異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第233話 くっころ男騎士と第三回会談(1)

 とりあえず必要な根回しも終わり、いよいよ第三回の"新"との交渉の日が来た。外交交渉中の相手を襲撃してしまったという失態は相当なものであり、こちらとしてもナァナァで済ませるわけにはいかない。だが、"新"を追い詰めすぎると暴発してしまう可能性もある。これはなかなかハードは交渉になりそうだと、僕もソニアも覚悟していたのだが……。

 

「先日の件は、大変に申し訳なかった」

 

 領主屋敷にやってきたダライヤ氏は、開口一番にそう言った。そして、従者のエルフがやってきて、大きな桶を僕たちに手渡してくる。桶の中からは、プンと腐敗臭が立ちのぼってきていた。こ、これは、まさか……。

 

「……攻撃命令をだした、氏族長リベンの首じゃ。責任は取らせたので、できればこれで手打ちにしていただきたい」

 

 やっぱ首桶じゃねーか! わあお、蛮族呼ばわりされてるのは伊達じゃないぞ。初手でいきなり生首を持ってくるとは……。さすがにちょっと、フタをとって中身を確認する気にはならない。

 なにしろダライヤ氏らの集落は内陸部にあるからな。防腐用の塩は手に入りにくいだろう。おそらく、中身はひどく腐敗しているはずだ……。

 

「……とりあえず、あなた方に真面目に謝罪をする気があることは理解した」

 

 正直こんなモンを貰っても困るが、さりとて受け取らない訳にもいかないんだよな。これを拒否したら、謝罪も受け入れないということになってしまう。いやでも本当に嫌だなあ……こんな代物をうちの領地に置いておいたら、なんだか祟られそうで怖いぞ。

 

「塚を作って、きちんと弔ってやろう」

 

 イヤそうな表情で首桶を受け取ってくれたソニアにそう頼み、僕はため息を吐いた。こういう真似は、せめてこちらと相談したうえでやってほしい。いきなり責任者に(おそらく物理的に)詰め腹を切らせた上、その生首を差し出してくるというのはやりすぎだ。僕としては、もうちょっと穏当なやり口のほうが好みだな。

 しかし彼女らがここまでやった以上、更なる追及はしにくい。僕たちとしては、彼女らに暴走されるのが一番困るわけだからな。(彼女らの価値観に基づいて)自主的に責任を取ったというのに、こちらがそれを無視すれば当然いい気はしないはずだ……。はあ、全く面倒な。

 

「要するに、手違いと現場の暴走。これが重なった結果が、この襲撃事件だということか」

 

 それから、三十分後。領主屋敷の会議室で、僕たちは事件の経緯の説明を受けていた。大きな机をを挟み、西側に僕やソニア、ジルベルト、それに騎士や文官などが並び、反対側にエルフやカラス鳥人で構成された新エルフェニア代表団という夫人である。

 ダライヤ氏によれば、今回の事件は"正統"に強い敵意を持つ軍内部のグループが勝手に攻撃作戦を実行し、そこへ運悪く僕たちが居合わせた……という経緯で発生したらしい。本来なら攻撃を中止すべきだったのだろうが、現場の人間が男を見て興奮したせいで話がややこしくなったようである。

 まあ、僕を殺したところでダライヤ氏にメリットはないからな。一応、この説明で納得しても良いだろう。とはいえ実際のところはわからんがね。ダライヤ氏がシロでも、その部下はクロかもしれない。"新"内部に僕たちのことが気に入らない一団がおり、妨害工作を仕掛けてきている……そういう可能性もあるからな。

 

「その通り。そちらを害そうなどという意図は、微塵もなかったのじゃ。そもそも、"正統"の拠点にまさかブロンダン殿本人がいるなど、予想すらできなかったわけじゃし……」

 

 塩を振りかけられた青菜のような態度で、ダライヤ氏が釈明する。こりゃ、そうとう参ってる様子だ。他人事ながら、さすがに可哀想になって来たな……。言うことを聞かない部下たち、刻一刻と減っていく食料庫の中身……為政者としては、ほとんど最悪と言っていい状況だ。そんな中で国をかじ取りしていくのは、尋常な労力ではあるまい。

 

「この程度では誠意が足らんというのなら、ワシが全裸で土下座しても良い。じゃから、どうか許してはくれんじゃろうか……?」

 

 会議机に頭をこすりつけながら、ダライヤ氏はそう懇願する。……いや、全裸土下座はやめてくれよ。好みド真ん中の女性が全裸土下座してる姿なんて、普通に見たくないだろ。

 

「新エルフェニア皇帝たるダライヤ殿がそこまでおっしゃられているのだ。これでいや許さぬといえば、むしろこちらが狭量とそしられることになるだろう。そうだな、ソニア」

 

「ええ、不幸な事故だったということで」

 

 ソニアはシレっとした顔で頷いた。生首を受け取った直後にこういう態度を取れるのだから、やはり我が副官の肝はなかなかに太い。

 

「んむぅ……」

 

 一方、新エルフェニア皇帝と呼ばわりされたダライヤ氏は何とも言えない表情でうめき声を上げた。彼女は、自分の立場をたんなる長老だと偽っていたわけだからな。そりゃあチクリと一刺ししておきたくもなる。

 ダライヤ氏がなぜそんな嘘をついていたのかはわからないが、とにかくこちらも独自の情報源を持っていることをアピールしておくに越したことはない。いつまでもお前の手のひらの上で踊り続けたりしないぞ、という意思表示だ。

 

「しかし、そちらの国内がこれほど不安定な状況では、食糧支援を行うのは難しいぞ。こちらの輸送隊の安全が確保できないからな」

 

「そ、そんた……」

 

 "新"代表団たちの顔色が変わった。なにしろ、彼女らはメシを求めてこちらに接触してきているわけだからな。はっきりと「食料を送るのは難しい」などと言われてしまえば、非常に困ったことになってしまうだろう。

 

あなた(あた)方が、わざわざ危険を冒す必要はあいもはん。安全な場所で物資を受け渡してもれれば、あとは我々がなんとかすっで」

 

 代表団のカラスがそう主張した。もっともな意見だが、僕は首を左右に振る。

 

「いいや、輸送は僕たちがやる。君たちに物資を渡しても、"正統"の集落までは届けてくれないだろう?」

 

「アルベールどん! 叛徒どもん肩を持つ気か!?」

 

「あんわろらは逆賊ど。飯などやらんでん良か!」

 

 僕の主張に、エルフたちがざわついた。そりゃそうだろうな。"新"から見れば"正統"は憎い敵でしかない。そんな連中にまで食料を送るといえば、気分はよろしくなかろう。

 でも、こちらとしてはそういうわけにはいかないんだよな。"新"だけに肩入れして、"正統"が滅んでしまうという事態は絶対に避けなければならない。エルフたちが一枚岩になり切れていない現状は、こちらにとっては随分と有難いものだからな。

 ……いやまあ、"新"単体で見ても、一枚岩とは言い難い状態だけどな。ぶっちゃけ、"正統"が滅んだら滅んだで、今度は"新"が分裂してしまいそうな気配はある。それはそれで困るんだよ。状況がコントロールできなくなるし。

 

「皆の衆、落ち着け」

 

 エルフ代表団の中で唯一平静な態度を保っているダライヤ氏が、部下たちを諫めた。

 

「アルベール殿は、むやみに戦乱を煽るよう不埒な輩ではないじゃろう。"正統"にも食料を送るというのも、なにか考えがあっての事のように思える。まずは、話を聞いてみることにしようではないか」

 

「ううむ、大婆様がそうおっしゃらるっんであれば……」

 

「まあ、話だけは聞いてやってん良かが。……納得すっかどうかはさておき」

 

 ダライヤ氏のおかげで、エルフたちは不承不承と言った様子で矛を収めてくれた。……このロリババア、僕が"正統"にも手を貸す腹積もりであることを予想してたみたいだな。

 まあ、エルフたちが話を聞いてくれる姿勢になったのはありがたい。とりあえず、例の"正統"移住計画について"新"に提案してみることにしようか。なにしろ、この計画は総勢五百名が"新"の勢力圏を突破してこちらの領地にやってくるわけだからな。"新"が納得してくれないことには、実行不可能だ。

 

 


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