異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第276話 くっころ男騎士と共同戦線(1)

 「戦闘準備!」などと命じた僕であるが、実際のところ村内で戦うのは気が引けていた。なにしろこのルンガ市は都市とは名ばかりのほぼ森であり、まったく見通しが効かない。おまけに敵は、この集落にもともと住んでいた連中なのだ。

 僕の主戦力である陸戦隊は騎兵銃を装備したライフル兵部隊だ。中距離戦ではエルフ自慢の妖精弓(エルヴンボウ)相手でも撃ち負けはしないが、接近戦は不利である。できれば、広い場所におびき寄せたいところだ。

 

「まずは連中の鼻っ柱を叩き折る。一番槍をやりたい奴はいるか?」

 

 が、そんな非積極的なことを言っていたら、エルフ連中は間違いなく僕に失望する。熟練のエルフ兵は前進しか知らない猪武者では決してないが、積極的な戦術を好むことは間違いないのである。せっかく少なくない数のエルフが僕に従ってくれているのだから、彼女らの支持は失いたくない。

 

「おうワシに任せちょけ! レイん所ん氏族は、いつもワシを年寄りだ年寄りじゃとナメちょったでな。ここらで一発立場ってもんをわからせてやっ」

 

「いやいや、ここは北エルフェニアいちん弓取りち呼ばれた(オイ)ん出番じゃ」

 

「おいおいおい、ワシを忘れてもろうては困っど。五百年も生きちょらん若造どもは引っ込んでおれ」

 

 案の定、僕の提案にエルフの元老たちが次々と立候補した。内戦とは思えぬ積極性である。伊達に百年も身内同士で殺し合ってるわけじゃないな。ほんの今朝まで同じ釜の飯を食ってた連中が相手だってのに、ギラギラした戦意を見せている。

 ちなみに、僕の方についた元老は長老連中が多いようだ。逆に、烈士たちに共鳴したのは若い氏族長たちが中心のようだ。ある意味、分かりやすい構図だな。……長老たちが僕に協力しているのは、おそらく食料と色仕掛け要員の侍男たちに釣られてのことと思われる。とんだエロババア集団だ。

 

「よし、ではロッカ長老、ヤガ長老! 任せたぞ。……ウル、偵察と伝令要員として、鳥人を何人かつけてやってくれ」

 

「承知いたしもした」

 

 テキパキと支持を出していく。選ばれなかった立候補者たちはブーイングを上げたが「次の機会はいくらでもある!」と言って黙らせる。逆に、選ばれた二人は意気揚々と部下を引きつれ前進していった。もちろん、騎士連中に護衛されている男どもに一瞥をくれることも忘れない。……エロババアどもめ!

 元老たちは、各々少なくない数の部下を抱えている。戦闘時は、この集団がそのまま部隊として機能するわけだ。なんともエルフらしい、実戦的なやり方である。先ほど送り出した二名の長老は、それぞれ二十名程度の部下を持っていた。つまり、総戦力四十命。威力偵察部隊としては十分な数だろう。

 

「ソニア、ダライヤ殿、オルファン殿。今のうちに作戦を確認しておく」

 

 今送り出した連中は、時間稼ぎ兼威力偵察だ。現状、敵の戦力すらよくわかっていないわけだからな。とにかく情報収集が最優先である。

 とはいえ、大まかな作戦に関しては既に立ててある。僕は幹部級の者たちを呼んでから、ポーチから一枚の紙を取り出した。昨日のうちにコッソリ作成した、この村の簡易的な地図だ。もちろんしっかりとした測量をして作ったわけではないので、縮尺などは適当だが……こればかりは仕方が無い。とにかく時間がなかったわけだし。

 

「相手の戦力次第だが、最終的な決戦はエルフェン河の河原で行いたい。当面、我々は遅滞戦闘を行いつつ河原まで後退する」

 

 このリースベン半島を縦断する大河であるエルフェン河の岸には、かなり大きな河原が広がっている。ここでなら、陸戦隊たちも普通の平原と変わらない感覚で戦闘を行うことが可能だ。

 

「なるほど、マイケル・コリンズ号の火力支援を受けるわけですね」

 

 長年僕の副官をやっているだけあって、ソニアは話が早い。僕は従者から受け取った兜を被ってから、コクリと頷いた。先日の戦闘で使用不能になってしまったマイケル・コリンズ号の主砲だが、技官たちの活躍でなんとか復旧に成功している。火力支援はバッチリ可能だ。

 

「そうだ。大砲一門でも、あるとないとでは大違いだからな。……それに、奥の手もあるし」

 

 我々が乗ってきた船、マイケル・コリンズ号はもともと二門の五七ミリ速射砲を搭載する予定だった。しかし現在艦尾側の砲座には五七ミリ砲ではなくとある"秘密兵器"を載せている。万が一の事態に備えて用意した武器ではあるが、おそらく今がその"万が一"にあたる状況だろう。うまく活用したいところだな。

 

「とはいえ、尻尾を巻いて河原まで撤退するのは難しい。相手は隊列を組んで整然と進軍しているわけではないようだからな。浸透戦術を使ってくる可能性が高い。移動中に側面をつかれたら、目も当てられない」

 

 浸透戦術というのは、小部隊を用いて相手の構築した前線を密かにすり抜けて突破する戦法のことだ。エルフたちの戦い方を見るに、この手の戦術は十八番と言っても過言ではないだろう。

 

「とはいえ、森の中での戦闘はエルフ頼りにならざるを得ない。二人とも、問題はないか?」

 

 ダライヤ氏とオルファン氏に聞く。もちろん我々の部隊も森林戦の訓練はしているが、エルフと真正面から戦えるだけの練度は無い。森はエルフの独壇場だ。

 森林戦訓練といえば……教官役の狐狩人、レナエルがたぶん陸戦隊に参加したままになってるな。彼女は正規の軍人ではなくあくまで軍属だから、本格的に戦闘が始まるまえに引っ込めておかねば。

 

「無論じゃ。リースベンの世話になっ以上、それなりん働きは見せっとも。ごく(イモ)潰しになっ気はなか」

 

 頷くオルファン氏。もうすっかり、リースベンの傘下に収まる気でいるようだ。ほとんど押し売り状態だな……というか、イモ潰しってそれたんなるマッシュポテトじゃないか?

 

「うむ、うむ。もとよりこの件はワシらの身から出た錆びじゃ。本当ならば、ワシが主導して事を収めねばならんのじゃが……まことに申し訳ない。出来る限りは、協力するゆえな。許してほしいのじゃ」

 

 一方、ダライヤ氏はしょぼくれた様子である。男に釣られてとはいえ、なぜか部下の元老たちが自分ではなく僕に従っているような状況なのだから、それも仕方のないことかもしれない。

 いやほんとおかしな状況だよ、まったく。本来仲介役でしかない僕がなぜ総指揮を取ってるんだろうか。確かに、敵対している"新"と"正統"が協力して戦うには、中立的な人間がそれぞれに指示を出す方式の方が自然ではあるのだが……。

 というか、流れで始まった戦闘だというのに、驚くほどスムーズに指揮系統の構築が出来たな。それが一番おどろきだよ。内輪もめはエルフのお家芸だから、だいぶ難儀するんじゃないかと思ってたんだが。エルフの即断即決主義が上手い方向に作用した結果だろうか。

 

「よし、それは助かる。……みんな、もう戦闘準備は終わってるみたいだな」

 

 ちらりと広場を見渡しながら、僕は言う。エルフ軍は各々の元老が部下にあれこれ指示を出し、いつの間にかいつでも戦闘可能な状態になっている。驚異的なまでの手際の良さだ。本当に戦だけは滅茶苦茶得意な連中だ……。

 

「"新"には攻撃正面を、"正統"には川港までの退路の確保をお願いする。最優先目標は、非戦闘員のマイケル・コリンズ号への退避だ。オーケイ?」

 

「了解」

 

「うむ、オーケイじゃ」

 

「よし」

 

 僕がうなずくのとほぼ同時に、軽やかな羽音が接近してくる。上を見上げると、木々をすり抜けながら飛ぶスズメ鳥人の姿があった。彼女は素早く僕の前に着地し、報告する。

 

「アルどん。ロッカ殿が敵と遭遇してんさー。数は三十くれ? ほとんど若造衆らしいよー」

 

 ぽわぽわした口調でそんなことを言うスズメ鳥人に、僕は眉を跳ね上げる。もう敵と遭遇か、早いな。言われてみれば、遠くの方から合戦の音が聞こえるような気もする。

 

「作戦は今伝えたとおりだ。ある程度は自主判断で動いていいが、報告は欠かさないように。以上!」

 

 まあ、所詮は寄せ集め舞台である。あれこれ統制しようとしても無理がある。エルフたちのことはエルフに任せ、僕は陸戦隊と騎士隊にあれこれ指示を出し始めた。


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