異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第314話 くっころ男騎士とセクハラ軍議

 その後、ヴァンカ派のほうも潮が引くように部隊を撤退させていった。ヴァンカ派単独では我々に対抗するのは難しいからな、当然の判断である。

 我々もまた、これ以上の反撃はしないことにした。無理攻めをすれば勝てなくもないのだろうが、どうしても損害が大きくなる。それに部隊を前進させすぎると、後方の民間人を危険にさらすことになってしまうしな。

 自ら男たちを手放したヴァンカ派はともかく、アリンコ兵どもの発言を聞いているとなんとも不安が募ってくる。男たちが奴らの手に落ちたりしたら、さぞ悲惨なことになるだろう。僕としては、それは避けたかった。

 

「戦略魔法を警戒していたが……どうもそういう気配はなかったな」

 

 夕刻の指揮壕。拾ってきた大きな石を足置き代わりにしながら、僕はそう言った。今の僕はブーツどころか靴下すら履いていない。塹壕足の予防のため、足を乾かしているのだ。

 塹壕内はあいかわらず水でビチャビチャで、大変に不潔だ。しかも日が落ちてきたので、気温も下がっている。塹壕足は低温湿潤状態で多発する疾病なので、これは非常に危険な状態だ。しっかり予防するよう、部下にも命令を出している。

 

「あのヴァンカならば、アリンコ兵を巻き込もうが平気で戦略魔法を撃ち込んでくるでしょうからね。乱戦の真っ最中にそういった真似をしてこなかったということは……奴らの手元には、戦略級魔法が使える術者がいないと考えるのが自然だと思われます」

 

 手と足を火鉢にかざしつつ、ソニアは僕の意見に同調する。彼女は北国出身の癖にひどく寒がりなのだ。まあ、竜人(ドラゴニュート)はそもそも寒さに弱い種族なので仕方が無いのだが。

 水が溜まっていることもあり、指揮壕の中はかなり寒い。一応天井代わりの天蓋はあるのだが、隙間から北風が入り放題になっている。僕らはもちろん、兵たちもなかなか難儀をしていることだろう。温かい食事と防寒着の配給は必須だ。

 

「しかし、肝が冷えましたよアル様。まさかエルフどもの先頭に立って塹壕を飛び出していかれるとは……もし敵が戦略級魔法を使えていたら、今頃消し炭になっていましたよ。どうかご自重ください」

 

「しかしだねえ、エルフだけに危険な任務を押し付けるのは不義理というものだろう。共に血を流す覚悟がなければ、戦友とは呼べないんだから……」

 

 実際、ソニアの言う通りあの突撃は賭けのようなものだった。結果的に賭けには勝ったわけだが、軽率な行いだったのは確かだと思う。

 ただね、エルフだけに攻撃を任せるとか、正直怖いじゃん。ただでさえ制御不能なヤツらなのに、指揮を丸投げなんかしたら何しでかすかマジでわかんないよ。そんな土佐犬を放し飼いにするような所業は、ちょっとね。

 

「ウム、ウム。アルベールの言う通りじゃ」

 

 僕の隣に座るダライヤ氏が、訳知り顔で頷いた。キスをしてからこっち、なんだか距離感が近い。しかも、名前も呼び捨てになっている。なんだなんだこのロリババアは……。

 

「後ろでふんぞり返っているだけのものを、エルフは長とは認めぬのじゃ。あの難物共がアルベールの言葉には大人しく従っているのは、オヌシが常に最前線に立っておるからじゃよ」

 

「そん通りじゃ。オルファン皇家がこげん有様になったんも、内戦の緒戦で母上が陣頭指揮を厭うたせいじゃっでな……」

 

 腕組みをしつつ何度も頷くのは、オルファン氏……もといフェザリアだ。こちらもまた、僕の隣に座っている。しかも、肩同士が触れ合うような近さである。

 まさかロリババアに張り合ってるんだろうか? まあ、どちらも目の覚めるような美幼女・美少女である。悪い気はしないんだけど、戦場にでたとたん悪鬼羅刹に変貌するのがちょっとね……。

 

「……」

 

 エルフサンドイッチの具になった僕を、ソニアが何とも言えない目つきで見ている。居心地が悪くなって、僕は二人の包囲網からスルリと抜け出した。流木と端材で作った即席の木製サンダルを履き(ブーツは干している最中だ)、ソニアの隣に腰を下ろした。これが僕の普段の定位置である。

 ソニアは無言で、近くに置いてあった行李から羊毛製の大きな上着を引っ張りだす。そしてそれを羽織り、僕を子供のように抱き上げて自らの膝に座らせた。いわゆる二人羽織の格好である。僕は無言で、なされるがままになっていた。

 お互い、すでに甲冑は脱いでいる。その豊満なバストを背中にぎゅっと押し付けられる感覚はなかなかに刺激的だ。……まあ、冬場のソニアは四六時中こんな感じで密着してくるので、ある程度は慣れているのだが。それでも無心でいられないのは、男のサガというものだろう。

 ……本当にそうか? この世界の男性は、前世の男たち程性欲が強くないっぽいからなあ……。僕が淫乱なだけかもしれん。

 

「なんじゃそれ……」

 

 ヘンな顔をしながら、ダライヤ氏が聞いてくる。まあ、慣れない者が見れば面食らう光景ではあるだろう。フェザリアも凄い顔をしている。

 

「暖を取っているだけだが? 竜人(ドラゴニュート)は寒さに弱い。そこで、パートナー(・・・・・)を湯たんぽ代わりに使うわけだ。合理的だろう」

 

 ソニアはドヤ顔でそう言った。実際、彼女の故郷である北方辺境領では、この二人羽織スタイルはいたってポピュラーなものだ。冬場となれば、只人(ヒューム)竜人(ドラゴニュート)はベッタリくっつきあって生活している。当然、幼馴染である我々も例外ではない。

 最初のころは美少女(子供のころからソニアは美しかった)と密着できるご褒美イベントだぜ! と喜んでいたのだが、なにしろ毎日のことなのですぐに慣れてしまった。今では日常の一部、季節の風物詩のようなものだ。

 

「ほぉ?」

 

 ダライヤ氏は眉を跳ね上げ、フェザリアに目配せした。エルフ二人は頷きあい、こちらににじり寄ってきた。そして我々を挟み込む形で強引に寄り添ってくる。エルフサンドイッチ・イン・ソニア状態である。

 

「何だ貴様ら、馴れ馴れしい。散れ!」

 

 ソニアが怒声をあげるが、歴戦のエルフがその程度で怯むはずもない。ダライヤ氏とフェザリアはしらっとした顔で言った。

 

「いやあ、確かに今日はなかなか寒いからのぅ」

 

「ご相伴にあずかろうち思うてな」

 

 僕の頭にアゴを乗せつつ、ソニアはギリリと歯ぎしりした。このまま放置すると暴力沙汰になるなと直感した僕は、即座に話を逸らすことにした。我が幼馴染は口より先に手が出るタイプなのだ。

 

「それはさておき今後の方針について話しておきたいんだが」

 

「ハイ」

 

 ソニアも軍人である。仕事の話を出されれば、真面目に聞くほかない。彼女はひどく残念そうな様子で頷いた。

 

「手痛い反撃を喰らった以上、敵も次の攻撃は躊躇するだろう。こちらから打って出ない限り、しばらくの間はにらみ合いが続くと思う」

 

「戦力その物はこちらの方が多いワケじゃしのぅ。ましてや、この堅牢な陣地。無理やり攻め落とすのはまずムリじゃろうて……」

 

「その通り。しかし反面、こちらとしても逆攻勢は仕掛けづらい状態だ。エルフだけならまだしも、相手にはアリンコがいる」

 

 アリンコ共のファランクス陣形は、現状ではかなりの脅威だ。前回の戦いでは手榴弾で強引に隊列を乱すことで対処したが、同じ手はもう使えない。手榴弾の備蓄をほぼ使い果たしてしまったせいだ。

 

「矢玉の在庫ももうそろそろ危ない。攻勢に失敗すれば、我々は剣と銃剣のみであの連中と戦わなくてはならなくなる。いくら頭数が多いとはいっても、これはあまりに危険だ。そこで……」

 

「増援を待つ、ということですね」

 

 さすが、我が頼りになる副官は話が早い。僕は頷いた。

 

「カルレラ市には既に鳥人伝令を送っている。いざという時のために、事前に作戦計画は作っておいたんだ。今頃、ジルベルトが大急ぎで出陣の準備をしてくれているはずだ」

 

「増援じゃしか。数としては、どん程度なんやろう?」

 

 フェザリアの質問に、僕は自分で書いた作戦計画書の内容を想い返した。僕がジルベルトに発令を命じた作戦は、コードネーム・赤号作戦(レッド・プラン)。エルフ側と完全に決裂し、全面対決に至った想定の計画だ。とうぜん、リースベン軍の全戦力が投入されることになっている。

 

「三百名弱、というところだ」

 

「フゥム……」

 

 形の良い顎をゆっくりと撫でつつ、フェザリアは唸った。リースベン兵が三百人増援に来たところで、どれほど役に立つのだろうか? そう考えているに違いない。

 まあ、練度面ではリースベン軍の一般兵はエルフ兵に遥かに劣るからな。ウン百年の間鍛錬し続けた武芸者と、街のチンピラを即席で兵隊に仕立てただけの連中を比べてはいけない。

 

「頼りになる戦力さ。安心していい。この部隊には、山砲六門と迫撃砲十二門が含まれている。平地で戦うぶんには、アリンコ兵など鎧袖一触だ」

 

 二人羽織の中にこっそり手をつっこみ、僕のフトモモをスリスリ撫で始めたダライヤ氏の手をひねり上げつつ、僕はそう答える。おまえはアデライド宰相か、このエロロリババアめ。

 ダライヤ氏は口をパクパクさせつつ、無言で手を引っ込めた。ソニアにバレたら半殺し確定なので、悲鳴を上げたり文句を言ったりはできない。

 そんな彼女を無視しつつ、僕は思案した。現状、一番恐ろしいのはアリンコ共だからな。砲兵さえいれば、こいつらは一網打尽に出来る。ついでにヴァンカ派のエルフも河原にいるうちに出来るだけ削っておきたいところだ。こういう開けた地形では、兵の練度よりも火力の大小のほうがよほど重要な要素になってくる。

 

「ふーむ。ようわかりもはんが、アルベールどんがそうおっしゃらるっんであれば信頼いたしもんそ」

 

 そんな攻防が水面下で行われているとはつゆ知らぬ表情で、フェザリアは何度か頷く。真面目で大変結構。

 

「増援が到着するまでは、とにかく籠城しようと思う。ただ、問題は物資……特に食料だな。なにしろ大所帯だ。口が多いぶん、消耗も激しい」

 

「カルレラ市から持ってきた分の糧食はすでに使い果たしていますしね……。これ以降はルンガ市で徴発したぶんに頼るほかありませんが、それにしても数が……」

 

 冷たい手を僕のシャツの中に突っ込み、腹をぺたぺたと触りつつソニアが唸る。コラやめんか、いくら寒いからって直接接触はダメだろ。お互い未婚だし婚約者同士でもないんだぞ。

 

「かなりの節約が必要になりそうだ。別の意味で苦しい戦いになりそうだな……」

 

 再び侵入してきたダライヤ氏の手を迎撃しつつ、僕は言う。……なんで複数人からセクハラを受けつつ軍議してるんだろう、僕……。


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