異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第202話 くっころ男騎士と好景気

 方針決定から二日後。急ピッチでもろもろの準備を終え、ラナ火山探索隊は無事飛び立った。とはいっても、我がリースベン領が保有する翼竜(ワイバーン)は僅か三騎のみ。翼竜(ワイバーン)も生き物だから酷使すれば身体を壊すし、貴重な航空戦力を探索だけに振り向けるわけにはいかないという事情もある。一度の出撃(ソーティ)に投入できる翼竜(ワイバーン)の数は一騎のみだ。

 この程度の数で成果を上げられるのかは(はなは)だ疑問だが、他に有効な手を思いつかないのも事実。しばらくは、ローテーションで一騎ずつ探索に投入するほかなかった。

 

「はえー、立派な都じゃのう」

 

 翼竜(ワイバーン)隊が何かを見つけだすまで、カルレラ市の僕たちは待ち続けるしかない。内心焦れつつも、僕はカラス娘のウルとともにカルレラ市市内を歩いていた。彼女が、街中の見物をしたいと言い出したからだ。正直に言えば彼女には何も見せたくはなかったが、将来のことを考えれば断るわけにもいかなかったのである。

 

「ヒトもモノも多か。大都会ん風情じゃなあ」

 

「気に入っていただけたようで、何より」

 

 しきりに感心の声を上げるウルに、僕は穏やかに笑いかけた。僕たち為政者側はエルフの国との接触よりてんてこ舞いの状態だが、街中は剣呑からは程遠い賑やかさだった。大小の荷馬車が土煙を上げながら往来を行きかい、露天商や行商たちがさかんに客寄せの声を上げている。

 現在のリースベンは、空前の好景気に沸いていた。リースベン戦争の講和会議の結果、リースベン領とズューデンベルグ領の間の通行税や関税が廃止されたからだ。リースベン・ズューデンベルグ間のルートを通る限り、商人たちは安い税金で両国間貿易ができるのだ。理に聡い商人たちが、この機を逃すはずもない。

 

(おのこ)もたくさん歩いちょっね。こいが竜人の街じゃしか……」

 

 ……景気こそいいが、相変わらずカルレラ市はド田舎である。市の中心街ですら道は未舗装だし、領主屋敷を含めて石造りやレンガ造りの建物はない。外から来た連中も女ばかりだから、男女比率もひどく偏ったままだ。このカラス娘、皮肉を言ってるのか?

 そう思ったが、どうやらウルは本気で感心しているようだった。……新エルフェニア帝国、もしや思った以上に人口が少ないのか? 国力だけ見れば、お隣のズューデンベルグ伯爵領(つまりカリーナの実家だ)のほうが上かもしれん。

 ただ、だからといって安心はできない。戦争の勝敗は、国力だけで決まるものではないからだ。特にリースベンは大軍の優位を生かしづらい地形だしな。

 

「エル……じゃない、あなたの国は、どんな場所なんですかね?」

 

 そんなことを聞くのは、全身甲冑姿のカリーナである。残暑の厳しい時期だから、彼女の額には大量の汗が浮いている。普段着を着てくればいいものを、どうも僕の護衛を気取っているらしい。猟師のレナエルといい、この世界の女の子たちは勇ましいな……。

 ちなみに、僕たちに同行しているのはカリーナ以外に騎士が三名と少数の従卒だけだ。ジルベルトは対エルフの調査や防衛準備やらの指揮から手が離せない。ソニアは僕の護衛につくといって聞かなかったが……彼女にも、新兵たちの教練という重大な仕事がある。ほとんど強引に、そちらのほうへ向かわせた。

 交渉にしても戦争にしても、こちらの戦力が大きいに越したことはないからな。新兵どもには、一日でも早く一人前になって貰わねばならない。

 

「あてん国じゃしか……」

 

 何とも言えない複雑な表情で、ウルは空を見上げた。

 

「とにかっ、男んおらん国じゃ。長命種ん方々はともかっ、あてらはわっぜ困っちょっる」

 

 男が居ない。寿命の長いエルフたちはともかく、短命種の鳥人たちは困っている……って意味かね? ここ数日でずいぶんと慣れてきたが、それでも彼女らの言葉はひどくわかりづらい。

 まあ、こっちから男を攫って行ってるくらいだものな。そりゃ、相当な男不足なんだろうさ。……しかし、肝心なところははぐらかしたな。人口とか、街の発展具合とか、そのあたりがとても気になるんだが……その手の質問をしても、うまく誤魔化されてしまうのが常だった。

 やはり、このカラス娘はかなり頭が良い。こちらに与えてよい情報、与えてはいけない情報をしっかり吟味している様子である。まあ、今の彼女の役割は完全に外交官のそれだからな。アホでは務まらない仕事だ。

 

「へぇ……」

 

 神妙な顔で頷くカリーナだが、義理の兄である僕にはわかる。たぶん、彼女はウルが何を言っているのか半分も理解できていない。言葉が難しすぎるのだ。

 

「あそこで売っちょっ食べ物はないじゃしか?」

 

 苦笑していると、ウルは道端に出ている露店を指さして聞いてきた。露店の中には鉄製の大釜が据え付けられており、丸い物体が大量に油で揚げられている。……ガレアの庶民の味方、揚げタマネギだ!

 

「揚げたタマネギだ。食べるか?」

 

「たまね……? ようわかりもはんが、食べてみもす」

 

 ほう、エルフェニアにタマネギはないのか。農地ではどういう作物を作ってるのか、気になるな。この地方の原住民である彼女らの伝統的な作物のほうが、リースベンの気候に合っているはずだ。場合によっては、エルフェニア式の作物や農法を導入したほうが食料の生産効率はあがるかもしれないな……。

 

「カリーナ、すまんがコイツで買えるだけ買ってきてくれ」

 

「はーい、お兄様」

 

 銀貨を投げ渡すと、カリーナは素直に露店のほうへ走っていった。出会った頃は伯爵令嬢らしく鼻っ柱が強かった彼女だが、この頃はすっかり素直になっている。日ごろの軍式教育のお陰だろう。……しかし勘当済みとはいえ、伯爵令嬢をパシリに使っていいものなのかね?

 

「そういえばウル殿。君たちは普段、どういうものを食べているんだ?」

 

 気を取り直して、そう聞いてみる。この手の質問なら、彼女も素直に答えてくれるのではないかと考えたのだ。

 

「そうじゃなあ……あてらは普段、エルフ芋とよばるっ作物を食べちょる」

 

「エルフ芋!?」

 

 エルフと、芋。なんだか妙な組み合わせだ。

 

「エルフ芋は茎も根っこも食べらるっ素晴らしか芋でしやんせ。リースベンの土でもよう育つ」

 

「……」

 

 妙な既視感に、僕は一瞬考え込んだ。リースベンは森だらけの土地だが、土壌に関してはお世辞にも農地向きとは言い難いものがある。雨が多いせいで、養分を含んだ表土があっという間に流出してしまうせいだ。

 やせた土地でも育つ、茎も根っこも食える芋。すごく、覚えがある。前世で軍人をやっていたころは、ソイツで作った酒を日本から取り寄せそれこそ毎日でも飲んでいたような……。

 

「それってもしかして……赤紫色の皮がついてて、太くて短い紡錘形で、食べると甘い……そういう芋だったりする?」

 

「おお、ようご存じじゃなあ。そいがエルフ芋じゃ」

 

 にっこりと笑って、ウルは頷いた。……サツマイモじゃねーか!! 僕の地元じゃ、カライモとも呼ばれていたアイツだ。えっ、なに、エルフってサツマイモが主食なの? というか、なんでサツマイモに自分たちの種族の名前までいれてるんだよ。ええ……エルフのイメージがどんどん崩壊していくんだけど……。

 


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