異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第84話 メスガキ騎士とトレーニング

 私、カリーナは疲労困憊の状態で地面に横たわっていた。十キロメートル、このわずかな距離を走った結果がこれである。たった十キロでへばるなんて情けない、そう思わなくもない。しかしこれには理由があった。

 まずは装備。甲冑に武装一式、おまけに中身のパンパンに詰まった背嚢も背負わされた。総重量は六十キログラム以上。さらに、気候。故郷のズューデンベルグ領から山脈一つ隔てただけの場所の癖に、このリースベン領はやたらと暑い。駄目押しに、歌。アルベールは、走っている間ずっと大声で歌を歌うように強要した。これが思った以上に肺に負担をかけた。

 僅か十キロだと、正直ナメていた。「この程度じゃ腹ごなしにもならないわ!」なんて言ってた過去の自分を殴りたいくらい。

 

「ウオオ……アア……」

 

 私の隣で半死半生になっているのは、リス獣人のロッテだ。彼女とは年齢も近く、捕虜生活を送っているうちに友達のような関係になってきた。自分だけが訓練で苦しむのは嫌だったので、ちょうど近くを通りかかったロッテも巻き込んでやることにしたのだ。……今となっては、ちょっと申し訳ない事をしたなと思っている。

 

「この程度でヘタレやがってこのヘニャチ……モヤシどもが!」

 

 そんな罵声を飛ばすのはアルベールだ。彼は私たちと全く同じ訓練メニューをこなしたというのに、微塵も疲労を感じさせない涼しい表情を浮かべている。本当にこの人、只人(ヒューム)なんだろうか? 獣人相手に体力勝負が出来るなんて、マトモじゃない。

 

「陸に打ち上げられた魚みたいにピチピチしている暇があったら、水を飲め水を! 脱水で死ぬ前にな!」

 

 訓練中のアルベールは、聞くに堪えないような罵倒を私たちに叩きつけ続けた。思わず泣きそうになったけど、本気で言っているわけではないのがだんだんわかってきた。今だって、口汚い言葉を吐きつつも、私とロッテに水がたっぷり入ったジョッキを持ってきてくれた。

 やっぱり、アルベールは根はやさしい男だ。受け取ったジョッキで浴びるように水を飲みながら、そう思う。砂糖と塩が入っているのか、その水は少しだけ甘じょっぱかった。普通の水より飲みやすい。

 

「ぷはー!」

 

 水を飲み干し、また地面に転がる。甲冑がの重さが、まるで拘束具のように私を苛んでいた。……この甲冑も、本当は戦利品として奪われていたはずのものなのよね。なんか、普通に返却してくれたけど……。まったく、お人よしというかなんというか。

 

「うおお、イテーッス! 足が! 足が!」

 

 そんなことを言っていると、足が()ったらしいロッテがもだえ苦しみ始めた。

 

「バーカ、運動不足だからそんなことになるのよ。しばらくアンタも訓練に付き合いなさいな」

 

「こんなのに毎日付き合ってたらマジで死ぬッス! 馬鹿ッスか!?」

 

 涙目で叫ぶロッテだけど、こいつは私と違って甲冑も剣も荷物も持ってないのよね。それでこんなにぐでぐでになるのは流石に情けないわよ。非力なリス獣人とはいえ、ちょっとくらい鍛えておかないと自分のオトコも守れないような情けない女になっちゃうわ。

 

「アンタは私の子分なんだから、拒否権なんてないのよ!」

 

「誰が誰の子分ッスか! イテッ、あだだ……ど、どっちかというと、アンタがウチの子分みたいなもんでしょ!」

 

 ロッテは攣ったままの足を伸ばそうとしつつ、そんなふざけた言葉を吐く。

 

「は? ナメたこと抜かしてるとブチのめすわよ!」

 

「まだ随分と体力が残ってるみたいだな。よし、今度は腕立て伏せでもやるか!」

 

「ごめんなさい」

 

「ごめんなさい」

 

 アルベールはジト目で私たちを見ながら、空になったジョッキを回収した。そんな彼の身体から漂ってくる汗のにおいに、思わず私は深呼吸してしまう。……アルベールも甲冑姿で、露出は全くない。でも、それが逆に私の妄想を刺激していた。あの装甲の中は、いったいどうなっているんだろうか? あー、ムラムラする。

 よく考えれば、汗まみれのアルベールを間近で拝めるという点では、このトレーニングにもなかなかのメリットがあるわね。しばらくオカズには困らないわ……。

 

「しばらくは、こんな感じで基礎トレーニングだ。ロッテは自由参加で構わないが、お前がいた方がカリーナも頑張れるだろうからな。できれば一緒にやってくれると嬉しいが」

 

「う、うううーっ! アニキがそう言うなら……」

 

 ロッテは半分泣きそうになりながらも頷いた。そんな彼女を見て、アルベールは苦笑する。

 

「その代わり、二人ともメシはお代わり無制限だ。腹いっぱいになるまで食えよ」

 

「マジッスか! やったっ!」

 

 ロッテの小躍りしそうな声を聴くと同時に、私のお腹が大きな音を立てた。そういえば、朝ごはんもまだなのよね……。アルベールとロッテの両方からまじまじと見られて、私の顔は火が出そうなほど熱くなった。

 

「甲冑を脱いだら、水浴びをして来い。飯はそれからだぞ」

 

「……はーい」

 

 もしかして、アルベールも水浴びするんだろうか。……覗きたい。アルベールの裸体、正直めちゃくちゃ見たい! この男はセクハラに対して結構寛容なので、ちょっとくらい覗いても大丈夫なんじゃないの? そう思いながらちらりとロッテの方を見た。捕虜だった間はほとんど彼女と一緒に居たので、アイコンタクトでちょっとした意思疎通なら出来るようになっている。

 しかしロッテは慌てた様子で首をブンブンと左右に振り、剣を振り下ろすようなゼスチャーをした。……ソニアかあ。たしかに、アルベールは許してもソニアは許さないでしょうね……さすがにそれは勘弁願いたいわ……。

 

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