異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第254話 くっころ男騎士と河川警備艦マイケル・コリンズ号

 それから数日後。僕はソニアとフィオレンツァ司教を連れ、カルレラ市のすぐ隣を流れる大河、エルフェン河のほとりへとやってきていた。カルレラ市の水源でもあるこの川には小さな川港が築かれており、漁船らしき川船がいくつも係留されていた。

 今日から僕たちは、三者会談に出席するため"新"の集落へ旅立つ予定だった。すでに荷物や人員の準備も整え、あとは出発するだけという状態である。

 

「ほう、これは……随分と大きな川ですね」

 

「ええ。水量だけなら、王都のセイル川にも負けないでしょう」

 

 フィオレンツァ司教の言葉に、にっこりと笑って僕はそう返した。……ただ、大きいわりにあんまり魚がいないんだよな、この川。小魚はまあ多少取れるんだが、王都でよく食べられているカワマスのような食いごたえのある魚はまったくいない。

 どうも、そういう魚は旧エルフェニア崩壊期に絶滅してしまったらしい。せっかく川があるのに食料源としてあまり役に立たないのは、非常に残念な話だ。

 

「これだけ水が多ければ、かなり大きな船であっても運用が可能です。エルフの二勢力に供給される食料は、すべてこの川を使って輸送される予定になっております」

 

 しかし、川の価値というものは魚だけにあるわけではない。むしろ、輸送手段としての利用の方が本分と言える。剣と魔法のこの世界には、トラックなんてものは存在しないからな。陸上輸送の主役は、荷馬車である。

 だが、当たり前だが一台の荷馬車で運べる荷物の量など限られているからな。どうにも使い勝手が悪いのは事実である。しかし、船を使うことができれば、この辺りの問題は一挙に解決する。トン単位の輸送も容易に行うことができるのが、河川交通のメリットだ。

 

「ええと、二勢力というと……"新"と"正統"でしたか。エルフの方々も、なかなか難儀をされているようですね」

 

 沈痛な面持ちで、フィオレンツァ司教が川下を見やる。慈悲深い人情味のある彼女のことだ。食い詰めて蛮族と化してしまったエルフの現状には胸を痛めずにはいられないんだろう。

 

「……」

 

 そんな彼女を、何とも言えない表情でソニアが見ている。先日はジルベルトともども完全にダウンしていた彼女だったが、流石にもう体調も回復し、顔色もすこぶるよろしかった。

 この二人が揃ってあんなことになるとは……流石に少々驚いた。まあ、ソニアの方はジルベルトに付き合ってくれただけだろうが。……しかし、本当にどうしたもんかね、ジルベルトは。考えても考えても結論が出ないので大変に困る。僕個人としては、彼女は非常に好ましい女性であるのは確かなんだが……。

 

「それで……あの船が、今回の旅に使うという?」

 

 フィオレンツァ司教の声で、僕はハッと我に返った。そうだ、今はボンヤリしている暇はない。

 

「ええ、その通り。マイケル・コリンズ号、わがリースベンの水上戦力第一号です」

 

 川港に係留されている中でも、ひと際大きな川船を指さして僕は胸を張った。……大きいと言っても、周囲の漁船やボートに比べてのことだけどな。ガレアの西部や南部の港に停泊している商船群から比べれば、はるかに小さい。まあ水深の浅い河川で運行することを前提に設計されたものだし、なにより数か月という短期間で建造された代物なので、仕方のない話なのだが。

 この船は、もともとエルフェン川上流の山脈で建設が進んでいるミスリル鉱山との航路を保護するために建造されたものだ。最低限の機動性を確保するために帆装も備えているし、野盗や海賊……ならぬ河賊を追い払える程度の火器も装備されていた。

 砲艦外交を行うには少々小さすぎるものの、エルフたちに対しても多少の威圧効果を発揮できればいいなあ……などと僕は考えている。

 

「"新"および"正統"との三者会談には、この船を使って向かいます。もちろん、船倉に食料を満載してね」

 

 三者会談の会場である"新"の集落には陸路でも向かうことができるが、当然この集落とカルレラ市の間には街道など整備されていない。徒歩ならなんとか踏破できるが、荷馬車の通行は難しい。……というか、不可能だ。

 そこで、僕は就役したばかりのこのマイケル・コリンズ号を足として使うことにしたわけである。これなら人員と物資の輸送を同時に行うことができる。一石二鳥の方策であった。

 

「なるほど、船旅ですか。久しぶりなので、楽しみですね」

 

 感心した様子で、フィオレンツァ司教は頷く。船旅といっても、どちらかといえばジャングル・クルーズに近い代物になるだろうがね。とはいえ、労せず冒険気分が味わえるのは確かだ。

 ……冒険気分というか、マジで冒険なんだけど。先日の襲撃を思えば、反"正統"派が和平仲介や"正統"に対する食料供与の妨害工作を仕掛けてくるのは確実だし。

 

「ただ、エルフたちも一枚岩ではありませんから……かなり高い確率で、襲撃を受けるものと思われます。むろん我々も総力を結集して御身をお守りいたしますが……」

 

「問題はありません。その程度の覚悟はしたうえで、わたくしはこの場に立っているのです」

 

 真剣な顔でそう言った後、司教は悪戯っぽく笑った。

 

「それに、アルベールさんと戦場を共にするのは、初めての経験ではありませんし……ね?」

 

 確かに、王都の内乱ではフィオレンツァ司教も僕と一緒に戦場に出ていたわけだからな。直接戦闘には参加しなかったものの、すでに実戦は経験済みなのである。彼女の度胸はホンモノだ。

 

「ふん……」

 

 一方、面白くなさそうなのがソニアだ。彼女は、己が王都内乱に参加できなかったことを、いまだに根に持っているらしい。まあ、フィオレンツァ司教への対抗心もあるのだろうが……。

 

「ハハハ……そうでしたね。まあ、今回もどうぞ大船にのった心地でお任せください。まあ、実際は大船どころか小舟なんですがね」

 

 小さく笑ってから、僕はマイケル・コリンズ号が接弦している桟橋を指す。

 

「さあさあ、どうぞご乗船を。内部をご案内いたしましょう」

 

 こうして、僕たちの船旅が始まった。


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