異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第582話 くっころ男騎士の敗北(2)

 夜闇に紛れて敵警戒線の外側へ脱出するという僕の目論見は脆くも崩れ去った。マリッタは僕がこっそり街の外へ脱出していることを想定し、しっかりとした監視体制を敷いていたのだ。それに加えて強力な騎兵隊を追撃に繰り出してきたのだから、もう笑ってしまいそうなほどに準備万端である。つまるところ、僕はマリッタとの読み合いに完全敗北したのだ。

 だが、だからと言って即座に「参りました」と白旗を上げるほど僕の往生際はよろしくない。ここで我々が全滅すれば、リースベンにいるソニアは著しく不利な状況で対王家戦争に突入することになってしまう。上官として、夫として、それだけは避ける必要があった。……そこで僕は、自身の単騎駆けによる敵騎兵の足止めに出ることにした。

 

「ハハハハッ! いくぞババア、吶喊だ!」

 

 そんなことを叫びながら、味方の隊列から離脱する。ジョゼットら近侍隊は「アル様! やめてください!」と悲鳴じみた声を上げているが、追いかけてくる者はいなかった。アデライドの離脱を最優先せよ、と事前に命令してあるからだ。彼女らは幼いころから上官の命令には絶対服従、という精神を叩き込んである。念押しされた命令を無視するようなことはとてもできないだろう。……これはあくまで命令の問題で、僕の人望が足りない訳ではないハズだ。うん、そうであってほしい。

 まあ、何はともあれ本隊の連中は素直に撤退をしてくれている。ひとまずこれで一安心だ。あとはこのまま道なりに進み、この先にある森で態勢を立て直せば十分に逃げ延びることができるだろう。あとは僕の方がどれだけ時間を稼ぐことができるかにかかっている。ああ、ワクワクするね。こういうシチュエーションが一番楽しいかもしれない。

 

「はぁ、もう、勘弁して欲しいんじゃがのぉ。何が悲しくて、処女のまま死なねばならんのじゃ。ワシ、こんなことのための生き恥を晒し続けたわけではないんじゃけども」

 

 僕の唯一の同行者、ダライヤは不満タラタラだ。気分は分かるがだったら同行しなきゃ良かったじゃん、僕は強制してないぞ……とは、流石に言わない。僕だって死にたくはないが、敵側の殺意が予想以上に高ければ普通に落命することもあるかもしれない。

 一人で死ぬよりは、看取る相手が居てくれた方が実際嬉しいんだよな。だからこそ、ロリババアがこの無茶な突撃に付き合ってくれたことは少々どころではなく有難かった。まあ、幼馴染どもやネェルなんかが同じ申し出をしてきたとしても、断ってたと思うがね。なんだかんだ言ってこのババアは最後まで生還を諦めないだろうが、他の連中は死ぬまで頑張ってしまいそうだからな。あの修羅の国で千年間も生き延びた女の生き汚さに、僕はかなりの信頼を置いているんだよ。

 

「首尾よく二人とも死なずに済んだら、好きなプレイに好きなだけ付き合ってやるさ」

 

「ほお? 言ったのぅ。では、拘束したソニアの前で全身を調教してやるから覚悟しておくのじゃ」

 

「流石にそれはいかんだろ!!」

 

「前言撤回が早すぎやせんか!? この嘘つき男騎士ィ!!」

 

 バカ話に興じている間にも、彼我の距離はぐんぐん縮まっている。ここまで近づくと、敵の隊旗もおぼろげながら見えてきた。案の定、そこに描かれているのは剣と盾を象ったスオラハティ家の家紋だ。

 

「やはり敵はマリッタ本人だな。まあ、あいつが詰めをそこらの凡将に譲るはずもないか。……しかし、まさかあの紋章を敵に回すとは。流石に少しばかり複雑だな」

 

 僕の脳裏に、ソニアとその母カステヘルミの顔がよぎる。今頃、カステヘルミはどうしているだろう。こんな騒ぎが起きていることを知っているんだろうか? もし知っているのなら、彼女のことだから解決に動いてくれるだろうが……今の王太子殿下は明らかに平静ではないからな。不興を買って処罰されるようなことになってなければよいのだが。

 

「戦いにくいかの?」

 

「まあ、多少は」

 

 スオラハティ家は、実質的に僕の第二の実家のようなものだ。そこと敵対するようなことになれば、まあ、流石に思うところはある。もちろん、やるからには手は抜かないが。

 

「向こうもそう思ってくれておるのなら、やりやすいんじゃなのぉ」

 

 ため息を吐くロリババア。これに関しては僕も全くの同感だ。しかし……

 

「どうだろうね? スオラハティ家には、僕を嫌う家臣もそれなりに居たからさ」

 

 伝統ある高位貴族の家に、僕のような貴族の最底辺出身の男が入り込み、当主や次期当主の寵愛を得て好き勝手してたんだ。そりゃあ嫌う奴だって出てくるだろうさ。出る杭は打たれるってヤツだな。実際、裏ではそれなりに陰口もたたかれていた。むろん針の筵だったかと言えばそうではなく、良くしてくれた人も大勢いたがね。

 

「まあ、とはいえこちらが僕と分かれば流石に積極的に殺しにかかってくるようなことは無いと思うよ」

 

「王家側の手のものがオヌシを殺めたら、フランセットの大義名分が揺らいでしまうからのぉ」

 

 イヤらしい声でヒヒヒと笑うロリババア。彼女が指摘した通り、王軍には僕を殺し辛い理由がある。だからこそ、僕はこういう作戦に出たわけだ。問答無用でぶっ殺されるような状況なら、流石にこんな無茶はやらない。僕だって積極的に死にたい訳ではないし。

 

「ほどほどに嫌がらせをして、あとは穏当に捕虜になる。こういう流れで行こうかの。死ぬまで戦うようなエルフじみた真似は、ワシの趣味ではないのじゃ」

 

「ああ、無茶は厳禁だぞ」

 

「それはこちらの台詞じゃ」

 

 ……死ぬまで戦ってはいけない。残念ながら、これは徹底せねばならん。死力を尽くして戦うのはこの上なく昂揚するが、今や僕はそう簡単に死んでいい立場ではない。所詮はいち大尉に過ぎなかった前世とは違うんだよな。

 それに、捕虜になった後にも仕事は残っている。王家の中枢に入り込み、本当の敵を見極めるという仕事だ。オレアン公の話が本当ならば、どうやらフランセット殿下の裏には黒幕らしき者がいるようだ。おまけにこの黒幕は去年の内乱にも関わっているようだから、放置していると今後も同様の事件を引き起こしかねない。すべてを終わらせ平和を取り戻すためには、対王家戦争の勝利だけでは足りない。裏で糸を引く黒幕を根切りにする必要があるだろう。

 この陰謀の連鎖を止めるには、外部から軍事力を持って対応に当たるだけでは不足だ。敵の内部に入り込み、情報を収集しなくてはならない。そういう意味では、僕の単騎駆けにもそれなりの意味が出てくる。要するに僕は、ロリババアを生かしたまま敵の懐にブチこむための保護カプセルのようなモノなのだ。

 

「よおし、やるぞ!」

 

 僕は気合を入れ、兜のバイザーを下ろした。そして腰からサーベルを抜き、それを天高く掲げながら叫ぶ。

 

「遠からん者は音に聞け、近くば寄っても目にも見よ! 我こそはデジレ・ブロンダンが息子、リースベン伯アルベール・ブロンダンである!!」

 

「はぁ!? アルベール様!? ナンデ!?」

 

「嘘だろ、おい。一人で出てきやがったぞ」

 

「まさか、殿下の言った通り本当に宰相に無理強いされてたのか? 隙を見て逃げ出してきた……ということなんだろうか」

 

「嘘つけあのアル様が只人(ヒューム)宰相風情の言いなりになるわけないだろ! むしろ尻に敷きかねんわ!」

 

 当然ながら、この名乗りを受けてスオラハティ騎兵隊には動揺が広がる。こういう時だけは、自分が男騎士であることを有難く思えるな。甲冑着込んでる男なんて僕くらいしか居ないから、声の時点で本人確認ができる。女騎士だとこうはいかない、まず間違いなく影武者や偽物を疑われてしまうだろう。

 

「貴様らが欲しているのは我が首一つであろう! 百騎でも二百騎でも相手になってやる! かかってこい!」

 

 僕はそれだけ言い捨てて、馬を強引に九十度回頭させた。前面から迫る百以上の騎士の群れに、馬はすっかり怯えている様子だった。そりゃあ、戦場慣れしてない普通の馬はそうなるよな。仕方がないとはいえ、やりづらい。

 まあ、文句を言っても仕方があるまい。今ある手札で、僕はスオラハティ騎兵隊の目をアデライドらから逸らし続けなくてはならないのだ。馬に拍車をかけて走らせつつ、僕は騎兵隊に向けて中指を立てた。

 

「私をファックしてくださいってか? あ、あのオスガキ……!!」

 

 さすがにこれは聞いたようで、騎士共は憤激しながら僕を追いかけ始めた。よーし、狙い通りだ!

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