異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第26話 くっころ男騎士と歓迎会

 諸注意・報酬の分配などをしたあと、傭兵たちはすぐに宿営地がわりの民家へ向かってもらった。傭兵団は兵員だけで百人以上、サポートの人員も入れると結構な数になる。この数の人間を屋根のある場所で寝泊りさせようと思えば、民間人に協力を頼む他ない。

 泊めてもらうための謝礼金、傭兵たちが問題を起こさないよう衛兵を集中配置する手間……ずいぶんとコストがかかったが、テント暮らしを強いた場合に想定される士気の低下を思えば、必要経費と割り切るほかない。

 

「いい湯だった。ありがとう」

 

 傭兵たちを宿営予定の民家へ向かわせた後、僕は傭兵隊長ヴァレリーを含む傭兵団幹部を代官屋敷へと案内した。流石に士官待遇の人間を麦藁の即席ベッドで寝かせるわけにはいかないからな。

 せっかくなのでついでにちょっとした着任歓迎会を開くことにしたが、なんといっても彼女らは戦場帰りだ。血と汗のにおいを流すため、風呂に入ってもらった。有難いことに、この屋敷にはそこそこ広い浴場が備え付けられてる。

 

「気に入ってもらってよかった」

 

 ほかほかと湯気を上げるヴァレリー隊長に、僕はにっこりと笑い返した。傭兵団側の幹部連中は五人程度。この人数なら、代官屋敷の狭いダイニングルームでもなんとかもてなすことができる。

 

「ちょうど料理もできたところだ。フルコースとは行かないが、楽しんでもらえると有難い」

 

 ダイニングテーブルを指し示しながら言う。皿の上に乗っている料理は、ブタの生姜焼きだ。とはいっても、味付けの方はこの国特有のものだ。なにしろガレア王国には醤油がないからな。庶民のご馳走、くらいのポジションのメジャーな料理だったりする。

 代官が客人をもてなす料理としては若干貧乏くさいメニューなんだが、なにしろこちとら金がない。戦争準備で大散財しているので、見栄に回す金すらケチる必要が出てきた。貴族はメンツ商売なので、かなり不味い状況だ。

 

「石みたいなビスケットやかびたチーズに比べればなんだってご馳走さ」

 

 そんなこちらの内情が推察できたのか、ヴァレリー隊長は思ったよりも好意的な表情で頷いた。そのまま席に着くと、給仕が現れて盃にワインを注ぐ。

 

「では、勇猛なる傭兵諸君の着任を祝って」

 

「乾杯」

 

 乾杯のあとはしばし、当たり障りのない話をしながらの食事が続いた。誰も彼もが、食事中に景気の悪くなるような話はしたくないのだろう。まあ、気分は分かる。僕もワインをちびちびと舐めながら、傭兵たちの話を聞いていた。話題は主に戦場の武勇伝だった。

 状況が動いたのは、宴もたけなわになったころだった。酒瓶を片手に近寄ってきたヴァレリー隊長が、僕の隣の席へ腰を下ろす。

 

「代官殿はなかなかいける口みたいだな。良い酒があるんだ、一杯どうだい?」

 

「ああ、いいじゃないか。お付き合いしよう」

 

 前世も今も、僕は酒が大好きだ。おまけに最近はいつ有事になってもおかしくない状況だったから、一滴もアルコールを摂取しない日々が続いていた。さすがに酔いつぶれるほど飲むわけにはいかないが、多少ならいいだろう。

 

「アル様」

 

 ソニアがちらりとこちらを見た。その目には、若干の懸念の色がある。おそらく、毒を警戒しているのだ。アデライド宰相が手配した傭兵とはいえ、オレアン公の息がかかった人物が紛れ込んでいる可能性もある。向こうが出してきたモノを飲食するのは危険だと言いたいのだろう。

 

「……」

 

 大丈夫だと、ソニアに視線だけで答える。毒を盛るつもりなら、もっと手っ取り早い方法があるからな。なにしろ、この屋敷で働いている使用人は前代官時代から変わっていないからな。毒を仕込むなら、そちらにスパイを紛れ込ませておくだけで済む。

 幼馴染だけあって、この辺りは以心伝心だ。ソニアは軽く頭を下げ、使用人に新しい杯を二つ用意するよう申し付けた。すぐさま、僕とヴァレリー隊長の前に真新しい銀杯が置かれる。

 

「アヴァロニアから取り寄せた逸品だ。気に入ってもらえるとおもうが」

 

 そう言って、ヴァレリー隊長は二つの杯に琥珀色の液体を注ぎ、さらに卓上の水差しをとって水を追加する。酒と水が一対一の割合の、いわゆるトワイスアップというやつだな。軽く乾杯して、それを口元に運んだ。花と洋ナシの香りの混ざったかぐわしい芳香が鼻に抜ける。口当たりはなめらかで、喉にスルリと入ってくる。

 ……割ってなお、アルコール度数はかなり高そうだ。味からして、おそらく熟成の進んだウィスキー。ストレートでもかなり飲みやすいタイプに思えるが、水で割っているせいでさらにアルコールのトゲがなくなっている。いわゆるレディ・キラー……いや、こちらの世界で言うならボーイ・キラーか。

 

「これは美味しいな。なかなかいい趣味をお持ちだ」

 

「そうだろう? 私のお気に入りでね」

 

 にこにこ笑いながらヴァレリー隊長は杯を掲げ、ぐっと一気に飲み干した。勿体ない飲み方をするな、こいつ。しかし、一気飲みをした割りに、顔色に変化はない。なかなか酒に強いタイプなのだろう。

 つられたフリをして、自分も杯をあおる。ニヤリと笑ったヴァレリー隊長は、即座に僕の杯に新しい酒を注いできた。

 

「さあさあ、どんどん飲んでくれ」

 

 ……どうやら、彼女は僕をべろべろに酔わせるつもりらしい。おそらく、酔って口が軽くなるのを期待しているのだろう。こちらの弱みを探ろうというハラか。よろしい、受けて立とうじゃないか。


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