異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第697話 黒幕司教とくっころ男騎士

「死にたいなら勝手に一人で死ね。無関係な人たちを巻き込むんじゃあない」

 

 ワタシ、フィオレンツァ・キルアージが突きつけた拳銃を恐れることもなく、パパはそう言い放って自ら重厚に身体をおしつけてきた。

 ああ、と小さな声が漏れる。しくじった。パパはもう、ワタシの企みなど看破してしまっているのだろう。その目には深い絶望と悲しみの色があった。

 

「アル様……?」

 

 アホのソニアが、困惑した様子でワタシとパパを交互に見ている。流石に少し心配そうな様子だ。ワタシにパパを撃つ気がないということは分かっていても、やはり武器を向けられた状態で挑発するような真似をされれば心配せずにはいられないんでしょうね。

 いつものように”心の声”に耳を澄まそうとして、失敗する。聞こえてくるのは物理的な声ばかりで、あの脳内にこだまするような”声”は囁き声ていどにも感じ取ることができなかった。

 やはり、ワタシの魔眼はもう駄目らしい。理由は簡単、無理をしすぎたせいだ。二十名以上の兵士の自我を縛り、無意識の海の奥底へ沈めたのだ。これは完全にワタシの能力のキャパシティを超えた行為だった。

 けれど、後悔はしていない。状況はすでに最終段階に入っており、もはや催眠能力の出番はないだろうからだ。

 それに、生まれてからずっと煩いくらいに響き続けたあの”声”が聞こえなくなるというのはなかなかに気分爽快だった。静寂というのがこれほど心地よいものだとは知らなかったな。

 

「これは茶番だ。大勢の無関係な人々を巻き込んだ、たんなる自殺に過ぎない」

 

 パパは辛そうな目つきでワタシを睨み付ける。やっぱり、魔眼が使えなくなっているのはむしろ僥倖だ。こんな顔をしている時のパパの心の声は聞きたくないしね。

 

「ふぅ……」

 

 深いため息を吐いて、撃鉄を手動でゆっくりと下ろした。そしてポケットから鍵を取りだし、パパに手渡す。手枷の鍵を解くための鍵だった。

 

「自殺とは人聞きが悪いですね。たんに、自身の退場を計画に組み込んでいただけですよ」

 

 手枷を外したパパに、今度は拳銃を押しつける。もちろん、ワタシを撃ってもらうためだ。

 

「思ったよりも格好のつかない形になりましたが、これにて幕引きです。黒幕を討ち、この西方諸国に平和を取り戻しなさい」

 

「なるほどのぉ」

 

 声を上げたのは、パパではなくエルフの婆だった。彼女は皮肉げな笑みを浮かべつつ、ワタシに哀れむような目を向けている。

 

「つまり、アレじゃろ? オヌシの陰謀、その真の目的はアルベールに権力を集めるためだったと。そういうワケじゃな」

 

「いかにもその通り。流石は、リースベン屈指の謀略家です。理解が早くて助かりますね」

 

 この状況で即座に正解を引き当てるあたり、やはりこのエルフはただ者ではない。

 これまで彼女に対しては逃げの一手を打ち続けてたけど、どうやらその方針は間違いじゃなかったようね。利用しようと接近してたら、間違いなく計画成就の前にこちらの思惑がバレていたに違いない。

 

「星導国のほうも万事抜かりなく手配しているので、ご安心を。わたくしが死ねば、母はあっという間に失脚するよう手はずを整えています。新教皇は、わたくしを討ったアルベールさんに頭が上がらなくなるでしょう。心おきなく撃ってください」

 

「まて、待て待て待て! 貴様、どういうつもりだ! この期に及んで、なんだ貴様!」

 

 怒声を上げたのはフランセットだ。どうやら、状況の変化に頭が追いついていないらしい。その表情には困惑が満ちていた。

 

「鈍いですねぇ。つまり、アルベールさんの当て馬だった訳ですよ。あなたも、そしてわたくし自身もね」

 

 フランセットを外に連れ出したのは間違いだったかもしれない。パパやソニアならともかく、コイツにワタシの真意を聞かせたくはなかった。

 

「わたくしの語った計画は、ほとんど嘘ではありません。ただ一点、権力を握る人間がわたくしではなくアルベールさんであるという部分を除いて……ですが」

 

「誰がいつそんなことを頼んだ」

 

 ひどく凪いだ声でパパが言った。……魔眼が使えなくてもわかる、すっごい怒ってるわね。まあ、仕方がないけれど。

 

「栄達を望む心がまったく無かったといえば嘘になる。けれど、こんな未来は望んでいなかった! 他国に攻め入り! あげく自国領内で一般市民を巻き込んだ内戦など、冗談ではない! こんな、こんなむごいことは……」

 

「でも、楽しかったでしょう?」

 

 もう、これが最後だから。ワタシは正直な気持ちを口に出した。

 

「あなたには、戦争を好む気質があります。戦っている最中の自分の顔を見たことがありますか? 平時に書類仕事で埋もれている時などよりも、よほど心の底から喜んでいるふうに見えますよ」

 

「……」

 

 パパは一転して黙り込んだ。図星を突かれたからだ。事実として、彼は戦争を生きがいとしている。

 平穏な生活にあっても息苦しさと場違い感を覚え、それらを解放できる戦場こそを自らの居場所と定めた。そういう人間だからこそ、パパは二度の人生で二度とも軍人を志したのだ。

 

「だから、何です」

 

 反論したのはパパではなくあのカマキリちゃんだった。彼女は敵意と哀れみの混ざった奇妙な目つきでワタシをまっすぐに見据えている。

 

「アルベールくんに限らず、人間には、誰しも、不徳を好む、心が、あります。それを、自覚した上で、あえて押さえる、というのが、人間の、理性の、本質、なのです。そして、アルベールくんは、理性的な、人です」

 

「なるほど、確かに同感です。うふふ、貴方とはお友達になれそうな気がしますね」

 

「お友達は、イヤですが、おやつになら、してあげますよ?」

 

「……」

 

 死ぬ覚悟はできてるけど、流石に食べられるのは勘弁かな。苦笑交じりに肩をすくめ、視線をパパに戻す。

 

「まあ、それはさておき。実際のところ、アルベールくんの意志などどうでも良いのです。これは、あくまでわたくしの野望。結局の所、貴方とてただの駒であることには変わりませんから」

 

「駒、ね」

 

 ひどいことを言っている自覚はあるが、パパの表情はむしろ気が楽になったような風情があった。もっとも、それを恥じているような雰囲気もあるけど。

 

「では聞くが……僕をお山の大将にしてどうするつもりなんだ、君は」

 

 西方諸国の大半を統べるような立場を、お山の大将呼ばわりかぁ。パパらしくて笑っちゃうわね。こういうところ、本当に好きだなぁ。

 

「知れたこと。革新ですよ、革新。前世の知識を生かして、この世界をより良いものに変革してもらいたいです。これは、わたくしには出来ないことですから。たいへんに無念ですが、アルベールくんにお任せするよりありません」

 

「フィオレンツァ……貴様、アル様が転生者であることに気付いていたのか」

 

「なに、転生者!? なるほど、やはりか……前世はよっぽど立派なエルフじゃったんじゃろうなぁ……」

 

 なんか勘違いしてる人がいるけど、無視だ無視。いちいち説明してたら話が進まないもの。

 

「当然です。あまりにも強力な新兵器群に、それに対応した戦術・戦略。これらは明らかにこの世界の産物ではありませんから」

 

 そんなことを語りつつも、ワタシは密かな高揚を覚えていた。心の声が聞こえない。本音で話せる。それだけで、こんなに心安らかでいられるなんて。

 

「しかし、軍事だけを”近代化”しても仕方がありません。むしろ、もっと民の役に立つ分野に応用せねば宝の持ち腐れ。いつまでたっても世の中は良くなりませんよ」

 

「つまり、なんだ。君の引いたレールは、僕に万全の体制で”現代知識チート”をやらせるためのものであったと?」

 

「有り体に言えば、ええ、その通りです」

 

 現代知識チート、か。なんとも素敵な言葉ね。出来れば、パパには大砲や鉄砲ではなく空中窒素固定法や蒸気機関のほうにその力を注いで貰いたいところなのだけど。

 まあでも、そんなものはしょせんは身勝手なワタシの願望だ。それをぶつけられたほうはたまったものではない。パパは怒りに燃える目でワタシを睨み付け、胸ぐらを掴んだ。

 

「ふざけるなよ……!」

 

 

 

 

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