異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第182話 くっころ男騎士と顔合わせ

「お帰りが妙に遅いとは思っていましたが、まさか王都でそのような事件が起きていたとは……」

 

 領民たちの目もある正門前で、込み入った話をするわけにもいかない。代官屋敷の内側に引っ込んだ僕たちは、会議室にソニアらを連れ込んで事情を説明していた。

 リースベンは、王都からあまりにも離れている。翼竜(ワイバーン)や伝書鳩のような手段を使わない限り、迅速な情報伝達など不可能だ。そのため、ソニアらは今の今までオレアン公の反乱については知らずにいたのである。

 

「やはり、わたしが同行できなかったのが残念でなりません。そのような重大事のさなかに、お傍に居られなかったとは……ソニア・スオラハティ、一生の不覚であります」

 

 苦み走った表情でため息を吐くソニアは、まさに忠臣の鑑といった風情だった。僕はその肩をぽんぽんと叩き、笑いかける。

 

「内乱は長期化する可能性も高かった。ソニアにリースベンを任せていたからこそ、僕は躊躇(ちゅうちょ)なく戦闘に介入できたんだ。感謝してるよ」

 

「しかし……いえ、過ぎてしまったことをああだこうだ言っても仕方がありませんか」

 

 もう一度ため息を吐いて、ソニアは香草茶をゆっくりと飲んだ。自らを落ち着かせようとしているようだが、相変わらず眉間には皺が寄っている。そうとう不満を感じている様子だな。

 

「その通りだ。結果的に、心強い味方もできたわけだしな。……お互い名前や顔は知っているようだが、改めて紹介しよう。新たに我々の幕下に加わることとなった、ジルベルト・プレヴォ子爵だ」

 

 貴族同士が初顔合わせをする際は、仲介者がお互いを紹介するのがガレアの習わしである。ジルベルトを指し示しながらそう言った後、僕はソニアの方を見る。

 

「で、こちらがソニア・スオラハティ。僕の親友にして副官。出来る限り、仲良くやってくれると嬉しい」

 

「親友……」

 

 妙な表情で、ジルベルトが呟く。はて、なにか引っかかる事でもあるのだろうか……? 同じ疑問を持ったのか、ソニアも一瞬眉を跳ね上げた。しかしすぐに表情を戻し、手を差し出す。

 

「よろしく、プレヴォ卿」

 

「お会いできて光栄です、スオラハティ様」

 

 ちいさく咳払いをしてから、ジルベルトはソニアの手を握り返した。そして、微苦笑を浮かべながら言う。

 

「……まさか、わたしのことをご存じだったとは。少々、驚いています」

 

「わたしのことはソニアと呼べ、プレヴォ卿。その姓はあまり好かない」

 

「……承知いたしました」

 

 ソニアが実家と半絶縁状態にあることは、有名な話だ。理由を聞きもせず、ジルベルトは頷く。

 

「よろしい。……貴殿のことは、もちろん前々から知っていた。敵にしろ味方にしろ、有能な将校については把握しておくべきだからな」

 

「有能、ですか。……その評価が過大だったと思われぬよう、粉骨砕身の努力をいたしましょう」

 

「良い答えだ、気に入った。期待しているぞ、プレヴォ卿」

 

「ええ、お任せを」

 

 二人の様子を見て、僕は少し安心した。リースベン戦争のこともあり、僕の部下たちはオレアン公を嫌う者が多い。そして、ジルベルトはそのオレアン公の派閥に属していたわけだからな。うちの陣営にちゃんと馴染めるか不安だったが……旗振り役のソニアがこの調子ならば、まあ大丈夫だろう。

 

「ソニア、良ければジルベルトにうちの流儀をいろいろと教えてやってほしい。いままでずっと、何かあったらお前に丸投げするほかないような状況が続いていたからな。仕事を分担できるようになれば、お前の負担も減るだろう」

 

「それはありがたいですね。つまり、副官に専念できるということですか」

 

 なんだか妙に嬉しそうな様子で、ソニアが言う。……それはそれでどうかと思うけどなあ。僕ごときの副官に専念させて構わないような人材じゃないでしょ、あなた。でも、有難いのは事実だからなあ……ああ、まったく。適材適所を実現するのはなかなかに難しいものだ。

 

「そういうことなら、ぜひわたしにお任せを。今回のような留守番役は、二度とやりたくはありませんからね。リースベンはプレヴォ卿に任せ、わたしはいつでもアル様のお供ができる……そういう体制を目指していくことにしましょう」

 

「は、はあ」

 

 妙に熱意のあるソニアの様子に、ジルベルトがちょっと引いている。正直に言えば、僕も若干困惑していた。が、ソニア本人はそんなことなどおかまいなしだ。

 

「プレヴォ卿。軍学について、年下のわたしにあれこれ指図されるのは業腹だろうが……我々の部隊のやり方は、他所の軍隊とは大きく異なっている。申し訳ないが、一度頭の中をまっさらにして話を聞いて欲しい」

 

「それは、もちろん。わたしは、主様の指揮する部隊に敗北を喫しているのです。その新戦術の有用性について、疑問を抱く余地などません。どうぞ、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」

 

「ああ、任された」

 

 頷いてから、ソニアは眉をひそめた。

 

「アル様の指揮する部隊? 王軍内に、アル様のやり方で指揮できる部隊はまだできていないのでは……? 砲兵はともかく、歩兵や騎兵についてはまだ錬成すら始まっていないと記憶しておりますが」

 

「あー、なんというか、その……」

 

 実際、その通りである。内乱がはじまるまでは、王軍内部で最大勢力だったのがオレアン公派閥だ。僕の発案した軍制改革案が採用される可能性など、微塵もなかった。宰相派閥に属する部隊ですら、ほとんどライフル兵が居ないような有様だ。唯一、砲兵隊だけは試験運用にこぎつけることができたが……。

 

「スオラハティ辺境伯ですか」

 

「……ああ、そうだ。騎兵中隊を借りた」

 

「ああ、まったく……! あの女、油断も隙も無い……!」

 

 心底腹立たしい様子で嘆くソニアに、僕はため息が抑えられなかった。相変わらず、彼女は母親のことが気に入らないようだ。スオラハティ辺境伯はちょっとヘンな所はあるものの、決して悪い方ではないように思うんだがなあ。ソニアはなぜ、母親に対してここまで敵意をむき出しにするんだろうか? 

 

「アレに借りを作ったまま、というのはよろしくないですね。今回の件をダシにして、何かを要求してくるようであれば……すぐにわたしにお知らせください」

 

「……要求? 例えば、どんな」

 

「夜伽とか」

 

 ……手遅れじゃん。もうやっちゃったよ、スオラハティ辺境伯の夜伽。いや、性交渉はなかったのでセーフだ、ウン。しかし、こんな言い訳がソニアに通用するとは思えない。誤魔化すしかないな。

 

「わかった、すぐに言うよ」

 

「ええ。その時は、腕の二、三本をへし折ってでも止めてきますので」

 

「やめなさい」

 

 どうして僕の副官はここまで物騒なんだろうか? 本当に勘弁してほしい。

 

「そんな事より、お腹が減ったよ。昼飯、食べてなくてさ。ちょっと早いが、夕食にしないか?」

 

 母娘喧嘩じみたことを長々と聞きたくはない。僕は、そうそうに話を逸らすことにした……、


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