異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第564話 くっころ男騎士の論功行賞(1)

 レーヌ城の大ホールは、気付けば満員になっていた。客のほとんどは、レーヌ市遠征軍に従軍した武官や軍役に応じた諸侯、そしてその娘たちだった。みな、色とりどりの軍服を身にまとい、大変に華やかだ。

 しかしよくよく見れば、男性の姿はほとんどない。遠征ということもあり、ほとんどのものは夫を所領や家に残してきているのだろう。その僅かな男性らも、全員全員がひらひらとしたデザインの動きづらそうな男性用ドレスで着飾っている。軍服姿の男など、僕以外には誰一人も居なかった。

 

「淑女紳士の皆さま、たいへんお待たせいたしました」

 

 お上りさんめいてキョロキョロしているうちに、いつの間にか正面のお立ち台に司会役の竜人(ドラゴニュート)が立っていた。僕の歓迎会でも司会をやっていた、ナントカとかいう女爵だ。

 彼女が前に出てきたことにより、立ち話に興じていた貴族らもピタリと話を止め、席に戻っていった。身分の高い者ばかりの席だから、この辺りはたいへんに行儀がいい。傭兵などの集まりだとこうはいかない。

 

「これより第三次ガレア大戦の論功行賞、並びに戦勝記念パーティを開催させていただきます」

 

 広い大ホールの隅々まで届く良い声で、ナントカ女爵はそう宣言した。席に詰めた貴族らはパチパチと拍手を返す。一応これは軍の式典なのだが、雰囲気としては民間の結婚式や何かの発表会などと大差ない。予定調和めいた、なごやかな空気。しかし、油断はできない。僕たちは、この式典の主催者から狙われている可能性があるのだ。いつ何があっても対応できる状況を整えておかねばならない。

 そんなこちらの殺伐とした気分とは裏腹に、司会は慣れた様子で式典を進行させていった。ちょっとしたジョークで賓客たちを和ませ、一礼をしてからお立ち台を降りる。代わりに出てきたのは、いかにも伊達者らしいパリパリの軍服で着飾ったフランセット殿下だった。

 

「我が忠勇なる騎士諸君! よくぞ集まってくれた。余は諸君らとこの日を迎えられたことを、人生の誇りとする。神聖帝国により不当に占拠されていたこの街を、正統なる所有者たるヴァロワ家の手に取り戻すことができたのは、諸君らの勇戦あってのことである」

 

 高らかな声音で、フランセット殿下が開宴の挨拶を始めた。パーティ慣れしているだけあって、その口調には一切のよどみがない。これだけ見れば、いつも通りの殿下という感じだ。決して、部下の粛清をたくらんでいるようには見えないが……。

 

「……」

 

 殿下の長弁舌を聞き流しながら、僕はアデライドの様子をうかがった。彼女は、普段通りの様子で殿下の方を向いていた。しかしよくよく見れば、両手を力いっぱい握っている。僕は何とも言えない心地になって、彼女の肩を優しくたたいた。

 

「大丈夫、何があっても僕があなたを守るから」

 

「そういう言葉は、私の方が吐きたいのだがねぇ。女心というものを、少しは察してほしい」

 

「……こいつは失礼」

 

 まあ、そりゃそうね。この世界の価値観では、男に守られるなんて屈辱だよなぁ。いや、まあ、アデライドも僕の性格には慣れているから、怒っている様子はないが。どちらかというと、ちょっと呆れているような感じ。

 

「まあ、現実問題として、腕っぷしではアルに敵わないんだけどねぇ。はぁ……」

 

「男の癖に腕っぷしばっかり鍛えているのもどうかと思うけど」

 

 そのせいで、世の中の奥方(もちろん、婿さんのことだ)が修めているべき技能を何一つ習得していないのがアルベール・ブロンダンという男なんだよな。好き好んでそういう風に生きてきたとはいえ、流石にどうかと思う時もある。肩をすくめると、アデライドはやれやれという風情で苦笑をした。

 僕たちがこそこそ話に興じている間にも、フランセット殿下の演説はどんどんと進んでいった。まずはレーヌ市進駐の正統性を説き、敵である神聖帝国の悪逆非道ぶりを非難し、そしてそれを打ち破った諸侯らの働きを称える。教科書通りの演説という感じだ。流石は幼いころから王太子としての教育を受けているだけあって、堂に入った話しぶりである。

 こうしてみると、フランセット殿下は僕よりも年下とはとても思えない。本当にしっかりした方だ。妙な所など微塵も感じない。それがどうしてこのような事態になってしまったのか、正直まったく理解できないんだよな。

 やはり、ピエレット氏のいうようにヴィオラとやらが裏で糸を引いているのだろうか? もしそうなら、とても許せるものではない。何もない場所に火種を作り、煽り立て……これがまだ貴族同士の政治闘争で終わるレベルならまだ良いのだが、王都の内乱は民衆にも大迷惑をかけたからな。まったくもって許せるものではない。もし黒幕が存在するというのなら、絶対に責任を取らせる必要がある。

 

「以上を持って、余からの挨拶は終了とする。重ね重ねになるが、このいくさに勝てたのは諸君らの忠義と献身あってのことだ。ヴァロワ家はこの恩義を決して忘れはしないと約束しよう」

 

 大げさな身振りを交えつつ、フランセット殿下は歌い上げるような調子でそう言った。ふと、彼女と目が合う。殿下は明らかに僕を見ながら最後のセリフを吐いていた。

 

「……」

 

 背筋に寒いものが走る。この恩義は忘れない、か。もし本当にそう思っているのなら、あまりにも恐ろしい。むしろ、口から出まかせであってほしいくらいだ。恩義があるというのなら粛清なんてするんじゃないよ。頼むから、極端に走るのはやめてくれ。

 

「殿下、ありがとうございました。それでは、いよいよ論功行賞のほうに移らせていただきます」

 

 諸侯からの割れんばかりの拍手を受けながら、殿下はお立ち台から降りる。代わりに出てきたのは、司会進行役の女爵だ。論功行賞という言葉に、会場の空気が一気に熱くなった。戦功をあげ、その分の褒賞を貰う……名誉と実利の双方を手に入れることが出来る、武官に対するご褒美タイムだ。そりゃあ、ヒートアップもするというものだ。

 

「えー、それではまず、戦功一番から発表させてもらいます」

 

 何かの競技会の順位発表のような調子で、女爵はそう言った。軍の論功行賞がこんな調子で良いのか、とも思わなくもないが、聞いた話ではランキング形式で殊勲者を発表することにより武官同士の競争を促す目的があるらしい。

 

「戦功一番は、レーヌ市遠征軍筆頭参謀。ザビーナ・ドゥ・ガムラン軍務卿閣下であります」

 

 名を呼ばれて立ち上がったのは、あのガムラン将軍だった。周囲からやる気のない拍手が上がる。遠征軍の実質的な指揮を取っていたのはガムラン将軍だから、彼女が戦功一番になるのは当然の流れだった。意外性も何もない発表だから、貴族共もしらーっとしている。ガムラン将軍本人ですら、それほど喜んではいないようだ。殿下の前へと進み出るその足取りは、それほど軽やかなものではない。

 とはいえ、実際問題このガムラン将軍はなかなかやり手の用兵家だからな。なにしろ、堅牢な水城であるレーヌ市を僅か二か月で落としているのだ。水城というのは本当に堅い。指揮を取っていたのが平凡な将だったら、この城にはいまだリヒトホーフェン家の旗が翻っていたに違いない。

 いかにもさえない中年といった風情のガムラン将軍だが、この成果を見れば油断のならない相手だということは歴然だ。もしも王家との決裂が決定的なものになれば、このガムラン将軍はそうとうの強敵として僕たちの前に立ちふさがることになるだろう。

 

「えー、ガムラン将軍は参謀としてフランセット殿下を支え、その智謀を持ってレーヌ市攻略に著しい貢献を……」

 

 手元の紙をチラチラと見つつ、女爵はガムラン将軍の武勲を称えた。そしてそれが終わった後は、いよいよ論功行賞の行賞部分に移る。

 

「素晴らしい活躍ぶりだ、ガムラン将軍。この功績に報いるため、王家は君に月桂冠勲章、王室特別年金、そしてシュリオ伯領、ならびにシュリオ市とそれに連なる農村群を君に下賜したいと思う」

 

 朗々とした声で、殿下はそう発表した。シュリオ市というのは、レーヌ市の近隣にある小都市の名前だ。王家はここに伯爵領を新設し、それをガムラン将軍に与えようというのである。典型的な御恩と奉公のやり方だな。

 

「はっ、有難き幸せ」

 

 殿下の前で跪き、ガムラン将軍は恭しくそう返した。予定調和めいたやり取りだ。殿下が頷き返すと、将軍はそのまま自分の席に戻っていく。これでガムラン将軍のターンは終了だった。

 

「では、続いて戦功二番を発表したします。戦功二番は、前南部方面軍司令、リースベン城伯アルベール・ブロンダン閣下であります」

 

 ……わあお、僕ってばガムラン将軍の次かよ。むうん、気が重いなぁ。棒を飲むような心地になりつつ、僕は「はっ」と応えながら立ち上がった。




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4月より週4回の更新をしておりました本作ですが、執筆時間の都合上この頻度での更新が厳しくなって参りました。
大変申し訳ございませんが、しばらくの間火曜、木曜、土曜の週3回更新とさせていただきます。
別件のほうが片付きましたらまた更新日を戻して行きたい思っておりますので、どうかご容赦ください。
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