異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

293 / 714
第293話 くっころ男騎士とエルフ式焼き畑農法

 男子供の収容を終え、僕は部隊を反転させた。避難民たちを護衛するための戦力を村内にの腰、残りは全力でオルファン氏の救援へと向かう。

 ルンガ市の郊外に展開した"正統"軍は、乱戦の真っ最中だった。攻撃を受けているという報告を受けた時点で一応増援を寄越していたが、それでも"正統"軍は優勢を取れていない。敵はずいぶんと大戦力を投入してきているようだった。

 

「照明弾、撃てーっ!」

 

 打ち上げ花火の発射機にしか見えない木製の簡易大砲、信号砲から照明弾が打ちあがる。パラシュートで吊られたマグネシウムのカタマリが、空中で煌々と輝き始めた。

 その光量はなかなかのもので、かなりの範囲を照らし出してくれる……はずなのだが、ここは常緑樹の茂る深い森の中だ、照明弾の光は好き勝手に伸びた枝葉に遮られ、大した効果は発揮しなかった。

 

「ううむ……」

 

 しかしそれでも、無いよりはましである。うっすらとした光に照らされた森の中を見て、僕は小さく唸った。エルフ同士が、罵声を上げつつ剣を交えている。周囲には、木剣や山刀同士で打ちあう激しい音が響きまくっていた。

 

「敵と味方の判別がつかん……!」

 

 それはいい。それはいいのだが、エルフ兵はどいつもこいつもぶかぶかのポンチョを羽織ったテルテル坊主スタイルのファッションだ。視界が悪いこともあり、誰が敵で誰が味方なのかさっぱりわからない。

 

「アレ、本人たちも誰と戦ってるのかわかってるんだろうか?」

 

 乱戦の現場をサーベルの切っ先で指し示しつつ、僕はダライヤ氏に聞いてみる。ガレア王国の騎士や兵士は、家紋入りのサーコートだの旗印だの、所属を表すアイテムを身に着けていることが多い。そのため、乱戦に陥ってもある程度は敵味方の判別が可能だ。

 ところが、エルフたちはその手のアイテムを全く持っていない。個性の見せどころである甲冑ですらポンチョで隠しているのだから、本当に徹底している。たぶんわざとやっているんだろうが、友軍の我々としては大変に困るのである。

 下手に攻撃すると味方を巻き込んでしまいかねないから、こちらとしては手出しがしづらい。せっかく救援にやってきたというのに、武器を構えつつ戦場を遠巻きに眺めることしかできなかった。ヴァンカ派の兵もそれは理解しているようで、こちらには矢の一本も飛んでこなかった。徹底的に乱戦状態を維持する腹積もりのようである。

 

「たぶんわかっておらんじゃろうなァ……すでに同士討ちも少なからず発生しているのではなかろうか」

 

 ムムムと唸りつつ、ダライヤ氏がそう答える。やっぱわかってないんかい!

 

「所属を隠して乱戦に持ち込む戦術は、本来は"正統"の十八番じゃったんじゃが……どうにもヴァンカのヤツ、それを真似しおったな」

 

 エルフ兵が無個性な格好をしているのは、やはりわざとか。なんだよそのルール無用の滅茶苦茶な戦術は。同士討ちが怖くないのか同士討ちが! ……怖くないんだろうなあ、エルフだもの。長命種の癖に命が特売のモヤシより安いのなんとかならんか、マジで。

 

「とにかく、いったん仕切り直しにしないと援護どころではありませんよ」

 

 苛立った声でソニアがそう主張する。こういう状況では、「まあでも援護しなきゃまずいっしょ!」と何も考えずに乱戦に参加してしまうのが一番マズい。状況がさらに混乱して、収拾がつかなくなってしまう。ソニアの言う通り、いったん仕切り直して敵と味方を分離するほかないだろう。

 

「オルファン殿! いったん退いてくれ! このままでは戦うどころではない!」

 

 最前線に立って木剣を振るうオルファン氏に、僕はそう呼びかける。森の中は典型的な戦場音楽に支配されていて大変にうるさいが、兵士が女ばかりなので男の声は良く通る。どうやら、僕の声はなんとか届いたようだ。オルファン氏は黒曜石の刃が並んだ木剣を高々と掲げ、叫んだ。

 

「承知しもした! 態勢を立て直すど。焼き畑兵! 前へ!」

 

 すると、木陰からなにやら不審な風体のエルフ集団が現れた。ポンチョ姿の他のエルフ兵と違い、分厚い革製の服で全身を防護している。手足はもちろん、顔まで不気味な面で覆っているのだから尋常ではない。そしてさらに、背中にはバカでかい革袋を背負っていた。

 

「げぇっ!」

 

 それを見たダライヤ氏が奇妙な声を上げた。

 

「知っているのか、ダライヤ殿」

 

 思わず、ダライヤ氏に聞き返す。……もっとも、あの謎のエルフ兵どもの正体は、僕もうすうす感付いていた。だってアレ、どう見ても……。

 

「うむ、アレはエルフ火炎放射器兵。旧エルフェニア帝国の暗部、森を焼く禁忌の兵科じゃ……」

 

 かすれた声で、ダライヤ氏はそう説明した。やはりそうかと僕が思わず額に手を当てたのと同時に、オルファン氏が高々と掲げていた木剣を振り下ろして命令を下す。

 

「やれ!」

 

「くれぃ! こいが正統派エルフん戦い方じゃ! 僭称軍ごときにはマネできめ!」

 

腐れ(ねまれ)外道どもめ! 灰にしてイモ畑ん肥料にしてやっ!」

 

 エルフ火炎放射器兵は、口々に汚い言葉を吐きながら手に持った鉄管をを戦場に向けた。パイプの後端には革製のホースが接続され、背中の革袋とつながっている。……次の瞬間、鉄管から炎が噴き出した。ガスバーナーなどの火焔とは明らかに異なる液状の炎が猛烈な勢いで飛んでいき、アーチを描いて森の木々に降り注ぐ。

 ……エルフに火炎放射器兵が居るのは知っていたが、思っていたのより三倍くらい近代的な火炎放射器を使ってるな。なんやねんアレ、木剣と弓矢がメイン装備の連中が持ってていい機材じゃないだろ。エルフどもの技術体系はワケがわからなさすぎる。

 

「グワーッ火炎放射!?」

 

「アツイ! アツイ!」

 

 猛烈な火焔を浴びた大木が一瞬で炎上し、その余波が戦闘中のエルフ兵たちを敵味方関係なく襲った。そのままポンチョ等に引火し、地面に倒れる者もすくなくない。

 エルフどもが使う液体火薬は、前世の世界の東ローマ帝国で使われていたという特殊焼夷剤、ギリシア火に近い代物だ。この火薬には水に触れると却って激しく燃え上がるという性質があり、本来ならなかなか燃えないはずの生木であろうが平気で焼き尽くす。まったく恐ろしい兵器だ。

 おかげで周囲はあっという間に火焔地獄状態になり、踊る炎が僕らの貧弱な照明弾などよりよほどハッキリと周囲を照らし出した。火焔に巻き込まれたエルフどもが悲鳴を上げながら逃げ惑い、別のエルフ兵が爆笑しながら逃げるエルフ兵に矢を射かけている。こ、この世の地獄~!

 

「今じゃ、アルベールどん! 我ら正統なっエルフェニア兵は炎など恐れん! 火を見て獣んごつ怯ゆっ軟弱者が敵兵じゃ!」

 

 オルファン氏がそんなことを叫んでいるのが聞こえた。なんやねんその雑な敵味方識別法は! ……ええい、しかし今は従うしかないか!

 

「撃ち方準備! 目標、逃げるエルフ兵!」

 

 僕の号令に従い、リースベン兵は小銃を、エルフ兵は妖精弓(エルヴンボウ)をそれぞれ構えた。先ほどまで真っ暗だった森の中は、火炎放射器兵の活躍で明々と照らし出されていた。照準を付けるのは極めて容易だ。

 

「撃ち方はじめ!」

 

 銃声と、弓矢特有の風切り音が連続して響く。鉛球と矢の嵐を浴びたエルフ兵たちは、悲鳴を上げてバタバタと倒れ始める。……ねえこれ、大丈夫なんだよね? 味方巻き込んでないよね? そう思ってダライヤ氏の方を見たが、彼女は微妙な表情で顔を逸らすばかりである。……何とか言えよロリババア!

 

「ようし、今のうちじゃ! 転進! てんしーん!」

 

 そんな僕らのことなど気にせず、オルファン氏が意気揚々と部下を引きつれ僕らの方へと走り寄ってくる。普段の彼女は蛮族とは思えぬほど淑女なのに、戦場に出るとこれか。余りのギャップに、僕は頭がクラクラしてくるのだった……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。