異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第513話 くっころ男騎士の休養

 夢も見ないような深い眠りから覚めると、辺りは真っ暗だった。寝ぼけ眼で周囲をうかがう。暗すぎて良く見えないが、屋内のようだ。しかし部屋の中はどうにも雑然としており、おまけに空気はたいへんに埃臭い。そんな部屋で、僕は麦わらの束にシーツを敷いただけの粗末なベッドで横になっていた。

 そこまで考えて、やっと頭が動き出す。ここは、リッペ市近隣の農地に作られた納屋だ。本来であれば農具の物置として利用されていた建物だが、今はわが軍が徴発して寝床として使っている。むろん所詮は納屋なので居心地はあまり良くないが、それでもテント暮らしよりはよほど快適だった。

 

「……」

 

 僕は無言で起き上がり、採光窓の鎧戸に手をかけた。夏場に閉め切られた納屋の中で熟睡していたのだから、もう身体中汗まみれだ。風に当たって涼みたい心地だった。建付けの悪い鎧戸を苦心して解放すると、風とおぼろな月光が室内に入ってくる。涼むには少々ぬるすぎる風だが、まあ無いよりはマシだ。リースベンより遥かに湿度も低いしな。

 

「おはよう、ございます」

 

 窓の外からそんな声がかけられた。見れば、そこに居たのはネェルだ。彼女はワラ束の山を座布団代わりに地面に座り込んでいる。カマキリボディのせいでわかりづらいが、くつろいでいる時の姿勢だ。

 

「ああ、おはよう。いい夜だな。……ネェル、もしかして守衛をやってくれていたのか?」

 

 彼女には専用の大天幕をあてがっている。にもかかわらずわざわざこの納屋の前で休んでいるということは……つまり、僕の護衛についていてくれているということだろう。

 

「ええ。一応、ここはまだ、戦地、ですからね。万が一が、あっては、いけませんので」

 

「そうか……ありがとう。君も疲れているだろうに」

 

「お気になさらず。ツガイを、守るのは、女の、役割、ですので」

 

「……ははは、そっか」

 

 どうにもこうにも、このカマキリ娘の中では僕を娶るのはもはや既定路線になっているように見える。まぁ、いいんだけどね。ネェルはいい子だし。食われてしまわないか若干不安ではあるが……とはいえ、僕は彼女の理性の強さを知っている。たぶん大丈夫だろう。……たぶんね?

 僕は窓から首を引っ込め、枕元に置いた水差しとカップを手に取った。そして、微かな月光を頼りに納屋のドアを探し当て、外に出る。正直まだ眠たいが、納屋の中は少しばかり暑すぎる。ネェルをねぎらいがてら、少しばかり夕涼みをすることにしようか。いや、夕涼みというか、もうすっかり夜中なわけだけど。

 

「おつかれさま、ネェル」

 

 出迎えたネェルにそう言ってウィンクし、ちょいちょいと手招きをする。顔を寄せてきた彼女の唇に、僕は優しくキスをした。アーちゃんを倒したソニアにもキスをしたのだから、選帝侯閣下を捕獲したネェルにも同じようにしてやらないとアンフェアだろう。まぁ、自分のキスがご褒美になるだなんて考えは、流石に気持ち悪い気もするが。とはいえ、少しでもこれで喜んでくれるというのなら、もちろんやらない手はない。

 

「へへへ」

 

 幸いにも、ネェルの反応は好意的なものだった。彼女は照れたような笑い声を漏らし、その物騒な形状の鎌で僕を抱き寄せた。そのまま、自分の胸元の前に僕を座らせる。胸元とはいっても、なにしろ彼女は大変に大柄だ。僕の頭が、丁度彼女の腹のあたりに来るような位置関係になる。

 

「納屋の中より、君の懐のほうが快適だな。おまけに安全でもある」

 

 僕は彼女の身体に身を預けながらそう言った。ネェルは僕よりも体温が低い。彼女の肌はひんやりとして障り心地が良かった。……ちなみに昨夜は血まみれのベタベタだったネェルではあるが、今ではすっかり身綺麗になっている。モルダー川で水浴びをしてきたのだろう。

 

「二度寝はこっちでやろうかな。構わない?」

 

「ええ、もちろん。添い寝、ですか。素敵ですね」

 

 くすくすと笑いながら、ネェルは僕を鎌で優しく抱きしめた。

 

「はぁ。しかし、くたびれたね」

 

「はい。……まあ、ネェルは、大したことは、してないので、ヘーキ、ですが。でも、アルベールくんは、大変そう、ですね? ネェルは、少し、心配です」

 

 敵本陣に突っ込んで総大将を生け捕りにしておいて「大したことはしてない」とか言い出しましたよこの子。まあ謙遜もあるんだろうけど、流石としか言いようがないな……。

 

「ネェルのほうがよほど難儀な仕事をしてると思うけどね」

 

 苦笑しながらカップに水を注ぎ、一気に飲み干す。寝汗をたくさんかいたせいか、喉がカラカラだった。二杯目を注ぐと、ネェルが顔を寄せてくる。どうやら、彼女も水を飲みたいようだった。鳥人たち程ではないにしろ、カマキリ虫人の腕も食器を持つことには向いていない。僕はカップを彼女の口元に持って行き、水を飲ませてやった。……カップ一杯で足りるのかな、この体の大きさで。

 

「んふ。直接も、いいですけど、間接は、間接で、趣が、あります」

 

 なんの話ィ!? ま、まあ、満足そうだからいいか……。

 

「しかし、何はともあれ、この戦争が、早く終わってほしいのは、確か、ですね。ネェルは、戦争は、嫌いです」

 

「そうだね、それは僕も同感だ」

 

 僕は深いため息をついた。戦後処理で戦死者名簿なんかをみていると、とくにそう思う。今回の戦いは幸いにも勝利できたが、それでも戦死者はゼロではない。いや、むしろ少なからずいる。そう思うと、苦いものが喉の奥からこみあげてきた。彼女らが二度と故郷の大地を踏むことができなくなったのは、僕の采配のせいなのだから。

 はぁ、嫌なもんだねぇ。剣を振り回している間は、コンバット・ハイでテンションが上がってるんだけど。しかし、いざ戦闘が終われば残るのは虚しさだけだ。……汚い例えだが、なんだか自慰みたいだな。でも、自慰ではおびただしい数の死傷者が出たりはしないので、そっちのほうが遥かにマシか。

 

「ま、たぶん大丈夫だろう。今回の戦いでエムズハーフェン領が陥落したから、敵の南部諸侯はますます動きづらくなる。こちらが大人しくしている限りは、手を出してこないだろう。これにて僕たちの仕事は終了、あとは王太子殿下が大一番を決めるだけというわけだ」

 

 エムズハーフェン家はこの辺りでは一番の大貴族だ。もはや、帝国南部には有力な敵勢力は残っていない。むろん各諸侯が連帯して大連合軍を作ったりすれば、たいへんに厄介なことになるだろうがね。だが、そんな連合軍が作れるのであれば、そもそもエムズハーフェン軍が単独で我々と戦うような事態にはならなかったはずだろう。

 特に今回の場合は、この辺り一帯を占領・併合しようなんて作戦でもないしな。放置していてもそのうち撤退するとわかっているのならば、わざわざこちらに手を出してくるような輩もあまりいないものと思われる。

 ここまで来たら、やはり懸念は王太子殿下のレーヌ市攻略戦だけだ。上手くいっているのやらいないのやら、今のところまったく連絡が入ってこない。まあ、ヤバイことになっているのなら、救援要請なりなんなりを出してくるハズだからな。便りの無いのは良い便りと思って、必要以上に心配することはしていないが。

 

「なら、いいんですけどね。王太子? とやらが、どうなろうが、ネェルには、どうでもいい、話ですし」

 

 小さくため息をついて、肩をすくめた。

 

「問題は、あの、小うるさい、王家からの使者、とやら、ですよ。エムズハーフェン軍を、倒しても、まだ、戦えと、無茶ぶり、してくるかも、しれないです」

 

「モラクス氏か……」

 

 王室特任外交官、モラクス女爵。我々がエムズハーフェン軍と戦う羽目になったのは、彼女が更なる進撃を求めたからだった。現在、彼女は後方の安全な地域で待機している。なにしろここは戦地だ。文官であるモラクス氏がウロチョロしていたらたいへんに邪魔くさ……危険だからな。待機をお願いするのは当然のことだった。

 とはいえ、戦いが終わった以上はそろそろモラクス氏とも合流する必要がでてくる。あぁ、気が重いなぁ。あの人苦手なんだよな。ああいう官僚を相手にするのは、むしろアデライドの得意とするところだろうが。うぅーむ。

 

「流石にこれ以上を求められたら突っぱねるよ。いい加減こっちも攻勢限界だ」

 

 食料はある程度現地徴発できるにしても、矢玉や特殊な機材(エルフの焼夷剤とか)は後方から輸送してくる必要がある。これ以上補給線が長くなったら、僕たちは戦わずして枯死してしまうだろう。ただでさえ、今回の戦いでは様々な物資を大量投入してしまっているのだ。もはや手持ちの物資はほとんど使い果たしてしまっている。

 

「ま、無茶を、言うようなら、ネェルが、なんとか、しますので。邪魔者は、消える。ネェルは、満腹になる。一石二鳥、です」

 

「……」

 

「ふふ、冗談ですよ。マンティスジョーク、マンティスジョーク」

 

 絶句する僕の耳元でそう囁き、ネェルは艶然とほほ笑んだ。……やっぱこの子怖いわ。

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