異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第599話 くっころ男騎士の虜囚生活(1)

 僕が虜囚の身となってから、一か月が経過した。むやみやたらと時間ばかりが過ぎたが、正直に言えば状況はそれほど変化していない。何しろ、フランセット殿下とマリッタはいまだに「アルベールの"所有権"は自分のモノである」と主張してお互い譲らず、話し合いは千日手の様相を呈しているのである。

 両者の対立が深まる一方、争点であるはずの僕は半ば放置されたような状態になっていた。結論が出るまでは、お互いに手出しできない状態にあるからだ。おかげで穏やかな捕虜生活を送れたのだから、まあ有難いといえば有難い。できればそのまま延々と内輪もめしていてほしいものである。

 そんな中で唯一変化したものは、僕の収監場所だった。当初はレーヌ城に軟禁されていた僕だったが、すぐに馬車(無駄に豪華な車両だった)に放りこまれ、しばしの旅に出ることになったのである。それに同行したのは、フランセット殿下とマリッタ。そして大量のガレア諸侯たち。……要するに、ガレア軍そのものがレーヌ市を引き払ったのだ。

 

「神聖帝国との間で相互不可侵協定が結ばれた今、我々がレーヌ市に滞在し続ける理由はない。アデライド・カスタニエとのいくさに備え、王都に帰還するべし!」

 

 フランセット殿下の号令一下、万を超える大軍勢が一斉に移動を開始した。もちろんレーヌ市にはある程度の守備戦力が残留しているが、王軍の主力部隊はすべていったん王都へと引き返す腹積もりのようだ。まあ、今となっては王軍の主敵は神聖帝国ではなく宰相派閥であるわけだから、拠点を移すのも当然の話だろう。

 馬車に揺られること数週間。我々はやっと王都へと到着した。はっきり言ってかなり不本意な里帰りではあったが、見慣れた街並みを目にした僕はほっと安堵のため息をつく。旅の間も延々とフランセット殿下とマリッタの綱引きは続いていたから、間に挟まれた僕としては心が休まらないこと甚だしい。故郷の景色に安心を覚えるのも致し方のない話だった。

 

「捕虜の収監室にしちゃあずいぶんと豪勢だね」

 

 とはいえ、王都に帰ってきても僕の立場に変化はない。相変わらずの虜囚生活だ。僕は王城の一室にブチこまれ、そこで再びの軟禁をうけることになった。

 とはいえ、別に不自由は感じない。拘束具の類は使われていないし、収監場所も牢屋などではなく普通の……というにはいささか豪華すぎる寝室だった。少なくとも、住環境に関してはリースベンに居たころよりも向上しているくらいだろう。

 そのうえ、見張りに申告すれば短時間の外出まで許されるのだから、至れり尽くせりというほかない。捕虜とは思えぬ好待遇である。

 ……とはいえ、やはり囚われの身であることには変わりない。情報からは遮断されているし、好き勝手にあちこち出歩くような真似もできないわけだ。おまけに労役の類も課せられないとなれば、当然あっという間に暇を持て余すことになる。

 

「……」

 

 大きく息を吐きながらベッドの上でごろごろする。寝心地の良いふかふかのマットレスに、実用性を疑いたくなるむやみに豪華なデザインの天蓋。いやはや、寝具一つによくもまあここまで金をかけられるものである。

 むろん、豪勢なのはベッドばかりではない。テーブル、椅子、ランプ。それに壁に掛けられた絵画、天井のシャンデリア。この部屋にある調度品のすべてが、贅の限りを尽くした最高級品なのだった。

 なんだか、ドールハウスの住人になったような気分だ。普段使い用とはいえドレスまで着せられているお陰で、余計にその印象が強くなる。正直に言えば居心地はかなり悪かった。

 

「殿下は僕をなんだと思ってるんだろうね」

 

 ボヤキの言葉は虚飾にまみれた部屋の空気に溶けて消える。なんとも空虚な気分だった。せめて話し相手がいれば良いのだが、ロリババアは別室に収監されている。見張りに頼めば面会も許してくれるという話だったが、さすがに暇つぶしのためだけに会いに行くのもはばかられた。

 

「……はぁ」

 

 何度目になるのかわからないため息をついたところで、ノックの音が聞こえてきた。僕は即座にベッドから立ち上がり、服装を整えた。敵の前で隙を晒すような真似はしたくない。ここはまだ戦場なのだ。

 

「どなたでしょうか」

 

 数秒で身支度を終わらせ、努めて冷静な声でそう聞く。昼食は一時間ほど前に終えたばかりだ。アフタヌーンティーにはまだ早いよう思われる。

 

「余だ。失礼しても良いだろうか?」

 

 返ってきた声には聞き覚えがあった。フランセット殿下だ。彼女は近頃、毎日のように僕の部屋を訪れて雑談をしていくのである。飽きないね、などと思いながら「どうぞ」と返事をする。

 

「やあ、ご機嫌は如何かな?」

 

 王太子は入室するなり開口一番にそう聞いてきた。愉快痛快ベリーハッピーですよ、などと返してやろうかと思ったが、もちろん思うだけに止めておく。無駄な挑発なんてのは負け犬の遠吠えのようなものだ。僕はまだ負けを認めていないのだから、堂々とした態度を崩すべきではない。

 

「ぼちぼちですね」

 

「ぼちぼちか。……ふふっ、君はどんな時でもブレないなぁ」

 

 楽しげに笑うフランセット殿下。こうしてみると、気のいい若者にしか見えないのになあ……どうしてこんなことになっちゃったのやら。やはり、捕まったからといってノンビリしているわけにはいかないな。彼女が変貌してしまった理由を探らなくては。

 とはいえ、単刀直入に事情を聴いたところで素直に白状するとも思えないんだよな。さりとて寝技みたいなやり方で相手を誘導できるような技能は僕にはないし……なかなか難しいところだ。

 どうにも方針が定まらないため、ひとまずは穏当に対応する。当たり障りのない挨拶と社交辞令を交わし、近況報告なども聞く。もちろん軟禁状態の僕には語るべき近況などないので、あくまで殿下の話を聞くだけだが。

 

「なるほど、とうとう裁判沙汰ですか……」

 

「ああ、不本意ながらね。マリッタもなかなか執念深い」

 

 なんとも不愉快そうな表情でフランセット殿下が吐き捨てた。話題の中心は、もちろん僕を巡る殿下とマリッタの争いである。この問題が表面化してからすでに一か月が経過しているが、事態は沈静化するどころかむしろヒートアップしつつあった。もはや話し合いで解決するのは不可能、ここは裁判で公正な判断を下すべし。それが殿下の主張だった。

 なんとまあ、ひどい話である。いくらなんでもグダグダすぎないだろうか? 王党派と宰相派の衝突は確実であり、近いうちに大戦争が発生するのは間違いあるまい。そんな中で内輪もめをするなんて、正直にいえば正気とは思えないね。

 ……宰相派といえば、アデライドは無事だろうか。彼女やネェルなどが捕まったという話は聞かないから、まあ追手から逃れることには成功したんだろうが……万が一ということもある。心配だな。

 さらに言えば、心配の種はアデライドばかりではない。ソニアのことや、リースベンの領民のことや、この王都に住んでいる両親のことなど、心配事はいくらでもあった。しかし、それを表に出すわけにはいかない。弱みを見せれば付け込まれるだけだ。リースベンの責任者としては、あくまでも泰然自若とした態度を崩すわけにはいかなかった。

 

「まあ、マリッタの言い分に理がないのは明らかだ。極星の御前で公正なる裁判を行えば、おのずと正しい判決が下るだろう。だから、アルベールは安心して結果を待っていてほしい」

 

 優しい声でそんなことを言う殿下だが、正直どちらが勝とうが大した違いはないような気がする。マリッタはどうやら僕を流刑にするつもりだという話だが、殿下は殿下で僕を籠の鳥かドールハウスに収まった人形のようにしようとしている気配がある。己の望む未来からはほど遠い結末になるという点では、どちらの未来も似たようなものだ。

 

「ハハハ……まあ、心配はしていませんよ」

 

 そんなことになる前に、ソニアやアデライドが助けに来てくれるだろうしな。僕はそう心の中で付け加えた。そのあたりに関しては、全面的に彼女らを信用している。そうでなければ、自分の身を相手に差し出すような作戦などできるはずがない。それこそ、あそこで討ち死にしていたほうがマシというものだろう。

 

「それはよかった」

 

 こちらのそんな思惑などまったく気づかない様子で朗らかに笑う殿下。いや、案外うすうす勘づいている可能性はあるな。いまでこそ人の話を聞かなくなってしまった彼女だが、かつては確かに聡明な人物だったのだ。変化の急激さからして、目が濁ってしまったというよりは都合の悪い事実から目をそらすようになってしまった、というのが正しい気がする。

 

「まあ、何はともあれこの問題もじきに解決する。君を縛る鎖の一つが解けるというわけだ。めでたいね」

 

 現状一番太い鎖はアンタだよ。内心そう突っ込んだが、もちろん僕は奥ゆかしいのでそんな言葉は口にしない。ただ、控えめに微笑んでいるだけだ。あー、しんど。戦うための無茶ならばドンとこいって感じだが、こういう忍耐は正直あんまり好きではないね。

 

「……さて、楽しくない話題はこれで終わりだ。そろそろ本題に入るが、王家の宝物庫で君に似合いそうな首飾りを見つけてね。こんな部屋で不自由をさせているお詫びだ。どうか受け取ってほしい」

 

 などといいながら僕にビロード張りの小箱を押し付けてくるフランセット殿下。彼女は僕の部屋を訪れるたびに、こうして手土産を持ってくるのである。実のところ、いま着込んでいる男性用ドレスもその一つだった。ドレスも首飾りもはっきりいって不要なんだが、今の僕には拒否権などない。

 仕方なく受け取り、許可を得てその箱を開ける。中に入っていたのは、大粒のルビーをあしらった豪華なシルバーのネックレスだった。デザインは悪くないが、僕が着けるにはいささか派手すぎるんじゃなかろうか。いや、そもそもどんなデザインだろうとネックレスなんぞかけたくないが……着けないわけにもいかないんだろうなぁ。

 はぁ、ヤンナルネ。この人、僕を着せ替え人形か何かだと勘違いしていないだろうか? プレイガールを自認しているのなら、もうちょっと気の利いたアプローチをしてもらいたいところなんだけど。下手な拷問より心が削れるぞ、コレ。ソニア、頼むー……早く助けに来てくれー……。

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