異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第20話 くっころ男騎士と戦略資源

「重大情報……と言いますと?」

 

 姿勢を正して、僕は聞き返した。宰相自ら直接伝えなければならないと判断するような案件だ。そうとうの大事なのではないだろうか。

 

「ミスリル鉱山だ。このリースベン領で、ミスリルの鉱脈が発見された……」

 

「う、うわあ……」

 

 ミスリルというのは、まあ……この世界特有の金属だ。銀によく似ているが軽量で強靭。通常の金属は魔力を通さないが、例外的にミスリルは良く通す。この特性から、魔道具(マジックアイテム)の作成には必須の素材となっている。

 しかしミスリルは、なかなかに貴重な素材だ。ミスリル鉱脈など、めったに見つかるものではない。それがこの辺境で発見されたということは……つまりでかい火種になるってことだ。

 

「この情報は、女王陛下にすらご存じなかった。オレアン公め、こっそり試掘していたのだ」

 

「利益を独占するつもりでしょうね」

 

 何かを思案している様子のソニアが、静かな声で言った。

 

「ああ。このリースベン領はオレアン公が出資しているとはいえ王領……ミスリル鉱山が出来ても、それは女王陛下のものとなる。オレアン公としては、ぜひとも横取りしたいはずだ」

 

 ものすごくきな臭い話になって来たな。地下資源利権が発見され地域情勢が一気に悪化するというのは、前世の世界でもよくあった話だ。

 

「とすると、僕は……生贄(いけにえ)の羊に仕立て上げられたわけですか」

 

 女王の土地が欲しければ、戦果をあげてその報償としてもらう他ない。しかし、今のガレア王国は比較的平和な情勢だ。戦果をあげるには、まず戦争を起こさねばならない。

 

「そうだ。試掘の際には、鉄鉱脈も発見されたらしい。推測になるが、オレアン公はこの情報を神聖帝国に流したものと思われる。鉄山なら、餌としてちょうどいい規模だからな」

 

「ミスリル鉱山があるとバレれば、相当の大軍を送ってくる可能性もありますからね。そうなれば、オレアン公本人にも収拾不能になってしまう」

 

 しかしオレアン公、とんでもないヤツだ。思いっきり外患誘致罪じゃないか! 自然と、拳に力が入る。国民の安全と財産を守るべき立場の人間が、いったい何をやっているのか。宰相の話が本当なら、即刻逮捕するべきだ。

 

「しかし、そこまでわかっているわけですから……オレアン公本人を叩くわけにはいかないのでしょうか? 家はお取り潰し、本人は死刑。そういうレベルの悪行ですよ、これは」

 

「そうしたいのはやまやまだが……向こうも巧みだ。状況証拠はあっても、物的な証拠はほとんど掴めなかった。前代官の馬泥棒や公文書破棄の件で追及はできるだろうが、それも誰か適当な部下に責任を被せて本人は逃げ切るだろうな」

 

 こちらの現状については代官屋敷に帰ってくる道すがらに説明していた。アデライド宰相にはなんとかこの件を立件して、オレアン公に対処してもらいたかったのだが……なかなか難しいようだ。

 

「悪知恵ばかり働く……!」

 

 悪態の十や二十は吐きたい気分だが、今はそれどころではない。隣国の脅威が現実化してきたわけだからな。現場指揮官の僕には、これに対処する義務がある。

 

「……いや、とにかく今はやるべきことをやっていきましょう。アデライド、一つお聞きしたいのですが」

 

「呼び捨て……」

 

 ソニアがボソリと呟いたが、この人は敬称をつけると文句を言い始めるから仕方ないんだ。好きで予備シテにしているわけじゃないから許してくれ。

 

「アデライドは、翼竜(ワイバーン)を使ってリースベン領に来たわけですよね」

 

「うむ、そうだ。流石に馬車でのんびり旅をするような暇はないからな。正直もう乗りたくないが……」

 

 ひどく青ざめて、アデライド宰相は背中を震わせた。高所恐怖症だったのだろうか?

 

「では当然、乗ってきた翼竜(ワイバーン)は」

 

「郊外の森に隠してある」

 

「現状、何騎居ますか?」

 

「三騎だ。アレは二人乗りが限界だからな。私とネルを運ぶための二騎と、ここへ残していく一騎というわけだが……」

 

 三騎か。軽飛行機相当のユニットが三つ手に入ったと思えば、非常にありがたい。これだけあれば、何とかなる。

 

「では、その翼竜(ワイバーン)を使って、レマ市への伝令と神聖帝国の国境当たりの偵察をお願いしたい。構いませんか?」

 

「レマ市というと、山脈の向こうにある街だな。あそこの領主なら、確かに信頼できる。伝令は確実に送ろう」

 

 レマ市の領主は宰相派閥の人間だ。ちょうど宰相が居るのだから、協力を得るのはたやすいだろう。

 

「しかし偵察の方は大丈夫かね? 神聖帝国には、あの高名な鷲獅子(グリフォン)騎兵が居る。わが精鋭の翼竜(ワイバーン)騎兵とはいえ、少数で突っ込ませるのは危険なのでは……」

 

 王国の空中戦力といえば空飛ぶトカゲである翼竜(ワイバーン)だが、神聖帝国にも同じように鷲獅子(グリフォン)が配備されている。これはワシとライオンの合成獣(キメラ)で、なかなか強力なモンスターだった。

 

「問題ない。鷲獅子(グリフォン)は低空での格闘能力こそ翼竜(ワイバーン)に勝るが、速度に関しては大したことはない。逃げに徹すれば、そうそう捕まりはしない」

 

 そんなことも知らないのかと言わんばかりの口調でソニアが言った。この副官、僕が宰相を呼び捨てているのを聞きとがめた癖に自分はタメ口なんだよな。何度も注意しているが、改める様子はない。

 まあ、彼女も重鎮貴族の娘だ。宰相もあまり咎めない辺り、何かあるんだろうな。あんまり詮索すると、藪蛇になりそうで怖い。

 

「ふーむ……なるほど、良かろう。確かに、リスクを取ってでも敵の情報は欲しい。今日は……もう遅いか」

 

 ちらりと天窓の方を見て、アデライド宰相はため息を吐いた。そこから差し込む光は、すでに赤く染まっている。翼竜(ワイバーン)は夜目が効かないので、夜間飛行は不可能だ。

 

「出発は明日明朝だな。それまでに、レマ市へ送る伝令に持たせる書状も用意しておこう。向こうで調達してもらいたいものをリストアップして桶」

 

「了解です」

 

 僕は深々と頭を下げた。状況は悪いが、宰相のおかげで最悪の事態は避けられそうだ。いくら感謝しても足りないくらいだな、これは。

 

「ところで……ここまでしてやったんだ。私にも何か、役得があってもいいと思うのだがね?」

 

 ところがこの宰相、見直したばかりだというのに好色な笑みを浮かべてそんなことを言い放ちやがった。やっぱりセクハラ宰相はセクハラ宰相だな……。


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