異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第256話 義妹騎士と見張り任務

 私、カリーナ・ブロンダンは、友人たちと密談していた。場所は、マイケル・コリンズ号のメインマスト(とはいっても、この船にはマストは一本しかないけど)の先端に設けられた見張り台だ。私たちは、この場所で見張りをするよう命じられていた。

 時刻は真夜中……というか、すでに早朝と言っていいような時分だ。とうぜん、周囲はまだ真っ暗。夜目のあまり効かない牛獣人にはやや辛い時間帯だけど、まあ私は正規の見張り員にくっついて来ただけだから、あまり困ってはいない。

 

「それでね、辺境伯様は自分とソニアの仲直りを手伝えって言うのよ。だいぶ無茶でしょ!?」

 

 視線を周囲の水面に向けつつ、私はそう熱弁する。この船は今、クルーの就寝のため川のド真ん中に錨を降ろして停泊中だった。そういう状況だから、周辺警戒にはたいへんに気を使っている。そりゃ、泊ってる状態で攻撃を受けたら大事だから、当然のことね。

 ちなみに、見張り台には私を含めて四人もの人間が詰め込まれていた。一人は私の子分、リス獣人のロッテ。さらに同年代ということでつるむことの多いコレットという竜人(ドラゴニュート)の新兵。そして最後に、近頃森林戦教官としてリースベン軍にやってきた、レナエルという名前の狐獣人の猟師だ。

 この頃の私は、このレナエルに師事しながら森林戦の訓練を受けていた。相手は平民だから口に出さないけど、内心は先生って呼んでる。このレナエル先生がコレットと一緒に見張りに出るということで、私もロッテと一緒に参加させてもらったというワケ。……この見張り台は内緒話にはもってこいの場所だからね。

 

「やっぱ厳しいッスよ、ソニア様は。なんか気に入らないことをしたら、ハエを潰すみたいな気軽さで叩き潰されそうな恐ろしさがある」

 

 ロッテが声を震わせながらそう言った。確かに、ソニアはめちゃくちゃコワイ。スゴイ美人なのに目つきはやたらと悪いし、しかもかなり暴力的。実の母親である辺境伯様の関節をひっこ抜いたこともあると、辺境伯様本人が言っていた。

 いや、何なの母親の関節を抜くって。私ならどんなにブチ切れても、親にそんな真似をしようとは思わないわよ。怖すぎでしょ。戦場での印象も相まって、私はソニアの前に立つだけでおしっこを漏らしそうになる。

 

「そうそう。見た目も怖けりゃ中身も怖いのよ、ソニアは。正直近づきたくもないわぁ……」

 

 月の光に照らされてきらきらと輝く川面(かわも)を見ながら、私はため息をついた。そのおっかないソニアと辺境伯様を仲直りさせなきゃスタートラインにすら立てないんだから、我ながら困難な恋路に足を踏み込んじゃったもんだわ。今さら後戻りもできないし。

 

「で、でも、意外とソニア様はお優しい方ですよ」

 

 そんなことを言うのは、新兵のコレットだ。彼女は一揃いの魔装甲冑(エンチャントアーマー)に身を包み、腰には立派な長剣を佩いている。一見それなりに裕福な見習い騎士のような装いだけど、実のところ彼女はたんなる平民の一兵士だ。

 実は、コレットはリースベン戦争でお兄様を庇い、大怪我を負ったらしいのよね。この甲冑は、その返礼として下賜されたというハナシ。一見気弱そうな彼女だけど、どうもなかなかガッツがあるらしい。

 

「この剣も『アル様を守ってくれた礼だ』って、ソニア様に個人的に贈って頂いたモノですし……」

 

「えっ、そうなの!?」

 

 私は思わずコレットの方を見た。言われてみれば、なかなかに立派な剣だ。魔法もかかっているらしい。売り払えば、ちょっとした屋敷が買えるくらいのカネにはなるんじゃないかしら。

 ……正直、私の剣よりいいヤツじゃない? アレ。私が今使ってるの、デジレ母様のお下がりのサーベルだし。一応魔法剣ではあるけど、予備として持っていた代物らしくかなり安っぽいのよね、コレ。うわあ、羨ましいなあ。

 

「でも、それはソニア様は城伯様のこととなると突然甘々になるってだけのハナシじゃないッスか?」

 

 ロッテが唇を尖らせながら言った。ううーん、確かにそれはありそう。ソニアはお兄様に関することとそれ以外で露骨に判断基準が変わるタイプだし……。忠犬というか、狂犬というか。いやまあ、犬じゃなくて竜なんだけどね。

 

「い、いやでも、たぶん……見た目ほど冷たい方じゃあ、ないと思うんですけどね? ソニア様は……」

 

 しかし、コレットの意見は変わらないようだ。彼女は遠い目をしながら、そんなことを呟く。

 

「ううーん」

 

 私は思わずうなってしまった。何にせよ、あの難物を攻略しないことには、私はお兄様と一夜を共にすることもできないのだ。それは嫌だ。とても嫌だ。私は今すぐにでも、お兄様を寝床に押し倒して鳴かせてみたいんだからね。

 

「……結局のところ、ソニア様とある程度仲良くならないことには、本題に入ることすらできないのでは」

 

 それまで黙って見張りに専念していたレナエル先生が言う。ぶっきらぼうな口調だけど、別に私たちがうるさいから不快に思っている……というワケではないハズ。彼女はいつだってこういう言い方をするからね。

 

「難しい獲物を仕留めるときは……いっそ相手の懐にぐっと踏み込んで、致命的な一撃を叩き込む。……そういう作戦も、有効だったりします」

 

 視線を遠くへ固定したまま、レナエルは腰に下げた大ぶりな狩猟用ナイフを叩く。なるほど、猟師らしい意見ね。

 

「……確かに。どうにかこうにか、ソニアとオトモダチになれないか頑張ってみるほかないかなぁ」

 

 敵を知り、己を知れば、ナントカカントカ。お兄様も軍学の講義でそう仰っていた。やはり、勇気を出して一歩踏み込むしかないか。……ソニアとお友達に、か。年齢も離れてるし、どうしたものかなあ。ううーん、いっそお兄様に聞いてみるのもアリかもね。幼馴染同士なんだから、攻略法くらい知ってるかも。

 

「……というか、カリーナ様は……それほど怖い思いをしてでも、城伯様と、その……添い遂げたいわけですか?」

 

「そりゃあそうよ! あんなエロくて格好良くて可愛くて性格の良い男、他に居ないもん!」

 

 レナエル先生の問いに、私はビシリと答えた。

 

「え、エロいって……」

 

「エロイわよ! エロいでしょ」

 

「エロいッスね」

 

 子分のロッテは即座に頷いた。なにしろコイツは私と一緒にお兄様にシゴかれていることがよくあるからね。薄着で運動するお兄様のドスケベボディを間近で楽しむ機会も多い。そりゃ、エロい以外の感想は出ないでしょ。

 

「……」

 

「……」

 

 レナエル先生とコレットが、そろって無言になった。見張り中だから顔こそこちらには向けていないけど、呆れた表情を浮かべているのは気配だけでもハッキリと分かった。

 

「なによぉ、アンタら。一階、お兄様との格闘訓練に参加してみればいいのよ」

 

「格闘訓練?」

 

「そう! 組打ちや関節技の訓練なんか、最高よ! ぎゅーっと抱き合って、お尻もさわり放題! オカズには困らないわよっ!」

 

「く、組打ち!? 寝技!?  密着!?」

 

 珍しく、動揺したような声を上げるレナエル先生。いくらクールに見えても、そりゃあ男のカラダに興味津々の年頃だからねぇ。こんなことを言われたら、気にならない方がどうかしてるわよね。

 

「良い考えッスね! 猟師ったって、格闘の心得はあっても損はないッスよ。ぜひとも一緒に訓練するッスよ……城伯様と一緒に!」

 

 こういう時、イの一番に調子に乗るのがロッテだ。「そ、そんな……」と焦るレナエル先生に、思わず私は笑みをこぼし……

 

「んっ!?」

 

 視線の先に、複数の動くものを見つけた。川の上流の方だ。しかし、牛獣人はまったく夜目が利かないので、その正体まではわからない。

 

「レナエル、あれって」

 

 そちらを指さしてレナエル先生にそう聞くと、彼女は望遠鏡を引っ張り出して目に当てた。

 

「小舟だ……人が乗ってる」

 

 小舟!? こんな、周囲に集落なんてない森のド真ん中で!? そんなの、どう考えても普通じゃない。レナエル先生も同感らしく、焦った表情でマストにひっかけられているハンマーを引っ掴んだ。そして、備え付けの小さな半鐘を思いっきり叩く。

 

「敵襲! 後方より敵と思わしき一団が接近中!」

 


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