異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第185話 くっころ男騎士とカタブツ子爵の失陥

 翌日の早朝。僕は代官屋敷(と言っても僕は領主になったわけだから、領主屋敷というのが正しいか)の中庭で、日課の鍛錬をしていた。昨夜は少々深酒をしたので、早起きするのはちょっとばかり辛かったが……まあ、自業自得なので休むという選択肢はない。

 

「ふう」

 

 規定回数の二千回の立木打ちを終え、僕は大きく息を吐いた。地面にぶっ刺さった丸太を大声を上げながら木刀でシバき続けるこの立木打ちという訓練は、ストレス解消にももってこいだ。起床直後にあった二日酔いじみた不快感も、すっかり消え失せていた。

 

「お疲れ様です」

 

 そう言って水筒代わりの革袋を差し出してきたのは、ソニアだった。彼女も僕の訓練に付き合ってくれていたため、体中汗びっしょりだ。しかし、その表情はまさに元気ハツラツ。昨日よりも、明らかに心身共に充足した様子である。何かいいことでもあったのだろうか。

 

「ああ、ありがとう」

 

 まあ、元気なことは良い事だ。革袋を受け取り、乾いた身体に水を流し込む。なぜか、ソニアが水を飲んでいる僕の口元をじーっと見ているが……なんだろう? 

 

「朝の鍛錬はこれで終わりですか」

 

「うん」

 

 革袋をソニアに返しつつ、僕は頷く。身体を動かすのは気持ちがいいから、いつまでも続けていたい気分はあるが……しかし、そういうわけにもいかない。僕は領主で、しかもリースベンから長期間離れていた。こなすべき仕事が山のようにたまっているのだ。

 

「あいつらが終わったら、ひとっ風呂浴びて朝飯といこうか」

 

 僕の視線の先には、ぴゃあぴゃあ言いながら丸太を木刀で打ち続けるカリーナの姿があった。その隣には、普通の素振りをしているロッテも居る。……なぜか、二人とも肌着姿だ。訓練の最中に「暑い!」と叫んで他の服を脱ぎ去ってしまったのだ。

 たしかに、暑いのは確かだ。なにしろリースベンはかなりの南方で、しかもかなり海が近い。比較的北方、かつ内陸部にある王都パレア市とは気温も湿度も大違いだった。僕だって、本音を言えばパンツ一丁になりたいくらいの気分だった。

 ……男が野外でそれをやると大変なことになるから、やらないけどな。女の肌着姿は許されても、男の肌着姿は許されない。この国は、そういう価値観で動いている。

 

「ちょっとはサマになってきましたね、あの連中も。まあ、新兵としては……という基準ですが」

 

 木刀を振り続ける二人を見ながら、ソニアが感心の声を上げる。

 

「二人とも筋は悪くないよ。鍛錬を続ければ、両方ひとかどの剣士になれるんじゃないかな」

 

 カリーナはもともと騎士教育を受けていた少女だから、武器を戦斧から長剣に持ち替えてもそれなりにサマになった動きをしている。完全初心者のロッテも、短時間ながら母上の指導を受けたのが良かったのか急速に腕を上げていた。

 ……でも、正直僕はそれどころではない。前世の価値観を引きずった僕からすれば、肌着姿の少女たちが野外で運動している姿には犯罪的な背徳感を感じずにはいられないのである。正直、直視できない。ちゃんと服を着てほしい。

 

「なるほどね。……体の鍛錬はまあいいとして、頭のほうの鍛錬はどうされるのですか?」

 

「カリーナはもちろん、指揮官としての教育をする」

 

 なんだか馬鹿っぽい仕草をよくしているカリーナではあるが、一応は伯爵の娘である。軍人としての教育も、ある程度は受けている。頭の出来も、決して悪いものではない。本人が騎士を志しているのだから、それ相応の教育を提供してやるのが保護者としての義務である。

 

「ロッテの方は……まだ文字も計算も勉強途中だからな。進路を決めるのは、それからでも遅くないよ」

 

 彼女らはせいぜい、前世で言うところの中学生くらいの年齢だ。今の段階で進路を完全に固定してしまうのも、いかがなものかと思ってしまう。とくにロッテは下層民の出身で、「教育? なにそれ」状態だ。まずは基礎教育を受けさせるのが先決だな。

 

「楽しそうですね」

 

「若人の成長を見守ることほど楽しい事が、他にあるかね? すくなくとも、戦場で敵をぶっ殺しているよりはよほど建設的だ」

 

 軍人失格ぎみの発言ではあるが、相手は気心の知れた幼馴染だ。ソニアは苦笑しながら「確かに」と笑った。

 

「ふへえ、やっとおわりぃ……」

 

「あっついッス~……」

 

 そうこうしているうちに、二人が剣を振る手を止める。双方、疲労困憊の様子だ。だらしなく芝生の上に寝転がり、ぐでぐでとし始める。

 

「お前たち、朝っぱらからそんな調子でどうする。朝食が終わったら、今度は穴掘り訓練だぞ」

 

「うええ」

 

「勘弁してほしいッス!」

 

 抗議の声を上げる二人だったが、もちろん訓練の手を緩める気はない。練度が上がれば死傷率も下がる。できれば、彼女らには僕より後に死んでもらいたいものだ。若者に先立たれることほど嫌なことはない。

 

「頑張ったら、ご褒美に耳かきでもなんでもやってやるよ。さあ、踏ん張れ訓練兵ども」

 

「やった! 流石はお兄様!」

 

 寝転がっていたカリーナが跳ね起き、抱き着いてくる。やめなさい、童貞には君の身体は刺激的過ぎる。身長はロッテと変わらない彼女だが、胸囲はソニア並みかそれ以上なのである。まさかこんな少女に欲情するわけにもいかないので、本当に辛い。yesロリータ、noタッチ。そんな言葉が、脳裏に去来する。

 

「朝食の前に罰走がお望みのようだな、新兵。よろしい、わたしも付き合ってやろう」

 

「ぴゃあ……」

 

 しかし、僕の傍にはおっかない副官がいるのである。汗まみれロリ巨乳に密着されるという素敵イベントは、あっという間に終了してしまう。ソニアに凄まれたカリーナは、顔色を青くして即座に引き下がった。嬉しくもあり残念でもあり……複雑な気分だな。

 

「馬鹿やってないで、さっさとメシにしよう。よく動き、よく食べ、よく寝る。これに勝る身体づくりはないぞ」

 

 メシという単語に可愛らしいリス耳をぴくりと跳ねさせたロッテが慌てて立ち上がり、姿勢を正した。ほぼ同時に腹がぐぅと鳴る。かなり腹が減ってるみたいだな。まあ、夜明け前からハードな運動をしてるんだから、当然のことだろう。

 

「まずは汗を流してこい」

 

 僕の言葉に元気よく「うーらぁー!」と答えた二人は、急いで代官屋敷の裏手にある小川へと向かっていった。一応、屋敷には風呂もあるのだが……とにかく気温が高いので、お湯ではなく冷水を浴びたいのだろう。

 

「相変わらず、飴と鞭がお上手ですね」

 

「そうかね? あんまり自覚はないが」

 

 などとソニアと話しながら、南国特有の強烈な日差しから逃げるように屋敷へと入る。日陰に入るだけでも、体感的には随分とマシになった。代官屋敷は風通しの良い造りで、廊下には涼しい風が吹き抜けていた。

 

「おや」

 

 と、そこへ対面から見覚えのある人物が歩いてくるのが見えた。ジルベルトである。

 

「おはよう、ジルベルト」

 

「……ッ!?」

 

 声をかけると、ジルベルトはひどく驚いた表情で僕の方を見た。寝不足の色が濃い顔が、一気に真っ赤になる。

 

「お、お、お、おはようございますっ!?」

 

 挨拶を返すなり、ジルベルトは脱兎のように逃げ出してしまった。……えっ、何その反応。結構傷つくんだけど。

 

「……やっぱり使った(・・・)か。ふふふ」

 

 隣のソニアが、何やら意味深長なことを呟いた。なにやら、事情を知っている様子だ。

 

「ソニア、お前……」

 

 まさか、新人いびりでもしたんじゃなかろうな。一瞬そう考えてしまったが、彼女はそのような卑劣で陰湿な真似をするような人物ではない。首を左右に振り、口先まで出かかった言葉を引っ込める。

 

「どうしたんだろうか、ジルベルトは」

 

「まあ、大したことではないでしょうね。……とはいえ、一応事情を聴いてきましょう。アル様は、お先にお風呂へどうぞ」

 

「あ、ああ……」

 

 そう言われてしまえば、僕としては頷くほかない。ジルベルトが去った方向へと歩いていくソニアを見送りながら、僕は釈然とした気分で首を傾げた。

 


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