異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第75話 くっころ男騎士と先帝陛下のケジメ

「どうします? アデライド」

 

 いきなりなんでもいうことを聞いてやる、なんて言われても困ってしまう。ストリップショーをしてくれと頼んだらやってくれるんだろうか? ……やってくれそうだな。こっちの世界の女性は割と気軽に脱ぐからな……。男は肌着姿になるだけでアレコレ言われるが。

 先帝陛下のストリップショーに興味があるかないかで言えばもちろんあるが、そんなことを堂々と頼んだら僕が変態扱いされてしまう。だいたい、この人で興奮したら謎の敗北感がありそうなんだよな。顔は良いけど性格がアレすぎる。

 

「ふーむ……」

 

 アデライド宰相はなんとも難しそうな表情で唸った。そして僕の耳元に口を寄せ、先帝陛下に聞こえないような声で聞いてくる。

 

「正直なところ、私はこの方は嫌いだ。この機会にひとつ、嫌がらせでもしておきたいが」

 

「それは同感ですね。この人、撤退する時ですらなんか余裕ブッコいてましたし……なんかこう、この得意満面の顔が歪むところが見たい」

 

「キミも随分とフラストレーションが溜まっているようだねぇ……」

 

 かわいそうなモノを見るような目でアデライド宰相は言った。……しょうがないじゃないか、こいつのせいで僕の部下が何人も死んだわけだし。おまけにこの人、負けてもまったく悔しそうにしないし。勝ったのに勝った気がしない。これは非常に気に入らない。

 

「まあ、気分はわかるがね? いい機会じゃあないか、一発カマしてみるのも悪くない」

 

「殴っても効果薄そうな気がするんですよ、この人」

 

 ソニアの飛び蹴りくらってピンピンしてるようなヤツだからなあ。強化魔法かけてブン殴ったところでどれだけの効果があるやら。……ここはむしろ、ドン引きさせる方向性で行ってみるか。

 

「私人として出来ることなら、何でも聞いてくれるんですよね?」

 

「無論だ。我に二言はない」

 

「じゃ、指を一本自分で落としてください。利き腕じゃないほうの薬指でいいです」

 

 ジャパニーズ・ヤクザ・スタイルだ。ケジメをつけるというのならこれが一番だろう。隣のアデライド宰相が「ひん……」と小さな悲鳴を上げた。いい反応だ。さすがのアレクシアもこれには余裕顔を保てまい……。

 

「親指は論外だし、小指も剣が握りにくくなる。その点、薬指であれば悪影響は限定的だ。公務を理由には断りづらい……なるほど、考えたな」

 

 そう思ったのだが、なぜか先帝陛下は弾んだ声でそうお答えになられた。……は?

 

「自ら指を落とすという自主性、それに欠損という不可逆性……責任の取り方としてはなかなか理想的だ。薬指一本できみたちとの関係を修復できるというのなら、安いものだ。いいだろう、短剣を用意してくれ」

 

 こいつ無敵か? アレクシアのニコニコ顔を見て、僕はそう思った。王国側も傭兵団(近衛隊)の幹部たちもざわざわとしている。彼女の表情からは、見栄や虚勢の色はまったくうかがえない。本心からの発言だろう。思惑が外れてしまった。滅茶苦茶腹立つなあ! やっぱりコイツ、嫌いだ。

 

「……いえ、その言葉だけで結構です。先帝陛下の誠意は伝わりました。試すような真似をしてしまい、大変に申し訳ない」

 

 精神面で優位に立つために極論をブチかましたのに、それがノーダメではこちらの負けだ。むしろ余裕の態度を崩さなかったアレクシアの評価が上がってしまう。それでは駄目だろう。僕は即座に自身の提案をひっこめた。敵味方の双方から、安堵のため息があがる。しかし当のアレクシアは不満顔だ。

 

「しかし、責任を取るといったのは我だぞ。罰が何も無しでは収まらん。早く短剣を持ってきてくれ、指の一本くらいなら今すぐくれてやる」

 

「うわあ」

 

 僕の負けでいいから、勘弁してくれ。向こうの幹部級が、余計なこと言いやがって! みたいな顔で僕を睨んでいる。立場に守られてるから指一本程度で済んでるんだぞ、お前ら! 本音を言えば、お前ら全員の首を要求したいくらいだよ!

 

「……要するに、あの女が悲鳴を上げるような要求がしたいわけだろう?」

 

 困り切っていた僕に、アデライド宰相が囁いた。

 

「私に考えがある」

 

 そう言って、宰相は自身のアイデアを僕に聞かせた。

 

「そんなことで、効果があるんですか?」

 

「わからん。だが、私が飼っている猫には効果がある。ヤツは獅子獣人なんだから、猫の仲間だろう?」

 

 猫飼ってるんだな、アデライド宰相。王都へ戻ったら触らせてくれないかな……この頃精神が荒み気味だから、アニマルセラピーを受けたい気分だ。

 

「耳と尻尾と体力以外は只人(ヒューム)と大差ないでしょ、獣人……」

 

 僕は唇を尖らせたが、他にいいアイデアがあるわけでもない。仕方がないので立ち上がり、こほんと咳払いする。

 

「……ええと、それでは当初のご提案通り、殴らせていただく方向にいたしましょう。そのほうが遺恨も残りにくいはず」

 

「指落としの件を聞いた後では、なんとも責任の取り方としてヌル過ぎる気はするがな。しかし、きみがそれで構わないのであれば何も言うまい」

 

 困ったような表情でそう言ったアレクシアは、僕の前まで歩み寄った、そのまま、両手を広げる。

 

「さあ、いつでも来るがいい」

 

「では、失礼して」

 

 僕はニヤリと笑い。彼女の真後ろへするりと回った。アレクシアの礼服のズボンからは、ライオンのものと同じような尻尾が生えている。そのすぐ上、背中と尻の間に当たる部分を、僕は平手でシバいた。

 

「ア゛ッ!」

 

 アレクシアが奇妙な声を上げる。痛いほど力は込めていないはずだが……。

 

「効いてるぞ、もっとだ!」

 

 宰相が嬉しそうな声で叫ぶ。まあ、効果はあるようなのでもう何発かやってみるか。

 

「ンッ、あ、あ、あ……」

 

 トントンとリズミカルに叩いてやるたび、アレクシアの腰がぐ、ぐ、と上がっていった。まるでもっと叩いてくれと言わんばかりの動きだった。アデライド宰相曰く、猫の尻尾の付け根を軽く叩いてやるとこんな感じになるらしい。

 面白くなって先帝陛下の腰をシバき続けていた僕だったが、耐えきれなくなったらしい彼女がクルリと身体を回して僕の肩を掴む。その腕には、ちょっと痛みを感じるくらいの力が込められていた。

 

「も、申し訳ないがそれくらいにしてもらえるだろうか。このままでは我慢ができなくなる」

 

 そう言う彼女の顔は真っ赤で、唇の端には唾液まで垂れている。息遣いはひどく荒い。先ほどまでの余裕顔は完全に吹き飛んでいた。……目的は達成したけど、何かヤバそうな雰囲気だぞ。目なんか、完全にトロンとなっている。今さらだが、こんなところでやっていい行為だったのか? 腰叩き……

 

「は、はあ……申し訳ありません。調子に乗り過ぎました」

 

「いや、そんなことはない。しかし、貴様(・・)が望んだことだ。もう我は止まる気はないぞ」

 

 僕に対する呼び方が、きみから貴様に変化していた。流石に怒ったのだろうか? そう思ったが、先帝陛下はそのまま何も言わずに自分の席に帰ってしまった。……その周囲の近衛隊幹部たちが、『こいつマジかよ』と言わんばかりの表情で僕を見ている。しかもその目つきには、若干情欲のようなものが感じられた。……僕はいったい、何をしてしまったんだろうか?


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