異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第641話 くっころ男騎士の突破戦

 門前の近衛・衛兵連合部隊、門後の王軍ライフル兵部隊。ネェルたちの増援を受けてなお、状況は楽観できるようなものではなかった。しかし、だからといって怯んでいる暇はない。迅速な行動こそが、この難局を乗り切るための唯一の方策だった。

 幸いにも、僕たちはすでに四面楚歌状態の城郭から脱出した経験が一度あった。占領されたばかりだったレーヌ城とこの王城では規模も警備も比べものにならないが、それでもまったくの未経験よりはよほどマシだろう。

 

「突撃ッ! 我に続けェッ!」

 

 サーベルを抜き放ち、迎撃態勢を整えようとしている最中の王軍ライフル兵部隊へと突撃をかける。射撃戦ではこちらが不利だ。敵が本格的な射撃を始める前に肉薄しておく必要があった。

 

「いかん! 撃て! 撃ちまくれ!」

 

 夜闇を切り裂くように複数の発砲炎(マズルフラッシュ)が瞬いた。少なくない数の鉛玉が僕たちに向けて殺到する。

 

「これだけ、明るければ……!」

 

 しかし、こちらには飛行戦車に等しい能力を持つネェルが居る。突撃の矢面に立った彼女は、鎌を振るって次々と弾丸を弾き飛ばしていく。夜目が利かず夜戦を苦手とするネェルだったが、敵側の打ち上げた照明弾がその不利を打ち消していた。

 

「ひええ」

 

 ネェルの背中に乗せられたままの男中(メイド)くんが悲鳴を上げる。こんなことになる前に逃がしてやるつもりだったのだが、味方との合流にともなうゴタゴタですっかりその機を逸してしまっていた。正直かなり申し訳ないが、もはやどうしようもない。

 

「倍返しにしてやれ!」

 

 サーベルを指揮杖のように振り回して命令する。ジョゼットたち近侍隊と、そしてネェルに跨がったままのカリーナがボルトアクションライフルを構えた。一斉に銃声が響き、一瞬遅れて敵陣から情けない悲鳴がいくつもあがった。

 

「ネェル! 敵に再装填の隙を与えるわけにはいかないわ! 突っ込みましょ!」

 

「お任せ、あれ」

 

 ネェルの翅ががふわりと広がり、弾丸のような勢いで敵に突っ込んでいった。先ほどに 倍する悲鳴が敵方から聞こえてくる。ゾウほどの体格を誇るネェルが百キロオーバーの勢いで突撃してくるのだ。やられた方からすれば、悪夢以外の何物でも無いだろう。

 

「グワーッ!」

 

 数百メートルの距離をひとっ飛びで越え、ネェルの鎌が敵兵を刈り取り始めた。その頃には既に近侍隊も小銃の再装填を終えており、第二斉射を仕掛けてカマキリ娘を援護する。

「こいつが噂の化け物カマキリか! 怯むな! 数を頼みに袋だたきにすれば勝機はある!」

 

 とはいえ、敵もやられるばかりではない。なにしろ相手は王城の留守を任されるような精鋭なのだ。初撃で与えられた動揺は最低限であり、すぐに体勢を整えネェルを囲み始める。

 ネェルは鎌を振り回してそれに対処したが、流石に真後ろまではカバーできない。隙を縫って彼女の後方に回り込んだ王国兵が、銃剣付きの小銃を槍のように突き出した。

 

「やらせないよっ!」

 

 だが、ネェルは一人で戦っているわけではなかった。その背中に跨がったカリーナが見事な速度で拳銃を引き抜き、攻撃中の王国兵を撃ち殺す。なるほど、こういう時のためにネェルはカリーナを乗せている訳か。見事な連携じゃないの。

 

「白兵では流石にムリか……! 」

 

 しかし、王軍側の指揮官もなかなかに優秀だった。近接戦の不利を悟るやいなや、すぐさま作戦を変更する。

 

「第一分隊は足止めに徹しろ! その隙に、第二、第三分隊の一斉射撃で仕留めるんだ!」

 

 無双という言葉の体現者のようなネェルだが、万能というわけではない。最新鋭の戦車ですら、弱点を突かれると歩兵に食われてしまうことがあるのだ。ましてや、ネェルは戦車とは違って全身を堅い甲殻で鎧っているわけではない。四方八方から射撃を受ければひとたまりもないだろう。

 

「近侍隊は撃ちまくりながら敵射撃班に突っ込め!」

 

 戦車にしろネェルにしろ、弱点をカバーする方法はまったく同じだ。すなわち、随伴歩兵の投入である。ジョゼットらは小銃を腰だめに構え、射撃体勢を整えつつある王国兵の集団へと突撃した。ほのかな月光が、彼女らの小銃の先端に装着された銃剣を煌めかせる。

 

「カマキリちゃんの身辺を守るのはブロンダン家の役割ってわけか。悪くない作戦だねっ!」

 

 肉食獣めいた笑みを浮かべた母上が、サーベルを手にネェルへとまとわりつく兵士へと斬りかかった。王国兵は慌てて小銃を盾にそれを防ごうとするが、母上の剣筋が魔法のようにゆらりと揺れて防御をかいくぐる。悲鳴と鮮血が周囲に響き渡った。

 只人(ヒューム)だてらに騎士などやっているだけあって、母上の剣技はそこらの雑兵などとは比べものにならない。倒れる被害者には一瞥もくれず、彼女は次の獲物へ襲いかかる。

 

「キエエエエエッ!!」

 

 僕も負けちゃいられない。猿叫を上げ、手近な王国兵に斬りかかった。敵は騎士ではなく一般兵であり、防具は胴鎧と兜しかつけていない。身体強化魔法を使わずとも、がら空きの首を狙ってやれば容易に一撃で討ち取ることができる。

 

「チッ……」

 

 本当に久しぶりに人を斬ったが、どうにも嫌な感じだ。体がイメージ通り動いていない感じがある。長々と籠の中の鳥をやっていたせいで、すっかり体と腕が鈍ってしまっているようだった。こりゃ、調子を取り戻すまでにはなかなかの鍛錬が必要そうだぞ。

 

「剣が業物らしいのが救いか。今日のところは道具に頼るほかあるまいね」

 

 幸いにも、母上の寄越してくれたサーベルは前に使っていたものよりも遙かに切れ味が良かった。おそらく、よほど腕の良い名工と魔術師が協力して作り上げた魔剣だろう。これならば、強化魔法なしでも板金鎧を溶けたバターのように両断できそうだ。流石に、質の良い魔装甲冑(エンチャントアーマー)が相手では厳しいだろうがね。

 ……ウチの武器庫にこんな良い魔剣があった記憶はないんだが、母上は一体どこからコレをかっぱらって来たんだろうか? 正直かなり気になるが、いまは悠長にそんなことを質問している暇は無い。残念だね。

 

「ジョゼットたちもよくやってくれているな」

 

 目の前の敵兵と戦いつつ、僕は近侍隊のほうをちらりと確認した。彼女らは射撃準備のさなかにあった敵ライフル兵に一斉射撃を仕掛けた後、その崩れた隊列に銃剣突撃を仕掛けていた。その効果は抜群であり、王軍側にはもはやネェルを袋だたきにしている余裕などないように見える。

 やはり、練度と装備の差は大きいな。近侍隊は倍以上の数の相手でも余裕を持って対処している。王軍側の小銃は先込め式だから、白兵戦中に再装填などまず不可能だ。一方、我が方はボルトアクション式なので、ちょっとした隙があれば弾丸を込めることができる。これだけ火力に差があれば、多少の兵力差などは問題にもならない。

 

「これだけネェルへの圧力が減れば……」

 

 僕がそう呟くのと同時に、ちょうどこちらと向き合っていた王国兵の体が真っ二つに両断された。ネェルが目にもとまらぬ速度で鎌を振るったのだった。

 僕たちが邪魔者の足止めをしている間に、彼女は王軍歩兵部隊の前衛をほとんど殲滅しおえていた。まだ生き残りもいるが、ネェルの圧倒的な戦闘力に恐れを成して腰が引けている。

 

「ネェル、突撃だ! ジョゼットの援護を!」

 

「あいあいさー」

 

 再びネェルの翅がぐわっと広がり、近侍隊との乱戦のまっただ中にある敵ライフル兵隊に飛翔突撃をしかけた。いきなりの奇襲に、敵方から情けない悲鳴が上がる。

 

「未だ! 押せ!」

 

 敵がビビっているのだ。その隙を逃すジョゼットではない。攻撃の圧力を高め、王軍をさらに追い詰めていく。もちろんネェルもそれに参戦し、まるで草でも刈るような調子で敵兵をなぎ払っていった。

 

「あのカマキリちゃんがアルの嫁を名乗ったときはたまげたもんだが、なるほどこれはお前好みの女じゃ無いか」

 

 王国兵の喉元に突き刺したサーベルを引っこ抜きながら、母上が言った。

 

「あれで性格もいいんだよ? 最高じゃん」

 

「あの男中(メイド)殿を背中に乗せたまま殺戮の限りを尽くしておるのはどうかと思うがのぉ」

 

 剣に付着した血脂を袖で拭き取っていたダライヤが唇をとがらせる。そういえば、男中(メイド)くんはネェルに乗せっぱなしになっていたな。声が聞こえなくなってるけど、まさか気絶でもしたのだろうか? ……ま、ネェルの背中にはカリーナもいる。多分大丈夫だろう。

 

「彼の件についてはネェルではなく母上が悪いので」

 

「しょうがないじゃないか、あそこが一番安全なわけだし」

 

「そりゃそうか、ははは」

 

「だろ? わっはっは」

 

 などと笑い合いつつも、僕たちの受け持つ戦場は既に残敵掃討のフェイズに突入していた。石畳の床は王国兵の血で染まり、敵方はすっかり戦意を喪失して逃亡者すら現れつつある。もちろんそれを追撃する必要など微塵も無いから、あとは悠々と正面突破を目指せば良い。

 

「よし、もう一度強襲を仕掛けて、王軍側の戦意を折ろう。衛兵隊や近衛が余計な事をしでかす前に、この場からトンズラこきたいところだしな」

 

 王城側をちらりと伺いながら、僕はそう呟いた。王軍との先端が開かれた後は、城内に詰めていた衛兵・近衛連合部隊は様子見に徹している。おそらく、友軍からの誤射を警戒しているのだ。彼女らは剣や槍などの白兵戦装備しか持っていないから、ライフル兵主体の王軍との連携は難しい。

 とはいえ、状況がここまで我々優位になれば話は変わってくるだろう。もはや、王軍には射撃戦に回帰する余裕などないのだ。じきに、槍を携えた近衛や衛兵たちが攻撃を再開してくるに違いあるまい。

 

「全力でブン殴って、相手が動揺している間に即逃走。なるほど、お前も強盗のコツはよくわかっているようだな。さすがはあたしの息子だ」

 

「強盗をやったことはいまのところ一度も無いんだけどなぁ!」

 

「やはりこの親子、実はエルフではないか……?」

 

 ダライヤがボソリと余計な事を呟くものだから、僕は苦笑を隠せなかった。まったく、なんて失礼なことを言うんだこのロリババアは。あとで折檻してやる。

 まあ、それより今は敵陣突破だ。もはや敵前衛は潰えたも同然。そろそろジョゼットらのほうに加勢を……。

 

「げぇっ!?」

 

 その瞬間、僕の口から品のない声が漏れた。複数の馬蹄の音が聞こえてきたからだった。みれば、全身甲冑に身を包んだ騎士の集団が、二の丸のほうからこちらに向けて突っ込んできている。彼女らが掲げる紋章は、僕としてもよく見慣れたものだった。

 

「おいおいおい、ありゃあスオラハティ家の家紋じゃないか。友軍……ってわけじゃなさそうだな」

 

「間違いない、マリッタだ。あの野郎、王太子と一緒に出陣したんじゃなかったのか……?」

 

 微かな動揺の浮かぶ母上の言葉に、僕は務めて平坦な口調で答えた。まさか、ここでマリッタが出てくるとは。ちょっとこいつは予想外だぞ……?

 

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