのか?」

 

 内心の動揺を抑えつつ、僕は落ち着いているフリをしながら聞いた。

 

「はい。装備や規模からみて、第二連隊の主力で間違いないそうです。我々は、原隊から攻撃を受けています!」

 

 伝令兵は、ほとんど泣きそうな声音でそう叫ぶ。……後方に第二連隊、前方にグーディメル侯爵の私兵集団。どうやら、僕たちは敵に挟まれてしまったようだ。いや、本当になんでいきなり攻撃を仕掛けてきたんだよ、第二連隊は。

 


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