異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第315話 くっころ男騎士と大姉貴

 軍議が終わると、僕はダライヤ氏を伴って陣地の奥に用意された独房……というのもおこがましい粗末な檻を訪れた。ダライヤ氏が捕獲したアリンコ軍……アダン王国残党軍? とかいう連中の尋問を行うためである。

 雑兵どもは大した情報など持っていないだろうが、高級将校ともなれば話は別だろう。せっかくダライヤ氏が"大姉貴"を生け捕りにしてくれたのだ。ぜひ有効活用したいところである。

 

「……」

 

 流木を組み合わせて作ったひどく粗末な檻に閉じ込められた"大姉貴"は、何とも言えない目つきでこちらを睨みつけてくる。ダライヤ氏をはじめとした色ボケエルフどもにボコボコにされ意識を失っていた彼女だったが、一時間もしないうちに目覚めていた。

 しっかし、アレだね。即席の野戦陣地に専用独房なんか用意されてるはずもないので仕方が無いんだけど、檻があまりに粗末すぎて邪神に捧げられる生贄にされかかっている人みたいに見えるぞ。見た目が悪すぎる……。

 

「やあやあ、半日ぶりじゃな。アダン王国宰相、ゼラ殿」

 

 友人に話しかけるような気安い声で、ダライヤ氏が言う。宰相!? と一瞬面食らったが、ダライヤ氏だって一応皇帝である。火山の噴火に伴う文明崩壊が原因とはいえ、なんとも有難みのない話だなあ……。

 

「おんどれ、ワシの名前を……!」

 

「我々エルフェニアとオヌシらアダンは長年の宿敵同士。当然、幹部級の名前と顔は頭に入っておるとも」

 

 ニコニコと笑いつつ、ダライヤ氏は檻の隣に腰掛ける。少し息を吐いて、僕もそれに続いた。

 相変わらず油断のならないロリババアだな、しかし。相手がどういう役職にあるのか理解したうえで、あえて生け捕りを狙ってたわけか。

 アダン王国残党残党とやらがどんな組織なのかはよくわからんが、一応宰相なる役職に就いているのだから要人には違いあるまい。生かしておいたほうが、首だけにするより遥かに利用価値があるのは事実だろう。

 

「はあ、まったく食えんババアどもがよ。……んで、そっちが例のブロンダン卿?」

 

 ため息を吐きつつ、"大姉貴"ことゼラは肩をすくめる。その言葉遣いはやや訛ったものだが、エルフ訛りよりははるかに聞き取りやすかった。

 

「その通り。リースベン城伯にして騎士デジレ・ブロンダンの息子。アルベール・ブロンダンだ。よろしく。……よろしくってのもヘンなハナシだな。こんな場所で」

 

「ハハ、違ぇねえや。……わしはアダン組で若頭をやっとります、ゼラ・グロワ・アダンでがんす。ま、ヨロシク」

 

 手枷の嵌められた四本の腕を窮屈そうに動かしながら、ゼラ氏は頭を下げた。組だの若頭だの、なんだかヤクザの名乗りみたいだな。宰相ではなかったのか? ウウーム……。

 というか、姓と国名が一緒じゃん。王族なのかね? でも、彼女らアリ虫人だしなあ。この手の亜人とは初めて遭遇するのでよくわからんが、昆虫のアリと同じくコロニー全体が血族の種族なのかもしれんし……。

 

「で、ワシが……」

 

「ダライヤ・リンド。……わしらの一家でおどれの名を知らんモンはおらんけぇ」

 

 右の口角だけ上げながら、ゼラ氏が言う。ダライヤ氏は鼻で笑いつつ「ほお?」と小さく声を上げた。

 

「んで、これからわしはどうなるんね? 古来より、エルフの捕虜になった者は生き胆を抜かれて食われるっちゅう話じゃが」

 

「さあ、どうじゃろうな? ワシらがオヌシをどう扱うかは、これからのオヌシの態度にかかっておるよ」

 

 背筋が寒くなるような笑みを浮かべつつ、ダライヤ氏は地面の水たまりをつま先でちゃぷちゃぷと叩いた。純真な童女のようなその動作が、却って恐怖を煽る。何をしでかすかわからないヤバいやつ、そういう雰囲気だ。

 

「君にはいろいろと聞きたいことがある。こちらの必要とする情報を話してくれるのであれば、悪いようにはしない」

 

 アリンコ共は突如参戦してきた勢力だからな。いろいろと謎が多い。可能であればさっさと和睦して、戦線離脱させたいところだ。

 前回の戦いではなんとか撃退できたが、アリンコ兵の平地での戦闘力はかなりのものだ。好き好んで戦いたい相手ではない。こいつらさえいなければ、包囲を突破して強引にカルレラ市へ向かうプランもアリといえばアリなのだが……。

 

「一発ヤらしてくれたら、わしもペラペラうたい(・・・)だすかもしれんぞ。どうする、ブロンダンさんよ」

 

 ニタニタ笑いつつ僕を視姦してくるゼラ氏。むろん、挑発だろう。こんな状況でよくそんな減らず口が叩けるものだ。敵ながら関心しちゃうね、まったく。

 しかしゼラ氏、あいかわらずおっぱい丸出しなんだよな。褐色の肌が夕日とオイルランプの光に照らされて、なかなかにエロい。まっとうな感じでお誘いされたら、クラッと来ちゃいそうだ。

 でもこの気温でこんあ格好してたら普通に寒いと思うんだよな。きちんと服と毛布は支給してるんだが、虚勢をはってんのかね? 見てるこっちまで寒くなるから、服くらいちゃんと着てほしいんだけど。

 

「残念ながらアルベールはワシのじゃ。オヌシにはやらん」

 

「いつ僕が君のモノになったんだ、ダライヤ殿」

 

「なんと! ワシのぴゅあな心を弄んだのか、アルベール! この年寄りになんとひどい仕打ちを……」

 

 わざとらしく泣き崩れて見せるダライヤ氏。マジでピュアな人間は皇帝位を簒奪(さんだつ)したり元親友をハメて国を意図的に叩き割ったりしないのよ。

 

「まず第一に聞きたいのは、なぜ君たちがこの戦いに参戦してきたのか、だ。僕の記憶が確かなら、君たちと我々は初対面のはずだ。なぜ一切の通告もナシにいきなりブン殴って来たんだ?」

 

 完全にダライヤ氏を無視して、僕はゼラ氏に質問をぶつけた。まあ、真っ当な答えが帰ってくるとは思ってないがね。相手はあの戦闘マシーンじみたアリンコ共の大幹部だ。肝の座りようは尋常ではない。

 

「散歩をしとったら、祭りをやっとるのが見えたんで飛び入り参加させてもらったのよ」

 

「なるほどなあ」

 

 なんと白々しい。すくなくとも、カルレラ市の周囲でアリ虫人が確認されたという報告は一度も上がっていないのである。この連中は、かなりの奥地に潜んでいたハズだ。

 それがわざわざこんな場所までやってきたのだから、それなりの理由があるはずである。少なくとも、偶然などということはあり得ない。

 

「実はのぅ」

 

 気楽な声で、ダライヤ氏が言う。

 

「ここ数ね……いや、十年くらいじゃったか? まあ何にせよ、ここ最近誰ぞが食料庫のイモを横領しておるような気配があったのじゃ。残念ながら尻尾は掴み切れんかったのじゃが……おそらく、犯人はヴァンカじゃろうと思っとる」

 

 デカい石に腰掛けたまま、ダライヤ氏は足をプラプラ揺らした。退屈を持て余した童女のような態度だが、その顔には外見にふさわしくない黒い表情が浮かんでいる。

 

「アレなあ……てっきり、(いくさ)のための糧食をため込んでおるのではないかと考えておったのじゃが。もしやあのイモ、オヌシらに流れておったのでは?」

 

「……」

 

 ゼラ氏の目尻が、微かに震えた。その様子をネットリと観察しつつ、ダライヤ氏は言葉を続ける。

 

「半士半農の我らと違い、オヌシらアリンコは完全な戦士の民。狩猟と採集、そして農民どもからの収奪がなければ、生きては行けぬ」

 

「……収奪たぁ人聞きの悪い。ありゃ用心棒(みかじめ)料じゃけぇ。無法を繰り返すおどれら外道(エルフ)の魔の手から、力無き民(カタギの連中)を守ってやってたのよ」

 

 狩猟採集生活ね。軍隊アリそのままの生態してるんだな、こいつら。……リースベンの大型動物や魚類が絶滅しちゃったのって、もしかしてこいつらのせいだったりする?

 

「とはいえ、奪う作物も狩りの獲物もなくなってしまえば、オヌシらも生きては行けぬ。命を繋ぐためには……まあそれなりの工夫が必要じゃろうな。たとえば、かつての宿敵と密かに手を結ぶ、とか……」

 

 ゼラ氏の減らず口をまるで無視して、ダライヤ氏はそう言い切った。囚われのアリ虫人はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「……流石はご先祖様が名指しで警戒せぇ言うとった伝説の外道。ワシごときのオツムで誤魔化そうっちゅう方がムリじゃったのぉ」

 

 深々とため息をついてから、ゼラ氏は尊敬と畏怖の入り混じった目でダライヤ氏を見た。

 

「降参じゃ、降参。酒を一杯もらえんか? 口の滑りを良うしとかんと、おどれらに何されるか分かったもんじゃないけぇのぉ」


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