異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第275話 くっころ男騎士と一致団結

 ただでさえ劣勢だった烈士側は、こちら側の一斉突撃により壊滅した。しかし、そこは蛮族エルフである。退けばいいものを死ぬまで戦うものだから、厄介なことこの上なかった。屋内では数の優位が生かしにくい、という点も大きい。

 大変に難儀しつつもなんとか"烈士殿"たちを討ち取り、僕たちはなんとか元老院の外へ出ることことができた。僕は小さく息を吐きながら、周囲を見回す。まだ敵は目視圏内にはいないようだが、エルフの村はなんとも不穏な空気に包まれている。

 

「大婆様、ないやら合戦の音が聞けたが一体なにがあったとじゃ?」

 

若造(にせ)共が武装をして集まっちょっよ、戦が始まっと?」

 

 村民たちが集まってきて、ダライヤ氏を取り囲む。どうやら敵ではなく、事情を知らない一般人のようだ。もっとも、エルフの場合は一般人であってもバリバリに武装している。エルフに関していえば廃兵と既婚者以外全員戦士なんだから、おそろしく剣呑な社会体制である。

 

「ヴァンカの奴がとうとう挙兵しおってのぅ。せっかくリースベンからの食料も届き始めたというのに……」

 

 ダライヤ氏は深い深いため息をついて、額に手を当てた。しょぼくれるロリババアをしり目に、僕は野外で待機していた陸戦隊を呼ぶ。……ちなみに、元老院内での戦闘に陸戦隊を投入しなかったのは、混乱を避けるためだ。閉所にむやみに大軍をつっこませると、却って大被害を受けることになる。

 

「状況を報告してくれ」

 

 やってきた陸戦隊の隊長に、僕はそう聞いた。

 

「こちらの偵察隊が、すでに敵前衛と接触しています。しかし、相手は隊列を組まずてんでバラバラに移動しているため……規模や展開状態などは不明です」

 

「なるほどな」

 

 これが単なる農民兵や市民兵の集まりなら、烏合の衆と判断するところなんだが……相手はエルフだからな。ゲリラ・コマンドの集団だと思って対処したほうがよいだろう。極めて厄介だ。

 

「戦闘は避けらそうにないか」

 

「ええ、確実に無理です」

 

「オーケー、理解した」

 

 森の中でエルフとは戦いたくねえなあ。僕は暗澹(あんたん)たる気分になったが、表情は意識して自信ありげな笑みを張り付ける。長い事指揮官をやってると、演技ばかり上手くなってしまう。

 

「ヴァルヴルガ! 甲冑を持ってきてくれ」

 

「へい兄貴!」

 

 護衛役のソニアたちは完全武装だが、僕に関しては現在礼服姿である。こんな服装では、本格的な戦闘などとてもできない。僕は鎧櫃(よろいびつ)を背負った馴染みの熊獣人を呼び、愛用の魔装甲冑(エンチャントアーマー)を着込むことにした。

 従者たちが集まってきて、僕に甲冑を着せていく。騎士連中が周囲からの視線を遮ろうと人間の壁を作るが、僕は彼女らを止めた。現在は、一分一秒も惜しい状況である。ダライヤ氏らとは、顔を合わせて会話をしたい。

 ……そう思ったのだが、礼服の上着を脱ぎ始めるとエルフたちがワッと盛り上がった。「男騎士の生着替えじゃ!」と興奮している者もいる。全裸になるわけでもないのに、なぜそうも興奮できるのか僕にはよくわからない。

 

 

「ブロンダン殿、オヌシらはこれからどうするつもりじゃ」

 

 こちらをチラチラみながら、ダライヤ氏が聞いてくる。どうやらこのロリババアも、僕の着替えには興味津々のようだ。僕は努めてその視線を気にしないようにしながら、礼服の上着を脱ぐ。エルフの一人が「焦らすな! ばーっと行け!」と叫んでソニアに殴られた。焦らしてねえよ。

 

「どうするもこうするも、こうなったからにはいったんリースベンに戻るしかあるまい。話し合いが出来る環境には見えないからな」

 

「……ほう」

 

「とにかく、内乱が収まるまでは話し合いも食糧支援も中断だ。平和になったら、また連絡してくれ」

 

 百年も内乱を続けてきた連中である。平和になるのに、いったい何十年かかるだろうか? もちろん、僕のこの発言は揺さぶりだ。あの烈士どもは僕たちリースベンをも目の仇にしているようだからな。放置はできない。ウチの領民に手を出し始める前に、叩き潰しておく必要があった。

 

「ちょうどよか。アルベールどん、我々もお供させてほしか。"正統"ん本隊を、こん村ん近うで待機させちょっ。あん連中を撃退すっくれならば、十分に可能な戦力じゃ」

 

 赤面しながら視線を逸らしつつ、オルファン氏が言う。ドスケベロリババアなダライヤ氏と違って、こちらはなかなかにウブな様子である。しかしその発言は、なかなかショッキングなものだった。

 

「……エッ!?」

 

 ルンガ市の付近に、"正統"の本隊が居る? オイオイ、オイオイオイオイ、この蛮族皇女、ドサクサに紛れてなんてことしてんの!? 場合によっては奇襲の準備と取られても仕方のないヤツじゃん……。

 ……いや、マジで奇襲の準備をしてたのかもしれんな。多少体力のある"新"と違い、"正統"にはもはや後がない。この会談が決裂したら、もう彼女らは破滅一直線だ。劣った戦力で少しでも優位に立つには、奇襲を仕掛ける他ないわけだし……。

 

只人(ヒューム)などん戦えん者たちせそちらん船に乗せてもれれば、すぐに(いっき)戦闘可能なごつ準備してあっ。護衛は任せい」

 

 わあ、非戦闘員まで連れて来てやがる。つまり、この交渉の結果いかんに関わらず、"正統"はリースベンに押しかけてくるつもりだったのか……。いやまあ、彼女らは食料状況がギリギリすぎるから、仕方ないか。ボヤボヤしてたら、戦わずともそのまま餓死しちゃうもんな。僕だってオルファン氏の立場だったら同じように差配していることだろう。

 まあ、何にせよ護衛戦力は欲しい。なにしろ、カルレラ市に戻るにはエルフェン河を遡上しなくてはならないのだ。帆と(オール)だけで川の流れに逆らい続けるのはなかなか難しいものがある。そのため、人力で(馬があればそちらの方が良いのだが、残念ながら馬は一頭もルンガ市には連れて来ていない)けん引してやる必要があった。人手はいくらあっても足りないくらいだ。

 

「……わかった。よろしく頼む」

 

 そう応えながら鎧下(ギャンベゾン)(甲冑の下に着込む羊毛製のジャケット)を着ると、見物人がブーイングを上げた。公開ストリップショーやってるんじゃないよこっちは。文句を言うな。

 

「ああ、任せちょけ」

 

 オルファン氏は、そういってにっこり笑う。……生き残りのためとはいえ、この人もなかなかチャッカリしている。とはいえ、"新"と違って"正統"はずっとこちらに友好的な姿勢を示し続けているからな。見捨てるのも忍びない。それに、彼女らを抱えても損ばかり、という訳でもないし。

 問題は、この状況で取り残されるダライヤ氏である。さて、いったいどういう反応をするだろうか? そう思って彼女をうかがうと、薄く笑って肩をすくめた。

 

「……まあまあ、そう話を急くでない。今は、あの連中を撃退するのが最優先じゃ。オヌシらも、撤退中に背後を脅かされるのは面白くなかろ? 申し訳ないが、協力してもらえると有難いのじゃが」

 

「なるほどな。よかろう」

 

 何にせよ、もう一戦するのは避けられないのである。ここはリースベン軍、"新"、"正統"の三軍合同で対処することにしようか。本当ならゴネてあれこれ譲歩を押し付けたいところだが、すぐ間近まで敵が迫っている状態ではその余裕もない。僕は即座に頷いた。

 

「そげんこっなら、(オイ)はアルベールどんの指揮下で戦わせてもらっど。あん荒々しか頭領ぶり、なかなか気に入りもした!」

 

 こちら側についてくれた元老の一人がそう言って木剣を掲げる。……エッ!?

 

「おう、(オイ)もじゃ!」

 

「ダレヤどんの指揮は雄々しゅうて好かん。ワシもアルベールどんの下に付こう」

 

 "新"の元老たちが、次々にそんな主張をする。見捨てられた形のダライヤ氏はしかし、にっこりと笑って頷いた。

 

「おうおう、好きにせい」

 

 肯定すんなや! もしかしてだけどダライヤ氏、なんか仕込んでない? いくらなんでも、これはおかしい。なんでよそ者の僕が"新"の連中……それも元老なんて上層部の連中が、自主的に僕の指揮下に入るなんてありえないことだ。なにしろ、エルフの反骨っぷりは尋常なものじゃないしな。…そう思ったのだが。

 

「男を守っために戦うとが、エルフん華じゃ。万が一にも無様な戦いぶりを晒すわけにはいかん。なあ!」

 

「おう、そん通りじゃ。お前(わい)たち、安心してよかど。こん(オイ)が守ってやっでな!」

 

 こちらの男性使用人たちをチラチラ見ながらそんなことを言うものだから、彼女らの思惑は理解できてしまった。要するに、男の前でいい格好を見せたいのである。これで僕が女なら、話がこじれたのかもしれないが……彼らと同じ男である僕に、公然と否を突き付けると、口説く際に支障をきたすと判断したのだろう。下半身でモノを考えてやがる、こいつら……。

 まあ何にせよ、指揮権の統合は重要だ。僕は胴鎧を着こんみつつ、ニヤリと笑って見せた。

 

「よし、そこまで言うなら頼りにさせてもらおう。エルフの武勇を存分に見せてくれ!」

 

「任せちょけ!」

 

 剣を掲げて叫ぶエルフ元老たちを見て、ダライヤ氏がほくそ笑んでいる。……やっぱりアンタ、なんか仕込んでるよね? そう思ってフィオレンツァ司教の方を見ると、彼女は厳かに頷いた。

 

「やはり、一筋縄でいく相手ではございませんね。彼女のことは、わたくしにお任せを」

 

「……申し訳ありません、お願いします」

 

 近寄ってきてそう囁きかけるフィオレンツァ司教に、僕は頷くことしかできなかった。相手は百戦錬磨のロリババアだ。僕のような軍事バカでは、彼女のような手練れに対抗するのは難しいだろう。ここは、対人関係の専門家に任せるべきだろう。

 ……まあそっれはさておき、今はドンパチに集中すべきだ。従者の手を借りてあっという間に甲冑を着込み終わった僕は、サーベルを天に掲げて叫ぶ。

 

「よし、では戦闘準備! 賊軍を迎撃するぞ!」


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