異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第577話 くっころ男騎士と合流

 長い地下道を進むことしばし。懸念していた敵の待ち伏せなどにも遭うことなく、我々は無事地上に出ることに成功した。出口が設けられていたのはレーヌ市郊外に広がる小さな森で、姿を隠すにはもってこいの場所だった。まあ、もともとが緊急時に貴人が脱出するために用意されている脱出路なのだから、目立つ場所に出口を作るはずも無いのだが。

 

「やっと、合流、出来ましたね。安心、しました」

 

 苔むした岩を模したハッチからゾロゾロと現れた僕たちを出迎えたのが、一足先に市外に脱出していたネェルだった。その周りには、荷物を背負った従者たちや馬などの姿もある。彼女らは、事件が起きる前に街の外に待機させておいた者たちだった。非戦闘員やら馬匹やら荷物やらを大量に抱えて強行脱出、というのは困難だからな。先んじてこっそり街の外に逃がしておいたんだよ。

 

「悪い、待たせたな」

 

 そう答えてから、僕はネェルを無遠慮に眺めまわした。彼女は身体のあちこちに包帯を巻いており、なんだか痛々しい様子だ。ネェルはレーヌ城の戦いで敵のライフル兵の斉射を受け、負傷してしまっている。昨日のうちに市外へ出したのは、その傷を治療するためでもあったのだ。本人はかすり傷だと言っていたが、やっぱり心配だからな。無理はさせたくないだろ。

 

「君とアンジェの方は、傷の具合はどうなんだ?」

 

 アンジェというのは、僕の近侍隊の一人だ。彼女は王家の近衛との白兵戦で重傷を負い、戦線離脱を余儀なくされた。そこで、ネェルに頼んで後送してもらっていたのである。

 

「あー、駄目ですね。もう死にそうですわ。処女のまま死ぬのは嫌なんで一発ヤらせてもらっていいッスか」

 

 全身包帯まみれのミイラ女が、わざとらしく弱った声でそう言った。アンジェである。その包帯には血が滲んでおり、何とも痛々しい。……が、声音の張りを見るに普通に元気そうだな。まあ、竜人(ドラゴニュート)は頑丈だからな。手当さえ間に合えば、よほどの大けがでない限り致命傷にはならない。

 

「とどめを刺してやろうかこの野郎」

 

 拳を振り上げながら、ジョゼットが言い返す。自分もたいがいセクハラを仕掛けて来るってのに、よく言うよ。

 

「ネェルも、この程度は、かすり傷、です」

 

 一方、我らがカマキリちゃんはけなげである。鎌を振り上げ、気合十分。かわいいね。とはいえ兵隊の自己申告ほどアテにならないものはないんだよな。あいつらは軽傷を重傷と言い張って前線から逃げようとしたり、あるいは放置すれば命に係わる大怪我なのに全然平気だと言い張って前線にかじりつこうとしたりする。こうした見立ては専門家の客観的な目が必要だ。僕は従者の一団に混ざった軍医に目をやった。ネェルやアンジェの手当をした張本人だ。

 

「まあ、二人とも平気ですよ。なにしろ、体力がありますからね。ネェルさんのほうも、どうやら弾は掠っただけで直撃は受けておりません。傷の見た目はひどいですが、身体が大きい分相対的には軽傷かと」

 

「なるほど、良かった」

 

 やっとのことで安心し、僕はホッとため息をついた。とはいえ、無理はさせられないな。特に、ネェルへの過信は禁物だ。彼女は尋常ではなく強いが、その反面防御力はあまり高くない。戦車のように扱うのはやめておいた方がいいかもしれないな。彼女用の魔装甲冑(エンチャントアーマー)でも用意すれば話は別なんだろうが、甲冑を着ると重くて飛べなくなってしまうかも、と本人が言っていたからなあ……。ううーむ、難しいところだ。

 

「ふう、しかしやっとのことでひと段落だな。まあ、まだ気を抜くには早いだろうがねぇ」

 

 従者や馬を見ながら、アデライドが言う。やっとのことで市外に出られたため、安堵しているようだ。まあ、気分は分かるよ。敵対勢力に制圧された都市の中で、孤立無援の脱出作戦を遂行する……文字通りの四面楚歌の状態だ。まったくもって、神経の磨り減ること甚だしい。とはいえ、彼女自身も言っているようにまだまだ気は抜くには早すぎる。

 

「うん……相手はあのマリッタだからな。あいつはなかなか手強いぞ。むしろ、隠れる場所が少なくなった分、街の外の方が危険かもしれない」

 

 レーヌ市は遥か昔から大都市だった街で、当然ながらその周囲も開発が進んでいる。この森もさして広いものではなく、隣町へ行くためには広大な田園地帯を突破する必要があった。この田園地帯というのが曲者で、人はそこそこ居るわ身を隠す場所は無いわでなかなか隠密行動が難しい。潜伏だけならば、おそらく街中に居た方が容易だっただろう。

 

「実際、なかなか状況は厳しいようですよ。朝のうちに敵情視察に行ってきましたが、どうやらあちらさんは捜索の手を市外にも伸ばしつつあるようです。じき、この森も安全地帯では無くなりそうですな」

 

 アンジェの言葉に、僕は腕組みをしてしばし考えこんだ。マリッタは聡明な指揮官だ、ヌルい手は打たない。市内を探しても僕らが出てこないようであれば、すぐにそちらに見切りをつけて街の外を創作しはじめるだろう。いや、最初から市外に罠を張っておくくらいのことはしてくるかもしれない。

 

「ああ、いやだいやだ。まーた王室派騎士に追い回されねばならないのか。いい加減にしてほしいものだねぇ」

 

 ため息を吐きつつ、アデライドが肩を落とす。

 

「そうすると、今すぐここを発った方が良いのかね? たしか、この森は貴族の狩猟の為だけに残されている小さなものだろう。山狩りなどされた日には、あっという間に敵に居場所がバレてしまいそうだが」

 

「それはそうなんだけども」

 

 アデライドの言葉には一理あるが、今すぐ森を飛び出すというのは賛成できない。僕は首を左右に振り、言葉をつづけた。

 

「昼間は畑で農民たちが働いている。下手に姿をさらしたら、すぐにそれがマリッタらに伝わってしまうと思うんだ。森を出るのは夜まで待ってからの方がいいと思う」

 

 隊商などに擬装できるのなら、昼間に動いても良いんだがな。残念なことに、そこまでの準備はしていない。というかそもそも、ネェルがいる限り隊商やら巡礼者に化けるのはまず無理なんだよな。身体がデカすぎて誤魔化しきれない。

 彼女だけ空路で先行させる、という手も考えたが……それは諸事情から断念せざるを得なかった。彼女はこの辺りの土地勘がないから、下手に飛ばすと迷子になってしまう可能性がある。それに、そもそもカマキリは飛行が得意な生物ではないからな。どうやら、流石に長時間の飛行は苦手らしい。短時間ならともかく、長時間の移動は陸路を使うほかないようだ。

 

「ま、行く先々で目撃者を殺して回るわけにもいかんからのぉ。夜闇に紛れるのが一番安全じゃろうて」

 

 物騒な発言でチャチャを入れてくるダライヤに、アデライドの表情が引きつった。

 

「殺して回るだなんて、またそんなネェルみたいな冗談を……」

 

「ネェル、みたいな、冗談を!?」

 

 ネェルの額についた小さな触覚がビコーンと立った。どうやら、少しばかりショックだったらしい。僕は思わず苦笑してから、表情を改める。

 

「まあ、そういう訳で行動開始は農民らが家に戻り始める時間を待ってからにしよう。それまでは待機するほかない。もちろん、山狩りに備えてある程度の擬装工作は必要だけども」

 

 まったく、昨日もそうだが逃避行が始まってからこっち待機してばかりだな。本当ならば、一分一秒でも早く安全な場所まで戻りたいんだけども。とはいえ、危機的状況だからこそ拙速は避けねばならない。神経の磨り減ること著しいが、まあ仕方ないだろう。

 

「まあ、ひとまずみんな着替えと行こうか。こんな服じゃ、森の中では目立ってしまう」

 

 自分の服の襟を引っ張りながら、僕はそう言った。今、僕たちが着ているのはラ・ルベール司祭から提供された巡礼者向けのローブだ。こいつは白っぽい色合いな上に袖も裾もゆったりしているので、森の中をうろつく服装としてはまったく不適格だ。山狩りに備えるという面でも、もう少し目立たない恰好に衣替えしておいた方が良いだろう。

 

「着替え……」

 

 アデライドがボソリとそう言って、僕の身体をジロジロと見てくる。いや、彼女だけではない。ダライヤやジョゼットまでもがこちらをまじまじと見てくるものだから、さしもの僕もいささか怯んだ。おい、こんな時にへんなスケベ心を出すんじゃないよ。

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