異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第311話 くっころ男騎士VSアリンコ兵(1)

 黒色火薬が燃焼すると、すさまじい量の白煙が発生する。そんな黒色火薬がタップリ詰まった手榴弾が大量に爆発した訳だから、当然戦場は濃霧に包まれたような有様になっていた。

 塹壕から飛び出した僕たちは、そんな壁と表現したほうがよさそうな白煙の塊へと躊躇なく突入した。目やのどに痛みが走るが、根性で我慢する。やせ我慢なら得意中の得意だ。

 エルフ兵の一部はほら貝を吹き鳴らしている。その重厚な音色を聞いていると、なぜか闘志が湧き上がってくるから不思議だ。戦闘時特有の高揚感をかみしめつつ、僕は走り続ける。最高の気分だった。これだから兵隊はやめられない。

 

「キエエエエッ!」

 

 目の前にヌッと現れた大柄な影に、僕は躊躇なく切りかかった。エルフどもは総じて小柄でスマートだ。これほど背は高くないし乳もデカくない。視界がハッキリしていなくても、敵味方判別は用意だった。

 

「グワーッ!」

 

 案の定、人影の正体は軍隊アリ虫人だった。悲鳴を上げつつ、アリンコは倒れ伏す。彼女らの強固なファランクス陣形は、手榴弾の連続爆発によってすっかり乱れていた。乱戦に持ち込むには今しかない。

 

「突撃! 突撃! とぉーつげーき!」

 

 叫ぶたびに、アドレナリンが湧いてくるのを感じる。やけに熱くなってるなと、脳内の冷静な自分が呟いた。そうとうストレスが溜まっていたのだろう。

 戦意を高揚させるのは結構だが、これ以上判断を誤るんじゃないぞと自らに念押しする。戦闘の狂乱の中でも冷静な思考を維持し続けるのが士官としての正しい在り方だ。

 

「チェストアリンコ!」

 

「首ッ! 首寄越せェ!!」

 

 野蛮極まりない叫び声を上げつつエルフたちがアリンコ兵へと襲い掛かる。こんな奴らが味方なのかと呆れそうになったが、端から見れば僕だって彼女らの同類だろう。

 

「エルフ風情が妙な術を使いよって! チャンバラならこちらの方が上じゃと教えちゃる!」

 

 だが、敵も並みの戦士ではない。爆発や蛮声にも戦意を萎えさせることなく、こちらに立ち向かってくる。槍をブンブンと振りながらこちらに駆け寄ってくるアリンコ兵を見て、僕は叫ぶ。

 

「誰がエルフだッコラー!! 僕はマリンコじゃコノヤロバカヤローッ!」

 

 全力で地面を蹴り、叫び声を上げながら敵に肉薄する。普通の兵隊が相手なら間違いなくこれで怯んでくれるのだが、アリンコには効果がなかった。上下二本の右腕で巧みに槍を操り、穂先を突き出してくる。

 

「キエエエエアアアアアアアッ!!」

 

 絶叫しつつ、僕はサーベルを振り下ろした。回避など微塵も考えない。相手にチェストされる前にこちらがチェストすれば良いのだ。相手の穂先が僕の甲冑を叩くより早く、こちらの剣がアリンコ兵の頭上から襲い掛かった。

 

「ウワーッ!?」

 

 アリンコ兵は恐るべき反応速度で左上腕の盾を構えた。強化魔法は未発動なので盾を切り裂くような真似はできなかったが、攻撃を受けた衝撃に耐えきれず盾の裏側がアリンコ兵の頭にぶつかる。重い音がして、アリンコ兵はたたらを踏んだ。

 兜を被ってなけりゃそのまま昏倒させられていた自信はあるんだが、そう上手くはいかんね。ほぼ裸みたいな恰好をしている(よく見ると流石にパンツは履いていたが)アリンコだが、防御力は本当にカチカチだ。

 

「チェースト!」

 

 しかし、それでも隙が出来たことには変わりない。露わになった腹へ向け、刺突を繰り出す。だが、その一撃は左下腕の盾で防がれてしまった。盾の二枚持ちは、思った以上に厄介である。

 

「死に晒せオラーッ!」

 

 それとほぼ同時に、アリンコ兵の股下からアリの腹そっくりの尻尾がクルリとひっくり返って襲い掛かってきた。その先端には鋭い毒針が生えている。……尻尾の可動性高すぎんか!?

 

「ムッ!」

 

 僕はこれを、籠手の装甲を盾にして受け止めた。カチカチ防御はアリどもだけの専売特許ではない。魔装甲冑(エンチャントアーマー)で全身を固めた我々ガレア騎士のほうが総合的な防御力は上なのである。

 さらに、それと同時にサーベルの切っ先を今度こそアリンコ兵の腹へと突き立てた。呻きながら一歩後退するアリンコ兵の顔面に、回し蹴りをお見舞いした。鋼の脚甲に包まれた足で頭を蹴られたのだ。さしものアリンコもただではすまない。悲鳴を上げつつばたりと倒れ伏した。

 だが、即座に新手が現れ、槍を繰り出してくる。僕は即座にそれに反応し、槍の切っ先を切り落とした。それを見たアリンコ兵がニヤリと笑った。その口元には、クワガタめいた牙が生えている。かなり怖い。

 

「やりんさんな! 金属エルフ!」

 

 アリンコ兵の言葉に、僕は眉を跳ね上げた。エルフ訛りとはまた異なる、奇妙なイントネーションの言葉使いだ。

 

「エルフじゃねえつってんだろうが!! 僕は男だ! 只人(ヒューム)だ!」

 

「なんじゃと、男戦士!? 噂に聞くブロンダン卿か!」

 

 なんで未知の蛮族が僕の名前を知ってるんだよ、エルフども経由か? まったく冗談じゃないだろ……。

 

「おおい、皆の衆! ブロンダン卿がおったでぇ! 捕まえて女王陛下(オカン)に献上じゃあ!」

 

「おおっ本当か! あのクソババアどもに確保される前に我らのモノにせにゃあ……」

 

「御下賜が待ちきれんな、皆で”子孫繁栄”するのが楽しみじゃのぉグエヘヘヘッ!!」

 

 アリンコ兵が叫ぶと、下卑た声を出しながら増援がワラワラと現れる。全員がおっぱい丸出しの高身長褐色美女だ。なんだろうね、エロ本みたいなシチュエーションなのに全然嬉しくねえぞ。

 

「若様になんと失礼なことを! 虫けらどもめ、許せんっ!」

 

「我らん若様を奪おうなど千年早かど!」

 

 アリンコ共に対抗するように、エルフ兵も罵声と魔法と矢を飛ばす。しかし、奇襲じみた攻撃にも、アリンコ共は怯まなかった。一瞬の早業でファランクス陣形を組み、攻撃を受け止める。

エ ルフどもと対抗していたという話なのでうすうす感付いていたが、こいつらも尋常な戦士ではない。なんでこんな精強な兵士がそのへんから生えてくるのだろうか? リースベン、試される大地が過ぎるぞ。

 ……というかエルフども、ナチュラルに「我らの若様」とか言ってなかった? いつ僕がお前らの若様になったってんだよ……。最近のあいつら、マジで何なの?

 

「どいつもこいつも好き勝手言いやがって!」

 

 怒りを込めてそう叫びつつ、僕は腰にひっかけておいた手榴弾を取り出した。兜のバイザーを上げ、手榴弾から伸びた紐を口を使って引っ張りぬく。

 

「チェスト手榴弾!」

 

 タイミングを計ってから、スクラムを組んだアリンコ集団に向けて手榴弾を投げつけた。狙い通り手榴弾は空中で爆発し、密集していたアリンコどもをまとめて吹き飛ばす。

 このアリンコどもの白兵戦能力は尋常なものではない。真面目にチャンバラに付き合っていたら体力がいくらあっても足りなくなる。近代兵器でごり押しするほうが合理的だ。

 

「おおっ! さすがは若様でごわす!」

 

「グワッハッハッハ! 虫どもン戦術ももはや時代遅れじゃな! いやあ愉快愉快!」

 

 エルフどもは腹を抱えながら笑っている。めちゃくちゃ楽しそうだ。頼もしいやら恐ろしいやら、まったく厄介な味方である……。

 

「馬鹿言ってないでさっさと突っ込むぞ! できれば将の首を獲りたい、手前ら気張って戦えよ!」

 

 僕らの背後では、赤い光が連続して瞬いている。塹壕内に残ったエルフ火炎放射器兵が、敵兵の侵入を防ぐべく応戦しているのだ。足が遅くしかも防御力にも劣る火炎放射器兵は攻勢では使い辛い兵科だが、防戦ではてきめんに活躍してくれる。しばらくの間は、敵の進行を防いでくれるだろう。

 しかし、ヒト一人が携帯できる燃焼剤の量などごく限られているからな。チンタラしていたら、あっという間に打ち止めになってしまう。塹壕内に残っている戦力は陸戦隊が主力の僅かなものだから、下手をすれば敵の突破を許してしまいかねない。そうなる前に、敵の戦意を削いでおきたかった。

 

「若様、敵将ん首級を献上いたすでご褒美を頂こごたっ!」

 

「残念ながら、こちとらお前らに食わせるための食料を買い付けてスカピンになってんだよ! やれる物といったら僕のキスくらいだよッ!」

 

「流石は若様! 話が分かるッ!」

 

「おいお(はん)ら、邪魔をすっなよ! 若様ん接吻を頂ったぁこんワシじゃ!」

 

 なんでむくつけき男騎士のキスなんかでそんなにテンション上がってんの、お前ら……。

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