異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第235話 くっころ男騎士と愚痴

 第三回の会議は、夕方ごろまで続いた。途中から"正統"の連絡員も会議に参加したのだから、まあ激論にならないはずがない。しかし停戦云々は"新"や僕たちだけの意向では実現しないからな。これは仕方のない話だ。

 疲労困憊になるような激しい会議だったが、それでもなんとか停戦は実現した。それも、まるまる半月だ。つまり、こちらの要望がすべて通ったという事である。代表団のエルフたちは随分と抵抗していたが、ダライヤ氏の援護射撃もありなんとかなんとか要求を通すことに成功した。

 さらにはその停戦期間中に僕とダライヤ氏、そしてオルファン氏らが直接会って三者会談が行われることも決まった。これは大きな進展と言っていいだろう。"新"と"正統"の和平成立への第一歩だ。まあ、今後も紆余曲折があるだろうから、あまり油断はできないが……。

 

「お疲れ様じゃ、ブロンダン殿」

 

 その夜。僕はダライヤ氏をサシ飲みに誘っていた。半ば、お互いに対する慰労会のようなものである。彼女の方も、喜んで応じてくれた。やはり、エルフという種族はかなりの酒好きである。

 ダライヤ氏の差し出してきた酒瓶から芋焼酎を注いでもらい、お返しに僕はブランデーの水割りを渡してやる。軽く乾杯して、酒をごくごくと飲む。ああ、芋くさい。これだよこれ。酒飲んでるなーって感じだ。

 

「いやはや、一時はどうなることかと思ったが、なんとか穏当な方向に軌道修正できてよかった」

 

 深いため息を吐きながら、僕はボヤく。"正統"の集落で襲撃を受けた時は、最悪の場合交渉の決裂すらあり得ると考えていた。幸いにも"新"が迅速に対応してくれたおかげで、事なきを得たがね。……それはそれとして、いきなり生首を手土産に持ってくるのはどうかと思うがね。

 

「まこと、その通りじゃ。まったく、すまんのぅ……うちの若いモンが。ハァ……」

 

 そう語るダライヤ氏の表情はひどくくたびれている。国内の調停で相当神経をすり減らしてしまった様子であった。妖精めいた神秘的かつ可愛らしい容姿のロリが修羅場続きのサラリーマンみたいな顔をしているのだから、ギャップが凄い。

 

「言うことを聞いてくれないか、部下たちは」

 

 相手は皇帝陛下である。敬語を使った方がいいんじゃないかと思いつつも、僕は平素と変わらぬ口調で問いかけた。……本当に、どういう態度で接したらいいのか困るなあ。領主としてはあまりへりくだった態度をとるわけにはいかないし、さりとて礼を失するのは不味いし。

 

「聞かん聞かん。ぜーんぜん聞かん!」

 

 ダライヤ氏は左手をブンブン振り回してそう言ってから、ブランデー水割りを一気に飲み干した。……高いんだぞその酒は! リケ氏といいこの人といい、美酒をなんだと思ってるんだ。

 

「長老で皇帝なのに……」

 

「そもそもエルフの価値観では、長老なぞたんなる死にぞこないじゃ。別に特別尊敬されるわけでもない……」

 

 唇を尖らせながら、ダライヤ氏が酒杯を突き出してくる。すこし苦笑しながら、水割りのお代わりを注いでやった。この水割りは、昨日作っておいたものだ。その場で作ったものよりも、アルコールのトゲが少なく飲みやすい。前割りという主砲である。

 

「そして皇帝などといっても、所詮は謀反で手に入れた地位じゃ。あの跳ね返りどもに言うことを聞かせるには、権威が足りぬ。ワシとて状況が許すなら、大鉈(おおなた)を振るって綱紀粛正を図りたいところなんじゃがのぅ」

 

「頭領というのは、なかなかままならないものだなあ。僕も、領主がこれほど不自由な立場だとは思わなかった……」

 

 ガレアの宮廷騎士隊長をやっていたころの方が、よほど自由だったような気がする。僕はなんとも言えない心地で炒り豆を口の中に投げ込み、芋焼酎で流し込んだ。

 

「オヌシもなかなか難儀をしとることじゃろう。大変じゃのぅ」

 

「あなたに比べれば、だいぶマシだろう。僕はいい部下に恵まれているし……」

 

 ソニアにしろジルベルトにしろ指示にはキチンと従ってくれるし、僕の方が間違っている場合はキチンと指摘してくれる。彼女らは理想的な部下と言っていい。

 それに比べてダライヤ氏は大変だ。なにしろエルフどもは反骨心と闘争心のカタマリであり、ほとんど生きた爆弾のような連中だ。こんなヤツらをまとめようとするのは、並大抵のことではあるまい。

 

「確かにそうかもしれぬが、ワシはウン百歳の年寄りじゃ。五、六歳くらいのブロンダン殿とは経験の量が違う。その若さで良く頑張っておるよ、オヌシは……」

 

「ちょっと待って、僕はそこまで若くない」

 

 あとアンタもウン百歳どころか千ウン百歳だろ! わざとなのかボケてるのかは知らないけどサバ読み過ぎだぞ!!

 

「えっ、じゃあ何歳なんじゃ」

 

「二十くらい……」

 

「大して変わらんじゃろ五年も二十年も」

 

「だいぶ違うよ!」

 

「そ、そうか……ウムムム……」

 

 ダライヤ氏は何とも言えない表情で水割りブランデーをすすった。まったく、これだから長命種は。時間の感覚が我々と違いすぎてビビる……。

 

「ワシからすると、オヌシら只人(ヒューム)はパッと咲いてパッと散る儚い花のような生き物じゃからなあ。なんともかんとも……この感覚の差は埋めがたいのぅ」

 

 桜みたいな生き物だな、僕たち。いやまあ、彼女の主張はわからなくもないが……。

 

「まあ何にせよ、ワシとオヌシではおかれている立場や状況が違いすぎる。比較は無意味じゃ。ブロンダン殿が尋常ならざる苦労と努力の末に今この場所に居るのは事実なのじゃから、胸を張ってもバチはあたるまいて」

 

「ハハハ……あなたほどの人物にそこまで言ってもらえると、流石に嬉しいな」

 

 炒り豆をつまみつつ、僕は苦笑した。

 

「しかし、お互い頑張っているだのなんだの言いあって、これでは傷の舐めあいだなあ」

 

「傷の舐めあいで何が悪い! 頭領の苦労を理解できるのは頭領だけじゃ」

 

 そう言って、ダライヤ氏はその真っ赤な舌をベッと出して見せた。酒精が回って顔色が良くなっているせいか、なんだかエロく見えてしまう。

 

「まあ、ブロンダン殿が許してくれるのなら、傷以外の場所も舐め合いたいものじゃがのぅ。わははは」

 

 全然オッケーでーす。僕もロリババアと全身の舐めあいしてぇなあ……。この人とはできるだけ仲良くやっていきたいし、あわよくば深い関係になれないかな……? 結婚とかできれば、"新"との関係改善も期待できるし……。

 いやでもブロンダン家の跡取りはどうするんだよという問題がな。次代のブロンダン家の当主はエルフですとかいう事態になったら、たぶん母上がキレるからな……。やはり、嫁は只人(ヒューム)じゃないとマズイ。はあ、えり好みできる立場でもあるまいに、どうして結婚相手の種族なんかを気にしなきゃいけないんだよ。

 

「アル様、アル様。なにやら不埒な単語が聞こえたような気がするのですが、大丈夫でしょうか?」

 

 などと考えていると、突然部屋のドアがノックされてそんな言葉をかけられた。ソニアの声である。僕とダライヤ氏は、同時に肩を震わせた。ソニアの声音に物騒な雰囲気を感じ取ったからだ。

 

「い、いや、気のせいだろう。リースベンとエルフェニアの建設的な未来について話し合っているんだよ、僕たちは」

 

「そ、そうじゃそうじゃ! 真面目な話題じゃから、何も心配する必要はない!」

 

 こういうセクハラは大歓迎なんだけど、当然ながら生真面目なソニアは絶対に許してくれない。守ってくれるのはありがたいが、流石に過保護過ぎやしないかねえ、まったく。

 ……セクハラといえば、我らがアデライド宰相閣下は今頃どうしているんだろうか? 暇をしているようなら、そろそろご助力をお願いしたところなんだがな。私人としては好ましいダライヤ氏だが、交渉相手としては僕の手には余る。タヌキにはタヌキをぶつけたいところなんだが……。


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