異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第61話 貧乏くじ伯爵名代と怪しい傭兵

 ひどい貧乏くじだ。わたし、ルネ・フォン・ディーゼルは心の中でぼやいた。リースベン軍の攻撃により、ディーゼル伯爵軍では半数近い兵員が死傷した。残った兵士たちも、もはや士気も規律も吹き飛んでしまっている。脱走、喧嘩、窃盗……そんな報告が、ひっきりなしに上がってくる始末だ。こうなればもう、戦闘集団としてはおしまいだ。

 

「……」

 

 おしまい、そうなにもかにもおしまいだ。こんな有様でリースベン軍に勝てるはずもないし、何もかにも諦めて領地に帰ったりすれば誰が敗戦の責任を取るのかで大揉めするだろう。そうこうしているうちに、周辺の領主がなにかに理由をつけて我らがズューデンベルグ領へ侵攻してくる。

 神聖帝国などといってまとまっているように見えても、実態は独立領主の寄り合い所帯だ。隙を見せれば、当然のように侵略の矛先を向けてくる。それが何より恐ろしい。

 

「伯爵名代様、ヒルダの中隊でまた脱走が……」

 

「またか」

 

 頭を抱えそうになった。戦わないまま、どんどんと戦力が低下していく。このままでは、近いうちに軍としての体裁すらとれなくなりそうだ。

 なにが伯爵名代だ。わたしは姉のロスヴィータを補佐するのが仕事だったはずだ。一家をまとめていくだけの器量などない。おそらく生きているであろう姉には早く戻ってきてほしいが、軍の規律崩壊を防ぐには戦死したということにするほかなかった。

 

「くっ……」

 

 歯を食いしばる。わたしも兵たちと同じように、いっそ逃げ出してしまいたい。しかしそういう訳にもいかない。領地にかえれば夫も子供もいる。ディーゼル伯爵家が奪うものから奪われるものに転落すれば、わたしの家族はどうなってしまうのだろうか? それを思うと、どんな最悪な状況であれあがき続けるほかない。

 

「名代様」

 

「なんだ。脱走か? 喧嘩か? それでも反乱でも起きたか?」

 

 半ばヤケになりつつ、兵に笑いかける。わたしもいい加減ギリギリだった。

 

「いえ。クロウン傭兵団が到着したとのことです。代表者が挨拶に参っております」

 

「ああ……そんなのも呼んでいたな……」

 

 当初の計画では、リースベン領の制圧後国境地帯の山道でガレア王国軍を迎え撃つ予定だった。その際の戦力の補強として、傭兵団を使うことになっていたのだ。それが逆に我々が山道で迎え撃たれ、壊滅的な被害を被っているのだから皮肉というほかない。

 募集をかけていた傭兵部隊は、二個中隊。正直に言えば、今の状況でその程度の増援を得たところで焼け石に水以外の何物でもない。とはいえ、貴重な戦力には変わりがないか。攻めるにしろ退くにしろ、少しでも戦力が多いに越したことはないからな。

 

「いいだろう。通せ」

 

「はっ!」

 

 兵が頷き、指揮用天幕から出ていく。しばらくしてその兵が連れてきたのは、二人の傭兵だった。片方は我が姉にも負けないような偉丈夫で、漆黒の鎧をまとってる。兜の面頬を降ろしたままなので、顔は見えない。いったい何の獣人だろうか? いや、もしかしたらそれ以外の種族かもしれない。

 雇い主の前で顔を隠すというのは不遜極まりない行為だが、わたしはそれどころではなかった。問題はこの黒騎士ではなく、その隣にいるヤツだ。魔術師と思わしきローブ姿のその只人(ヒューム)は、なんと男だった。線の細い、見惚れてしまいそうなほど容姿の整った美少年である。

 

「このようなナリでの挨拶、申し訳ない。かつての戦傷で、とても人に見せられないような顔になっていてな。我はクロウン。傭兵隊長のクロウンだ」

 

 面頬をあげないまま挨拶をするクロウン。まったく、怪しいどころの話ではない。大丈夫なのだろうか、こいつは。戦傷云々も本当かどうかわかったものではない。

 とはいえ、状況が状況である。下手なことを言ってへそを曲げられても困る。わたしは不承不承頷いて見せた。

 

「ズューデンベルグ伯名代のルネ・フォン・ディーゼルだ。状況は聞いているな?」

 

 あえて男の存在は無視して、わたしはクロウンに聞く。どうせ、この女の愛人か何かだろう。戦場にそんなものを持ち込むなど、不愉快極まりない。極力視界に入れないよう意識する。

 

「ああ。リースベン軍は随分と難敵のようだな。我々の派遣した先遣隊も壊滅したと聞いている」

 

 クロウン傭兵団は、事前に半個中隊ほどの戦力をわたしたちに貸し出していた。先日の攻勢の際、姉はそれを敵の側面を突くための遊撃部隊として利用した。しかし結果は無残なものだった。帰ってきたのは、僅か十数名である。

 

「敵は塹壕と妙なトゲ付き鉄線で守られた陣地に籠り、大砲と異様に射程の長い小銃を利用して防衛戦を展開している。おそろしく強固な防衛陣だ。突破は極めて難しい……」

 

「先遣隊の生き残りから報告は聞いている。なかなか面白い敵手だとな」

 

 なにが面白いだ。ふざけやがって。こんな状況でなければ、一発殴りつけているところだぞ。

 

「なまじの手段では攻略できない相手なのだろう? よろしい、相手にとって不足はない。お任せあれ、名代殿。貴殿は見ているだけで構わない。我々が見事、あの陣地を突破して見せよう」

 

「……は? ふざけているのか? 伯爵軍の総力を挙げても突破できなかった防衛陣が、僅か二個中隊程度で……」

 

「突破できるとも。なぜなら我々には、彼がいる」

 

 そういって黒騎士は、隣にいる男の肩を叩いた。


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