異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。 作:寒天ゼリヰ
現行犯逮捕した痴女を連れ代官屋敷に戻った僕は、彼女を尋問室に連れ込んだ。明り取りの天窓しかない小さな部屋なので、人目をはばかるような話にはぴったりだからな。
ヴァルヴルガ氏にはいったんお帰り願ったので、部屋にいるのは僕とソニア、そして例の痴女だけだ。
「で、なぜあなたがこんなところに?」
古ぼけたフードを脱いだ女に、そう話しかける。案の定、フード女の正体はアデライド宰相だった。この国の宰相であり、僕の後援者(?)でもある人物だ。
王都に居るはずの彼女が、なぜこんなところに居るのか? まったく理解が追いつかない。リースベン領は気軽に来られるような場所じゃないからな。国の重鎮である彼女が、中央を長期不在にしてまでやってくることは絶対にないだろうと思っていたのだが……
「ははは……さすがに驚いているようだな。その顔が見たかったのだ、わざわざ私自ら足を運んだ買いがあったというもの」
そう言って、アデライド宰相が愉快そうに笑った。気分を害したのか、ソニアが憎々しげな舌打ちをする。
「何しろこんな遠方、その上ほとんど敵地のような場所だからな。アル君が苦労しているのではないかと思ったのだよ。そこで一つ、プレゼントをしてあげようと思ってね」
「……と、言うと?」
やたらともったいぶった口調のアデライド宰相に、続きを促した。ほかに聞きたいことはいくつもあったが、ソニアが無表情で青筋を立てている。マジでキレる三秒前って感じだ。
この人とソニアは相性がやたら悪いからな。出来るだけ話を早く終わらせなくては、大変なことになってしまうかもしれない。
「
「……マジすか?」
「本当だとも。腹心である君と分断されるのはいろいろと困るからねえ、一騎渡しておこうとおもったのだよ。決してこれは、めったに君と会えなくなった私が寂しさに耐えかねた訳ではなく……」
「最高! 宰相最高! うおおおっ!」
思わず僕は歓声を上げた。
「ははは、いいぞ! もっと褒めたたえろ! 感激のあまり抱き着いてもよいぞ!」
「よろしい、抱き着かせてもらおう」
「ウワーッ!」
無表情のまま、ソニアが宰相に抱き着いた。彼女も板金鎧を装着している。おまけに
そんな相手に抱き着かれたのだから、痛いどころの話じゃないだろう。宰相は顔を真っ赤にして悲鳴を上げた。
「ぬおおおお、離さんか!」
「ソニア、ステイステイ!」
せっかく貴重な航空戦力を持ってきてくれたのに、この副官はなにをそう荒ぶっているんだ。あわててソニアを引きはがす。
「ヌウ……いつものことながら、この女は私のことを何だと思っているのか。私、宰相だぞ? 偉いんだぞ? そんな態度をとって大丈夫だとでも?」
「私は辺境伯の娘なので問題ない。宰相の権力と言えど重鎮貴族をどうこうすることはできないというのは、今回の件でハッキリしたからな!」
この副官、宰相相手だと敬語すら使わない。なんでこんなに敵視してるんだろう……・
「お、お前実家から半分絶縁状態だろぉ……」
「手紙のやり取りくらいはしている」
腕組みをしながら、ソニアはそう言い放った。無表情ながら、なぜかドヤ顔のようにも見える。
「まあ、それはさておきだ。
「あっ、あれはスムーズに収監されるための方便だ! 普通に接触していたら、敵に怪しまれるからな」
それはまあ、予想していたことだ。カルレラ市内には、敵のスパイが紛れ込んでいると考えるのが自然だからな。人目のない所で会合するには、収監するのが一番だ。
「じゃあアル様の下着の色は気にならないんだな?」
「なるに決まってるだろ!」
「馬脚を露わしたな」
気になるんだ……。
「あわよくばナマで見たいとか思ってるんだろう?」
「当然だ!」
いやらしい笑みを浮かべ、アデライド宰相は僕の方を見る。
「カネならいくらでもある……! 銀貨を何枚重ねればパンツを見せてくれるんだ? ええ?」
「やはりこの女は危険です。ここで消しておきましょう」
「やめんか!」
アデライド宰相はアデライド宰相だし、ソニアもソニアだ。どうして僕の周りにはヘンな女しか居ないんだろう。
「ま、まあそれはさておき……
確かに、
「それは、まあ……なんというか……」
引きつった作り笑いをしつつ、アデライド宰相はそっぽを向いた。下手くそな口笛まで吹いている。
「アル様にセクハラしに来たんですよ、この女は。どうしようもないセクハラ中毒なのでしょう」
「さ、流石にそれは言いすぎだろ……」
いくら温厚なアデライド宰相でも、これは気分を害するだろう。おそるおそる彼女の方をうかがうと……バレちゃあしょうがないと言わんばかりの表情で頷いた。脳みそと下半身が直結していらっしゃる?
「こう見えて一途な女なのだよ、私は。そこらへんの
そりゃ、王宮で働いている男性使用人……
「は、はあ、ありがとうございます……しかし、お供もつけずに一人で辺境にやってくるなど、危険ではありませんか?」
この人も敵が多い身だからな。隙を見せれば暗殺される可能性も十分ある。
「大勢の供を付けるのは、防諜面から考えても逆に不利だ。こちらの動きを向こうに察知されてしまう。アル君に
……こういう機転は、流石だよな。いずれは露見することだろうが、短時間でも敵の裏をかけるというのは非常に魅力的だ。
「それに、護衛はネル一人で十分だ。今もこっそり、代官屋敷の外で待機してくれているはずだよ」
「なるほど、彼女も連れてきていたのですか。それは安心だ」
アデライド宰相の懐刀、ネルは王国でも十指に入る剣士だ。なまじの騎士が五、六人ついているよりよほど安全だろう。
「そしてもう一つ……できれば直接会って知らせておきたい重大な情報がある。いくら
先ほどまでのふざけた表情から一転、アデライド宰相は極めて真面目な顔でそう言った。