異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第274話 くっころ男騎士と元老院の惨劇テイクツー(2)

 ニ十分後。元老院の議場は、すっかり混乱のるつぼと化していた(襲撃が起きる前から混乱のるつぼだった説もある)。敵味方が入り乱れ、乱戦の様相を呈している。

 我々と"正統"の使節団は共闘状態だが、"新"の元老にはこちらに味方する者もいれば烈士たちに合流するものもいた。しかし、逃げ出す者が一人もいないというのはさすがである。……ちなみに、エルフ忍者の姿はない。さっきは明らかに忍者からの援護があったんだがな。どこかに隠れているか、あるいは誰かに変装しているか……そのあたりは、不明である。

 

「アル様、リースベン側の非戦闘員の保護が完了いたしました。全員無事です!」

 

「よろしい! いい手際だ」

 

 会議中の襲撃だったから、当然議場内には多くの非戦闘員たちがいた。エルフたちは国民皆兵状態だから放置してもいいが、僕らはそうはいかない。そこでぼくは最優先で非戦闘員を保護するよう命じていたのだが……どうやらうまく行ったらしい。

 まあ、事前に矢文で警告を受けていたわけだしな。しっかりと準備はしていたが……それでも、多少不安はあった。なんとか初動は上手く立ち回れたようなので、心の中でほっと安堵のため息を吐く。

 

「よーし! このまま押し返せ! ガレア騎士の意地を見せる時だぞ!」

 

「我らがアル様のご下命だ! 気張っていくぞーッ! センパーファーイ!」

 

「ウーラァ!!」

 

「グワーッ!」

 

 防御スクラムを組んだ騎士たちが、エルフの凶手を集団で叩きのめす。その姿は、騎士というより暴徒を鎮圧している機動隊員のようだ。むろん襲撃者側もやられるだけではない。騎士隊が構築した槍衾(やりぶすま)……ならぬ剣衾(当然だが、屋内戦闘のため槍を使っている騎士などいない)を巧みにかいくぐり、防御陣を突破してくる者もいる。

 

「やらせはせんよ……ッ!」

 

 だが、そこで登場するのが世界で一番頼りになる僕の副官殿だ。敵エルフ兵に弾丸のような勢いで突っ込んでいき、惚れ惚れするような太刀筋で敵エルフ兵を追い詰めていく。

 エルフ兵も尋常ではない練度の高さだが、ソニアとてガレア王国最強クラスの騎士である。十合ほどの打ち合いを見事に制し、あっという間にエルフ兵を倒して見せた。まさに王者の戦ぶりである。

 

「ソニアが居ると、僕が武勇を示す機会がなくなっちゃうな」

 

 その獅子奮迅の活躍ぶりを見て、僕は思わず笑ってしまう。もちろん、本気ではない。指揮官の仕事はあくまで指揮であり、前線での戦闘は兵士に任せるべきだ。部下を差し置いてチャンバラに参加しちゃうような指揮官は、ハッキリいって士官失格だと思う。

 ただ、なんだかんだ言っても指揮官が前線で活躍していると、部下たちの指揮も上がる。それに、後方でふんぞり返っているだけのヤツに大人しく従ってくれる兵士もあまり多くない。この辺りの塩梅は、本当に難しいんだよな。

 

「切りかかられた時はどうなるかと思いましたが……この様子であれば、なんとか大丈夫そうですね」

 

 僕の後ろで、フィオレンツァ司教が言う。己のすぐ眼前で血しぶきが舞っているような環境だというのに、その声音には怯えの色は無かった。王都の内乱で実戦は経験済みとはいえ、やはり彼女も並みの胆力ではない。

 

「しかしのぅ、あの連中……よりにもよって、会談真っ最中の元老院に討ち入りおった。これは一筋縄ではいかん状況かもしれんぞ」

 

 そんなことを言うのは、ダライヤ氏である。先ほどまで突風や氷柱(つらら)の魔法で前線を援護していた彼女だが、現在は戦闘の大勢が決しつつあるため後ろに下がってきたようだ。

 しかし、こんな狭い場所でよくもまあ攻撃魔法を使えるものだな。普通なら、誤射を恐れて控えるもんなんだが。魔力のコントロールがそうとう上手くなければ、こういう芸当はこなせない。

 

「案の定、ヴァンカ氏は姿をくらませたようだし……」

 

 僕は眉間にしわを寄せながら、周囲を見回す。決して広くはない議場内に、ヴァンカ氏の姿はなかった。まあ、そりゃあイの一番に逃げるよね。初撃を失敗した時点で、奇襲はとん挫したようなもんだし。

 しっかし、こういうシチュエーション……ほんの先日にガレア(ウチ)の王宮でも経験したばかりだな。アレからまだ半年もたってないぞ。何かに呪われてるのかってくらいの頻度だな。

 

「ワ、ワタシのせいじゃないわよぉ? 今回は……」

 

「今なんて?」

 

 フィオレンツァ司教がなにやら呟いていたが、ここは戦場だ。その微かな声は、剣戟の音や兵士たちの怒声にかき消されてしまう。

 

「いえ、何でも……」

 

 なんとも不可解な態度だが、気にしている暇はない。元老院の入り口からびゅおんとカラス鳥人が突入してきて、前線の頭を飛び越えてこちらへ向かってきたからだ。反射的に拳銃のグリップを握ったが、どうやら味方のようである。軽々とした身のこなしで着地した彼女は、ウルに何事かを耳打ちした。

 

「なんじゃと? そんた本当か!」

 

 ウルの顔色が変わる。どうやら、厄介な報告らしい。彼女は駆け足で僕に近寄り、言った。

 

「完全武装ん剣呑な集団が元老院に接近中とんこっじゃ。森ん中ゆえ正確な数はわかりもはんが、かなりん大軍とか……」

 

「ふゥン」

 

 僕はニヤリと笑って、ダライヤ氏の方を見る。

 

「新エルフェニア軍が、あの"烈士殿"たちを鎮圧しに来たのかな? なかなか準備がいいじゃないか、ええ? ダライヤ殿」

 

 もちろん、皮肉である。どう考えたって、そいつらは敵だ。暗殺が失敗したので今度は軍勢を投入する……先の王都反乱と同じだ。つまらない手だよな。現状をひっくり返そうとする連中の考える作戦など、どこも同じようなものなのかもしれない。

 

「……」

 

 嫌味を言われたダライヤ氏は、深々とため息を吐いた。

 

「大変に申し訳ない。どうやら連中、本気でこの新エルフェニアを割る気らしい」

 

「だろうね」

 

 敵勢力は既に元老院内に少なくない兵力を投入している。こうなればもう、引っ込みがつかない。中途半端に終わらせるくらいなら、行きつくところまで行ってしまえ。そう考えて行動するのが自然だろう。

 過激派たちの暴発自体は予想済みだが、計画よりもずいぶんと早く戦端を開いてしまった。ヴァンカ氏と決別したせいかね、やっぱり。もしかしたら、あそこは相手にとって都合のいいことを言ってごまかした方が良い盤面だったかもしれない。……己の手を汚す覚悟が足りなかったか。僕もまだまだだな。

 

「もともとが寄せ集めん愚連隊どもだ、そりゃあ気に入らんこっがあれば謀反くれ起こすじゃろうさ」

 

 ボソリとオルファン氏が嫌味を言う。ダライヤ氏がそれを鉄面皮で受け流すのを見て、僕は小さく笑った。

 

「しかし連中、なかなか判断が早いじゃないか。流石はエルフ、好敵手だな」

 

 これに関しては、皮肉ではない。損切りは早ければ早いほど失うものは少ないんだからな。最終的に我々と戦うと決めたのなら、早いうちから決定的に決別しておいた方が良いのだ。なにしろ、曖昧な状況が続けば続くほど日和見勢力はこちらに取り込まれていくわけだし。

 

「向こう側にも焦りがあったのでしょう。アルベールさんは釣りがお上手な様子ですし」

 

 騎士たちによって守られている非戦闘員連中を一瞥して、フィオレンツァ司教が笑う。その中には、少なくない数の侍男が混ざっている。むろん、大半はアデライド宰相が派遣してくれた男スパイたちだ。女を骨抜きにする手管に長けたこの連中は、僅か一夜で結構な成果を上げていた。……エルフ連中のガードが弱すぎるだけ、という説はあるが。

 しかし、確かに浸透を急ぎ過ぎた感はあるかもしれない。年寄りをたぶらかす毒夫、などと烈士殿は言ってたしな。まあ、彼女の言う事にも一理はある。事実として、僕はエルフ上層部の篭絡を図っていたわけだし。

 

「確かにそうかもしれませんね。……しかし、今はとにかく降りかかる火の粉を払わねば」

 

 周囲を見回して、状況確認。議場内の謀反人どもは善戦しているが、明らかに旗色が悪い。それでもなんとか戦えているのは、彼女らの練度と士気が非常に高いからだ。

 それでも、多勢に無勢である。時間をかければ、十分に殲滅は可能だろうが……今はそんな余裕はない。さっさと元老院から脱出し、外に居る陸戦隊と合流しなければ。

 

「総員傾注! これより敵陣を突破し、外への脱出を図る! 突撃用意!」

 

 僕はサーベルを掲げてそう叫んだ。我が騎士たちは、手慣れた様子で突撃陣形に移行する。

 

「おう突撃か! アルベールどんは指揮ぶりも女々しかじゃらせんか。少しばかり手伝うてやろう」

 

短命種(にせ)やら男やらん背中を指をくわえて見送っような恥さらしはおらんじゃろうな!? 我々も行っど!」

 

驚いたことに、オルファン氏の親衛隊や"新"の元老の皆さままで突撃準備を始めている。流石に予想外だが、有難い。僕は渾身の力を込めて叫んだ。

 

「突撃! 我に続け!」


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