異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第578話 くっころ男騎士とかくれんぼ(1)

 太陽が中天に届くころ、我々の潜伏する森に兵隊の一団がやってきた。人数は百人超で、みな短槍や剣を携えている。まさか遠足やピクニックにやって来た訳でもないだろうから、彼女らの目的が我々の捜索にあることは間違いないだろう。予想されていたこととはいえ、行動が早い。おそらくはマリッタの差し金だろう。

 

「迎撃、しますか?」

 

 敵部隊接近中との報告を聞いたネェルが、開口一番にそんなことを言う。実際、雑兵一個中隊ていどの相手であれば、彼女が居ればまったく恐ろしくない。遮蔽物の多い森林環境ということもあり、殲滅は容易いものと思われた。

 

「まあ、待ちなさい。おそらく、敵の後ろには更なる予備隊が控えている。勝てそうだからと戦いを挑めば、あとからあとから新手が出てきて収拾がつかなくなるかもしれない」

 

 マリッタのやり口は良く知っている。彼女は指揮官としてはごく手堅いタイプの人間だ。そんな彼女が、山狩り部隊を一つ寄越してハイお終い、などという粗末な作戦を立てるはずがない。むしろ今接近中の兵隊どもはあくまで陽動であり、本命は後方でこちらの出方を探っているものと思われた。

 

「ここはなんとかバレずにやり過ごすのが最適解だな。幸い、敵の数はそれほど多くない。人海戦術でしらみつぶしに探索、というわけにはいかないだろう。……ダライヤ、どうだ? 連中の目は誤魔化せると思うか」

 

「誰にモノを言っておるのじゃ。ワシはエルフ、すなわち森の種族じゃぞ? 生まれてから百年も生きておらん若造(にせ)どもを欺くなど、赤子の手をひねる様な物じゃよ」

 

 腹の立つ笑みを浮かべながら、ロリババアは手をひらひらと振った。

 

「クソババアはそれでよいだろうが、近侍隊はエルフではないのだがね? なんとかなるだろうか」

 

 少しばかり不安そうな様子で、アデライドがジョゼットの方を見た。彼女らはわざと土で汚した甲冑の上から濃緑色の擬装布を羽織り、すっかり臨戦態勢を整えていた。もちろん、僕も同様の格好をしている。

 

「なぁに、森林戦のやり方はフェザリア様にしっかり習ってますんでね。エルフの真似事くらいならできますよ」

 

 胸をドンと叩き、自信ありげな表情を見せるジョゼット。実際、それは過信でもなんでもない。エルフ内戦において森林戦訓練の徹底を痛感した僕は、エルフらに教官役を頼み部下らをイチから叩きなおしてもらっていた。まあ、リースベンのような南方の森とこのレーヌ市周辺の森では植生も勝手もずいぶんと違うが、ノウハウに関しては流用できる。それに、土地勘が無いのは向こうも同じことなのだ。

 

「要するに、敵を森の中心に誘い込んで四方八方から火を放てば良いんでしょう?」

 

「コラコラコラ、おい、隠密だって言ってるだろうが。エルフらからいろいろ学んで来いとはいったが、放火癖まで真似することはないだろうが」

 

「……勘違いしてほしくないのじゃが、なんでもかんでも火計で解決しようとするのは正統エルフェニアとフェザリアの方針じゃからな? 種族が同じだからといって、ワシら新エルフェニアまで一緒にするでないぞ?」

 

 珍しくまじめなトーンでロリババアが注意したが、それを聞いたみなは微妙な顔で笑うばかりであった。確かに彼女の言うように新エルフェニア出身の兵は放火をしないのだが、正直に言って外部からみれば新も正統も区別がつかないし、その上結局のところ極端に野蛮であるという点では大差ない……。

 

「まあ、それはさておきだ。敵はすぐそこまで迫っているんだから、チンタラ遊んでいる暇はないぞ。さっさと身を隠そう」

 

 一瞬緩んだ空気をかき消すように、僕は真面目くさった声でそう言った。適度なユーモアは気分をほぐしてくれるが、いつまでもその雰囲気を引きずるわけにはいかない。近侍隊の連中は揃って表情を改め、目立たない程度の声で「ウーラァ!」と唱和した。

 こうして僕たちの命を賭けたかくれんぼが始まったわけだが、それは案の定なかなか過酷なものになった。なにしろ、こちらにはネェルがいる。彼女の巨体は正面戦闘では大変に頼りになるが、半面こうした隠密任務ではいささか厳しいものがある。結局、僕は戦車に擬装を施すのと同じやり方で彼女の存在を隠すことにした。穴を掘り、上から落ち葉や土などをかぶせておくのだ。

 

「なんか、こう、埋葬されてるみたいで、気分、悪いの、ですが。ですがですが」

 

 そんな扱いを受けたネェルは当然ながら唇を尖らせ大ブーイングだったが、他にやり方が無いのだから仕方ない。僕も同じ壕に入ることを条件に、なんとか納得してもらった。

 

「ほいじゃあ、土をかけますんでね。いきますよ~」

 

 突貫工事で掘った大穴に、ネェルの胸に抱かれた状態で収まる。もちろん彼女の全身が収まるような深さの穴を掘るには時間が足りなかったが、まあ半身が入る程度で十分だ。イメージとしては、それこそ戦車を隠すための壕に近い。

 地中に収まらない部分に関しては、擬装布や盛り土、そのあたりで調達してきた枝葉で擬装を施すことで強引に解決する。見通しの良い野原などでは流石に通用しないやり方だが、視界の利かない藪の中ならば十分に効果的な偽装だった。

 とはいえ、ネェルの言うように生きたまま地中に埋められるのは確かに気分が良くなかった。なるほど、土葬される気分とはこういうものか。いや、もちろん生き埋めではない(全身を土で埋めたりすれば流石のネェルも呼吸ができなくなるし)のだが……そんなことを考えている僕に、ネェルはぎゅっと抱きしめながら、耳元でボソリと囁いた。

 

「同じ、お墓に、入っていると、思うと、案外、悪くは、ないですね」

 

 その言い草に、思わず僕は苦笑する。なるほど、そういう視点はなかった。

 

「ネェルと同じ墓に入るのは確かに素敵だが、死ぬのならきちんと仕事を果たした後で倒れたいところなんだがなぁ」

 

 この状況で死ぬのは、流石に無責任が過ぎる。せめて、王室とのイザコザをなんとかしてからでないと、とてもじゃないが死にきれない。こんな拗れた状況で僕が抜けたら、残された人たちがどれほど迷惑をするのやら……

 ……いや、案外なんとかなるか? 戦略、戦術はソニアが居れば何とでもなる。政略に関しては、僕よりもアデライドやロリババアの方が優秀だろう。問題は象徴面だが、生者よりも死者のほうが象徴としては扱いやすかろう。少なくとも、対王室戦が終わるまでは、僕の弔い合戦ということで宰相陣営は結束できるのではなかろうか?

 

「……何か、物騒なことを、考えて、いませんか?」

 

「いや、別に」

 

 さすが、ネェルは察しが良い。僕は苦笑しながら首を左右に振った。そうしている間にも、擬装はどんどんと進んでいく。枝や葉っぱ、石などで盛り土を飾り立て、周囲の景色から浮かないように色合いを調整。さらに、掘削作業で踏み荒らされた周囲の藪を整え、人の手が入っていないかのように見せかける。

 ジョゼットらの手際はなんとも素晴らしいものだった。エルフからの研修を受けているだけあって、彼女らはもうすっかり超一流の斥候としての技能を身に着けているようだ。

 

「さて、大人のかくれんぼと行こうか」

 

 作業を終え、三々五々に散っていく近侍隊を枝葉の隙間から見送りつつ僕はそう呟いた。当たり前だが、大勢が一か所に固まっていると敵に居場所が露見する可能性が高くなる。真面目に姿を隠したいのならば、人員はまばらに配置するほかない。しかしそれは、戦力が分散するのと同義でもあった。偽装が見破られ、戦闘が発生すれば不利な状況になるのは免れない。軽口とは裏腹に、僕の額には冷や汗が浮かんでいた……。

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