異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第151話 ギャンブラー侯爵と欺瞞作戦

 わたし、バベット・ドゥ・グーディメルはご満悦だった。目の前では、防御陣形を組んだ敵部隊に第二連隊の弓兵・クロスボウ兵がさかんに攻撃を加えている。それに対し、敵はまともに反撃できていない様子だ。

 ま、そりゃそうよねえ。相手は槍騎兵中心の騎兵部隊で、射撃武器はほとんど持っていない。そりゃ、反撃なんてできないよねえ? ま、それ以前に、いくら攻撃を喰らったとは言っても、原隊に反撃するのはなかなか勇気が必要だろうけど……。

 

「同士討ちとは……見ていて気分の良いものではありませんね」

 

 隣にいる副官が、微妙な表情でそんなことを言う。……そうかな、割と気分いいけど?

 

「とはいえ、名将と名高いアルベール・ブロンダンをハメたと思えば大戦果でしょ。運が良ければ、ハメられるほうも出来そうだし。せっかくの男騎士、できれば食べてみたいところね」

 

「……」

 

 嫌悪感を丸出しにした表情で、副官は黙り込む。まったく、神経が細いわねえ。

 

「しかし、こんな作戦をよく考え突きましたね。味方の寝返りを前提に策を組み立てるとは」

 

「そりゃあね。そこらの凡骨とは頭の出来が違うのよ、わたしは」

 

 敵が王太子殿下を持ち出してきた場合、第二連隊の一部が離反するのはわかっていた。そして、離反した部隊が原隊をなんとか説得しようということも読めている。……だったら、そこへ罠を張るのは当然のことでしょ。

 第二連隊の指揮官には、あの騎兵中隊の隊長は宰相に買収されているようだと事前に吹き込んでいる。そして、その騎兵隊が、攻撃命令にも従わず怪しい動きをしている……そりゃ、裏切ったものと判断するのが普通よね。

 さらに、そのオマケとしてオレアン公とアルベールが同行してきたのだから、もう笑いが止まらない。敵陣営の要人二人を、一挙に撃破できる大チャンス! 分の悪い賭けだと思ってたけど、これは本気でいけるかもしれない。

 

「敵が弱ってきたら、一撃を加えてオレアン公・アルベールを奪取する。ババアは殺していいけど、男できれば生け捕りで。アルベールを捕まえたヤツは、一番乗りでヤッちゃっていいよ。頑張ってね」

 

「さっすが親分! 話が分かるッ!」

 

「男騎士とヤれるなんて、そうそう無いッスからね! (たぎ)ってきたッスよ~!」

 

 武器を振り上げながら、わたしの部下たちが下卑た声を上げる。……カネで雇った傭兵たちがこういう反応なのはまあ当然として、侯爵家の直臣である騎士たちも喜んでるのが凄いわねえ。ゲス君主にクズ臣下、割れ鍋に綴じ蓋みたいなものかしら。

 

「まったく、わたしにふさわしい軍勢ね。面白くなってきたな」

 

 ニヤニヤ笑いながら、視線を前線へと戻す。敵部隊は、守りを固めたまま一切の身動きもできないような状態になっている。反撃もできず、撤退もできず……可哀想にね。

 とはいえ、第二連隊側の攻撃も積極的とは言い難い。なにしろ、裏切り者とはいえ相手は自分たちの仲間だから、どうしても攻撃することに抵抗がある。結果、弓やクロスボウを最大射程から打ち込む以上のことができていない。

 うーん、ちょっと不味い。射撃に徹するのはいいけど、ここまで腰の引けた攻撃では有効打が入らない。敵の主力がいるのは、すぐ隣の大通りだからね。あんまりノロノロしてると、増援が来ちゃう可能性がある。

 

「よーし! いっちょ男騎士サマのケツに火をつけてあげましょうか。軽騎兵隊、下馬をして前進!」

 

 まあ、この程度は予想済み。軽騎兵たちを馬から降ろし、前進させた。せっかくの騎馬隊を下馬させるのは勿体ないように思えるけど、これからやる作戦を考えれば仕方がない。

 まあ、フル武装の騎士たちを相手に軽騎兵を突っ込ませるわけにはいかないしね。正面戦闘で頼りにならない以上、補助的な任務を与えた方がいいってものよ。

 彼女らを馬に乗せたのは、あくまで主力部隊である重騎兵たちに追従して機動するためだ。チンタラ徒歩で移動してたら、いつまでたっても戦場にたどり着かないからね。

 

「重騎兵隊は、突撃準備を整えつつ軽騎兵隊の後ろについていけ!」

 

 命令を出しつつ、わたしも馬を進ませる。ゆっくりと敵陣に接近し、距離が三〇〇まで縮まったところで、わたしは全部隊に停止命令を出した。

 

「軽騎兵隊、射撃用意!」

 

 号令を出すと、軽騎兵隊は背負っていた小銃を構えた。防御陣形を組んでいた敵兵に、あからさまな動揺が広がるのが見える。……そりゃそうよねえ。あの精鋭で鳴らす第三連隊が、辺境伯軍の銃兵隊に敗れたばかりだもの。ビビるなってほうが無理な話よ。

 ま、実際はそれほどビビる必要なんかないんだけどね。なにしろ、軽騎兵隊が装備している小銃は、わたしが武器商で買い集めた旧式の中古銃ばかりだもの。アルベールが使っているという、ライフル? とかいう新型とは射程が違いすぎる。三〇〇メートルなんて遠距離で撃っても、絶対に当たらないわよ。

 

「撃てっ!」

 

 でも、そんなことはお構いなしにわたしは射撃命令を下す。鼓膜を殴りつけられるような銃声が鳴り響き、真っ白い煙が霧のようにわたしたちの視界を遮った。銃声にビビって逃げようとする自分の愛馬を、なんとか抑える。

 話には聞いてたけど、本当に騎兵と相性の悪い兵器ね、銃は。わたしはなんとか堪えたけど、落馬をしている味方兵も居る。少し離れた場所に居るわたしたちですらこれなんだから、やっぱり軽騎兵隊は下馬させておいて正解ね。

 

「うわーっ!?」

 

 でも、ビビっているのは馬だけじゃない。一斉射撃を浴びた……と思い込んだ敵の騎士たちが、足並みを乱す。もちろん、実際にはまったく被害は受けていない。それでも、アルベールが作り上げた銃への恐怖が先立ち、浮き足立つのは避けられないようね。

 いや、思った以上に効果は抜群だわ。屋敷を売り払ってまで、小銃一式を用意した甲斐があったわ。これで効果ナシだったら、とんだ道化を演じる羽目になっていたわね。

 

「今だ、突撃開始!」

 

 こんな詐欺みたいな手段が、そうそう通用するはずもない。詐術であることがバレる前に、わたしは突撃命令を出した。

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