異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第45話 くっころ男騎士と鉄馬車

 敵重装歩兵による地雷撤去は粛々と進んだ。銃弾、砲撃、そして地雷。様々な攻撃により少なくない数の兵士が倒れたが、その作業の手が止まることはなかった。敵ながらほめたたえたくなる勇猛ぶりだが、こちらとしてはそれどころではない。

 

「予備兵に手榴弾をありったけ持たせて前に出せ!」

 

 すでに血路は開かれてしまった。戦車モドキ……鉄馬車が突っ込んでくるのは時間の問題だ。馬車の車輪では塹壕は乗り越えられないだろうが、鉄条網は突破されてしまうだろう。この段階で第一塹壕線に敵の浸透を受けるのは面白くない。

 

「昨日の今日であんなものを用意するとはな」

 

 コレットの言うように、夜襲を仕掛けていれば馬車の改造も妨害で来たんじゃないだろうか? そう考えたが、やはり手持ちの戦力で夜襲を行うのは無謀だ。防衛戦なのだから、戦力の浪費は絶対に避けなければならない。

 

「大砲を命中させればあの程度の馬車は粉砕できるんですが……」

 

 騎士が唸った。まあ、鉄板を張っていると言っても所詮は木造の馬車だからな。銃弾は防げても砲弾はムリだろう。しかしそれは当たればの話だ。

 

「あの砲じゃムリだな」

 

 なにしろまともな照準器もついてない急造砲だ。しっかり狙っても移動目標に当てるのは不可能だろう。何か代わりになるようなものは……脳裏に浮かんだのは翼竜(ワイバーン)だ。あれで近接爆撃をかければ撃破できるのでは?

 

「いや、駄目か」

 

 翼竜(ワイバーン)には五〇〇ポンド爆弾も空対地ミサイル(マーヴェリック)も搭載できない。手榴弾や火炎瓶を空から投げ落とすのがせいぜいの貧弱な対地火力しか持っていないんだ。退陣攻撃ならまだしも、対物攻撃には使いづらい。

 まあ、しかし翼竜(ワイバーン)を攻撃に使うのは悪いアイデアではない。今は偵察にしか使っていないが、すぐに攻撃に転用できるよう準備させておくことにしよう。とはいえ、まあ今は鉄馬車の対処に集中すべきか。

 

「アレは肉薄して吹っ飛ばすしかないか」

 

 砲兵も航空機も頼りにならない以上、歩兵で対処するほかない。背負った騎兵銃を確認した。場合によっては鉄条網が破られ、塹壕内部に敵の侵入を許す可能性もある。白兵戦の準備はしておかないとな。

 

「来るぞ……!」

 

 そうこうしているうちに、鉄馬車が動き始めた。鉄板の張られた後面を前にし、馬を繋ぐ(くびき)の部分を牛獣人の重装歩兵二人がかりで掴んで突進し始める。ちょうど、馬車が前後逆になって走っている状態だ。

 

「迎撃急げー!」

 

 傍らの真鍮製メガホンを引っ掴んで叫ぶ。銃や砲の発砲音が響く戦場で前線まで声が届くかは怪しいところだが、僕の意をくんだ伝令が弾かれたように指揮壕から飛び出した。

 もっとも、前線も鉄馬車の突撃を許せば不味いことになるというのは理解している。即座に銃兵隊がライフルを馬車に向けて斉射した。

 

「やはり小銃では効果が薄いか……」

 

 しかし、案の定銃弾は馬車の装甲板に弾かれ大した効果を発揮しなかった。……しかし、銃弾を弾けるほどの鉄板となると相当重いはずだよな。それをたった二人で動かすなんて、一体どういう筋肉をしてるんだ。クソ、羨ましい。

 そんなことを考えているうちにも、鉄馬車は着実にこちらとの距離を縮めていく。どうやら、前線部隊によって地雷の撤去が済んだルートを選んで進んでいるようだ。掘り返されてデコボコになった路面に車輪を取られ、車体がガタガタと揺れる。

 

「そのままコケちまえーっ!」

 

 こちらの陣地で誰かが叫んだ。僕もまったく同感だったが、残念ながらそんな幸運は訪れなかった。前線に張り巡らされた鉄条網に向け、鉄馬車がぐんぐんと加速していく。

 

「死にさらせー!」

 

 そんな叫びとともに、塹壕から次々と手榴弾が投げられた。手榴弾と言っても、鋳物の鉄球の中に火薬を詰め導火線をくっつけただけの簡素なものだ。導火線から火を噴き上げながら転がったそれは、馬車の直前で連続爆発する。

 

「うわーっ!」

 

 さすがにこれにはたまらず、馬車はバラバラになりながら横転した。魔装甲冑(エンチャントアーマー)のおかげか馬車を押していた兵士は無事で、ふらつきつつも慌てて逃げようとする。しかしそこへ銃兵の射撃が浴びせかけられ、二人の重装歩兵はあっという間に血塗れになり動かなくなった。いかに強固な甲冑でも、装甲の隙間を狙われてはひとたまりもない。

 

「見たか帝国の野蛮人共!」

 

「一昨日きやがれ!」

 

 こちらの兵士が快哉を叫ぶ。しかし、敵陣にはさらなる動きがあった。二台目の鉄馬車の突撃が始まったのだ。望遠鏡を覗いてよく確認してみると、三台目四代目の鉄馬車も用意されているようだ。

 

「用意できた手榴弾は、確か全部で五十発だったな?」

 

「はい、それ以上は火薬が足らず……」

 

「そうか、わかった」

 

 僕は内心眉をひそめた。さっきの迎撃だけで、少なくとも十発以上の手榴弾が投擲されたはずだ。すべての鉄馬車を迎撃するには、手榴弾の量が足りないかもしれない。

 

「白兵戦にもつれ込む可能性が高い。傭兵団の連中に前衛を任せるわけにはいかないから、場合によっては僕たちが前に出るぞ」

 

 装備の行き届いた重装歩兵を相手に軽装備のヴァレリー傭兵団を矢面に立たせたりすれば、結果は火を見るよりも明らかだ。前衛は僕たち騎士隊が務めるほかない。指揮はできるだけ落ち着いた場所でやりたいところだが、まあ戦力が足りない以上仕方がないだろう。

 

「いつでも第二防衛線へ撤退できるように準備をしておくんだ。後衛戦闘は僕たちが受け持つほかないから、撤退の指揮はヴァレリー隊長に任せる」

 

「了解!」

 

 僕の命令に反論する者は一人もいなかった。いささかタイミングは早いものの、撤退自体は作戦を立てた時点で計画されていたことだからだ。もう一日か二日くらいは持久したかったが、陣地に固執して余計な被害を被るわけにはいかない。

 第一防衛線での作戦目的はあくまで敵の前衛を疲弊させることだ。弓兵にも十分なダメージを与えることができたことだし、今はこれで満足することにしよう。

 

「ま、鉄馬車をすべて防ぎきれるというのなら、それが一番なんだが……」

 

 僕は小さな声でぼやいた。鉄条網さえ破られなければ、これまで通り一方的にアウトレンジ攻撃を仕掛けることが出来る。装甲化した部隊以外は接近すらままならない。そんな戦い方をずっと続けれることが出来れば万々歳なのだが……まあ、そう都合よくコトは進まないだろう。そんな予感があった。

 


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