異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第280話 くっころ男騎士と天の劫火

 ルンガ市の近郊には、ちょっとした空き地がある。燃料や建材を得るための、木の伐採地だ。森の中と違って、ここならば存分に火力を発揮することができる。決戦地としては、おあつらえ向きの場所だった。

 僕たちはその空き地に向け、全力で走っていた。しかし、これは潰走を装った偽撤退だ。隊列を組んで整然と移動、というわけにはいかない。落伍者を出さないよう、僕は大変に難儀する羽目になった。

 

「走れ走れ! そんなんじゃあっという間に追いつかれるぞ!」

 

 木の根に脚を取られてスッ転んだ兵士を助け起こしながら、僕はそう叫ぶ。先ほどから、同じようなことは何度も起きていた。何しろ陸戦隊の歩兵たちは大半が今回の一件が初陣の新兵たちだ。緊張や恐怖で足がもつれない方がどうかしている。

 仕方が無いので、指揮官自らが殿を務める羽目になっていた。なにしろ、僕とその護衛たちはしっかりとした魔装甲冑(エンチャントアーマー)を着込んでいるからな。少々の攻撃ならば、びくともしない。部隊のケツを守るにはぴったりの戦力だ。

 

「も、申し訳ありません!」

 

「口を動かす暇があったら足を動かさんか!」

 

 なんとか立ち上がったリースベン兵の背中を押しつつ、叱咤する。気分は鬼軍曹だ。しかしこれは訓練ではなく実戦だ。部隊から落伍すれば、待っているのはきついお仕置きではなくシンプルな死である。僕としては、誰一人脱落させるわけにはいかなかった。

 ……実際のところ、部隊の先頭を走れるほど僕は足が速くない、という問題もあるしな。なにしろ只人(ヒューム)竜人(ドラゴニュート)や獣人の身体能力の差は圧倒的なものがあるし、その上僕は総重量が四〇キロ近いクソ重い甲冑を纏っている。こんな鈍重なユニットを先頭に配置したら、後続が渋滞を起こしてしまうだろう。

 最近流行ってるタイプの甲冑は、重量が半分くらいになってるんだけどね。僕が使っているものは母上のお下がりなので、旧式なのだ。いい加減新調しようとは思っているんだが、金がないので後回しになっている。

 

「ホアッ!?」

 

 背中をドンと押されたような衝撃を受け、今度は僕が転倒する。どうやら矢を喰らってしまったようだ。しかし甲冑の装甲部に当たったおかげで、怪我はない。魔装甲冑(エンチャントアーマー)さまさまだ。いくらクソ重くとも、着込む価値はある。

 

「男騎士ィ! 獲ったどー!」

 

「グワーッ!」

 

 だが、そこへ何者かが飛びかかってくる。その服装は、ポンチョに虚無僧笠……虚無僧エルフ兵だ! 地面に転がっていた僕は、その攻撃を避けることができなかった。あっという間にマウントポジションを取られ、腕を押さえつけられる。

 

「良か男じゃらせんか! よかモノを拾うた!」

 

「キエエエエエエエッ!!!!」

 

 突然のピンチだが、この世界で男騎士などやっていればこんな状況に陥ることなど日常茶飯事だ。慌てず騒がず、僕は虚無僧エルフ兵に頭突きを仕掛けた。

 木の皮で編まれた虚無僧笠と、鋼鉄製の兜。この二つがぶつかり合えば、後者が打ち勝つなど当然の摂理である。虚無僧笠は無惨にひしゃげ、エルフ兵は情けない悲鳴を上げながら悶絶する羽目になった。

 

「オルァ!」

 

 こうなれば、あとは簡単である。竜人(ドラゴニュート)や一部の獣人と違いエルフは小柄なので、簡単にひっくり返すことができる。そのまま寝技を仕掛け、首を絞めてやる。虚無僧エルフは情けない声と共に昏倒した。どんな種族であれ、頸動脈が鍛えようのない弱点であることには変わりがない。

 

「コイツ、ただん男じゃなかぞ!」

 

「囲んで犯せ! 囲んで犯せ!」

 

 だが、危機はまだ去っていなかった。虚無僧エルフ兵の集団が、山刀を手に襲い掛かってくる。脳内ピンク色の色ボケどもめ! 僕は起き上がりざま、腰から拳銃を抜いて発砲した。

 一発分の銃声しか聞こえなかったが、倒れた虚無僧エルフ兵は五名。引き金を引きっぱなしにしたまま指で撃鉄を連続で弾く、ファニングと呼ばれる早撃ちテクニックを使ったのだ。

 

「ウオオオオーッ!」

 

 だが、それでも敵は全滅していない。突っ込んでくる虚無僧エルフ兵に向け、左手で短剣を投擲した。狙い違わず、短剣は虚無僧エルフ兵の肩口に突き刺さる。

 

「アバーッ!」

 

 その瞬間、短剣から高圧電流が放たれた。バリバリと音を立てて感電した虚無僧エルフ兵は、煙をあげつつ倒れ伏す。隣国神聖帝国の元皇帝、アーちゃんからもらった魔法の短剣だ。実戦で使ったのは初めてだったが、尋常な威力じゃないな。

 手品じみた攻撃に、さしものエルフたちも若干怯んだようだ。視線が感電死した虚無僧エルフ兵に集まっている。この隙は逃すべきじゃないな。僕はサーベルを抜き放ち、大声で叫んだ。

 

「極星よ照覧あれッ! デジレ・ブロンダンが息子アルベールはここにありッ! キエエエエエエエッ!」

 

 身体強化魔法を発動。全力で地面を蹴り、敵エルフ兵に肉薄する。この状態で背を向けて逃げれば、後ろから好き勝手攻撃される羽目になるからな。正面からブチ抜いて突破、これが一番安全だ。

 

「ひとぉつ!」

 

 迎撃しようと木剣を構えたエルフ兵を、剣ごと両断する。白いサーコートが鮮血で真っ赤に染まるが、気にせず突進。

 

「キエエエエエイッ! ふたぁーつ!」

 

 間近にいたエルフ兵が氷柱の魔法を放ってきたが、籠手で受け止めつつ攻防一体の斬撃を繰り出す。二つ目の惨殺死体が出来た。

 

「まるで鬼神にごつ!」

 

「こんわろは男ち思わんほうが良かど! 距離を取って仕留め!」

 

 慌てた様子でエルフ兵たちが弓を取り出し始める。これはよろしくない。リボルバーは既に弾切れだし、一応後装式小銃も持っているが所詮は単発式だ。射撃戦は分が悪い。

 

「アル様ーッ! 今()きます!」

 

「突っ込めお(はん)ら! 若様(・・)に傷一つでもつけてみぃ、切腹じゃ済まさんぞ!」

 

 だが、そこへソニアと長老が突っ込んでくる。彼女らも尋常ではない戦士だ。僕が手を出さずとも、あっという間に敵兵を蹴散らし始める。……ところで長老、若様ってもしや僕のことですかね?

 

「アルベールどん! こいを!」

 

 スズメ鳥人がヒュンと飛んできて、僕に何かを手渡してきた。投擲した魔法の短剣だ。

 

「おお、助かる! コイツは貴重品でな、補給が効かんのだ」

 

 なにしろ神聖帝国皇帝家の家宝だったという代物だからな。無くしたら流石に泣くかもしれない。ありがたく受け取って鞘に収め、お手柄スズメ鳥人の頭をガシガシと撫でてやる。

 

「アル様! 露払いはお任せを! このまま突破いたしましょう!」

 

「応よ!」

 

 敵集団は明らかに怯んでいる。今がチャンスだ。僕はサーベルを構えなおし、吶喊(とっかん)した。敵兵をバッタバッタと切り倒しつつ、あっという間に突破に成功する。やはり、少なくない数のエルフ兵が味方についてくれたのが良かった。森林戦での安定度が段違いである。

 そんなことを考えつつ走っていると、やがて目的地の空地へとたどり着いた。日光の届かない森の中と違い、開けた空き地には背の高い草が大量に生えている。森の中よりもよほど歩きにくいそこを根性で突破しつつ、周囲を確認する。

 

「……よし!」

 

 周囲には、展開済みのジョゼット・ダライヤ両支隊の姿が視認できる。小銃や妖精弓(エルヴンボウ)を構え、いつでも発砲可能な状態だ。その射線は交差するように設定されており、いわゆる十字砲火の状態になっている。

 

「撃てーッ!」

 

 大声で叫ぶと、銃声や風切り音が連続して響いた。僕たちを追いかけて空き地に入ってきた烈士エルフたちに、大量の銃弾と矢が襲い掛かった。彼女らは悲鳴や汚い罵声を飛ばしつつ、次々と倒れていく。……もちろん、僕は彼女らに背を向けて失踪中なので、その様子を観察することはできないわけだが。

 

「こなくそー!」

 

「百倍返しじゃ!」

 

 だが、わずか一回の斉射で仕留めきれるほど、エルフ兵は甘い相手ではない。怒りを爆発させながら、次々と矢を打ち返してくる。……しかし、それも予測済み! 支隊による十字砲火は、あくまで足止めが目的だ。本命の攻撃は別にある。僕は全力で走りながら、叫んだ。

 

「赤色信号弾、撃て!」

 

 情けない発砲音と共に、中天に赤い信号弾が瞬いた。僕は萎えそうになる足に力を籠め、さらにスピードを上げる。この信号弾が打ちあがった以上、急いで逃げねばならない。……敵からではなく、味方からの攻撃から、だ。

 

「来るぞ、伏せろ!」

 

 前世でも聞きなれた、独特の甲高い風切り音が聞こえた瞬間、僕はそう大声で命じた。そしてもちろん、自分も伏せる。勢い余って地面に転がったが、気にしない。とにかく姿勢を低くする、それが第一だった。地面にべったりとうつぶせに寝転がって、口を軽く開ける。本当なら耳も塞ぎたいが、兜を被っているのでムリだった。

 

「ッ!!」

 

 その瞬間、すさまじい轟音が周囲に響き渡った。まるで火山の噴火のように火柱がいくつも上がり、地面がぐらぐらと揺れる。猛烈な砲撃が、空き地を襲っていた。十数発もの砲弾が、ほぼ同時に着弾したのである。その衝撃は尋常なものではなかった。

 凄まじい爆風と衝撃波が脳みそをシェイクし、吹っ飛んできた土くれや木片が全身を打ち据えた。伏せたままそれに耐えていると、何者かが僕に覆いかぶさってくる。一瞬慌てたが、どうやらソニアのようだ。僕を庇ってくれているらしい。

 

「流石に威力抜群だな……!」

 

 こみあげてくる笑みをこらえつつ、僕はそう呟いた。この砲撃は、マイケル・コリンズ号からの火力支援だ。それも、主砲を用いた攻撃ではない。いくら五七ミリ速射砲の発射速度が速いと言っても、僅か一門でこれほどの砲撃を一挙に放つなど不可能だ。

 九〇ミリ多連装ロケット砲。この連続砲撃を成し遂げた兵器の名前だ。十六発ものロケット弾を一気に発射する、素敵な兵器である。マイケル・コリンズ号に装備されていた秘密兵器の正体がこれだ。実戦で使用したのは初めてだが、どうやら想定通りの機能を発揮してくれたらしい。

 

「よおし、ソニア! 仕上げと行こうか!」

 

 この手のロケット砲は、威力は抜群だが精度はゴミカス未満である。広範囲に砲弾をバラまく以外の用途には使えない。極めて派手な砲撃だったが、巻き込めた敵兵はそう多くないはずだ。

 ……しかし、それはそれで構わない。この手の兵器は、実際の威力よりも見た目の派手さのほうが重要なのだ。強烈な砲爆撃は敵の士気を削ぐ。さしものエルフ兵も、さぞ肝をつぶしていることだろう。今がチャンスだ。僕はソニアの下からはい出し、サーベルを高々と掲げて見せた。

 

「これより最後の突撃を敢行する。天の劫火もも畏れぬ真の勇者のみ我に続け!」

 

 とはいえ、ビビってるのはたぶん味方も一緒だからな。指揮官が先頭に立って、鼓舞してやる必要がある。僕の叫びに呼応するように、ラッパ手が突撃ラッパを奏で始めた。

 

「往くぞッ! 突撃にィ……かかれ!」

 

 サーベルを振り上げて突進すると、リースベン兵たちはやけくそな叫びを上げながら僕に続いて走り始めた。エルフ兵たちも「短命種(にせ)どもに後れを取っな!」と突撃に参加する。我々は、一丸となってもうもうと上がり続ける土煙の中へ突っ込んでいった。

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