異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。 作:寒天ゼリヰ
前世のぶんも合わせれば、僕の人生経験もそれなりに長いものになる。こちらを酔いつぶそうと目論んでいるアルハラ野郎(今回は女郎か)を逆に潰す方法も、それなりに心得ていた。
おだてて相手の警戒を解き、水や食べ物などの酒以外のモノを口にする隙を与えず、お酌と酒を飲んでいるフリで飲酒ペースを崩す。こうするだけで、結構な酒豪でも意外と簡単に撃沈してしまう場合は多い。
「キスしようぜ~。なあいいだろう~キスしてくれよ~」
そうやってヴァレリー隊長にがぶがぶ酒を飲ませ続けた結果、彼女はすっかり駄目な酔っ払いと化していた。「熱い!」とかぬかしてパンツだけになったあげく、僕に抱き着いて無理やり唇を押し付けようとしてくる。
この人、酔うと露出魔兼キス魔になるのか。腕に押し付けられる生乳の感触におののきながら、僕は驚いた。前世でこういう経験をしようと思えば、高いカネを出してそういうお仕事をしているお姉さんに頼む他ない。
いや、人生の春を謳歌している陽キャ連中はそうではないのだろが、残念ながら腐れキモオタの僕にはこういう機会は一度足りもなかった。なので、酔っ払い相手とはいえほぼ全裸の美女にベタベタされるのはむしろ嬉しかったりする。
「頼むよ~キス~! 減るもんじゃないだろ~」
「いや、ちょっと……」
唇を突き出し、ヴァレリー隊長は強引に僕に迫ってくる。相手は
「駄目に決まっているだろうが、この特級馬鹿め」
が、非常に残念なことにこちらには生真面目な副官が居た。無表情のまま額に青筋を浮かべたソニアが強引にヴァレリー隊長を引きはがし、投げ飛ばしてしまう。
「なんだこの女郎! やってやろうじゃねえかよ!」
しかし泥酔しているとはいえヴァレリー隊長も素人ではない。床に転がると同時に受け身を取り、バネ仕掛けのおもちゃのような勢いで立ち上がる。そのままファイティングポーズを取ると、ソニアを威嚇した。
「どうやら教育が必要なようだな。……アル様、ここはお任せを」
「あ、ああ。任せた」
ソニアとヴァレリー隊長の殴り合いが始まった。血の気の多い兵隊ではよくある話だ。僕の配下の騎士たちも、傭兵団の幹部たちも、酒を片手に応援を始める。
しかし、普通に残念だな。くそ、仕方ないか。そのうちヴァレリー隊長とサシ飲みできないかな。いや、サシ飲みだとキス以上のことを求められても抵抗しきれないぞ。私人としてはむしろ行けるところまで行きたいけど、公人としてはマズイ。
この世界においては、童貞にもそれなりの価値があるからな。場合によっては恋人や婚約者との婚前交渉すら責められるのに、そういう相手ですらない女性とヤッたら僕は淫乱扱いだ(そりゃその通りだが)。ただでさえマトモな相手にはモテないのだから、これ以上モテない要素を増やしたらいよいよ結婚の目がなくなってしまう。
「君たち、分かっているのかね? 未婚の貴族の男にあんなことをして……」
殴り合いの音を背に、アデライド宰相がひどく不満げな様子で言葉を吐いた。その目は完全に据わっている。
「も、申し訳ありません」
そう言って頭を下げるのは、傭兵団の副長だ。自己紹介によれば、名前はマリエル・ル・ジュヌ。眼鏡をかけた若い
「謝罪をするにしても、それなりの誠意というものが必要だ。わかるね? 男一人を傷物にしかけたわけだからな。それなりの責任が生じるわけだよ」
どの口でアンタがそれを言うんだよ! だったらアンタも責任を取ってくれよ! 内心そう叫んだが、まさか本当に口を出すわけにもいかない。僕は何とも言えない表情で、杯のウィスキーを口に流し込んだ。
「まあ、まあ。酒の席での多少の醜態は、見逃してやるのが情けというものですから」
「なに? じゃあ私が酔ってアル君にあんなことやこんなことをしても許してくれるのかね? ええっ!?」
アデライド宰相は、その長い黒髪を振り乱しながら僕に詰め寄った。許すよ! ウェルカムだよ! というか宰相は素面でもいい加減やりたい放題しているような気がするよ!
「あの、ところでその……その方は」
若干引いた様子のマリエル副長が聞いてきた。こんなところに宰相が来ていることをバラすわけにはいかないので、彼女の紹介はしていなかった。しかし代官である僕よりあからさまに偉そうなのだから、疑問を持つのも仕方のない事か。
「気のせいかもしれませんが、そのぉ……アデライド宰相閣下では?」
バレてるじゃねえか! テレビやネットのない世界だから、宰相とはいえ顔を知ってる人は政界関係者しかいないと思ったのに! いや、貴族出身なら知っててもおかしくないか。油断したな……
「気のせいだ。私は単なるアドバイザーに過ぎん。それより慰謝料をだな」
「そうだ、せっかくだから仕事の話をしましょうか。酒宴でするにはいささか面白みに欠ける話題ではありますが」
ここで傭兵団との関係がこじれても困る。僕はアデライド宰相の言葉を強引に遮った。彼女は不満げな様子で僕の脇腹を突っついてくるが、当然マリエル副長の方はこれ幸いと乗ってくる。
「ええ、ええ。我々も別に、お酒を頂きにまいったわけではありませんからね。よろしくお願いします。……ところで」
「はい?」
「……その、ずいぶんとお酒に強いんですね。ヴァレリー隊長も大概ザルみたいな飲み方する人なのに……」
そりゃ、半分くらい飲んでるフリしてただけだからな! せっかくの酒宴なのに、酒を楽しめないというのは不幸なことだ。好き勝手飲むのは戦勝パーティーまでお預けだろうなと内心ぼやきつつ、ぼくはしらっとした表情で答えた。
「まあ、それほどでも」