異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第244話 くっころ男騎士と襲撃

 襲撃を仕掛けてきたのは、十数名の虚無僧エルフ兵である。対するこちらの戦力は、僕を入れて騎士が六名。従者・従兵は戦力にならないので除外だ。

 敵がたんなる雑兵であればなんとでもなる人数差ではあるが、服装から見て相手はエルフだ。彼女らの戦闘力の高さを考えれば、一対二の戦力差は辛いものがある。僕は大木を盾にして虚無僧エルフ兵の矢弾を防ぎつつ、部下たちに指示をした。

 

「従兵たちは後方へ退避! 騎士隊は発砲を許可する。装填急げ!」

 

 我がリースベン軍には後装式のライフル銃も配備されているが、これはあくまで試作品であり、実際の主力は従来型の先込め式ライフル銃だ。護衛の騎士たちが持っているライフルもその例にもれず、彼女らは慣れた手つきで銃口から火薬や銃弾を装填し始めた。

 慣れた人間であっても、先込め式の装填にはそれなりに時間がかかる。それが終わるまでじっとしているのも面白くないので、僕は拳銃を抜いた。しかし、ジルベルトは僕の肩を叩いてそれを制止する。彼女は首を左右に振ってから己の拳銃を抜き、木陰からリボルバーだけ突き出してエルフ集団に向けて連続で発砲した。

 むろん、そのような打ち方では命中弾など期待できない。しかし、牽制としては十分な効果がある。派手な銃声と白煙に驚いたのか、相手の射撃の手が一瞬止まった。

 

「装填完了!」

 

 そして僕の騎士たちは、みな熟達した射手でもある。それだけの時間があれば、初弾の装填も完了する。僕は躊躇なく「打ち方用意!」と叫んだ。騎士たちが木陰から身体を出し、銃を構える。「打て!」の命令と共に、彼女らは一斉に引き金を引いた。

 滑腔銃(銃身に螺旋溝を掘っていないタイプの銃)であれば数を揃えて一斉射撃をしなければとても命中など見込めないが、我々の装備しているものはライフル銃である。この程度の数でも、十分に効果を発揮する。複数の銃声と白煙が上がるのとほぼ同時に、虚無僧エルフ兵数名が悲鳴を上げて地面に倒れた。

 

「再装填!」

 

 再び木陰に引っ込んできた騎士たちが、スムーズな手つきで再装填を始めた。さく杖(銃身に弾を押し込むための棒)を使うカツカツという音が、周囲に響き渡る。

 

「主様」

 

 ふたたび、ジルベルトが僕の肩を叩いた。しかし、今度は制止するためではない。彼女は大木の根元に幾本(いくほん)も転がっているエルフの矢を指さした。

 

「連中の矢には、ヤジリがついていないようです」

 

「むっ……」

 

 言われてみれば、確かにヤジリがついていない。これでは、矢羽根のついたただの棒だ。むろんエルフの使っている弓はなかなかの強弓だから、こんな代物でもある程度の殺傷力はあるだろうが……攻撃が目的ならば、わざわざこのような真似はすまい。

 

「……なるほど、警告か」

 

 おそらくだが、この襲撃は僕の命を狙ったものではない。和平仲介の意志を削ぐための警告、牽制の類だろう。そうでなければ、わざわざ殺傷力の低い武器を使って攻撃してくる理由がない。

 そうなると、こちらに脅威を与えただけで相手の目標は達成されたことになる。反撃をせずとも、退いてくれるのではないだろうか。そう考え、虚無僧エルフ兵の方をうかがうと……確かに攻撃の手は緩まっている。例のボロ馬車を盾にしつつ、撤収の準備をしているようだった。

 

「一人か二人は捕虜を取って、相手の真意を確かめたいところだが……」

 

 戦力的には、相手の方が優位なんだよな。こんなところで、貴重な部下の命を失うわけにはいかない。もちろん、己の命もだ。このまま退いてくれるのであれば、いっそ見逃した方がよいのではないだろうか?

 

「これだけカマしておいて、無事に帰ろうなどと……! 許せるものではありませんね」

 

 が、ジルベルトは不満げな様子である。フルフェイスの兜を被っていてもわかるほど、彼女は怒気をあふれ出している。なんでこんなに怒っているのだろうか? やはり、告白を邪魔されたからか? ……やっぱ、告白だよなあアレ、たぶん……。

 いかんいかん、実戦の最中に余計なことを考えていては、勝てる戦も勝てなくなるぞ。僕は己の頬をパチンと叩いた。反撃を望むジルベルトの気分はわかるが、今は安全が第一だ。とりあえず、諫めておこうか。そう思って、口を開いた瞬間だった。

 

「アル様、新手です!」

 

 装填を終えた騎士の一人が、そう叫んだ。彼女の指さした先には、畑のウネの間を猛烈なスピードで疾走してくる集団が居た。ポンチョに深笠という怪人ルックな虚無僧エルフ兵と違い、こちらは暗緑色の装束を身にまとっている。遠いせいで良く見えないが、こちらも布で顔を隠しているようだ。

 

「敵の増援? いや、これは……」

 

 覆面兵の向かう先はこちらではなく、虚無僧エルフ兵たちのほうだった。彼女らは足を止めることなく弓を構え、矢を射かける。虚無僧エルフ兵は慌てて荷馬車を盾に身を隠した。……こいつら、エルフ兵にしちゃ判断や動きがトロ臭いな?

 

「あんな変な格好の連中、わが軍に居たか?」

 

「いえ……覚えがありませんね」

 

 ジルベルトも首を左右に振る。虚無僧どもは敵だから正体不明でも不思議ではないが、あの覆面どもはそうではない。味方……とは言わずとも、少なくとも敵ではないようだ。だが、何者かがわからない以上は油断できない。

 

「打ち方待て」

 

 部下たちにそう命じてから、僕は腰のポーチから望遠鏡を引っ張り出し、謎の覆面どもを観察した。明らかに森での迷彩効果を狙ったものとわかる動きやすそうな濃緑の装束に、同色の覆面。虚無僧笠によって頭が時代劇方向に引っ張られているせいか、どうにもニンジャっぽさを感じてしまう。そして、その耳は今となってはすでに見慣れた笹穂状の長いものだ。

 

「エルフの……忍者?」

 

 ボソリと僕が呟くのとほぼ同時に、エルフ忍者集団の先頭を走っていたヤツが手裏剣っぽい何かを虚無僧エルフが隠れる荷馬車へと投げつけた。黒光りするそれはボロ荷馬車の荷台に突き刺さり、突然爆発する。どうやら、魔法の手裏剣だったようだ。

 

「グワーッ!」

 

 爆発の規模は大したものではなかったが、明らかに年代物とわかるその荷馬車は一撃で崩壊してしまった。泡を食った様子で逃げ出す虚無僧エルフたちに、忍者エルフたちが一斉に襲い掛かった。

 両者の練度は残酷なまでの差があった。エルフ特有のあの山刀(そう、山刀である。例の木剣ではない)を抜いて迎撃しようとする虚無僧エルフたちだったが、忍者エルフたちは弓や木剣を巧みに扱い、あっという間に彼女らを制圧してしまう。戦闘というよりは虐殺といったほうが近い、圧倒的な戦いぶりだった。

 

「わけのわからん連中に襲い掛かられたと思ったら、今度は訳の分からん連中に助けられた……」

 

 マジで何なんだろうか、このトンチキ連中は……。

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