異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第504話 くっころ男騎士の夜襲

 我々近侍隊は敵側面に猛烈な攻撃を仕掛けた。これに対し、敵軍は常識的な反応を示す。すなわち、散兵による足止めである。身軽な部隊を両翼の翼端に配置し、敵の迂回を抑止するのはこの時代の合戦では基本中の基本だった。

 ところが、この種の任務に就くのは身軽さを身の上とした猟兵(軽歩兵)たちである。ほとんどの者は防具と言えば鎖帷子程度しか着込んでおらず、将校ですら胸甲をつけている程度の軽装ぶりだ。こういう相手にはてきめんライフルが効果的だった。後装式の利点を生かして猛射撃を加えると、あっという間に壊乱する。

 そういう面では、むしろ弩兵や弓兵のほうが厄介だった。近侍隊はみな魔装甲冑(エンチャントアーマー)を着込んでいるから、そうとう当たり所が悪くない限り矢玉で死傷することはない。しかしそれでも、矢の雨を浴びながら進撃するのは生半可なことではなかった。

 

「木っ端風情がアル様の前に立ちふさがるとは良い度胸だ!」

 

 そんな中でも平気な顔をして大暴れしているのはソニアだった。猟兵にせよ弩兵にせよ、そして敵の主力たる下馬騎士たちにせよ、彼女からすれば雑草と大差ない。草刈りでもしているような気軽さで何もかもを薙ぎ払っていく。ほとんど戦神のような活躍ぶりだった。

 

「止めろ止めろ! 不味いぞ!」

 

 そうこうしているうちに、敵の隊列にほころびができ始める。後方で化け物じみて強い騎士が味方をバッタバッタとなぎ倒しているのだ。敵兵らも、前方の相手ばかりに集中していられなくなる。

 もちろん、この隙を逃すゼラではない。アリンコ隊が高らかに鬨の声を上げ、猛攻撃を開始した。腰の据わらない兵ではこの猛攻をしのぎ切れない。我々が攻撃を仕掛けている左翼を中心に、敵の隊列が崩れ始めた。

 ……手元に騎兵がいればなぁ! 騎兵突撃をかける絶好のタイミングなのに、僕の手元には一騎の騎兵もいないのである。我々の予備兵力は完全に払しょくしていた。ああ、残念にもほどがある。まあ予備兵力を使い果たしているのは敵方も同じことだが。お互い死力を振り絞って戦ってんな。

 

「ブッこめ! 敵戦列のケツをガン掘りしてやるんだッ!」

 

 僕はアリンコ隊ともみ合いを続ける敵主力部隊の隊列をサーベルで指し示した。敵の迎撃を突破し、あそこへ攻撃を仕掛けることができればもう勝ったも同然だ。敵軍左翼は戦列を維持できず、大規模な突破も可能になるだろう。

 

「それが出来るのはアル様だけですよッ! あたしらチンチン付いてネェですもん!」

 

 幼馴染の一人が銃剣で敵兵をめった刺しにしながら叫んだ。……そりゃそうだな! いかんいかん、ついつい前世の感覚で喋ってしまった。こちらの世界ではこの手の下ネタは厳禁である。

 

「そんなにガン掘りしたいなら今すぐハダカに向いて泣くまでガン掘りさせてやらァ!」

 

 そこへ、でかいメイスを担いだ騎士が襲い掛かってくる。騎士は騎士でも、先ほど戦った連中よりは随分と図体がデカい。たぶん、獅子獣人だな。アーちゃんほどではないにしろ、この種族のモノは総じて体格に優れている。もちろん膂力のほうも尋常ではないので、マトモにぶつかり合えば只人(ヒューム)の僕などひとたまりもないだろう。

 

「やれるもんならやってみやがれクソボケがぁ!」

 

 しかし、この程度で怯んでいては騎士などやっていられない。僕は獰猛な笑みを浮かべ、サーベルを構えなおした。身体強化魔法を連続使用は危険だが、あと一回や二回くらいならば大丈夫だろう。このデカブツをぶった切ってやると気合を入れ、そして――

 

「わたしのオトコを横取りしようとはッ! 万死に値するッ!」

 

 暴風のような勢いで現れたソニアが、愛用の両手剣をぶおんと振った。壮絶な切断音と火花が瞬き、哀れな獅子獣人騎士の頭が宙を舞う。彼女の怪力とスオラハティ家秘蔵の大業物の前には、魔装甲冑(エンチャントアーマー)とはいえ試し切り用のワラ束と大差ない。甲冑騎士を真っ二つにするのは僕だけの専売特許ではないのだ。

 

「アル様を娶らんとする者はまずわたしに挑戦せよッ! わたしを倒せぬものにアル様を婿にする資格なしッ!」

 

 ドサリと倒れる敵騎士を一瞥もせず、ソニアは剣を掲げてそう咆哮した。……同じことをアデライドの前でいうんじゃないぞ? 宰相様拗ねちゃうぞ? ああ見えて戦場に出られないことをめちゃくちゃ気にしてるんだからなあの人。

 

「それは良い事を聞いた。さっそく挑戦させてもらおうか」

 

 ひどく不遜な声音で、誰かがそんなことを言った。聞き覚えのある声だ。そちらに目をやると、そこには立派な軍馬にまたがった漆黒の甲冑の騎士がいた。その傍には、一目で精鋭とわかる騎士たちが侍っている。……顔を確認するまでもない。¥、アーちゃんだ。

 

「ほう? やっと出て来たか。待ちくたびれたぞ」

 

 ソニアの声に剣呑な響きが混ざった。それを受けた漆黒の騎士は兜のバイザーを揚げ、ニヤリと笑う。恐ろしく獰猛な表情だ。

 

「いや、すまないな。獲物が自分からこちらの懐に飛び込んでくるとは思わなかった。困惑のあまり、少しばかり歓迎が遅れてしまったのだ。申し訳ない」

 

 それはこっちのセリフだよ。軍の一番偉い人がなんで最前線に出て剣を振るってるんだよ! ……いや、これに関しては僕も他人をどうこう言えた義理はないのだが。

 

「いや、自ら妻の胸の中へと飛び込んでくる花婿だと思えは、可愛さもひとしおか。くくく、物事は考えようだな」

 

「まあこっちは胸の中に飛び込んだついでに喉笛を噛みちぎる腹積もりな訳ですがね」

 

 アーちゃんとその近衛が出てきた以上、現有の戦力で敵戦列の背後を脅かすのは難しくなってしまった。だが、問題はない。我々の本命はあくまでアーちゃんの捕縛、あるいは殺害だからな。近代戦と違い、この世界のいくさはキング……いや、クイーンを取ってしまえば終結する。

 

「花婿はそれくらい元気な方がいい。でなければ種を貰う価値がない」

 

 アーちゃんはペロリと舌なめずりをした。近衛騎士の持つ松明の光に照らされた彼女の顔には、獲物をいたぶる肉食獣のような表情が浮かんでいる。女慣れしていない純朴な男子中学生みたいな態度をとることもあれば、このような肉食系女子の顔をのぞかせることもある。アーちゃんはなかなか過激な二面性を持った女だった。

 

「ソニア・スオラハティ。我としては、出来れば貴様もいただきたい。これからの神聖帝国は激震の時代になる。揺らぎかけた国家の土台を盤石なものにするためには、有能な人材はいくらでも欲しい。……だが、たとえアルベールを共有するという条件であっても、貴様は我に恭順せぬであろうな」

 

「当然だ。わたしが忠義をささげる相手はアル様のみ! 貴様などに垂れる頭は持ち合わせておらん!」

 

「ふっ、くくく……」

 

 くつくつと笑いながら、アーちゃんはまたがっていた軍馬から降りた。近衛の一人が、心配したようすで「陛下……」と声をかけるが、彼女は気にする様子もない。

 

「止めてくれるな。これはいくさである以前に、一人の男を巡った女と女の戦いなのだ。応じぬわけにはいくまいよ」

 

 そう言って、アーちゃんは腰の剣をスラリと抜いた。月光を受け、刀身が怪しくきらめく。妙な雰囲気を纏った剣だ。おそらく、特殊な魔剣の一種だろう。リースベン戦争でも、彼女はその手の得物を使っていた。

 

「ソニア・スオラハティ。先帝ではなく、一人の女として貴様に果し合いを所望する。我が勝てば、アルベール・ブロンダンは頂いていくぞ」

 

「一騎討ちというわけか。話が早いじゃないか……」

 

 ソニアは喉を鳴らして応えた。そして、僕の方を一瞥する。僕は彼女に頷き返した。当初から、アーちゃんには一騎討ちを挑む予定だったのだ。なにしろ彼女はとんでもなく腕の良い剣士だ。なまじの騎士をぶつけても、被害が増すばかりだろう。ならばいっそ、最初から最強のカードをぶつけた方が良い。

……そういう意味では、ネェルを突っ込ませるのが一番だったんだがな。まあ、アーちゃんは後方に居るものとばかり思っていたので、仕方がない、今頃は選帝侯閣下を追い詰めてくれていることだろう。

 

「よろしい。その勝負、受けて立とう」

 

 恐ろしく気合の籠った声でそう答え、ソニアは愛剣を構えた……。

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