異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

21 / 700
第21話 盗撮魔副官と夜の楽しみ

 わたし、ソニア・スオラハティは、自室に戻ると同時に大きなため息を吐いた。長時間にわたる打ち合わせのせいで、あの不愉快なセクハラ宰相と夜中まで顔を合わせ続ける羽目になったからな。泥のような不快感が、精神に絡みついている。

 なにしろあの色ボケ宰相、会議中でも構わずアル様の尻を揉もうとしてきたからな。そこらの一般人なら半殺しどころか九割殺しにしていたところだ。しかし宰相相手にそこまですると流石に問題になるので、頭突き一発で勘弁してやるほかなかった。悔しくて仕方ないが、いずれ借りは返してやる。

 

「まったくあの年増は度し難い……」

 

 いや、宰相だけではない。バカげた陰謀を仕掛けてきたオレアン公も、軍人としての本分を投げ出してその陰謀に加担した全代官も、すべてが腹立たしい。今すぐ死んでほしいし、出来ることならこの手で葬りたい。

 辺境勤務と聞いた時は、邪魔の入らない環境でアル様を堪能できると喜んだものなのに……なぜこんなことになってしまったのだろう? 本当に不愉快だ。

 

「……いけない」

 

 士官たるものはいつでも平常心であれ。アル様の教えだ。考えても仕方ないもので心乱されていては、肝心な時に力を発揮できない。深呼吸をして、精神を落ち着ける。

 ああ、しかしアル様。アル様は素晴らしい。一人も見せしめに殺すことなく三次会の愚か者どもをまとめ上げ、不愉快な熊獣人に立場を弁えさせた。わたしと同い年とはとても思えない鮮やかな手並み。本当に惚れ惚れする。やはり、実家を捨ててでもついて行くべきお方だ・

 

「アル様……」

 

 アル様のことを考えていたら、身体が熱くなってきた。もう一度深呼吸して、落ち着けようとする。だが、無理だ。アル様への想いは、この十数年積み上げてきたものだ。そう簡単に鎮まるものではない。

 それに、最近はしばらく行軍続きだったからな。天幕や安宿の大部屋で雑魚寝が普通という環境では、とても自分を慰めることなどできない。半月分以上の性欲が腹に溜まっているんだから、簡単におとなしくなってくれるはずがない。

 

「仕方ないか……」

 

 ため息を吐き、すでにひどい状態になってしまっている下着を脱ぎ捨てる。スカートはこういう時に楽でいい。下半身がフリーになった解放感を覚えつつ、部屋の隅に置いている木箱へ歩み寄る。ペンダントのように下げたカギを使って錠前を開け、ゆっくり慎重に蓋を上げた。

 

「……大丈夫」

 

 蓋と箱の間に張っていた髪の毛は、切れていなかった。これが切れていたら、私以外の誰かが箱を開いたということだ。下手人は確実に始末しなくてはならない。

 

「ふふふ……」

 

 箱の中身は、大量のアルバムだ。そのうちの一冊と取り出すと、自然に笑みがこぼれる。そっと、アルバムを開いた。

 そこにあるのは、大量の写真。もちろん、被写体はすべてアル様だ。ほかに撮るべき価値のある被写体なんてない。甲冑姿で軍馬に跨るアル様、お風呂に入るアル様、自室でアレをするアル様……。刺激的な写真の数々が、わたしをさらに熱くさせる。

 

「そういえば、出来るだけ早くこの屋敷でも撮影の準備をしなければ……」

 

 王都にあるアル様の自宅の屋根裏は、ほとんどわたしの巣のようになっていた。だからお宝写真も撮り放題だった。

 しかしこの代官屋敷では、そうはいかない。しかし、この有り余る撮影欲を抑えるのはムリだ。わたしにはアル様のお姿を後世に残す義務がある。……いや、この写真はわたしだけの物だ。ほかの誰かに見せてやることなど絶対にない!!

 

「……」

 

 いけない、性欲で頭が茹で上がっているせいか、思考がおかしくなっている。頭を振って、頬を叩く。冷静に、冷静に。

 

「でも、近日中に覗き穴はあけよう」

 

 副官特権で、わたしの部屋はアル様の部屋の隣にしてもらっている。壁に穴をあければ、向こうの部屋は覗き放題だ。

 しかし、撮影までするとなると、開ける穴はレンズが入るくらいの大きさにしなくてはならない。アル様に見つからないように加工するのはなかなか骨が折れるが……そこはわたしの腕の見せ所かな。

 

「しかし、今日のところは……」

 

 そんなことは後回しにすればよい。今肝心なのは、自分の昂りを治めてやることだ。アルバムをめくり、今夜のオカズを探し始める。

 

「どれだ、どれが一番いい……?」

 

 半月以上も我慢してきたのだ。適当な写真で致すのは勿体ない。リースベン領についたら好きなだけセルフプレイができると思ったのに、あの腐れ元代官を警戒していたせいで昨夜は結局何もできなかった。お預けを喰らった分、余計に開放には慎重になる。

 

「……これだ!」

 

 選ばれたのは、サウナに入るアル様だった。この時は他に人も居なかったので、腰に手ぬぐいすら撒いていない。素っ裸だ。

 わたしの尊敬する主の身体は、外見からは考えられないほど筋肉質で古傷だらけだ。なよなよした男を好むものが多いこの国ではあまりウケはよろしくないだろうが、わたしからすればヨダレが出そうな……いや、口元がヨダレまみれになるご馳走に見える。早く食べてしまいたい。もちろん性的な意味で、だ。

 

「だめ、だめ。我慢我慢」

 

 残念ながら、アル様は只人(ヒューム)貴族。結婚相手は只人(ヒューム)でなくてはならない。わたしは竜人(ドラゴニュート)だから、その子供も竜人(ドラゴニュート)になってしまうからな。アル様の実家、ブロンダン家はこれを絶対に認めないだろう。

 アル様には適当な只人(ヒューム)の娘と結婚していただいて、手を出すのはそれからだ。寝取られてしまうようで業腹だが、別の女と婚前交渉をしていたとなればアル様の経歴に傷がつく。副官としてのわたしは、それを容認できない。

 

「……」

 

 少し悲しい気持ちになったが、仕方ない。アル様が結婚されるその日までは、自分で自分を慰めて我慢しよう。初夜は絶対に譲れないが……。

 

「はあ」

 

 ため息をついて、アルバムを持ったままベッドに寝転がる。左手が無意識に体の横を探ったが、そこに愛用の抱き枕はない。致すときには、アレに抱き着きながら……というのが習いだったのだが、ない物はしかたない。早く新しい抱き枕を調達しなくては……。

 

「写真を抱き枕に張り付けられないかな……」

 

 そんなことを呟くが、無理なことは分かり切っている。写真を複写できるのは魔力転写紙だけだ。悲しい。

 

「……まあいいや」

 

 ない物ねだりをしても仕方がない。今は手持ちのモノで出来るだけ気持ちよくなることを目指すべきだろう。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。