異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第384話 くっころ男騎士と爆弾発言

 僕はほとんど腰を抜かしそうになっていた。フランセット殿下が僕を王配……すなわち、夫にしたいなどと言い出したからだ。タチの悪い夢だとしか思えないような出来事だが、残念ながらこれは現実だった。

 

「い、いや……いやいやいや、殿下! あなたには既に立派な婚約者がおられるではありませんか!」

 

 絶句していた僕だが、いつまでも混乱しているわけにもいかない、頭をブンブンと左右に振ってから、そう言い返す。実際、彼女には既に王太子という身分にふさわしい、高貴な婚約者がいた。ガレアの西に浮かぶ島国、アヴァロニアの王子様だ。

 このアヴァロニアは海運を軸とした国家運営を行っている海洋国家であり、ガレア王国に勝るとも劣らない大国だった。この国の王子と我が国の王太子の婚姻は、外交的にも非常に重要な意味を持つ。そんな国際政治の場に、僕のような騎士上がりの辺境領主がしゃしゃり出ていっていいはずがない。

 

「彼との婚約は破棄する」

 

「婚約破棄ィ!?」

 

 フランセット殿下の言葉に、僕は思わず不敬極まりない叫び声を上げた。泥酔してわけのわからんことを口走ってるんじゃないか、この人。そう思って彼女をうかがうが、その顔は真剣そのものだしもちろん酒の匂いもしない。

 オ、オイオイオイ。婚約破棄ってなんだよ? それって僕が"ざまぁ"される奴じゃん。勘弁してくれよ。しかも相手は大国の王子様だぞ? 一方的に婚約を破棄したりしたら、どう考えてもアヴァロニアとの仲が拗れるのは間違いない。やめなさいよ無駄に味方を減らすような真似をするのは。

 

「そんなことをしたら、アヴァロニアが黙ってはいませんよ!」

 

「だろうね」

 

 フランセット殿下は大きく息を吸い、そして吐いた。自らをなんとか落ち着かせようとしているような動作だった。

 

「しかし……外交と内政、どちらを優先すべきかといえば、間違いなく後者だ。アヴァロニアのほうは、丁寧に断りを入れ、謝罪金を送ればまあ戦争にまでは発展しないだろうし」

 

「いや、しかし……それ以前に、なぜ僕を……」

 

 たしかに、現在のガレア王国の内政はあまり良い状態とは言い難い。なにしろ四大貴族のうちの二つが一度に反乱を起こしてしまったのだ。迅速に鎮圧されたとはいえ、やはり国内には何とも言えないきな臭い空気が漂っている。

 そういう空気を一掃するために、王家が国内貴族との婚姻に舵を切る……というのはまあわからなくもないんだよ。たとえば、スオラハティ辺境伯の息子(辺境伯はソニアの異母弟を養子に取っているのだ)とかとね。しかし、そのお相手が僕というのは予想外だ。

 

「どうやら、君は自分を過小評価しているようだな」

 

 そう言って、王太子殿下は僕に歩み寄った。そして、僕の肩に手を乗せる。彼女は竜人(ドラゴニュート)貴族の例にもれず長身で、僕よりも頭半分ほど背が高かった。

 

「オレアン家らの反乱を迅速に鎮圧できたのも、その後に宰相陣営が躍進を遂げたのも、君がいたからだ。これほどの逸材が、宰相の手元に居るというのは大変に危険だ。王家の手の届くところで、管理せねばならない」

 

「……」

 

 当たり前の話だが、王家としては王軍と宰相・辺境伯派閥と軍事力が逆転するのは避けたいだろう。均衡を保ち続けるために、王軍の強化は急務だ。僕もその辺りは理解しているから、新式軍を編成するためのマニュアルを王都内乱の際に殿下に渡していたのだが……あれだけでは足りぬということか。

 もちろん僕としても、新たな内乱の火種を作りたいわけではないからな。王家から要請があれば、いくらでも協力する腹積もりだった。しかし、こういう事態は流石に予想外だ……。どうにも、王太子殿下は宰相が本気で反乱を起こすつもりでいると勘違いしているフシがあるな。いや、状況証拠だけ見れば、そう判断するのも致し方のない話かもしれないが……

 

「……というのが、表向きの理由」

 

「表向き」

 

「そう、表向き。建前ともいう。……女らしく、直球で行こうか。余は、貴殿を……ブロンダン卿を、男として好いている。君が欲しくなったんだ」

 

 僕の肩に置かれた手に、ぐっと力がこもった。僕が絶句していると、殿下は無言で僕を抱きしめてくる。

 

「好きだ。好きなんだよ、君のことが。宰相などに渡したくはない……!」

 

 しっとりとした甘い声で、殿下は僕の耳元で囁く。……わあ、ヤッベ。ちょっとクラッと来たわ。思わず抱きしめ返しそうになっちゃったわ。ヤバいヤバい、これが童貞百人斬りの凄腕ナンパ師の腕前か。童貞が単独で相手をして勝てる相手じゃないな……。

 冷静になれ、冷静に。今まで僕は、彼女と何回顔を合わせた? 十回にも満たない数だろう。しかもその半分以上が、酒場での飲み会である。そんな薄い付き合いしかない相手と、重要な婚約を反故にしてまで結婚する? いや、いやいやいや、そんなのあり得ないだろ。

 つまり、殿下の本音は例の自称"建前"のほうだろう。僕をヘッドハンティングして宰相派閥から鞍替えさせたいわけだな。その対価として王配の地位を用意したというのなら、何とも豪勢な話だよな。どれだけ過大評価されてんのって話だ。ま、王配云々の話がたんなるブラフである可能性も結構高いが……。

 

「いけません、いけませんよ、殿下。僕は身分卑しき身でありますし、ごらんのように男らしさなどかけらもない無骨な人間です。このような者をお傍に置けば、殿下ご自身の評判を落とすことにもつながります」

 

「知ったことか! そんなことは! 余の前で君を侮辱してみろ、誰であれ余が手づから切り捨ててやる!」

 

 感極まった様子で、殿下はそう叫んだ。わぁ、迫真の演技。王族ってやつは凄いな。僕ごときにここまでやるか。もし僕が転生者じゃなかったら……普通にコロっといってただろうなぁ。つまり、王家は泣き落としじみた手段を使ってでも僕を獲得したいほど、宰相派閥に危機感を覚えていると。そういうことか。

 ううーん、あまりいい傾向ではないな。下手をすれば、先制攻撃を仕掛けられる奴だ。僕が思うに、宰相にはそんなつもりはさらさらないように思えるのだが……こればっかりは、アデライドの日ごろの行いが悪いな。あの人、殊更に悪ぶってみせるような悪癖があるし。親しくない人間が彼女を悪党だと勘違いするのも、致し方のない話だ。

 何はともあれ、王家と宰相派閥が直接矛を交えるなどあってはならない話だ。なんとしても、衝突を回避せねば。もちろん、そのためには僕が王家に婿入りなどしてはならない。そんなことになったら、両者の亀裂はますます広がるばかりだろう……。

 

「……申し訳ありません、殿下。自分はあなたの気持ちにお応えするわけには参りません」

 

 僕はそう言って、フランセット殿下の抱擁から強引に逃れた。彼女は悲しげな様子で「ああ……」と小さく声を漏らす。

 

「アルベール、なぜだ……? 君……あの宰相と結婚せねばならないんだろう? 余と一緒になれば、その運命からは逃れられるんだぞ!」

 

 いや別にいいんですけどそれは。確かにアデライドには少々アレな部分はあるけども、そういうところも含めて愛す自信はあるし。というか、僕にはもったいないくらいの嫁さんだし。しかも結婚したら借金もチャラにしてくれるって話だし。僕にとってはむしろ都合がよすぎるくらいの結婚なんだけど。

 

「それに……聞いた話では、あの宰相のみならず、蛮族にまで身を捧げねばならないらしいじゃないか! そんなことが許せるのか? 余は、許せん!」

 

 わあ、そんなことまで露見してるのね。うーん、思った以上に領内に諜報員が浸透してるみたいだなぁ。防諜組織とか、作っておいた方がよさそうだ。僕は正規軍畑の出身だから、こういう分野は専門外なんだよなぁ。参ったね、こりゃ……。

 

「だからこそ、です」

 

 とはいえ、今はそれどころではない。何とかして、カドの立たない形でこの話を断らねば。王太子殿下がマジで僕を王配に迎える気なのかは、正直わからん。適当に騙してうまく利用する気なのかもしれん。というか、現状その可能性が一番高い。とはいえ、相手は王国の次期最高権力者。機嫌を損ねるのは大変によろしくないだろ。

 

「殿下。僕は昨夜、権力についてのお話をしましたね?」

 

「……ああ。階段に例える、アレだね?」

 

 コクリと頷くフランセット殿下。

 

「ええ、そうです。あの時お話したように、リースベンの領主たる僕の肩には、決して小さくはない責任が乗っています。むろん、殿下ほど大きくも重くもありませんが……アルベールという人間の器量では、これが精一杯なのです」

 

 僕の脳裏に、今日の視察の時に見た光景がよみがえる。建設途中の冬営地、僕とフェザリアの結婚を喜ぶエルフ兵たち……。やはり、どう考えても王太子殿下の提案を飲むわけにはいかない。

 せめてエルフやアリンコ共がきちんとした新天地を作り上げ、領民たちとのある程度の融和が実現してからでなければ、リースベンを離れるわけにはいかん。そうでなければ、蛮族どもはもちろん領民たちにもひどく迷惑をかけることになる。気に入らないね、そういうマネは。

「……」

 

「僕には、この地に住むすべての人間の安全と財産、そして尊厳を守る義務があります。これは、僕にしか果たせぬ責任です。ゆえに、僕はこの地から離れるわけにはいかないのです」

 

 実際、現状のリースベンはかなり不安定な状況だからな。僕が領主の地位を投げ出して王都に出戻りしたら、また内乱が起こるかもしれん。今の蛮族どもは、僕がいるからまとまっている……んだと思う。思い上がりかもしれんがね。まあ、とにかく王配なんてやっている暇はないということだ。

 

「果たすべき責任を投げ出すような男に、殿下の伴侶は務まりません。そうでしょう?」

 

「しかし……それは女の論理だ。君は……男なんだ。過大な責任を背負う事、それそのものが間違いなのではないか」

 

「いいえ、殿下。そのようなことはありません。僕が宰相閣下や蛮族にこの身を捧げれば、リースベンが安定する。大変結構なことではありませんか。政略結婚とはそういうものです。僕ならずとも、貴族の家に生まれた男たちは皆やっていることでしょう。それこそ、殿下の婚約者であらせられる、アヴァロニアの王子殿下もね」

 

「……君は、騙されているんだ。宰相に」

 

 唇を尖らせ、殿下はそっぽを向いた。露骨に話を逸らしてきたな……。

 

「あの女は、君のことを道具としか見ていない。そうでもなければ、夫を蛮族と共有するような真似はしない」

 

 いや確かに外部から見たらそうかもしれませんけど、宰相はその事態を回避しようと頑張ってたんですよ。まあ、アデライドも僕も結局あの腹黒ロリババアに膝を屈することになったけどさ。……アデライドの名誉のためにも、それは言わない方がいいな。天下の宰相閣下が蛮族の長老に論戦で負けたとか、表沙汰に出来ないだろ。

 

「騙されていようと、利用されていようと、僕は構いません。肝心なのは、リースベンに住むすべての人間に変わらぬ日常を送ってもらうことです」

 

 実際問題、その辺りはどうでもいいしな。こっちの仕事に支障が出ないなら、利用されようが騙されようがどうでもいいわ。利用されることを恐れてたら社会人なんてやってらんないだろ。逆に利用し返してやる、くらいの気概は必要だ。

 

「……」

 

 黙り込む殿下を見て、僕はゆっくりと息を吸い込んで気合を入れた。さあ、正念場だ。

 

「僕は僕の責任を果たします、殿下。ですから、貴方のモノになることだけは……できないのです。リースベンの領主と、ガレアの王配。この二つの仕事は、決して両立できないでしょうから」

 

 そもそも王配って、アルベール・ブロンダンというユニットを当てるにはあんまり向いてない役職だよな。絶対軍事とか関われないしさぁ。だって、この世界における王配って要するにファーストレディだろ? 外交的なアレコレとか、奥方めいた助言とか、そういうのがメインの仕事だろ。絶対僕には向いてないって。適材適所じゃないよ。こういう非効率的な人事は、あんまり趣味じゃないね。

 

「むろん、ブロンダン家は王家の臣下です。当然、臣下としての責任は果たします。あなたの剣となり、盾となって働きましょう。僕が殿下を裏切ることは、決してありません。ご安心ください」

 

 僕の立場で言えるのは、ここまでだな。あとは上長……宰相や辺境伯の仕事だ。二人にはキチンと王家と話し合って、疑念を解いてもらわねば。

 

「……そうか、そうだな。アルベール・ブロンダンとは……そういう男だったな。すまない、余は君を見くびっていた」

 

 口元をきゅっと結んで、フランセット殿下は頷いた。どうやら、納得してくれたみたいだ。僕は内心、ほっと安堵のため息をついた。

 

「残念ながら、今の余は君を説得できる言葉を持ち合わせていないようだ。だが……覚えておいてくれ。余は、本気で君のことが……」

 

 そこまで言って、フランセット殿下は僕を再び抱き寄せた。そして、優雅な動作で唇を奪う。

 

「……好きなのだ」

 

 唖然とする僕をぎゅっと抱きしめてから、フランセット殿下は踵を返した。そして、こちらに背を向けながら右手を軽く上げる。

 

「さらば、アルベール・ブロンダン。また会おう」

 

 湿った声でそう言ってから、フランセット殿下は闇の中に消えていった……。

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